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ラオウ/拳王


登場:原作(42話〜)TVアニメ版(32話〜)、他多数
肩書:世紀末覇者 拳王
流派:北斗神拳 その他多くの拳法を修得
CV:内海賢二(TVアニメ版 他)
   若本紀昭(TVアニメ32話)
   宇梶剛士(真救世主伝説シリーズ、天の覇王)
   小山力也(天の覇王PSP版)
   玄田哲章(Jスターズ、スマショ、ぱちんこ系)
   立木文彦(北斗無双)
   武虎(DD北斗之拳)
   一条和矢(DD北斗の拳)
   松山鷹志(イチゴ味)
   岩崎征実(北斗が如く)
  [少年期]
   飛田展男(TVアニメ版)
   難波圭一(TVアニメ版)
   渋谷茂(ラオウ伝 殉愛の章)
   河本邦弘(ユリア伝、ラオウ伝激闘の章、トキ伝)
   近藤孝行(天の覇王)
   宮崎寛務(真北斗無双)

身体データ
身長:210cm
体重:145kg
スリーサイズ:160・115・130
首廻り:65cm


 北斗四兄弟の長兄。世紀末覇者「拳王」を名乗り、巨大軍閥「拳王軍」の王として世に覇を唱え、荒廃した世界を暴力と恐怖をもって支配した男。非情さがもたらす圧倒的な闘気と、全てを打ち砕く剛の拳を有する。
 カイオウは実兄、トキは実弟、サヤカは実妹にあたる。リュウケンの養子となった後は、ケンシロウジャギと義兄弟の関係となった。リュウという息子がいるが、母親は不明。移動は愛馬・黒王号に乗って行う。


 かつてトキ、ケンシロウと共に修羅の国を発ち、北斗神拳伝承者であるリュウケンの養子に。長き修行の末、恐ろしい程の強さを身につけるも、神をも超えんとする強き野望を師に危惧され、次期北斗神拳伝承者として選ばれなかった。その後、拳を封じようとした師父リュウケンを殺害し、暴力と恐怖による統治を目指して覇道へ。「拳王」を名乗り、巨大軍閥「拳王軍」を率いて各地を制圧し、世にその名を轟かせた。

 マミヤの村にて南斗水鳥拳レイと闘い、圧倒的な力と闘気によって勝利。更にはその後に現われたケンシロウ、トキをも退けるが、魂を肉体に宿したケンシロウとの死闘の末、痛み分けに終わった。

 その後、ケンシロウに受けた傷を癒すため一時的に姿を隠し、敵勢力である聖帝軍の動向を偵察。ケンシロウが聖帝サウザーに挑んだ際には、その敗北を予感し、密かに命を救った。ケンシロウが再びサウザーの下へ向かった際には、トキと共にその闘いを見届け、いずれケンシロウとトキこそが己の最大の障壁になるであろうことを確信。コウリュウとの闘いで肩の傷の完全回復させた後、実弟であるトキとの決闘に臨み、死闘の末に勝利。病によって拳を奪われた哀しき弟の為に、枯れたはずの涙を流した。

 覇道完成を目前に控えた頃、南斗最後の将、そしてその将に仕える南斗五車星なる者達が出現。その戦いの中で、将の正体が、己の"野望"の一つであるユリアであることを確信。南斗の都へと赴き、鉢合わせたケンシロウとの闘いに臨むも、北斗神拳究極奥義 無想転生を得たケンシロウの哀しき瞳の前に、恐怖を感じてしまうこととなった。
 その後、ユリアを連れ去る事には成功するも、恐怖を拭い去る事はできず、かつて己が唯一恐怖を感じた鬼のフドウとの戦いでそれを払拭しようと画策。だがフドウや子供たちの哀しき目に再び恐怖を感じてしまい、もはやケンシロウに勝つには己も哀しみを知るしかないと決断。ユリアを殺すことで哀しみを得ようとするが、既に彼女が死の病を患っている事が明らかとなり、自らの幸せを放棄したその生き様への哀しみによって無想転生を体得。その後、ユリアを仮死状態にすることで病状の進行を止めた。

 そして北斗練気闘座にてケンシロウとの最後の闘いへ。死力を尽くした闘いの末、最後は互いに無想の一撃を打ち合い、僅かの差で敗北。強敵達との闘いの中で成長したケンシロウの強さを賞賛し、最後は体内に残る全ての闘気を天に打ち放ち、絶命した。

 死後も、あらゆる人物に影響を及ぼしていたことが明らかとなり、それ関する多数のエピソードが登場。かつて天帝の村を侵攻した際には、ファルコから片足を代償に村を素通りして欲しいと頼まれ、その男気を受けて申し出を承諾。修羅の国では、ラオウ伝説なる救世主伝説が存在し、いつかラオウが海を渡り、修羅の国を平定するつもりであったことが判明。また、リュウという名前の息子がいることも明らかになった。


