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ジャギ



登場:原作(39〜44話)TVアニメ版(25〜32話)
   ジャギ外伝、北斗無双、北斗が如く、他多数
肩書:北斗四兄弟の三男
流派:北斗神拳 南斗聖拳
CV:戸谷公次(TVアニメ版、AC版、他)
   大塚周夫(劇場版・PS版)
   千葉繁(激打3)
   デビット伊東(ユリア伝)
   岸尾大輔(ユリア伝(少年期))
   宮内尊寛(ユリア外伝モーションコミックス)
   青木強(PSP天の覇王)
   高木渉(北斗無双・真北斗無双)
   松本ヨシロウ(DD北斗の拳)
   矢部雅史(DD北斗2期)
   金光宣明(スマートショック)
   宇垣秀成(北斗が如く)
   川津泰彦(リバイブ)

身体データ
身長:179cm
体重:89kg
スリーサイズ:113・91・105

 北斗四兄弟の三男。弟ケンシロウに受けた傷を隠すため、黒い鉄仮面を被っている。どんな手を使おうが勝てばいいという信念を持っており、拳法以外にも銃や含み針といった武器を平然と用いる。

 北斗神拳伝承者候補の一人として修行に励んでいたが、末弟のケンシロウが次期伝承者に決まったことで激怒。「兄より優れた弟など存在しない」という自論を展開し、ケンシロウを銃で脅して伝承者を辞退するよう迫るが、返り討ちに遭い、逆に秘孔を突かれて頭部が膨張。頭を覆う拘束具無しでは生きられぬ体となり、ケンシロウに対するより深い憎しみを抱くことになった。

 その後、南斗孤鷲拳シンユリアに惚れている事に目をつけ、ケンシロウからユリアを奪うよう進言。目論みは見事にはまり、間接的にケンを地獄に叩き落すことに成功した。だが蘇ったケンシロウが「七つの傷の男」として名を挙げている事を知り、自らにも同じ傷をつけ「ケンシロウ」を名乗って悪行を繰り返すことで、その名を地に貶めるという活動を展開。その中で、南斗水鳥拳レイの両親を殺し、妹アイリを拉致している。

 やがてその噂を聞きつけてケンシロウが訪れたため、ビルの屋上にて対決。拳法や武器は何一つ通用せず、劣勢に追い込まれるが、奥の手として用意していた燃料(ガス)で屋上を火の海にすることで勝利を確信。しかしシンを唆したのが自分であることを暴露してしまったことで、ケンシロウを本気で怒らせていまい、一転して大ピンチに。俄か仕込みの南斗聖拳も全く通用せず、シン、ユリア、マコアキ、そしてケンシロウ自身の怒りを込められた拳を喰らい敗北。拘束具によって封じていたかつての傷が時を経て破裂し、その肉体は地上から消えうせた。だがその間際、残る2人の兄が生きていることを明かし、ケンシロウの未来に地獄が待っている事を予言した。


 TVアニメ版では、仮面の口を覆う格子状の部分が、原作の金色から赤色に変更。追加エピソードは特になかったものの、後の回想シーンの中で何度か登場。他の兄弟達と共に修行に励む場面や、ラオウの舎弟のようなポジションでケンシロウをいびる様子が描かれている。


 『ジャギ外伝 獄悪ノ華』なる自身を主人公とした外伝作品では、赤子の時に火事に襲われたところをリュウケンに救われ、身寄りが無いとしてそのまま養子として育てられるという設定となっていた。他の兄弟達が北斗神拳を学ぶ中、自らはなかなか拳を教えてはもらえなかったが、父に認めてもらいたいという強い想いが覚悟を生み、ようやく伝承者候補に。だがその後、他の兄弟達の成長に置いていかれるようになり、挙句には末弟のケンシロウに敗北。その後、あらゆる手段を用いて勝利する術を身につけるも、リュウケンに認めてもらえず、更に恋人のアンナを殺された事で、悪の道へと染まっていくというストーリーが描かれた。

