TOP

カイオウ



登場:原作(180〜210話)TVアニメ版(133〜152話)
肩書:第一の羅将
流派:北斗琉拳 北斗宗家の拳
CV:内海賢二(TVアニメ版)
   石塚運昇(真北斗無双)
   前田剛(DD北斗の拳2)
   玄田哲章(リバイブ)
  [少年期]
   大倉正章(TVアニメ版)
   金本涼輔(真北斗無双)

 北斗琉拳伝承者にして、修羅の国の王。第一の羅将(羅将皇魔帝)。ラオウトキサヤカの兄。常に噴出し続ける魔闘気を抑えるため、普段から全身に鎧を纏っている。

 幼少期、を失った哀しみから逃れるため、情愛を抹殺する「悪」に生きることを決意。またその母が北斗宗家を守って死んだ事や、自身が宗家のために八百長で負けを強要された事などにより、北斗宗家への恨みを募らせた。その後、激しき性情故に北斗神拳伝承者候補には選ばれなかったが、ジュウケイより北斗琉拳を学び体得。その際、いずれ己の敵となるであろう北斗宗家の秘拳を永久に封じるため、密かにヒョウの記憶を封じた。

 核戦争後、拳で国を制圧。男達を戦わせ、強き者だけが修羅として生きることを許される「修羅の国」を創り上げた。だが数年ぶりに再会した弟・ラオウからは、そのやり方に異を唱えられ、いずれ拳を交える事を約束。その後、自らの手でラオウ伝説を広めることで、自らに残っていたラオウへの情愛と決別した。

 数年後、ケンシロウリンが海を渡ってきた事を知り、リンを拉致。天帝の血をもって呪われた北斗琉拳の血を清めるため、そして北斗宗家を抹殺するためにケンシロウと戦い、魔界の力を用いた暗琉天破などの奥義で圧倒した。しかしシャチ赤鯱等の妨害を受け、ケンシロウの処刑に失敗。一時は追い詰めためのの、北斗宗家の血に目覚めたケンの闘気の前に魔闘気が臆し、呼吸困難に陥ったため、逃亡を許してしまった。

 その後、ヒョウとケンシロウを相打たせ、北斗宗家の血を一掃しようと画策。そのために妹サヤカを殺し、それをケンシロウの所為にすることで、ヒョウを魔界へと踏み込ませた。しかし結局ヒョウは敗北した上、その記憶も復活。戦いを妨害したシャチに恨みを募らせ、泰聖殿にてシャチを瀕死に追い込んだ。その際、偶然北斗宗家の秘拳の在り処を発見。あくまでも愛の力で戦おうとする北斗宗家に激怒し、あえて秘拳を得たケンシロウとの戦い、それを凌駕することで、悪が愛より勝っていることを証明しようとした。その後、魔瘴の沼にケンを誘き出し、目の前でリンに破孔 死環白を刺突。愛が如何に無力かを思い知らせるため、そのままリンをの背に乗せて荒野へと放った。

 ケンシロウとの最後の戦いに臨み、自らの聖地である地形を利用し戦うも、勝負は互角。奥の手としていた秘拳を繰り出すが、その秘拳こそが「北斗宗家の拳」であることを知らされ、自らも北斗宗家の血を引くリュウオウの子孫であった事が明らかとなった。だがケンは、女人像からその宗家の拳の受け技を会得していたため、勝負は劣勢に。両腕を破壊され、間欠泉の力を借りての最後の攻撃も通じず、勝負を決する一撃を叩き込まれて敗北。最期は己の過ちを悔いながら、訪れたヒョウと共に溶岩を被り、己の決めた死に様で旅立った。