 TVアニメ版版では、髪の色が原作の銀髪から黒髪に変更。他の媒体では金髪になっていることが多い。兜は、原作ではかなり黒ずんだ金色だが、アニメでは綺麗な金色に変更されている。
 個人としては原作からの変更点はあまりないが、拳王軍にはアニメオリジナルの拳士達が幾人か追加されている。


 『真救世主伝説 ラオウ伝 殉愛の章』では、修羅の国の幼馴染でもあるソウガレイナの兄妹が拳王軍の幹部として登場。覇道を目前に控えるも、ソウガの命が残り少ない事を知り、その命を覇道の為に使いたいというソウガの願いを受諾。失態を犯したソウガを慈悲もなく殺すという誅殺劇を演じる事で、緩んだ部下達の心を戒めた。
 聖帝軍との決戦時には、レイナがその背に矢を受けて負傷。死ぬ間際に、いつか修羅の国に戻ってくる事の約束の証であるペンダントを返された。だがその後、秘孔によってレイナを死の淵から救出。改めてペンダントをレイナに渡し、修羅の国にて帰りを待つよう伝言を残した。

 『真救世主伝説 ラオウ伝 激闘の章』では、己がケンに負けた際に、「鬼」達がいれば魂の平和は訪れないと考え、配下の中の悪しき将校たちを招集して抹殺。ケンシロウとの死闘の後、遺灰となってレイナと共に修羅の国へと帰った。また、総参謀としてギラクなるキャラが登場。、南斗最後の将の正体をつきとめるよう命じ、判明後には己を謀ったシンに激怒した。

 『ラオウ外伝 天の覇王』では、レイナとソウガと共に、覇道の第一歩を踏み出す所から物語が展開。カサンドラの制圧、居城「拳王府」の建設、愛馬黒王号との出会い等を経ながら、拳王軍の勢力を徐々に増大させていく。
 そんな中、旧知のライバルであるサウザーが覇道を推し進めていることを知り、互いに王となった状態で数年ぶりの再会。一旦は同盟を結ぶも、直後に裏切られ、ユダに拳王府を制圧されてしまう。その後、ユダは難なく倒したものの、サウザーとの闘いでは秘孔の効かない身体の前に五分の戦いに。結果、サウザーのほうが折れ、改めて聖帝軍と不可侵条約を結ぶこととなった。
 その後、有能な将を求め、トキやリュウロウのもとを訪ねるが、いずれも断られる結果に。力による統治では真に平和は訪れないと忠告されるも、それを聞き入れず、逆に甘さを払拭し、鬼となりて覇道を邁進した。
 ウイグルリュウガといった将も加入し、順調に覇道を推し進めるも、謎の砂漠の村にてリュウガ、ソウガが相次いで負傷。裏で糸を引いていた冥王軍との直接対決に臨み、その最中、冥王軍を影で支配するガイヤと対面。姿を現さずに人を支配するガイヤのやりかたを否定し、圧倒的な支配こそが秩序を保てる方法なのだと告げ、その圧倒的な拳でガイヤの身を粉々に打ち砕いた。
 小説版TVアニメ版では、エピソードの順序が若干異なっている。

 『トキ外伝 銀の聖者』では、覇道の妨げとなるトキを捕らえる為、奇跡の村へ。トキとの対決に臨むが、病魔によってトキが自滅したため、そのままカサンドラへと幽閉した。






 「北斗の拳」の主役はケンシロウである。だが「北斗の拳の世界」における主役は、間違いなくラオウ様だ。もし北斗の拳の世界で起こった出来事を歴史書として残すなら、ケンシロウではなく、ラオウ様を中心として執筆されるだろう。核戦争で崩壊した無秩序の世界を拾うため、圧倒的な拳力と巨大な軍力をもって覇を成したラオウ様こそが時代の主役と呼ぶに相応しい御方。ケンシロウも確かにKING軍や聖帝軍を崩壊させるという歴史的偉業を成してはいるが、その事変が起きて注目されるのは、敵側である一軍の将の方であろう。背景を持たぬ、ただのバカ強い拳客の活躍は「伝説」として残り、ラオウ様の壮大なる政治は「歴史」として残るのである。

 拳王様は、荒廃した世界のために大変尽力された。「恐怖と暴力でこの世を統一する」。口で言うのは簡単だが、そのためにはどれぐらいの時間と労力が必要だろう。ラオウ様は、無の状態から創り上げた拳王軍を、僅か数年の間に世紀末一の巨大軍閥まで急成長させた。その仕事の大きさを考えれば、ラオウ様がいかに匆匆たる時間を送られたかが解るというもの。原作に限れば、ザク様、バルガ、リュウガくらいしか頼りになりそうな武将もいないため、侵攻のために拳王様自らが御出陣される事も多かったはず。寸暇を惜しんで拳を振るい、黒王号を駆り、あらゆる拳法家と闘って数多くの極意を修得なされるという激務の日々を送っておられたのだ。この世紀末で一番強く、そして一番忙しかった御方、それがラオウ様なのである。


