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ジュウケイ



登場:原作(174〜204話)TVアニメ版(128〜149話)
   蒼天の拳 リバイブ 他
肩書:先代北斗琉拳伝承者
流派:北斗琉拳
CV:宮内幸平(TVアニメ版)
   大友龍三郎(真北斗無双)
   石井康嗣(リバイブ)

 北斗琉拳の先代伝承者。三羅将(カイオウヒョウハン)と、シャチの師。かつて北斗琉拳が生み出す魔界に飲み込まれ、リュウケンを襲撃。まだ魔界の入り口にいたため、リュウケンの仙気雷弾によって現実へと引き戻されたが、既に家族は、その魔闘気に巻き込まれ死亡しており、北斗琉拳の業深さを呪った。

 その後、北斗宗家に仕え、カイオウやヒョウに拳を教える身に。戦争によりいつかこの世が無へと戻り、拳の時代が訪れる事を予見し、リュウケンのもとにラオウトキケンシロウの三人を送り出した。更に時代のため、ヒョウにのみ伝えられる北斗宗家の秘拳を聞き出そうとするが、ケンが帰ってくるまで秘密を守るというヒョウの強い意志の前に失敗。しかしやはり不安は消えず、禁を破ってカイオウ、ヒョウ、ハンの三人に北斗琉拳を伝承。その際、拳に甘さは不要としてヒョウの記憶を封じた。やがて国は予見したとおり滅びたが、拳を教えた三人は羅将となりて修羅の国を創設。もはや自らの手の及ばぬ事態となってしまったため、いつかラオウが戻り、国を救ってくれる日を待ち続けた。

 シャチを第四の北斗琉拳の使い手として育て上げた後、聖地の沼での隠遁生活へ。数年後、ラオウ襲来を知らせる伝達の赤い水を見て安堵するも、海を渡ってきたのがラオウではなくケンシロウだと知らされ、自らが動く事を決意。ケンシロウでは実の兄・ヒョウは倒せないと考え、ヒョウの記憶を呼び覚まし、ケンシロウに北斗の秘拳を授けさせようとした。激闘の末、記憶を呼び覚ます破孔経星を突くことに成功するが、実は記憶を封じたのはカイオウであり、既に復元破孔にも細工を施されていたため、記憶は戻らず、そのままヒョウに敗北。この国の希望が失われたことに絶望しながら絶命した。


 TVアニメ版では、座禅によって宙へと浮いたり、水面を歩いたりするという能力も披露。また、ロック達とも面識があり、自分達に代わって村人達を守って欲しいと頼まれていた。


 『蒼天の拳』では、幼少姿で登場。日本軍との戦争に巻き込まれ、両親とと死別。妹の亡骸を教会へと運び、牧師の飛燕に祈りを捧げてもらった。その後、自ら命を絶とうとするが、拳志郎によって制止。生きることがお前の宿命だと告げられ、羅龍盤を託された。




 北斗琉拳が北斗神拳と異なる点として挙げられるのが、呪文の存在だ。その呪文の中で一番有名な「ヴァジュラ」とは、ヒンドゥー教で武器や稲妻を意味する言葉であるので、北斗琉拳はその成長過程でヒンドゥーに伝わる呪術等を融合させたのではないかと考えられる。そしてその怪しげな呪文の使い手の最たる存在が、このジュウケイだ。呪文だけで扉を溶かしたり、ヒョウの動きを抑えたりと、その威力はまさに無限大。本当にこれで北斗神拳より下なのかと思わせる。ただ、その怪しげな術を取り入れたが故に魔界に入るようになってしまったような気もするが。

 ただ上記のような術の使い方をしたのはジュウケイのみであり、カイオウも呪文のようなものを唱えてはいるが、使われるのはほぼ北斗琉拳の奥義を発動したときである。莫大な魔闘気を一気に放出させる暗琉天破等を使うときに使われているようだ。扉を溶かしたりだのといった、魔闘気の大放出とはまた異なる術を使えるのはおそらくジュウケイだけなんじゃないかと思われる。流石にあの齢になると、魔闘気の総量も減っているだろうから、ああいった術に頼る戦い方に変化していくのかもしれない。

 アニメでは更に座禅を組んだまま浮いてみたり、水面を歩いてみたりなどと、更なる怪しげな術を披露している。しかしこれらは呪術というより仙術であり、仙術というのはいわゆる闘気、オーラを操る術のこと。闘気を操るにおいては北斗神拳をも遥かに上回るという北斗琉拳ならではの技なのかもしれない。





〜大馬鹿者ジュウケイ〜

 ジュウケイは自らの蒔いた種を刈るため、ヒョウと闘い、散った。物語が始まる前に既に死んでいたリュウケンとは違い、活躍の場をもらえた事から、ジュウケイのほうが遥かに活躍したような印象がある。しかし冷静に考えてみると、彼の行動は非常に愚かと言わざるをえないものが多い。、んで結局その蒔いた種とやらも刈り取れないまま逝ってしまった。「許せ!この大馬鹿者を!」という台詞も、全くその通りと返さざるをえない。