 TVアニメ版では、修羅の国に訪れたラオウと再会するシーンはなし。また、原作ではリンを無理矢理拉致したが、アニメではシャチとの交渉の上でリンを連れ去った。




アニメ北斗では修羅の国編以降の話が描かれていないため、まごうことなき真のラスボスとなったカイオウ。ラストバトルは多少情けなかったとはいえ、彼は十二分にその大役を果たした。初戦で見せたあのどうしようもない程の強さは、マミヤの村での拳王様を上回るインパクトだったと言えよう。ドス黒い鎧に噴き出す煙というその容姿も完璧であり、ラオウの兄というベタベタな設定も、上手く拳王様を絡ませていくことで更に意味を持った。何よりも良かったのは、悪に一途だったこと。己の信じる正義のためだとか軟弱な理由でなく、ただ悪のみを糧にして突き進む、一点の曇りも無い悪の塊。これにより拳王様と見事に差別化することに成功し、同時にケンや拳王様を越えられなかったことで、やはり愛は悪を凌駕するのだなという事を読者に強く印象付けた。最後チョット弱い部分を見せてしまったのはまあ仕方ないだろう。他の漫画ならともかく、北斗の拳は愛を取り戻す事がテーマなのだから。

 直接描かれてはいないが、彼の政治力は相当なものだった。わずか数年で修羅制度というものを確立させた彼の手腕は見事の一言に尽きる。なによりやり方が上手い。はじめはその修羅制度にも反対意見を唱える者は多く居ただろう。しかし一度施行してしまえば、もう反意が沸く事はない。何故なら、その時点で生存している者達は勝利者だからである。最初はどう思っていようが、結果勝ったのだから、今更反対意見など起こるはずが無いのだ。逆に敗れた者達は恨みもしようが、既に彼等は殺されているか、ボロと化しているわけだ。つまり修羅と呼ばれる勝者達の中に、カイオウを悪く思う者等ほぼいないに等しいのである。そしてそれこそが、いわゆる拳王様が言った「兄者のやり方」なのだろう。拳王様はそのやり方では天は握れないと言い放った。私もそう思う。カイオウの果たした統一は、単に球場から他球団ファンを追い出しただけに過ぎず、試合で圧倒的強さを見せつけることで自軍敵軍全てのファンを魅了しようとした拳王様のやり方のほうが、明らかに完全統一であることは間違いない。

 その拳王様とカイオウの違いとして挙げられるのが、顔の傷である。痛々しいほどの巨大な傷を顔面に走らせるカイオウだが、あの傷はそもそもどうやってついたものなのだろうか。私が思うに、犯人はジュウケイではないかとおもう。
 核戦争の後、カイオウは羅将となりて国を改革しはじめた。ジュウケイは師として、それを止めねばならない立場だったはず。もはや勝てないと判ってはいても、カイオウに挑むくらいのことはしただろう。したと信じたい。その国の行く末をかけた師弟対決の際に、カイオウは顔の傷を負ったのではなかろうか。というか、ジュウケイ以外に傷を負わせられそうな者がまず思いつかない。それに、傷が消えずに残っている事も重要だ。ジュウケイの自白術で付けられたヒョウの額の傷は、大人になっても消えずに残っていた。カイオウの傷も、同じようにジュウケイの術で付けられたものであるが故に消えないんじゃないかと考えられるのだ。
 しかしその幻の戦いが行われたかはともかく、カイオウが拳を封じられていないことは事実。勝利したと思われるカイオウは、何故ジュウケイを生かし、その後干渉しなかったのか。これは私の想像だが、それはジュウケイがラオウの事を口にしたからだと思われる。もし自分が敗れても、いつの日かラオウがお前を倒すだろう。そう告げられたカイオウは、最後の壁だと思っていたジュウケイから、そのターゲットをラオウへと変更したのだ。そして己がラオウを倒すその時を見届けさせるため、あえてカイオウはジュウケイを生かした。そんなエピソードがあったんじゃないかと思う。ていうかそれくらいは頑張っててくれてないと、ジュウケイはほんとただの駄目ジジイになってしまう。




〜リュウオウの血族の現代での扱われ方とは〜

 ジュウケイが言うには、秘拳こそがカイオウを倒す唯一の道であるらしい。その北斗宗家の秘拳とは、二千年前に作られた石碑に刻まれていた。これは二千年前からカイオウの出現を予見していたという事ではなく、その「秘拳を使わねば倒せない男」の条件を、カイオウが満たしていたという事であろう。