 ラオウ様の最終目標は、故郷・修羅の国の平定することだった。そしてそのためにはまずこちら側の大陸を掌握する必要があった。二つの大陸を制圧するという壮大な目標を成し遂げるには、時間はいくらあっても足りなかった。故にラオウ様は、あれほどまでに忙しく奔走されておられたのだ。
 その足りない時間を少しでも補うため、彼は恐怖による統治という方法を選んだ。そのやり方では人々に真の安らぎが訪れることはないが、それでも構わないとラオウ様は考えていた。だが非情の闘気を上回るのが「愛」そして「哀しみ」である事を知ったとき、ラオウ様は己の覇道に限界を見た。そして自らの役目が終わったことを悟り、ケンシロウの前に倒れることを望んだのである。

 「世紀末救世主」と呼ばれるケンシロウだが、彼は特にこれといった活動を行ったわけではない。ただユリアを追い、目の前の悪党を蹴散らしていただけの放浪者なのだ。彼が成したのは、北斗神拳二千年の掟に従ってラオウ様を倒したことだけ。それだけでケンシロウが救世主と呼ばれるようになったのは、ラオウ様がそこに至るまでの下準備を全て済ませ、己を倒せばクリアだというわかりやすいゴールを作ってあげていたからに他ならない。

 何故わざわざケンシロウのためにそんなお膳立てをしてあげなければならなかったのか。それは、愛を帯びたケンシロウの拳でなければこの世に光を取り戻すことはできなかったからだ。非情を貫き世を統一したラオウ様では救世主にはなれない。一方で政治に無頓着なケンシロウもまた一人では救世主にはなれない。「世紀末救世主伝説」を成し遂げるには、ラオウ様がその手腕を持って世を統一し、そして覇者となった自分がケンシロウに倒されるより他に無かったのである。故国のため、時代のため、己が築き上げしものを全て投げ打ち、そして犠牲になることで、ラオウ様はケンシロウという名の救世主を創り上げたのである。


 御逝去されてからも、ラオウ様の偉業はどんどん露になっていった。帝都編では、誰よりも早くジャコウの邪な心を見抜き、やがて彼が災いを齎すことを予言された。ジャコウが後に天帝を幽閉したことを考えると、ラオウ様は北斗の宿命である「天帝守護」をこのとき既に果たしていたということになる。にも関わらず、ファルコはその金言を無視し、結果あのような悲劇を齎した。これでよく「北斗が天帝を裏切った!」などと言えたものである。
 そして数年後、天帝はケンシロウの活躍などもあってようやく地下から救出されたわけだが、それでもルイの長期監禁、そして視力の喪失という哀しみは残った。ファルコがラオウ様の言葉に従ってさえいれば、より完全な形で天帝を守れていたはずであり、それつまりケンシロウよりラオウ様のほうがより「救世主」としての働きをしていたということだ。

 修羅の国編では、ラオウ様の名は既に救世主として国中に広まっていた。まだ実際に国で暴れたわけでもなく、姿を見たものすら殆どいないのに、ラオウ様はボロ達の希望となり、修羅達はその名を畏怖して「伝達の赤水」などという装置まで用意していた。カイオウによる情報操作があったからとはいえ、まだ見ぬ救世主にそこまで人々が期待を寄せることができたのは、海の向こうで覇を成した世紀末覇者拳王としてのネームバリューがあったからこそ。ラオウ様が積み上げた実績が人々の希望を生み、それが救世主伝説を誕生させたのだ。それは、修羅の国においては知名度ゼロであったケンシロウでは決して成し得ないことであった。
 それでもなんとか代役を務め上げんと「ラオウ伝説はおれが成す!」と宣言したケンシロウであったが、結果カイオウにこれ以上無いほどの惨敗を喫することとなった。ジュウケイの言うとおり、海を渡ってきたのがラオウ様なら、救世主伝説はすんなり成っていたはずであり、結局ここでもケンシロウは故人である拳王様の後塵を拝することしかできなかったのだ。

 その後のコウケツ編やバラン編でも、ラオウ様は後世に多大なる影響を及ぼした人物として描かれた。ジャコウやコウケツにしてみても、ケンシロウの存在は「ラオウを倒した男」という印象が先に来ていた。彼らにとっては、ケンシロウの前にまずラオウ様の存在ありきだったのだ。ケンシロウという名前だけでも十分強いという印象をもたれてはいるが、その頭に「ラオウを倒した男」というステータスがつくだけで、そのブランド力は10倍にも100倍にもなるのである。ただ強いだけではなく、後の世界にまで様々な影響を及ぼされたラオウ様は、まさに世紀末最大のインフルエンサーなのである。


