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シン



登場:原作(4〜10、43、121話)
   TVアニメ版(1〜22、32、97話)他
肩書:南斗孤鷲拳伝承者 KING軍の王
流派:南斗孤鷲拳
CV:古川登志夫(TVアニメ版)
   桐本琢也(ユリア伝・スマショ、リバイブ)
   杉田智和(北斗無双・真北斗無双)
   置鮎龍太郎(DD北斗の拳)
   森川智之(イチゴ味)
   中谷一博(北斗が如く)

身体データ
身長:183cm
体重:98kg
スリーサイズ:130・92・105
首廻り:43cm

 南斗六聖拳 殉星の男。南斗孤鷲拳の伝承者。KING軍の王。

 ケンシロウの婚約者であるユリアへの想いをジャギに煽られ、悪魔に魂を売ることを決意。欲望と執念の力でケンシロウを圧倒し、ユリアを強引に連れ去った。その際、ケンシロウの胸に七つの傷を穿った。

 その後、自らを「KING(キング)」と名乗り、巨大軍閥「KING」を創設。ユリアを喜ばせるためだけに略奪と殺戮を繰り返し、不動の権力を手に入れ、更にはユリアを女王とした町「サザンクロス」を作り上げた。だがその結果、ユリアは己のために罪なき者達が死んでいく事に耐えられなくなり、彼女を城のバルコニーから身投げさせてしまう事となった。

 その後、ユリアを取り戻しにきたケンシロウと一年ぶりの対面。精巧に作ったユリアの人形を用意することで、彼女が生きていると思わせたまま闘いに臨んだ。だが既に拳を見切られていたため、勝負は劣勢に。ケンシロウの執念の元を断つため、人形を貫いてユリアを殺したように見せかけるが、それがケンシロウの怒りに火をつけてしまい、必殺の拳を喰らい敗北した。その後、既にユリアが死んでいる事を告げ、己が欲しかったのはただユリアの愛だったことを告白し、彼女と同じく城から身を投げて命を絶った。

 だが後に、ユリアは南斗五車星の手によって無傷で救われていたことが発覚。拳王軍の手からユリアを守るため、彼女を死んだことにし、そのユリア殺しの汚名をシンが被っていたことが明らかとなった。


 TVアニメ版では、原作非登場の部下達が数多く登場。ケンシロウへの刺客として次々に送り込むが、全て撃退され、やがて全軍団を召集しての総攻撃にまで至った。爆撃によってケンシロウは死んだとの報告を受けるが、その直後に大将軍バルコムに謀反を起こされ、己の部下達を相手に戦うというオリジナルエピソードが展開された。
 尚、カーネル率いる「GOLAN」や、ジャッカルの「ウォリアーズ」なども、アニメではシンの配下という設定になっている。


 『ユリア外伝 慈母の星』では、ユリアとの出会い、そしてシンが南斗孤鷲拳の伝承者となった時のエピソードが描かれている。
 南斗孤鷲拳の正当な伝承者となるべく、南斗の里に向かう途中に、ユリアと初めて邂逅。南斗十人組手の試練を難なく勝ち抜き、南斗孤鷲拳伝承者の印可を獲得。南斗聖司教からは天才と評された。そんな中、予知の力を持つユリアに徐々に惹かれるも、敗者への愛がないとして拒絶された。また雲のジュウザからナルシストと馬鹿にされたことが発端となり、深い因縁が残ることとなった。
 その後、船上パーティーの場にてジュウザと激突。激しい戦いを繰り広げるが、チンピラによって船内に閉じ込められてしまい、沈没の危機に。ユリアの予知によると、ここで溺れ死ぬ運命であったが、ユリアを助けたいという思いからジュウザと協力する道を選び、運命を打ち破った。

 『真救世主伝説 ZERO ケンシロウ伝』では、南斗孤鷲拳の師匠としてフウゲンなるキャラクターが登場。更に本作にボスとして、元同門のジュガイが登場している。

 『劇場版 北斗の拳』ではケンシロウが到着する前に拳王軍の侵攻を受け、軍団は壊滅。自らもラオウの前に敗北し、ユリアを奪われ、後に訪れたケンにその行き先を伝えた。

 ハートの外伝である『北斗の拳イチゴ味外道伝 HEART of Meet』では、核戦争が起こる前、とある町の路地裏にて、アルフレッドヘンネルジャックの二人組に殺されそうになっている現場に遭遇。二人を殺した後、アルフレッドに「奪われたくないものがあるなら奪うくらいの力はつけておくことだな」と忠告し、それが病弱で内向的だったアルフレッドを奮い起こすこととなった。その後、強くなりたいと望むアルフレッドを配下に加え、彼は後にハートへと変貌した。