 カイオウだけが持つもの。それはリュウオウの血筋である。リュウオウの血筋で北斗琉拳を学んだのは、この時代においてはカイオウだけだ。これが「秘拳なくして倒せない男」の条件なのではないだろうか。リュウオウは北斗琉拳の創始者であり、その子孫は愛を見失い、愛に彷徨するらしい。つまりリュウオウの子孫こそが、北斗琉拳の真の力を引き出せる血統であり、カイオウは生まれながらにして最も北斗琉拳と相性のいい男だったのである。「秘拳なくして倒せない男」と称される最強の敵としては、これ以上の存在は無いだろう。

 現代では、カイオウはおろか、誰もリュウオウの血族に関する秘密を知らなかった。原因は定かではないが、おそらくそれはリュウオウの血族と北斗琉拳との交わりを絶つためなのではないかと思う。自分達が北斗琉拳創始者の子孫だと知れば、必ず彼等はその拳を求めるはず。その結果生まれるのは、カイオウとおなじ、条件を満たした最強の魔神。それを防ぐためにも、リュウオウの血族に関する情報は永遠に伏せておかねばならなかったのだ。

 しかしリュウオウの子孫だとは伏せられていても、彼らが特別な血族として認識されていた可能性は高い。理由はトキが北斗神拳の伝承者候補として選ばれているからである。トキの才能が明らかになるのはもっと先の事であり、少なくとも海を渡る時点では誰も気付いていなかったはず。なのにトキが伝承者候補として選ばれたのは、おそらく彼等兄弟が特別な一族として認められていたからなのだ。

 では一体彼らは「リュウオウの血族」という名を葬られた後、どのような存在として扱われてきたのだろうか。可能性として高いのは「北斗宗家の従者となる血族」である。カイオウがヒョウの従者として育てられていた事、そして「私達北斗の惑星は、北斗宗家に仕えるのが宿命」というカイオウの母の台詞も、それを裏付けている。それに「北斗宗家の従者には常に最強の拳士が選ばれる」という掟もある。トキが伝承者候補に選ばれたように、リュウオウの血族も北斗宗家の血を引くものである限り、一般人など遠く及ばぬサラブレッドなのだ。普通に修行したなら間違いなく彼等一族が最強の拳士となるはずであり、事実上その一族が従者となっていたのではないかと考えられる。

 また従者としてしまう事で、彼らに北斗琉拳を学ばせないようにする効果もある。従者は主である北斗宗家よりも強くなってはいけないという掟がある。強力な北斗琉拳を学べば主を超える可能性は大いにあるが故に、学ぶ事を禁止することが出来るのだ。また北斗琉拳は魔を生み出す拳でもある。もし従者が魔に取り込まれてしまえば、北斗宗家に危機が及ぶ事は明らかであり、禁止するのは当然の事。愚かしくもジュウケイがその禁を破ったのは、カイオウの拳才に惚れたからなのだろう。全てが無に戻り、拳が言葉となる世界において、北斗琉拳を得たカイオウがどれほどの男になるのか、その興味に負けてしまったのだ。

 本来なら、そんな血族はさっさと絶ってしまうべきだったのかもしれない。そうでなくても、北斗宗家の側に置いておけば、常に琉拳との交わる可能性を残すことになり、危険極まりない。だが、北斗宗家にはそれが出来ない理由があった。石碑にも刻まれていたように、シュケンはリュウオウの子孫に愛を説くよう言い残していた。北斗神拳伝承者の手によって、リュウオウの血筋にかけられた呪いが解かれるその日まで、北斗宗家はリュウオウの血筋を絶やすわけにはいかなかったのである。





〜何故ラオウならカイオウを倒せたのか〜

 ジュウケイはヒョウの記憶を取り戻し、秘拳をケンシロウに伝えようとした。しかし海を渡ってきたのがラオウなら動かなかった、と言っている。つまりこれは「秘拳が無くてもラオウはカイオウに勝てる」という意味だ。ラオウがヒョウから秘拳を聞き出すという可能性も無くはないが、ヒョウはもともとケンシロウ以外に秘拳を伝えるつもりは無かった。今更記憶が戻ったところで、ラオウに伝えたとは思えない。それ以前に、「秘拳は北斗宗家の血統者にしか使えない」とも言われていた。一般的に北斗宗家の血を引いていると思われていたのは、ヒョウとケンシロウだけであり、カイオウやラオウは血縁者ではないと認識されていた。つまり秘拳を知るとかいう以前に、ラオウには秘拳は使えないと考えられていたのだ 