 だが、これらは決してラオウ様が本心で望んだ生き様ではなかった。「拳王」の名は、文字通り地上最強の拳を持つ男の称号。一人の拳士として拳を振るい、そして頂点に立つことこそが、ラオウ様の本懐であったはずだ。しかし、恐怖による統治を成すためには、何よりも先ず拳王の名を絶対的なものにすることが求められた。故にラオウ様は、負けることは勿論、傷つくことすら許されなかった。彼はサウザーとの戦いを避けておられたが、おそらく闘えば勝つことは出来ただろう。だが鮮血に塗れた泥臭い勝利では意味が無い。求められるのは常に圧倒的な勝利。どんなことがあっても決して揺るぐことの無い無敵不敗の王として君臨し、民に一片の反抗心すら抱かせぬ存在へと成らねばならなかったのだ。自由に拳を振るうことすらできなかった彼は、「覇王」ではあっても、既に「拳王」ではなかったのかもしれない。

 その拳で世界を拾う・・・。本来ならそれは、北斗神拳の伝承者であるケンシロウが成すべき仕事だった。だがその末弟が、宿命を放り投げて女とイチャつく人生を送るというのなら、代わりにそれを果たしてやるのが兄としての務め。そして兄カイオウが魔道へと踏み込んだのなら、それを正すのもまた弟である自分の務め。拳の道に殉じたいという想いを抑え、秩序の失われた世界を正すために巨木となり、時代を導いたラオウ様こそが、真の世紀末救世主と呼ぶに相応しい御方だと言えるだろう。





●最強の男

 北斗の拳の中で最強の男はラオウ様である。
 誰が何と言おうとラオウ様なのである。

 確かにラオウ様はケンシロウに敗北してはいる。だがそれは力で劣っていたからではない。互いに無想転生を纏った時点で両者の力は五分であったし、それに加えてラオウ様には拳を教えた身という一日の長があった分、ケンシロウを上回っていた。ケンシロウ自身も後に「この世で最も愛が深く、そして強かった男」「拳では俺をしのぐラオウ」と語っている。ケンシロウ自身がラオウ様のほうが上だったと認めているのだ。

 また、カイオウがケンシロウを圧倒した際には「こんな男に葬られたとあってはラオウも死に切れまい」と口にしている。つまりカイオウの目から見てもケンシロウよりラオウ様のほうが強者であり、自分よりも弱い男に負けたことでラオウは納得のいかぬ死に方をしただろうと考えたわけだ。

 では何故ラオウ様は、自分よりも劣るケンシロウに負けてしまったのか。ケンシロウは己の勝因を「愛を捨てた者と愛を背負った者の違い」と語っている。しかしその後に幻影となって現れたトキにより、ラオウ様が愛を捨てていなかったことは証言されているので、それは真の理由ではない。

 となると、考えられる敗因として最有力なのは、「ラオウ自身が倒されることを望んだ」という点だろう。ラオウ様を弔った後、ユリアは「統一を果たしたラオウは自分が愛を持つ者に倒され取ってかわられる事を願っていたのでは」と語った。後にケンシロウも「(ラオウは)この拳の前に自ら倒れることを望んだのだ!!」と断言しており、あの時ラオウ様がそういう心情にあったことは間違いないと思われる。

 ただ、倒れることを望んだからと言って、拳王様が手を抜いたというわけではない。全力で闘った己を、更にケンシロウが更に超えていくことを望んだだけであり、決してあの闘いが八百長だったという事ではないのだ。しかしその闘いの決着は、全霊の拳を打ち合う一発勝負であった。拳が先に当った方が勝利する、まさに紙一重の闘い。そんなどちらに転ぶかわからないギリギリの勝負の中で、ラオウ様の拳を僅かに綻ばせたもの。それこそが「倒される事を願っていた」という想いだったのではないだろうか。
 あの勝負が、この世の平和を賭けた一戦ではなく、純粋な拳力勝負であったなら、結果はまた違っていただろう。ラオウ様が、勝負の先にある未来を見据えていた時点で、この勝負は五分の条件ではなかったのである。