 自らの外伝である『北斗の拳イチゴ味 シン外道伝 Right On King』では、実の父親であるギシャクが、孤鷲拳の先代伝承者として登場。孤鷲拳を無敵不敗の拳へと高めるという父の悲願を託され、幼い時から厳しい修練を受けて育った。そんな中、同年代のケンシロウと出会い、友人関係になっていくというストーリーが描かれた。また、写真だけではあるが、母親も登場している。




 武論尊先生が「宝塚の男役をイメージした」という煌びやかで颯爽としたシンの容姿は、世紀末の世界には全く似合っていなかった。これは、逆にその世界観にベストマッチした容姿であるケンシロウとの対比を意識しての事だろう。その他にも、黒髪短髪の主人公と対を成す金色のサラサラロングヘアー。主人公の北斗神拳とは陰陽の関係にある南斗聖拳を学び、そして主人公と同じ女を愛した男。まさにお手本のような「ライバルキャラ」であった。諸々の都合で早々に死んでしまったわけだが、彼に与えられた様々な設定を考慮するなら、余りにもったいない扱いだったと言えよう。

 シンが一体どんな人間だったのかと問われると、これはもう「ユリア大好き人間」以外に答えようが無い。彼の行動原理は、全てがユリアであった。ケンシロウですら「北斗神拳伝承者としての宿命を果たす」とか「弱気を助け悪を挫く」という別の目的や意識を持っていたのに、シンにはそれすらも無かった。大軍団を作り、多くの領地を奪い、罪無き村人達から物を巻き上げ、各地から奴隷を浚い、サザンクロスを建国したのも、全てはユリア一人のためにやったことなのだ。逆に言えば、彼はそれだけを糧に、拳王軍や聖帝軍に対抗しうるほどの巨大軍閥を作り上げたという事。彼の「ユリアへの愛」が生み出したバイタリティは、どのキャラのどの目的意識よりも高いと言えるだろう。ケンシロウをも遥かに超える史上最大の愛の男。愛のみをエネルギーに遮二無二走り続けた、世紀末一のLOVEマシーンなのである。


 そんな極端な性格が功を奏したのか、彼はとんでもない事を成し遂げた。ケンシロウに勝利した事だ。全篇を通してみても、ケンシロウに勝った男は極僅か。その中でも一番最初に黒星をつけたのがシンであった。いや、それまで北斗神拳伝承者が不敗であったことを考えると、シンはその1800年に渡る北斗神拳の不敗神話を止めた男という事になる。もしこの後も北斗神拳の歴史が続いていくならば、後世の伝承者達にとってシンの名は恐怖の象徴として永々と語り継がれていく事になるのかもしれない。

 にも関わらず、彼はケンシロウとの再戦では、至極あっさりと敗れてしまった。大きな四本傷と、掌に指三本分の穴こそ空けることは出来たが、結局汗一つかかせることも出来ない完敗を喫したのだ。まるで初戦の完勝が夢幻だったかのように、両者の力関係は大逆転してしまったのである。

 勿論、この1年でのケンシロウの成長が大きな要因として挙げられる。そして拳の見切り。一度戦った相手の拳を見切ることの出来るケンシロウの能力は、あまりに強力だ。その中でも、南斗獄屠拳を見切られていたのが一番大きかった。あの戦いは、殆ど獄屠拳一発で勝負が決まったようなものだった。それは何故かと言うと、獄屠拳は「蹴りに意識を向けさせて手刀で切り裂く」という邪拳だからだ。初見の相手には効果絶大だが、タネが割れてしまえばその威は消失する。その一度きりの必勝拳を初戦で出してしまっていた事が、2戦目におけるシンの勝率を大いに下げていたと言えよう。

 だが最大の敗因は、やはりユリアの喪失であることは間違いない。初戦時、ケンシロウに勝利したシンは「お前と俺には致命的な違いがある。それは欲望…執念だ!!欲望こそが強さに繋がる。お前にはそれがない」と言い放った。そして再戦時、ユリアを手放したことで欲望・執念を喪失したシンは、逆にユリアを取り戻すという執念を燃やすケンシロウの前に手も足も出なかった。皮肉にも、1年前に自分の言った事が逆の立場となって再現されてしまったのだ。

 だが五車星にユリアを預けたとき、彼はこうも言った。「いずれ俺かケンシロウ…どちらかが再びユリアの前に…」と。つまりシンは、ケンシロウを倒せば再びユリアを手にすることが出来たのだ。ならば欲望、執念を喪失などしていなかったのではないか。