 『ラオウ外伝 天の覇王』では、野盗討伐のために訪れた拳王軍ソウガレイナと対峙。二人が兄ラオウの手下だと知った途端、自らの正体を明かし、ケンシロウが邪魔だという点での利害の一致を理由に双方の不干渉を提案。ケンシロウは自らの手で殺すとして、拳王軍には手を出さぬよう告げた。

 『トキ外伝 銀の聖者』では、トキの噂を聞きつけて奇跡の村へと訪れ、ZEEDと村人達の戦いを静観。そこでアミバと出会い、トキに向けられた彼の激しい憎悪に目をつけ、手を組む事を提案。お前がトキになりきってしまえばいいという策を授け、背中に本物のトキと同じ傷をつけた。後に拳王の城へと訪れ、ケンが生きていることをリュウガに教えた。

 『ユリア外伝 慈母の星』では、南斗の寺院が火事になった事をユリアに報告。予知の力を持っているにも関わらず、それを防げなかったとして、ユリアを非難した。

 『ジュウザ外伝 彷徨の雲』では、ユリアの母の形見である鞠の皮を破いたりするなど、幼い頃から性格の悪い人物として登場。ジュウザの怒りを買っていたが、そんなジャギにも愛してくれる人は居るかもしれないとして、ユリアには全て許されていた。




 北斗神拳は一子相伝。伝承者に選ばれるのはたった一人。非情なるそのサバイバルレースに、一人の少年が身を投じた。だが彼の競争相手は、ラオウ、トキ、ケンシロウという、作中で五指に入るド天才達であった。

 少年がただの凡夫ならば、無理ゲーだとして早々に諦めることが出来ただろう。だが不幸にも彼には才能があった。遅れをとりながらも、あの天才達に喰らいつくことができてしまったのだ。それ故に、彼の心には妬み、嫉み、そして劣等感が生まれ、やがてその負の感情に支配されることとなった。そして少年が大人へと成長したとき、彼の心は、自らの名前の由来でもある"邪気"に染め上げられていた。

 核の炎によって滅びたこの世界は、北斗神拳1800年の歴史の中でも相当凄惨な時代であった。それを憂いた神は、時代を拾うことの出来る天才を、同時に3人も送り出した。人はそれを悲劇と呼ぶ。だが真にカタストロフィを背負いしは、そんな神の子達と争わねばならなくなった"人間"の少年、ジャギであった。


 圧倒的な才能格差に何度も心折れそうになりながらも、ジャギはなんとかその厳しい修行を最後まで乗り切ってみせた。だが現実は非情なもの。その頑張りも空しく、やはり彼が伝承者に選ばれることは無かった。おそらくジャギ自身も、その結果は予測していただろう。悔しさを飲み込む覚悟は出来ていたはずだ。だがその気持ちを押しとどめていたダムは、突如として決壊した。己が認めるラオウやトキではなく、よりによって末弟のケンシロウが伝承者に選ばれたのだ。飲み込むはずだった悔しさは、「怒りをぶつけるべき理由」を見つけたことで一気に溢れ出し、怨讐へと姿を変えてケンシロウへ向けられた。己が伝承者に選ばれなかったこと。修練の日々が無為に帰したこと。それら全てをケンシロウの所為にしてしまことが、ジャギにとって一番楽な方法だったのである。

 銃をチラつかせて伝承者を辞退するよう迫るジャギだったが、既にケンシロウの実力はジャギを大きく上回っていた。銃身でしこたま殴られたことで相当イライラ来ていたケンシロウは、ジャギの全身に拳を叩き込み、頭部破裂の秘孔を突く。なんとかトドメだけは見逃してもらえたジャギは、ケンシロウへの復讐を誓い、その場を去るのだった。
 この時、ジャギを殺さなかったことが後に多くの不幸を生む事になり、ケンシロウは自らの甘さを後悔する羽目になった。しかし、仮にもここまで十数年間共に修行してきた義理の兄に対してひでぶな秘孔を突いておいて「甘い」ってことはないと思う。というか伝承者争いに敗れた者は「拳を封じられる」か「記憶を奪われる」かだと言われていたのだから、そうしておけば良かったよね。そうすればジャギが暴れることも無かったわけだし。怒りに身を任せ、特に深く考えずにジャギの秘孔を突き、彼を憎悪の化身へと変貌させた上で野に放ったケンシロウの行為は、真に愚かだと言わざるを得ない。