 そもそもケンシロウは、最強と呼ぶには強さが流動的過ぎる。ケンシロウの強さは、相手に対して感情を高めなければ本来の力を出せない、相対的な強さなのだ。彼がラオウ様と対等に闘えたのは、長い道程の中でラオウ様に対する怒りや哀しみを積み重ねたが故。それは、ラオウと相対した時にのみ発揮される力であり、他の誰かと戦うときには持ち越せない力なのだ。
 ケンシロウとハンの闘いが、その解りやすい例だろう。ハンは北斗琉拳の中でも実力的には三番手であり、宗家の血も流れておらず、魔界にも入っていない。かたやケンシロウは北斗神拳史上最強とも言われる男。条件的に見て、本来ならケンが圧勝して然るべきなのだ。にも関わらず、勝負はグズグズのまま長期戦にもつれこんだ。これはケンがハンに対して、「リンを取り戻す」という目的以外の感情を持ち合わせておらず、全力を出せなかったからに他ならない。それに対しラオウ様は、相手が誰であろうと常に100%の力を発揮できる御方。きっとハン如きなら、砂時計の砂が尽きる前にこの世から消滅させることも出来ただろう。



 ラオウ様と比肩しうる存在と言えば、やはり実兄である魔神カイオウは外せない。二人の対決は残念ながら実現しなかった。だが第三者の意見を参考にするなら、ラオウ様のほうが確実に上だったことがわかる。

 リンはカイオウに対してこう発言している。「あなたはラオウには勝てない。戦っていれば必ず敗れていたでしょう」。つい先日、彼女はカイオウがケンシロウをボコボコにする様を目撃している。その圧倒的な強さを目の当たりにしたにもかかわらず、リンは「必ずラオウが勝つ」と断言しているのだ。これは決して根拠無き発言ではない。女といえど、幼き幼い頃からケンシロウの戦いを間近で見てきたベテランの観戦者だ。その観察眼を舐めてはいけない。
 かつて初めてラオウ様を眼にした時、リンはその恐怖によって震えが止まらなくなっていた。その時の衝撃と、カイオウを目の当たりにしたときの恐怖感を比べた結果、彼女はラオウ様のほうが格上と判断し、このように発言したのだろう。

 そしてそんなラオウ様を倒した男であるにもかかわらず、リンはケンシロウがカイオウに敗北することを強く予感していた。それは、ケンシロウの強さが流動的であることを知っていたからだ。相手に関わらず、常に100%の力を出せるラオウ様のほうが拳士として上であることを、彼女は暗に認めていたという事である。


 より彼らの強さを知るジュウケイもまた、ラオウ様の方が上であると認めている。彼の話によると、海を渡ってきたのがケンシロウではなくラオウ様であったなら、「ラオウ伝説」の言い伝え通りに修羅の国は救われていたらしい。つまりジュウケイは、ラオウ様なら初見でカイオウを倒せるという確信があったという事だ。

 しかし、一方でジュウケイはこうも言っている。カイオウを倒しうる唯一の方法は、北斗宗家の血を引く者だけが使える「北斗宗家の秘拳」であり、それはヒョウの記憶の中に隠されている。そしてヒョウはそれをケンシロウ以外の人間に話す気は無いのだと。つまりラオウ様が海を渡ってきたとて、ヒョウは秘拳の在り処を語ることはないし、よしんば知りえても宗家の人間ではない(と思われていた)ラオウ様には北斗宗家の秘拳は使えなかったということだ。にも関わらず、ラオウ様ならカイオウを倒せるとジュウケイは踏んでいた。一体何故か。

 こうは考えられないだろうか。北斗宗家の人間"だからこそ"、宗家の秘拳が必要だった。つまりカイオウと戦うにおいて、北斗宗家の血を引いているというのは、むしろマイナスに作用する要素だったということだ。

 知っての通り、北斗宗家の血は宿主にとんでもない戦闘能力をもたらす存在であり、マイナス要素など無い。問題は、その血がカイオウのほうにも作用してしまう点にある。彼は、北斗宗家の血を心の底から嫌忌していた。ケンシロウが修羅の国に現われたのを切欠に、カイオウの魔闘気は通常の何倍も噴出し始めていたので。つまり北斗宗家の血は、カイオウの魔道の力を増幅させる効果を持っていたのである。
 ここで言われている「北斗宗家の血」とは、いわゆる「シュケン系」の血脈である。リュウオウの無念を継いだカイオウの血は、ケンシロウに流れるシュケンの血に反応し。力を増幅させるのだ。だが同じリュウオウの血族であるラオウ様に対しては、もちろんその反応は起こらない。つまりカイオウは、ラオウに対しては通常以上の力を発揮することは出来ないということ。ならばもはやラオウ様が負ける要素は無い。実力的に互角であれば、拳の優劣によって北斗琉拳は北斗神拳に勝利することは出来ないからだ。