 しかし更にその数分前、飛び降りたユリアのために階段を駆け降りながら、シンはこう漏らしている。「生きて…ただ生きてさえいてくれればもう…」と。ユリアが生きてさえいればもう何もいらない。それさえ叶うなら、彼女が己の下を離れようと、他の誰といようとも構わないと願ったのだ。LOVEマシーンであるシンにプログラムされた最優先事項が「ユリアを我が物にする」から「ユリアを生かす」へと書き換えられたのである。己が勝つのならばそれでいい。だがケンシロウが己を超える力を身につけていたのなら、それはそれで構わない。ユリアの幸せのためならば、どんな結果でも受け入れられる大人へと成長したのだ。故にもうあの時のシンには、例え再びユリアを手に出来るチャンスがあろうとも、そこに執念を宿すことはできなかったのである。己の我侭な愛ではなく、本当にユリアを愛する方法を知ってしまったが故に。



●ラスボス・シン

 彼はケンシロウにとっての「最初の強敵」であったわけだが、同時にこの物語における「最初のラスボス」でもあった。ラスボスの概念が乱れる。

 今でこそ歴史的名作として扱われる北斗の拳だが、それは決して約束された成功ではなかった。連載が始まった当時、まだ駆け出しの漫画家だった原先生の新連載は、他の漫画同様、人気が出なければすぐに打ち切られる予定だった。当時の読者が北斗の拳を支持していなければ、おそらく作品はシンを倒した時点で終了・・・つまりシンがラスボスとなっていたのである。

 実際、シンはそうなってもいいようなキャラクター設定がなされていた。その最たるものが「関東一円を支配する」というKING軍の組織規模だ。ケンシロウという和の名前、そして登場した旧一万円札から、物語冒頭の舞台がかつての日本であることが推測できる。その日本の中心地である関東を手中に治めているのだから、シンは実質もう日本の王であるも同じ。いや、シンが死んだ第10話の時点では世界がどのような状況なのか解らなかったのだから、それはもう世界の王であるのと同じ。つまり第10話の時点では、シンこそが世紀末覇者だったのである。世界の大きさをあえて最初に定めないことで、その後の展開次第でいくらでも可変可能にした武論尊先生の手腕が活きた結果と言えるだろう。

 次に、主人公の恋人を強奪するという行為。これも多くのゲーム作品をはじめ、ラスボスの定番中の定番行為と言える。定番過ぎてもう忌避されているレベルだ。

 主人公とライバル関係にある拳法を伝承しているという点も見逃せない。本人同士でなく、各々が属している組織や種族が長年の宿敵関係にあるというのも、色々な人を巻き込んで物語を大きくするためのプロットとして使いやすい設定だ。シンの拳法が今の「南斗孤鷲拳」でなく、北斗神拳との対極を意識した「南斗聖拳」で固定されていたのも、ケンシロウとシンの宿敵関係を深く印象付けるのに一役買っていたように思える。

 そして、かつての友人同士という設定。特に親友であるほどラスボスとなりうる頻度は高く、またラスト直前まで伏せられている場合が多いが、これも嫌ほど見てきた設定の一つだ。ただ、原作でケンシロウとシンがそれほど仲のよい友人関係だったかどうかについては、実は言及されていなかったりする。アニメ版や劇場版、イチゴ味の影響で、ほぼ公式設定として広まったのだろう。

 地味だが、四天王を従えているというのもラスボスの特権と言えるだろう。一人以外があまりにも弱いので印象が弱いが、それも10話縛りが生んだ弊害の一つ。もう少し話数にゆとりがあれば、スペードもダイヤもクラブもハートも1人3話分くらいは尺を稼げるほどの拳士として描かれたかもしれない。


 ・・・とまあこんな風に、改めてシンに与えられた設定を見返してみると、彼がまさにラスボス要素の塊のような存在であることがわかる。これだけのラスボス設定を最初に出し尽くしておいて、よくラオウ様という日本漫画史に残るボスを作り上げることができたものだ。
 いや、逆にそれが功を奏したのかもしれない。上に挙げたのは、いわばラスボス設定としては定番中の定番。当時ですら手垢の付きまくったベタ設定だったわけだ。もしそれらを本当のラスボスにあてがっていたなら、北斗の拳はありふれた設定の漫画として駄作化していたことだろう。逆にこんなラスボス設定まみれの男を、あえて「最初のボス」に置くという斬新さ、そして以降はそれらの設定を再利用できないという縛りの下で新たなキャラクターを模索していったからこそ、北斗の拳は唯一無二のバトル漫画としての成功を収めることができたのだ。