 頭部に直にビスを打ち込むという方法で、患部を鉄の拘束具で覆い、なんとかジャギは破裂を防ぐことに成功した。常に襲い来る激痛、そして醜悪なる外見と引き換えに。そのおぞましき姿は、ケンシロウへの憎しみの象徴。だが弱点でもあるそのその頭部を晒したままで生きていくのは都合が悪い。そこでジャギは、鉄の仮面を被って生きていくことを決めた。かつて北斗神拳伝承者を目指した男・ジャギは死に、同時に顔を持たない悪の化身が誕生したのである。

 こうしてアイアンマンと化し、同時にアベンジャー(復讐者)とも化した一人マーベル野郎は、まずその復讐の序曲として、ケンシロウの友人であったシンに接触した。シンがユリアに惚れている事に気付いていたジャギは、ケンシロウからユリアを強奪するよう焚き付けたのだ。そして目論見どおり、悪魔に魂を売ったシンの手により、ケンシロウは地獄を見ることとなった。さぞやジャギもご満悦だった事だろう。だがどうせならジャギもその現場に同席すりゃ良かったのにね。現場を直に見たほうがよりスカッとできただろうし。実際、劇場版ではこの後にケンを谷底にポイ捨てしてるんですよね。


 その後、ジャギはケンシロウと同じ七つの傷を付け、「偽ケンシロウ」として悪逆無道の人生を歩み始めた。その目的は、英雄視されはじめた「七つの傷の男」の評判を地に落とすことであった。

 その活動の一環として、ジャギは南斗水鳥拳伝承者であるレイの妹・アイリの拉致を実行した。これによりレイはその犯人である「七つの傷の男」を追いかけることとなった。だが果たしてこれは偶然なのだろうか。もしやジャギは、アイリの家族構成を把握した上で犯行に及び、ケンシロウに罪を擦り付けることで、レイをケンシロウにぶつけようとしたのではないか。実際、レイがもっと早くにケンシロウの傷を目撃していたならば、二人の対決は避けられなかっただろう。もし「南斗六聖拳の男を二人も傀儡にした」という経歴を手に出来ていたならば、悪党としてのジャギの評価はもっと上がっていたに違いない。


 そして遂にジャギは、因縁のケンシロウとの再会を果たした。彼がケンシロウの名を騙り続けたのも、全てはこの再戦のためであった。ジャギはラオウ様と繋がっていたので、いざとなればその兄者を頼ることも出来ただろう。だがシンの時のように、他者を使ってケンシロウを倒したとしても、一時的に溜飲を下げるだけ。やはり自身の手で、自身の拳で止めを刺さねば、この深き憎しみの呪縛からは解放されないと気付いたのだ。

 しかしそれだけ時間をかけて誘き出したにもかかわらず、結局ジャギはケンシロウに手も足も出なかった。含み針に散弾銃、屋上のガスに南斗聖拳。用意した様々な奥の手は、一切合財通用しなかった。結局ジャギはケンシロウの力量を全く計れていなかったのだ。あまりにも強い憎しみが彼の目を曇らせ、真実を見えなくさせていたのである。
 いや、彼はあえて見ようとしなかったのかもしれない。あんな天才達と肩を並べて拳法を学ぶには、自分は強いという自己暗示でもかけなければ継続できなかったのだろう。だがやがてその暗示は彼の中で真実となり、伝承者落選という至極当然の結果すらも理不尽に思うほど、何も見えなくなっていた。「偽ケンシロウ」として偽りの人生を送る遥か以前から、彼は己自身を偽り続けていた、嘘と欺瞞に塗れし哀れなる凡夫だったのである。