 ただ、カイオウには「暗琉天破」という究極の初見殺し技がある。これをやられれば流石のラオウ様でも手も足も出ない可能性は高い。だがそんな事は、ジュウケイも十分理解していた筈。その上でラオウ様が勝つと判断していたということは、既にラオウ様が暗琉天破への対策を準備しており、ジュウケイはその事を知っていたということだ。
 可能性として一番高いのは、ジュウケイ自身がラオウにその攻略法を伝えていたという考え方だろう。ラオウ様は兄者への宣戦布告のため、一度修羅の国に上陸している。そしてハンが「天将奔烈=ラオウの技」だと認識していたということは、その上陸時にラオウ様が修羅相手に一悶着を起こして天将奔烈をぶっぱし、それをハンが観ていたからだと考えられる。つまりあの時、ラオウ様はそこそこ長時間上陸しておられたわけだ。ならばその間にジュウケイと接触し、打倒カイオウのための情報を入手されたとしてもおかしくはない。
 サウザーとの闘いを避けていたことからも解る通り、ラオウ様はちゃんと相手の力量を見定めてから戦いに臨まれる御方。己が誰よりも尊敬する兄者と戦うのだから、当然の如く情報収集は行っておられたはずであり、既に暗琉天破対策はバッチリだったということだ。

 カイオウには「北斗宗家の拳」という奥の手があるが、これもさしたる脅威ではない。そもそも宗家の拳は、北斗神拳と琉拳のベースとして既に組み込まれている技術だ。それぞれの拳に引き継がれていない技術は、強さの極意から外れた残りカスの部分に過ぎない。それにケンシロウは、ヒョウの繰り出した宗家の拳を初見で躱していた。1800年も前に受け技が極められた拳など、初戦過去の遺物に過ぎないということだ。


 他にラオウ様の対抗馬を挙げるなら、師父リュウケンであろうか。確かに彼は作中で最もラオウ様を圧倒した男であるし、突発的な心臓発作に襲われなければ勝利していたという見方が強い。だがそれは間違いだ。あのハゲは、発作を起こす直前から既に息も切れ切れになっていた。 老いた彼の身体では、七星点心という強力な奥義に連続使用に耐えられなかったのだ。あの闘いは、ラオウが倒れるのが先か、リュウケンが限界を迎えるのが先かという消耗戦であり、結局若きラオウ様の体力がリュウケンを上回ったというだけのこと。ラッキーでもなんでもなく、ラオウ様は「実力で」リュウケンに勝利したのだ。


 後は・・・まあトキくらいのものだが、これは実際にもうラオウ様が完勝しているので今更語るまでもあるまい。「病気にならなかったトキ」とかいう存在しないキャラクターを持ち出す者もいるが、全くもってバカとしか言いようが無い。だって存在しないのだから。


 以上の結果をもって、ラオウ様こそが最強無敵の存在であらせられることを完璧に証明できたかと思う。反論は受け付けません。
 そしてその中でもラオウ様が最も強くあらせられたのは、やはりケンシロウとの最終決戦時であろう。しかし、ラオウ様は無条件でその最強の力を手に出来たわけではない。彼が愛を知り、無想転生を会得し、自身最高の強さを手にすることが出来たのは、ケンシロウのおかげ。ケンが愛と哀しみによって無想転生を会得していなければ、ラオウ様もまたその境地には辿りつけていなかったのだ。そしてケンシロウがその奥義を纏うことができたのもまた、シン、レイ、シュウ、サウザー、リュウガ、トキ、ラオウ様といった強敵たちの存在があったからこそ。他人の哀しみを背負い生きることでケンシロウは強くなり、それを模すことでラオウ様も強くなったのだ。
 それは、かつてラオウ様自身が否定した生き方でもあった。にも関わらず、最後になってそれを受け入れたのは、ケンシロウの生き方こそが正しかったと認めたが故。それは、ラオウが弟に「負け」を認めたという証。
 実力では確かにラオウ様はナンバーワンだったかもしれない。だがそのナンバーワンの力を得るためには、己がケンシロウに敗北したことを認めなければならなかった。ラオウ様が手にした「最強」の座は、「敗北」と引き換えに得た、空しき力…だったのかもしれない。





●拳王兜コレクションズ

 拳王様のバリエーション豊富な兜を一挙御紹介。
 回想の中だけに登場した兜も何点かありますので、管理人の独断と偏見によって決められた「被ったのが早い順」で紹介していきます。


【Type-A】

 カサンドラで崇山通臂拳の極意を会得した時の兜。まだちゃんと正体を現す前の回想シーンであるため、全シーンにおいて検閲を喰らったかのような黒塗りがなされており、正直よく見えない。
 左右に付けられた大きな羽と、頭頂部のトゲトゲが特徴。拳王軍の紋章が目線の下にまで飛び出しているため、視界に入って邪魔なんじゃないかと心配になる。


【Type-B】

 無抵抗主義の村に侵攻した時の兜。カサンドラの時と同じ大きな羽がついているが、頭頂部はトゲトゲから一本の太い刃に変更されている。太い黒線で描かれた模様も特徴的。ただあまりカッコよくはない。(個人の感想です)