 北斗宗家の者には秘拳は必要で、宗家でない者には必要ない。これではまったく立場が逆である。本来優れているはずの北斗宗家のほうがプラスアルファを必要とするというのは、一体どういう事なのだろうか。だが、この謎は発想の転換によって簡単に説明がつく。要するに、ケンとラオウの強さが問題なのではない。それぞれを相手にしたときの、カイオウの強さが変化するのである。

 リュウオウの一族であるカイオウが北斗琉拳と相性がいいのは、先述の通りである。それと同じように、相手にもまた相性がある。北斗琉拳の源は悪、すなわち憎悪。憎悪が増せば増すほど、北斗琉拳の威力は増すのだ。リュウオウの憎悪の源はズバリ、シュケンであった。北斗琉拳もそのシュケンに対抗するために作られたものであり、シュケンの血族を相手にしたとき、その憎悪は頂点に達するのだ。つまり、カイオウが最も力を発揮する時。それはシュケンの子孫であるケンシロウを相手にした時なのである。

 一方、カイオウのラオウに対する憎悪は殆ど無いに等しい。まずラオウはシュケンの血を引くものではない。カイオウと同じ血を分けた兄弟である。かつてラオウが修羅の国に上陸したとき、カイオウはラオウへの想いを、傷と共に消した。少なくともあの時までは、憎むどころか愛すら抱いていたのだ(兄弟的な意味で)。そこでカイオウも気付いたのだろう。ラオウに憎しみを抱かねば、北斗琉拳の力は半減し、敗北するであろうことを。そこでまず、カイオウは己に傷を付ける事でその想いを消し去った。そして更にラオウへの憎しみを募らせるため、カイオウはあることを行った。それがラオウ伝説の普及だったのである。まずカイオウは、仮面で顔を隠し、ラオウとカイオウが兄弟である事を隠した。「ラオウ伝説とはこのオレの情愛との決別の証なのだ!」という台詞の通り、仮面で顔を隠すことによって、兄弟という繋がりから生まれる情愛を完全に断ち切ったのである。更にラオウがこの国を救う救世主だと広める一方で、カイオウはそのラオウに倒される悪の化身として人々に認知させた。この究極のマゾヒストともとれる自虐的行動により、ラオウへの憎しみを募らせ、それによりラオウ戦における北斗琉拳の威力増加へと繋げようとしたのである。

 二人に対した時のカイオウの状態を見てもらえればよくわかるだろう。ラオウと対峙したときのカイオウは、それはそれは穏やかなものだった。魔闘気の煙一つ出ていない。対してケンシロウの時は、対峙する前からテンション最高潮であった。「みろ!この私の憤りを!私の魔気が耐え切れぬほどうずく!それはやつがあらわれたからだ!」。ケンシロウが上陸した瞬間から、カイオウの血は沸騰しまくっていたのだ。そしてケンとヒョウが相討ちで死のうかというときには、急激にその魔闘気は納まり始めた。宗家の血が2人いっぺんに消えるという事に、リュウオウの血は歓喜に満ち溢れ、その憎悪の魔闘気を収縮させたのである。
 本来なら北斗神拳伝承者として送り出すのは、ケンシロウだけでよかったはず。わざわざラオウとトキを送り込んだのも、カイオウが魔神となったときの予防策だったと考えれば納得が出来る。





〜秘拳無しでカイオウは倒せなかったのか?〜

 修羅の国編において、これでもかというくらい伏線を張られ、最後まで引っ張られた秘密。それが女人像に隠されていたという「北斗宗家の秘拳」だった。そしてその正体は、北斗宗家の拳の受け技というなんとも微妙なものであった。しかし、ケンは紛れも無くこれこそが「打倒カイオウの切り札」と口にしている。本当にこれ無くしてカイオウに勝利することは出来なかったのだろうか。