●ユリア人形制作秘話

 シンに関するエピソードの中で最も物議を醸しやすいのが、ユリア人形の存在である。一体あれは何なのか。どういう目的で作られたのか。悪い予感が外れてほしい事を、我々はただただ祈る事しか出来ない。

 そもそもあれはいつ頃作られたのだろう。ユリアがサザンクロスを去った後、淋しさを補填するために作ったのだろうか。いや、それはあり得ない。なんせあの完成度だ。モデルとなる人間がその場にいないのに、本物と見紛うような人形など作れるわけがない。あの時代では写真を撮ることすら難しいだろうから尚更だ。つまりあれはユリアがシンの手元にある状態で制作された可能性が高いと考えられる。おそらくユリアを眠らせてこっそり石膏で型を取るなりしたのだろう。うむ、変態だ。

 注目すべきは、やはりその精巧さだ。トキとアミバを見紛うケンシロウ基準での"精巧"なのが不安なところだが、言ってもあれはどちらも人間。「人形」を「人間」と思わせる事のほうが、遥かに難易度は高いはず。ましてやこの世紀末。素材や器具を集めるのも容易ではなく、あれを制作できる職人を探すのも一苦労だろう。そう考えると、シンがあの大軍団を作り上げた目的の中には、人形制作も含まれていたのではないだろうか。制圧した領土からユリアの喜びそうな宝石を集めながら、同時にシリコンやウレタンといった素材も収集。軍に必要な医者やエンジニア、コック等を集めながら、同時に神ドール職人もリクルートしていたのだ。

 シンは、ただ一途にユリアが欲しかった。彼女の心を開くため、遮二無二走った。全ての行動はユリアのためだったのだ。だがその中で、唯一その目的から外れていたのが、ユリア人形の制作だった。つまりシンにとってあの人形制作は「ユリアを喜ばせる」という第一目的に次ぐ「二番目の野望」だったのだ。その熱意があったからこそ、あそこまで完成度の高い人形を作ることが出来たのである。

 で、結局のところ、シンは何故それほどの執念を燃やしてまであの人形を作り上げたのか。誰もが疑うのは、やはり人型性具、いわゆるダッチワイフとしての使い道だろう。ユリアなる名前のダッチワイフが主人公の「ユリア100式」なる漫画もあることから、余計にそういう印象が広まっている気がする。
 だが普通に考えて、本物がすぐ傍に居るのにわざわざ人形を作って慰みに使用するなどありえない。そんなに抱きたいのなら力ずくでも本物を抱けばいい。だがそうしないのは、ユリアが己に心を開いていないからだ。つまりシンは、己を愛していない女との性交など求めていないということ。それつまり人形とのセックスにも当然興味はないということだ。


 私が考える人形制作の真の目的。それは「影武者」ではないかと思う。ユリアを迎えに南斗五車星が現われたことで、彼女が南斗最後の将であることが明かされたわけだが、あの時シンに驚いた様子はなかった。つまりシンは、ユリアが南斗最後の将となる人物だと最初から知っていたのだ。そしてそんな彼女の命を狙う輩が多いということもまたシンは理解していた。人形は、そんな刺客たちの目を欺くための「影武者」として制作されたとは考えられないだろうか。

 将を守るためにユリアの身柄を引き取る。そう言ってきた五車星に対し、シンはこう返した。「ならばこのシンが守り抜いてみせるわ!!」。そう、シンはいつもユリアを守ろうとしていた。そもそもケンシロウからユリアを奪ったのも「ケンの甘い性格ではユリアを守れない」というジャギの言葉を免罪符にしての凶行であった。シンがユリアの心欲しさに狂ったことは事実。だが同時に彼は、ユリアを自らの傍に置くことで、彼女を刺客の手から守るという意図も明確に持っていたのである

 しかし己が24時間彼女を護ってやれるわけではない。なんせあの残念な顔ぶれの部下達だ。領土を広げるにしても、シン自らが出陣せねばどうにもならない事態も多かっただろう。だが自分が城を出れば、今度はユリアの護衛が手薄になる。たとえハートをボディーガードにつけたとしても、更なる保険は必要だ。そこでシンは、彼女の影武者を作ることにした。しかし絶世の美女たるユリアの代役を務められる人間などこの世には存在しない。なにより、ユリア以外の人間がユリアを演じることなど自分が我慢ならない。そんなシンに残された唯一の方法が、本物と見分けがつかぬ程の実物大の人形を創る事だったのだ。「影武者」であるその人形は、その完成度が高ければ高いほどユリア本人の安全へと繋がる。だからこそシンは人形制作にあれほどの情熱を燃やし、あれほど精巧な人形を造り上げたのだ。あの人形のクオリティの高さこそが、シンの愛の深さの証明なのである。