【Type-C】

 ユダと手を結んだときの兜。1コマしか登場していないSSR。顔の側面部分にある毘沙門天の兜っぽい吹き返しが最大の特徴。軍紋章の横の宝飾が横並びで3つあるのもこれだけ。その他の部分は、左右の角、頭頂部のトゲなど、次に紹介する「Type-D」と殆ど同じ。



【Type-D】

 マミヤの村に現われた時の兜。回想を除けば一番早く登場した兜であるため、これが一番印象に残っているという人も多いだろう。フランク・フラゼッタの絵をモロに参照した左右の太い角が特徴で、以降被られる兜にも全てこの角が生えている。頭頂部のトゲは、一番多いコマで12本確認できるが、基本的には10本辺りで統一されている。
 ケンシロウの北斗七死騎兵斬で左頬のガードが破損。トキが現われた後、拳王様自らお脱ぎになられ、その後どこにいったのかは不明。要らないんならください。


【Type-E】

 バランを弟子に迎えた時の兜。上記の「Type-D」と非常に良く似ていることから、かぶっていた時期が近いと考えられる。Type-Dとの違いは、「トゲが全体的に1.5倍ほど長い」「頬のガードの形状が少し違う」「眉庇(目の上の部分)が少し下に湾曲している」「頬ガードと軍紋章の左右にある宝飾の入った穴が小さい」といった点が挙げられる。


【Type-F】

 聖帝十字陵の視察に訪れた際の兜。頭頂部に植えられたモッサモサのモヒカンが特徴で、背中の真ん中辺りまで垂れている。奇しくも聖帝軍の兵士達も同じような「擬似モヒカン兜」を被っているのだが、もしかして合わせにきたのだろうか。少し角が控えめな点や、ウイングのような装飾品も含め、全パターンの中でも一番オサレ度の高い兜といえるだろう。しかしあまりお気に入りではなかったのか、このあとサウザーの元へ向かうときは既に違う兜に変更されておられた。


【Type-G】

 ケンシロウとサウザーの戦いを見届けるために出陣した時の兜。頭頂部は三本の刃になり、頬のガードの部分の宝飾は削除。軍紋章の下部にある柿の種みたいなブツが、さらにその横に左右反転して並べられている。きっと部品が余ったのだろう。数ある兜の中でも一番地味なタイプと言える。
「レイ外伝」の中で、レイとロフウの戦いを見学に訪れたときは、このデザインになっている。南斗の戦い見学用兜なのだろうか。


【Type-H】

 天帝の村侵攻時の兜。頭頂部の刃が四本になり、聖帝編の頃の倍くらいの長さになった。頬の部分の宝飾は変わらず消えたままだが、軍紋章の両横の三個の宝飾は復活を果たしている。若干だが、他の兜に比べて襟足の部分が長い気もする。出番は少ないが、個人的には一番好きな形状の兜だ。
 頭部に複数の刃を生やしておられるのは、主に聖帝編〜五車編の頃なので、その辺りの頃の回想なのではないかと推測。
 「トキ外伝」では、何故かこの時のバージョンを被っておられた。渋い。


【Type-I】

 リュウガ編にて城へ帰還した際の兜。頭頂部の刃はやはり四本だが、頬の部分に取っ手を逆向きに付けてしまったかのような謎のブツが出現。軍紋章の横の宝飾は2個。


【Type-J】

 五車星編で被っていた兜。リュウガ編と殆ど同じなのだが、唯一、軍紋章の横の宝飾が2個から3個に増えている。あと、頭頂部の刃の反り具合が微妙に緩やかになっているようにも見える(上図)。110話「南斗ついに起つ!!」の冒頭では、一つ上の「Type-I」を被っているのだが、その同じ回で風の旅団出現の報を受けて出陣したときには、何故かこの兜に変わっていた。これトリビア。
 作品内での期間で言えば、一番長く被っておられた兜ということになる。雲のジュウザによって破壊されて出番を終えることとなった。
 「ジュウザ外伝」「金翼のガルダ」といった五車星が登場する作品では、原作に合わせてこの兜を被っておられる。


【Type-K】

 フドウの村へと出陣した際の兜。作中でラオウ様が最後に被った兜となる。
 鬼を相手にするには鬼だと言わんがばかりの、上に伸びた二本の角。そして戦国武将の兜における「立物」のような長く伸びた装飾。頭頂部の刃は3本に減ったものの健在で、そして従来からの左右の角。4種類におよぶ突起物をそこかしこから生やした奇抜さは、ある意味ラストに相応しいデザインと言えた。フドウ戦が始まるまでは装着されていたが、次に場面転換された際にはいつの間にか消えていた。





ここからは、カラーリングに注目してみよう。




 原作のカラーイラストは陰影が強く、ハッキリと色は判別できない。あえて言うなら燻んだ金色、といったところだろうか。金と鉄の合金で作られているのかもしれない。


 色が不明瞭なのは、モデルとなったフランク・フラゼッタの代表作「デス・ディーラー」がそうであったからだろう。普通、ここまで似せたら色くらいは変えとこうとか思いそうなものだが、そんな姑息な真似をせず真正面からパクっていくあたりに原先生の漢気を感じる。