 そもそもカイオウが歪んだのはほとんど彼の所為である。散々屑星クズボシと罵ることで北斗宗家への恨みを募らせ、さらには弟達の命を人質にしての八百長試合で恥をかかせ、母者が死んだときは無神経な一言でカイオウをキレさせた。ワザと北斗宗家を憎まそうとしているようにすら見える。

 そして一番の愚行はなんといっても禁断の北斗琉拳の伝承だ。しかも己が悪の化身へと育てたカイオウに伝授したというのが極めつけである。最悪の組み合わせである事くらいわかりそうなものだが・・・。ジュウケイをそうさせたのは、おそらくカイオウの溢れる才気なのだろう。この男に北斗琉拳を使わせればどれほどの拳士になるのか。その誘惑に勝てなかったのだと思われる。

 正直、ヒョウだけに伝授するのなら問題は無かった。いや、むしろ好転していたと思う。カイオウが歪んだのは己が弱かったからだとヒョウはいっている。しかし、もしジュウケイがヒョウのみに北斗琉拳を伝授していれば、ヒョウはカイオウより強くなっていただろう。その場合カイオウは仕方なくヒョウの従者となり、すべては順風満帆に進んでいたんじゃないだろうか。

 あと、ヒョウの記憶を封じたということも問題だ。ジュウケイによると、拳に甘さは不要だからヒョウの記憶を消したらしい。しかし、どうも彼の台詞を読み取ると、これはジュウケイの個人的判断のようだ。なんの血筋も引いていない彼が、北斗宗家の嫡男の記憶を独断で消し去るとは、とんでもない暴挙である。しかしこれは、プレッシャーに押しつぶされた結果の愚行だったのではないかと思う。宗家の血を引くヒョウよりも、カイオウのほうが強いという事実。北斗宗家の者達は、当然これを良く思っていなかっただろう。彼等の師として、ジュウケイはその責任を押し付けられていたはず。ヒョウをなんとしても強くしなければならない。そんな葛藤の末、彼は記憶を封じるという結論に至ったのだ。彼もまた屑星であるが故に、北斗宗家から圧力をかけられていたかわいそうな人物なのだ。

 しかし真に問題なのは、それに失敗したことである。きちんと記憶を奪っていれば、カイオウによる上書きも行われなかったはずであり、これはジュウケイの責任と言わざるを得ない。ヒョウの甘さを消すために記憶を封じたジュウケイであったが、結局は自分の中の甘さゆえに破孔突きをミスって、それが原因で死亡しているというのだから皮肉なものである。しかし北斗宗家も、なんの血族でもない彼を何故これだけ重要なポジションに置いたのか理解できない。更に彼はこの修羅の国編における様々な情報をもたらしてくれた人物であるが、どうも話の信憑性が薄いと言うか、頼りない部分がある。上の方にも書いたが、蒼天の拳を見る限り、彼はカイオウやヒョウと違い、北斗宗家であるオウカ、シュメのどちらの血も引いていないと思われる。つまるところ、外様である彼には、それほど詳しく一族に伝わる伝説の詳細を知らされていなかったのかもしれない。

 彼の話の中でも最も胡散臭いのが、北斗宗家の秘拳に関連する事である。結局秘拳は必要だったのか。ほんとうに拳王様が来ていれば全て解決していたのか。なんだか、ただ言い伝えを鵜呑みにしただけの、根拠の無い考えのように思える。これについてはカイオウの項で考えてみたいと思う。




〜ケンはヒョウに勝てなかったのか〜

 ジュウケイ(とハン)が最初に言い出したのがこれである。これはケンとヒョウが実の兄弟で、優しい性格のケンシロウではヒョウを殺す事はできない、ということだろう。しかしケンは「たとえ兄でもだ!」の一言で、この言葉を覆した。実際ケンはヒョウを圧倒していたし、ラオウ達との非情の戦いを経ていることから考えても、もはや兄弟間での戦いに躊躇するような人間ではなく、ジュウケイの発言が的外れだったと考える事もできる。しかし本当にそうか?確かに兄弟間での躊躇はないかもしれない。しかしもしヒョウが魔界に入っていないナイスガイなままでも、ケンシロウは本気で戦えたのだろうか。ケンがヒョウを倒さねばならないと考えたのは、ヒョウが魔界に入ったが故だ。ナガトの一族が住む村での凄惨な場面を見て、ヒョウは倒さねばならぬ男だと判断したからである。そういった理由なしで、実の兄を倒す事など、ケンシロウに出来たのだろうか。