 秘拳について一番騒いでいたのがジュウケイだ。ジュウケイには、これなくしてケンシロウは絶対にカイオウに勝てないという確信があった。彼をそこまで意固地にさせていた逸話とは、いったいどういうものだったのだろうか。上記の二つの考察から、ジュウケイが伝え聞いていた内容を推測してみるる。
 
「宗家の従者の血族に、北斗琉拳を伝えてはならない。 伝えればその者は魔神となり、魔界をも飲み込む最狂の北斗琉拳が誕生する。 その魔神を倒すには北斗神拳の力が必要である。 だがその使い手が宗家の者である場合、魔神に勝利するには宗家の秘拳が必要である。 何故なら、宗家の血統者と対峙したとき、魔神の魔闘気は最盛を迎えるからである。」
 
 おそらくこんな感じだったと思われる。
 カイオウが言っているとおり、過去にも神拳と琉拳の戦いは行われていたらしい。誤って誕生させてしまった魔神を、北斗神拳伝承者が葬る。そんな歴史を何度も繰り返すうち、上のような詳細な言い伝えが生まれていったのだと思う。ジュウケイとしても、「教えちゃ駄目だけど、まあ過去にも同じような事あったらしいし、解決の仕方もわかってるから別にいいか」てな感じに考えてたんじゃなかろうか。
 
 しかしこれではつじつまが合わない。ケンは秘拳の正体を、「北斗宗家の拳の受け技」といっている。だが上記の内容は明らかに北斗琉拳に対するものであり、北斗宗家の拳は全く関係ない。もともとジュウケイも秘拳の事を「琉拳を封じる秘拳」と呼んでいる。ハナから矛盾しているのだ。

 ケンがカイオウとの初戦で敗れたのも北斗琉拳であった。宗家の拳など全く関係ない。もし秘拳の正体が宗家の拳の受け技だったとしたら、あの初戦時に秘拳を会得していたとしても、ケンは同じように大敗していただろう。やはりあの秘拳には、宗家の拳の受け技だけではない、もっと他の秘密も隠されていたはずなのだ。
 
 実はこの問題の答えは、リンが言っている。

「に・・・女人像が伝え語りかけているのは愛!! 
 愛こそが北斗宗家の秘拳なのでは・・・」



そう、女人像がケンに伝えたのは「愛」。それもリュウオウの血族、つまりカイオウへの愛だ。

 北斗琉拳の源が悪なら、北斗神拳の源は愛。リュウオウの血脈が宗家の人間に対して憎悪を膨らませるなら、対するシュケンの血脈はその憎悪を包み込むほどの愛で立ち向かわねばならない。どうしようもないような悪の塊であるカイオウを、それでも愛する方法。それが、女人像の石碑に刻まれた北斗神拳創設の悲話を知る事だったのである。北斗神拳伝承者シュケン誕生の影で、密かにその栄光の道を閉ざされたリュウオウの無念。母を失い、愛に彷徨することを宿命付けられたリュウオウの哀しみ。呪われし血脈として、北斗の屑星と呼ばれたリュウオウの血脈達の生き様。その全てを知る事でケンは哀しみを背負い、それをカイオウへの愛と変えることによって、ケンはカイオウに勝利する事ができたのである。

 だがケンシロウは、その事に気付いていなかったのだ。ケンシロウはただ悲話を聞いて感じるがままに涙しただけで、別にカイオウを倒すためにカイオウを愛したわけではない。そんな理由で愛したとしても、それは真の愛とは言えないだろう。ケンは、悲話は悲話として受け止めただけであり、それより得れる「愛」こそが秘拳の正体であることに気付かなかったのだ。その後、結局秘拳とはなんなんだ?と疑問に思ったケンシロウは、その中にオマケ程度に記されていた「宗家の拳の受け技」が、真の秘拳だと思い込んでしまった。それゆえに「女人像の秘密がカイオウ打倒の切り札とされたのは、まさにその受け技の伝授だったのだ。」などと口走ったのである。