●オラは人気者

 ジャギは兄弟の中で群を抜いて弱かった。彼が存在することは、兄弟の平均値を下げるに等しいとみなされたのか、次第に物語からジャギの名は消えていった。そしてカサンドラでトキがポロッと名前をこぼして以降、もはやその名が呼ばれることは一度もなかった。修羅の国編では、ラオウやトキの幼い頃の回想シーンが何度も流れたにも関わらず、宗家と無関係だったジャギには当然出番はなかった。
挙句の果てには最初から居なかったかのような「北斗三兄弟」という呼称まで飛び出す始末。まあ所詮は6話で消えた男。いくら主人公の義兄とはいえ、出番としては一山いくらの小ボスと変わらないのだから、このぞんざいな扱われ方も仕方ないといえる。


 だが神は思わぬ方向から彼を救済した。人気が出たのだ。今や北斗の拳の悪党と言えば、彼とアミバのツートップ状態。いやグッズ展開やメディアへの露出度を考慮すれば、間違いなくジャギが単独のNo.1であろう。近年では武論尊先生自身が一番好きなキャラクターにジャギを挙げ、自らに一番性格の近いキャラだと公言し、更にはジャギの生き様を手本に人生を生き抜くためのバイブル本まで発売なされた。原作者が先頭に立ってジャギのムーブメントを煽っているのだ。

 彼の人気の理由は、なんといってもその容姿。中でも最大の特徴である鉄仮面。これがあまりにも秀逸だった。正体を隠すのではなく、忌々しい傷痕を隠す為に特化した粗暴な作りが、憎悪の権化であるジャギのキャラクターをよく表現していたと思う。その他にも、初登場時にまたがっていたバイクや、水平二連散弾銃、棘付きの肩当、袖の無いデニムジャケットを素肌に纏い、大きく開いた胸元に覗く七つの傷。一目で関わっちゃいけない人と解るその容姿は、イカつさを感じさせると同時に、決して強敵ではありえないという小物感を醸し出していた。全身のコーデからアイテムまで、全てがジャギというキャラクターにマッチした最高のデザインだったと言える。

 ちなみにあの仮面は、ドラマ「スケバン刑事2 -少女鉄仮面伝説-」で南野陽子演じる二代目麻宮サキが被っていたものと酷似しているが、先に世に登場したのはジャギのほうである。北斗の方が麻宮サキのヨーヨー設定をマミヤに取り入れた事を受け、そのやり返しの意味もあったのかもしれないが、真相はよく解っていない。



 もちろん見た目以外にも、彼が人気者となった理由は多くある。
 中でも最も忘れてはならないのは、あの名言。




「おれの名をいってみろ!!」

 まさにジャギを代表するこのシーン。もちろん台詞も印象的なのだが、ポーズとセットとなっているのが更に高ポイントだ。ただの名言だけならば、ここまで有名はシーンとはなっていなかっただろう。
 一番見せ付けたいのは胸の七つの傷以外は、完全なるシンメトリーという美しさ。そしてその傷よりも注目を集めてしまいがちな凶悪なるフェイス。そして己が最も憎む男の名をあえて言わせようとする屈折した精神状態。数ある北斗の拳の名場面の中でも、最も芸術性の高い一コマと言えるだろう。


 そして彼の場合は、登場のタイミングも絶妙であった。ジャギの口から残る二人の兄が生きていることが明かされ、ここから物語はラオウ様との最終決戦に向けての階段を上っていくことになる。いわばジャギは、北斗の拳における黎明期の最後を飾った男。武論尊先生も仰られている事だが、彼は北斗の拳という作品の中でとてつもなく大きなターニングポイントとなっているのだ。
 もしラオウ様御逝去までの物語を三部作で映画化するなら、このジャギを倒したところで「第一部・完」になるだろう。「あの二人が生きていたのか!」で、まだまだ戦いが続いていくことを予告しつつエンディングロールがスタート。で、暫くしたところでトキとラオウ様のシルエットが挟まるんだよ。これよくあるやつ。


 このジャギ編の盛り上がり方は、各話の最後のコマにも顕れている。

 ジャギが初登場した回は、ジャケットをおっぴろげて名台詞を吐く例のシーンでまずビタッと〆られる。

 そしてここからは怒涛のケンシロウ無双。





ならば教えてやろう
こいつの名はジャギ!!
かつて兄と呼んだ男だ!!