 2000年以降に描かれたカラーイラストでは、総じて金色と解る。やはり原先生の中では、拳王兜は「オール金」がデフォルトなのだろう。
 どうでもいい事だが、見て解るとおり、近年原先生が描かれた兜付き拳王様は殆どこのアングルなので、もっと色々なパターンでも描いて欲しい。



ここからはアニメ版の兜。
カラーは勿論、アニメオリジナルのデザインもあります。


【TVアニメ版-A】
 アニメでマミヤの村に現われたとき(43〜48話)に被っておられたデザイン。フォルムは原作とほぼ同じ。カラーは、軍紋章が深紅であることを除き、黄色に近い燻みのない金色で統一されている。
 無抵抗主義の村に訪れたときもこの兜だった。


【TVアニメ版-B】
 アニメで聖帝十字陵の偵察に訪れた時からジュウザに破壊されるまで(59〜92話)はこのデザインに統一されている。原作の十字陵偵察時にあった左右のウイングに、五車星編での四本の刃をミックスさせた、アニメオリジナルのデザイン。
 前面は金色だが、頭部を覆うメインの装甲部分と四本の刃は黒色になっている。拳王軍の紋章も金色になった。天帝の村侵攻時もこの兜になっている。


【TVアニメ版-C】
 アニメでのフドウの村侵攻時(102−103話)の兜。フォルムは原作とほぼ同じだが、内側の二本の角が円錐状のから平たいものに変更されている。
 カラーリングはひとつ前のタイプ(B)とほぼ同じ。




【旧劇場版】
 フォルムはマミヤの村侵攻時のタイプ。頭頂部の棘と左右の角が鉄色になっているところがTVアニメ版と違う。
 軍紋章のバジリスクが抱えている球だけが蒼ってところがワンポイントシャレオツ。




【真救世主伝説-A】
 「ラオウ伝 殉愛の章」「ユリア伝」「トキ伝」で被っていたタイプ。額の部分に扇状の装飾品が付いたオリジナルのデザインとなっている。カラーは一部の装飾品を除いて金色で統一。
正直、真シリーズの兜は個人的にイマイチ。



【真救世主伝説-B】
 「ラオウ伝 激闘の章」で被っていたデザイン。つまりトキとの決着を付けた後から被っておられたタイプ。
 頬のガードの部分に宝飾が1つある以外はほぼ原作と同じ。カラーはやはりオールゴールド。
「ZEROケンシロウ伝」で一瞬だけ映った時もこの兜。


【真救世主伝説-C】
 「ラオウ伝 激闘の章」で、フドウの村侵攻時に被っていたタイプ。フォルムは原作遵守で、カラーは軍紋章だけを残してシルバーにチェンジ。この直前に「拳王」の名を捨てて「魔王」になられておられるので、これがラオウ様なりの魔王カラーなのだろう。


【ラオウ外伝】
 「ラオウ外伝 天の覇王」で描かれたオリジナルタイプ。漫画版と同じデザイン。頭頂部に複数の羽根をあしらった貴族っぽいデザインが特徴。カラーはオールシルバー。拳王軍のロゴが原作と少し変わっている。




【北斗無双】
 ゲームのは紹介しないつもりでしたが、無双のはさすがに独特すぎるので一応御紹介。見ての通り全種類通じても最大級の大きさを誇る角が特徴。先端が上を向いているのもこのバージョンだけですね。頭頂部に刃と、あと中国の武将がよくつけてる赤いモサモサも付けた欲張りセット。





 以上の検証結果から、原作や新作カラー絵、アニメ作品などでは金色が大勢を占めていることがわかる。


 しかし近年では「黒と金の混合タイプ」が主流となっている。



 アニメ作品がほとんど作られていない近年では、拳王様がカラーで描かれる機会がゲーム、パチンコ、グッズといったジャンルばかりになってしまっている。そしてその分野においては、黒金混合兜が圧倒的に強い。特にメット部分が黒で、軍紋章と左右の角が金色というカラーリングが大勢を占める。あとはオール黒が少々あるくらいで、オール金はほぼ絶滅状態だ。

 まだTVアニメ版の影響が残っていた90年代まではオール金が幅をきかせていたのだが、おそらく2005年稼動開始の「アーケード版 北斗の拳」の、羽山淳一氏デザイン(上画像の一番左)がすこぶる好評だったたことから、爆発的に広まっていったのではないかと推測される。


 要約して言うと、原作・アニメは金色で、その他媒体は金黒混合が多いと、まあそういう感じですね。個人的にはオール金が好きです。若干燻んでると尚良し。