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[漫画]
原哲夫
[原作]
堀江信彦
[監修]
武論尊


「蒼天の拳」は、週刊コミックバンチにて連載されていた漫画作品。創刊号(2001/5/15)から、最終号(2010/8/27)まで連載が続けられ、同誌の看板作品を担った。

 北斗の拳の主人公である「ケンシロウ」の二代前の北斗神拳伝承者、霞拳志郎が、1930年代の中国で巻き起こるヤクザ同士の抗争や、中国に入り組む海外の列強勢力の争いの中で、様々な朋友達との出会いと別れを繰り返すというストーリー。北斗神拳から分派した「北斗三家拳」の使い手たちや、極十字聖拳、西斗月拳といった拳法の使い手達との戦いを経て、真の北斗神拳伝承者となるまでの物語が綴られている。2006年にはTVアニメ化され、10月4日から翌年3月14日までテレビ朝日系列で放送された。



北斗の拳との違い


前作である北斗の拳と比較によって「蒼天の拳」の作風を紹介する。

●舞台
 北斗の拳が核戦争で文明が失われた199X年以降の話であるのに対し、
蒼天の拳は1935年頃の中国を舞台とした、まだ文明社会が保たれていた頃の時代の話である。第二次世界大戦を目前に控えた緊迫した情勢の中とは言え、法というものが存在しているこの時代は、「史上最強の暗殺拳」という本来の北斗神拳の姿をを十二分に生かせる設定と言える。
 また、蒋介石やヒトラー、愛新覚羅溥儀などといった実在の人物と、架空の拳法である北斗神拳とが如何にして絡んでいくのかというのも本作品の大きな魅力の一つとなっている。

●主人公の性格
 無口で、笑顔が少なく、おどけてみせたりするような場面など皆無に等しいケンシロウに対し、
蒼天の拳の主人公である拳志郎は、自分から肩を組んで話かける馴れ馴れしさに、闘いの中でも頻繁に笑顔を見せるふてぶてしさ、そして事ある毎に珍妙なコスプレをして周囲をあきれさせるような、正にケンシロウと正反対の性格のキャラクターと言える。
 だが勿論、仲間のために流す涙や、外道を許さぬ正義の心、そして相手をちょっぴりイビってから殺すという若干の性格の悪さなどはしっかりと受け継がれている。

●主人公の熟練度
 ケンシロウは様々な強敵と闘い、敗れ、その敗北を糧として成長していくという主人公だが、
霞拳志郎は基本的に負けない。これは、ケンシロウが20代をイメージして描かれた「成長途中」のキャラクターであるのに対し、拳志郎が30代をイメージして描かれた「熟練者」だからである。そもそも「北斗神拳は1800年の間 他流派に敗れたことは無い」とされているので、負けないのが普通であり、ケンシロウが負けすぎなだけとも言える。

●拳法
 北斗の拳には南斗聖拳をはじめ、元斗皇拳や泰山流、華山流という風に様々な拳法・流派が登場するが、
蒼天の拳に登場する(超人的な)拳法は、ほぼ全てが北斗神拳からの分派であり、完全なる他流派との戦いは無いに等しい。唯一分派ではない西斗月拳も、北斗神拳の元となった拳法であるので、系統は同じと言える。とはいえそれぞれの拳にはそれぞれの特色があり、決して闘いが単調なわけではない。

●闘いの決着
 ケンシロウは死をもって闘いを決着させる事が多かったのに対し、
拳志郎は殆ど強敵には手を下さない。何度か止めの一撃を放とうとしたことはあったが、強敵と言える者達に対しては結局誰一人止めを刺すことはなかった。その後、生き永らえた相手が拳志郎の朋友となり、協力する立場となるというのも、北斗の拳とは異なる部分である。

●雑魚
 ケンシロウが主に相手にしていたのはいわゆる「ならず者達」であり、彼らは剣や斧、ボウガンなどで武装し、頭はモヒカンに刈り上げたような男達であった。それに対して
拳志郎が相手にするのは中国ヤクザ。ほぼ全員が銃で武装しているという点や、常に物陰から命を狙われていたり、食事に毒を混ぜられる事も日常茶飯事であるという点を考えると、拳志郎のほうが遥かにバイオレンスな日々を送っていると言えるだろう。

●残酷描写
 北斗の拳では頻繁に登場する
「経絡秘孔による人体破裂」のシーンが、蒼天の拳ではあまり描かれていない。というか作中で手にかける人数自体が、ケンシロウに比べて拳志郎は遥かに少ない。これは、物語の舞台が文明の失われていない世界であることも一つであるが、もともと北斗の拳の頃から残酷描写ばかりがクローズアップされる事を望んでいなかった原先生の意思を反映した結果でもある。
 この結果、北斗の拳で一世を風靡した「あべし」や「ひでぶ」に代表される悪党の面白断末魔も、蒼天の拳ではかなり登場頻度が少なくなっており、この辺りはファンとしては少し寂しい部分でもある。

●連載環境
 北斗の拳が連載されていたのが、集英社発行の『週刊少年ジャンプ』
(1983年41号〜1988年35号)だったのに対し、蒼天の拳が連載されていたのは、コアミックス発行の『週刊コミックバンチ』 (2001年創刊号〜2010年39号)。創刊号から最終号まで、同誌の看板漫画として歴史を共にした。因みに、北斗の拳が全245話なのに対し、蒼天の拳は260話と若干多い。連載年数を考えると本来ならもっと話数が多くてもいいはずだが、これは原先生の目の病気のことなどもあって後半は連載ペースが隔週以下に落ちてしまった事が原因である。
 また、北斗の拳の原作者が武論尊氏であったのに対し、蒼天の拳の原作者は(明記されていないものの)、堀江信彦氏が務めている。堀江氏は北斗の拳連載時の、当時の週刊少年ジャンプの編集長であった。蒼天の拳における武論尊氏のポジションは「監修」となっているが、実際は殆ど関わっておられないと思われる。

●アニメ
 北斗の拳のTVアニメは、フジテレビ系列にて、全152話(1984/10/4〜1988/2/18)で放送されたのに対し、蒼天の拳は、
TV朝日系列にて、全26話(2006/10/4〜2007/3/14)という、かなり少ない話数で放送された(厳密にはTV放送分は24話で、後にDVDに2話追加された)。
 だが問題なのは話数ではなく、そのクオリティにある。アニメ版北斗の拳も決して高い完成度を誇っていたわけではないが、アニメ版の蒼天の拳はそれどころの話ではない。それは、20年以上前に作られたアニメ北斗よりも遥かに低いクオリティを携えて我々の前に現れた、まさに悪夢であった。主題歌のラインナップや、山寺宏一氏をはじめとした豪華な声優陣は十分に満足のいくものであったが、問題なのはやはり作画の惨さである。キャラクターデザインの総作画監督である津幡佳明氏は、その見るに耐えない作品の出来に哀しみを背負い、壁を殴りつける日々を送っておられたという。筆舌に尽くし難いその内容は、是非各々の目で確かめてもらいたい。