(原作39話 死闘への旅立ち!の巻 最終コマ )





きさまには地獄すらなまぬるい!!

(原作40話 幼き犠牲!!の巻 最終コマ )





場所を選べ!
そこがきさまの死に場所だ!!

(原作41話 師父の予言!の巻 最終コマ )





その悔いをこの場で断つ!!

(原作42話 非情の掟の巻 最終コマ )





ジャギ…
おれの名をいってみろ!!

(原作43話 強敵たちの血の果てに!の巻 最終コマ )


激おこケンシロウの5連発〆!!

 ともすればワンパターンと言われかねないほどに同じヒキを続けたこの手法は、ケンシロウの今の状況、そして怒れる精神状態が強く印象付けることに成功した。そしてその熱を受け取った読者もまた感じたのだ。今まさにこの作品に何かが起ころうとしている。ジャギという男の登場を切欠に、ケンシロウが新たなステージに上ろうとしていることを。
 北斗の拳が最大のビッグウェーブに乗った瞬間。それがこの「ジャギ編」であり、それ故にジャギという存在は読者の心に強烈に刻まれることとなった。自分の名を問うという持ちネタで知られる彼だが、連載終了から30年以上経った今でも、多くの人間が正解を答えられるだろう。だがその答えを口にしてはいけない。彼の目的は、あくまでケンシロウの名を貶めること。己が有名になる事など、彼は望んではいないのだから。




●どこでそれ(南斗聖拳)を身につけた?

 ケンシロウとの戦いの中で追い詰められたジャギが、秘密兵器だと言わんがばかりに繰り出したのは、まさかの南斗聖拳であった。想定外の攻撃に、この戦い初の流血を許したケンシロウは「どこでそれを身につけた…」と問い質すも、当のジャギは「フフ…これから死ぬきさまにいう必要もあるまい」と何故か話をはぐらかし、結局最後まで明かされることは無かった。

 南斗聖拳は陽の拳として表舞台に広く伝承されているので、ジャギが拳法を学ぶ機会を得たとしてもさして不思議ではない。おそらくケンシロウが出所を探るような質問をしなければ、私としても特に気に留めなかっただろう。一体なぜケンシロウはあのような質問をしたのか。無理やりにでも吐かせてくれないと気になっちゃうじゃないですか。なので独自にジャギの南斗聖拳の出所を考察してみる。


 登場したキャラクターの中から選ぶのならば、候補として考えられるのは3人。作中で唯一ジャギと接点のあった南斗の男、シン。そして拳王との繋がりから接触の可能性が考えられるユダアミバだ。この中の誰かである可能性が高いと考えられる。


 まずはシン。作中で唯一ジャギと絡んでいる点や、ジャギの使った南斗聖拳が孤鷲拳の特徴である貫手突きであった点を考えると、彼が本命のような気がしなくもない。
 だが"ジャギと絡んだ"とは言っても、実際はジャギがシンにねっとり絡みついて一方的に話しかけていただけ。シンの方は一切言葉を発することなく、視線も殆ど向けることのない、早よ帰れ感まるだしの態度であった。ここからどう軟化すれば拳法を教える流れになるというのか。大体ジャギに何か恩が出来たわけでもないのに、シンが拳法を教える理由が無い。この線は限りなく低いと言わざるを得ないだろう。


 次にユダ。一見するとジャギとは何の繋がりもないように思えるが、思いあたるフシが一つある。二人を結ぶもの、それはレイだ。ユダはレイを憎んでいた。そしてジャギは、レイの妹であるアイリを浚った。もしかしてジャギにアイリの誘拐を命じたのは、ユダだったのではないだろうか。レイへの復讐の一環として、まずその家族を標的にしたユダは、その役目をジャギに依頼した。その見返りとして彼に南斗聖拳を教えたとは考えられないだろうか。ユダとしてもジャギから北斗神拳の情報を貰えればラオウの首を狙う際に役立つだろうし、WIN-WINの関係を築けそうな気がする。
 ただ美しいもの好きのユダがジャギと馴れ合う姿はあまり想像できないし、ジャギの型と紅鶴拳はあまり似ていない。二人の繋がりに関しても相当強引な結び付け方なので、あまり強く推せる説でもない。