 ケンは確かに非情の戦いを経てきたが、倒してきた強敵達にもそれぞれ悪しき部分があったからだ。彼らが行ってきた悪事が、ケンの中でのボーダーラインを超えているかどうかが、基準となるわけである。判りやすいのがリュウガである。アニメでリュウガはケンシロウに一度襲い掛かったが、ケンは戦う意思を全く見せず、その場から逃げた。拳王軍所属の男であっても、倒すべき男ではないと判断したならケンの悪メーターのボーダーラインは超えないのである。そして、トキ殺害という行為によりリュウガは晴れてそのボーダーラインをオーバーしたわけだ。一方ヒョウだが、魔界に入る前のヒョウの悪事といえば、羅将の一人として修羅の国を治めていた、というものだ。それ以外はナイスミドルであるナガトの証言からも、人間として相当できた人物であった。そんな男が悪メーターのラインを超えていたとは思えない。トキを殺す前のリュウガ、いや実の兄という事を考えるとそれ以上にボーダーラインに届かないように思える。と言うことは、やっぱりジュウケイの言葉通り、ケンはヒョウに勝てなかったという事になる。まあ、その場合は「勝てない」と言うより、「戦わない」といったほうが正しいが。だがそうすると泰聖殿にある打倒カイオウの秘拳は知られないままとなり、カイオウには結局勝てないということになる。ヒョウには勝てないというのは、「ヒョウ(に勝って記憶を取り戻させ、秘拳のありかを聞き出さないとカイオウ)には勝てない」の略なのかもしれないね・・・





〜魔界に入るタイミング〜

 北斗琉拳は魔道の拳である。それは北斗琉拳が、会得した者を魔界へ踏み入らせるという特性を持っているからだ。しかし劇中で魔界に入った者と入らなかった者がいる。前者がカイオウ、ヒョウ、ジュウケイ。後者がハン、シャチ。劉宗武や劉玄信等、蒼天の拳のキャラクターも今のところ魔界に入った所は確認されていない。何故にこの差は生まれるのだろうか。

 ヒョウが魔界に入る様を見る限り、その原因、キッカケとなるのはやはり怒り、恨み、憎しみといったものであると思われる。そして魔界へと入った三人の共通点を見てみると、どうやら三者とも北斗神拳伝承者、つまりは北斗宗家の血への憎しみが原因のようだ。カイオウ、ヒョウは言わずもがな。ジュウケイの場合も、魔界へ入って真っ先にリュウケンを殺しに来ている事から、やはりその怒りの対象が北斗宗家である可能性が高い。北斗神拳への憎しみの有無が、魔界に入るかどうかの分かれ目なのではないかと考えられる。

 ではなぜそのような限定的な状況下でのみ発動するのか。それは、北斗琉拳が北斗神拳に対する憎しみによって作られた拳であるからだ。原作では語られていないが、アニメ北斗では北斗琉拳はリュウオウが始祖であると語られている。リュウオウはシュケンが語るとおり、愛を失い、愛に彷徨する男。その原因となるのは母の喪失であり、ならばその憎しみの矛先がシュケンへ向けられていたのは間違いない。そのリュウオウが創始したとなれば、その全てが対北斗神拳のために作られた拳であるわけで、北斗神拳への憎しみがキーワードとなっていてもなんら不思議ではないわけだ。

 ちなみに蒼天の拳によると、三国志の時代に劉家の皇帝を守護するため、北斗神拳から分派したものが北斗劉家拳(北斗琉拳)だとも語られている。しかし例えそうだとしても、そこにリュウオウが絡んでいたとすれば矛盾はない。アニメでは、リュウオウは北斗神拳が完成した後、野に下り、北斗琉拳を創始したと語られている。つまりリュウオウは北斗宗家を離れ、盗み出した北斗神拳を改良し、劉家守護の拳、北斗劉家拳としたとすればすべて符合するわけだ。もうひとつ考えられるのは、北斗琉拳と北斗劉家拳はもともと別のものとして誕生し、後に融合したんじゃないかという説。これは北斗琉拳の流派解説で語らせてもらっている。
 ひとつ謎なのが、如何なる経緯でジュウケイが北斗神拳を憎むに至ったかという点。これは彼がカイオウと似たような境遇にあったからだと考えられる。彼も北斗琉拳の修行中に、自分は屑星だの、宗家より強くなるなだのと言われ、次第に北斗宗家の存在そのものを憎むようになったのだ。しかし、もう一点原因は考えられる。それは、リュウケンが日本人だということだ。ジュウケイは幼少期、日本軍の爆撃によって妹を失っている。21世紀になっても未だに失われていない、日本に対する中国人の憎しみを考えると、およそ1960年代頃だと思われるあの頃では、まだまだジュウケイの日本人に対する恨みが消えていなかった可能性もある。日本人であり、北斗宗家であり、北斗神拳伝承者であるリュウケンへの憎しみが、何かのきっかけで爆発したとしても不思議ではないわけだ。