 最後にアミバ。この3人の中で言えば、彼が本命ではないかと思う。アミバは、何故か北斗神拳を身につけていた。ジャギがアミバに北斗神拳を教え、そしてアミバはジャギに南斗聖拳を教えた。そう考えれば両方の疑問を一辺に解決できる。身につけていた拳法が互いに中途半端だった点も説の信憑性を高めている。「特定の人物に強い憎しみを抱いていた」という共通点もあるし、性格も合いそうだ。

 そして何よりも重要なのが、トキの背中にある傷の事をアミバが知っていたという事である。傷だけならまだしも、それを負った時のエピソードは、ラオウ様かジャギでないと絶対に知りえない事実。ラオウ様の性格を考えると、そんな昔話をアミバ如きにベラベラお話になるとは思えないので、ジャギが出所であると考えるのが自然だろう。つまり、二人が接触している可能性は限りなく高いと言える。実際、トキ外伝の中でもほぼ同じような内容で、ジャギからアミバへ傷のことが伝えられている。

 あと、ジャギの使った左図の南斗聖拳にも注目して欲しい。この手の形は中国武術象形拳の一つである鷹爪拳で用いられる「鷹爪」と呼ばれる手型だ。一方、アミバが作中で披露した技の中で、唯一南斗聖拳っぽかったのは「鷹爪三角脚」なる名前であった。そう、「鷹爪」の部分が一致しているのだ。
 南斗聖拳は鳥の名を冠している事が多い。ならばアミバが学んでいた流派は、南斗双鷹拳と同じく、鷹をモチーフとした拳法だったのではないかと推測される。ジャギはその拳を学んだが故に、この鷹爪の型を用いた南斗聖拳を繰り出したのではないかと考えられるのだ。

 以上の結果から、私はアミバが出所説を推すものです。




●何故ジャギは伝承者争いに残れたのか

 北斗四兄弟の中で圧倒的に才能で劣り、おまけに性格は最悪。挙句には暗器に手を出し、真っ当に拳の道を進むことすら投げ出してしまったジャギ。にも関わらず、彼は結局北斗神拳伝承者の最終選考まで残ってしまった。このリュウケンの采配には疑問を感じずにはいられない。

 問題は、彼がその凶拳を俗世で悪用しまくってしまった事にある。力を得た悪童が野に放たれたことで、この世に多くの悲劇が生まれた。ケンシロウ、シン、ユリア、アイリ、レイ、レイの家族、マコ、アキ、耳が弟に似ていた人、ノコギリを引けなかった人、ショック死したうすらハゲの人、そのハゲに追われていた女の人、etc...。彼の所為で不幸を背負った人は数知れず。殺された人数もおそらく2桁では効かないだろう。それも全てはリュウケンの責任。ジャギを最後まで伝承者候補に残し、なまじ強さを与えてしまった事が、悲劇の始まりだったのである。

 だがおそらく、ジャギ自身が言っていた通り、本来なら彼は拳か記憶を封じられる予定だったのだろう。だがリュウケンはその前にラオウ様に敗れ、ケンシロウはその掟を知らなかったのか、むしろジャギの憎悪を増幅させた状態で彼を見逃した。不運が重なったことで起きた悲劇とも言える。しかし万が一の事を考えるならば、そもそもジャギを育てるなどというリスクを犯す必要は無かった。それを自覚しながら、何故リュウケンはジャギを破門しなかったのか。


 「北斗の拳 ジャギ外伝 極悪ノ華」の中では、「火事に見舞われていた赤子のジャギがリュウケンによって救われ、養子として育てられることとなり、後に他の兄弟達に続いて北斗神拳を学び始めた」という設定になっていた。なるほど、確かにこれなら一人だけ格落ちするジャギが破門されなかったのも頷ける。もともと北斗神拳と関係なく養子入りしたのだから、才能が無いからといって追い出すことは出来なかったわけだ。だが言い換えればこれは"贔屓"であり、ジャギが実力で三兄弟に喰らいつけていたという点が希薄になってしまう。彼の実力を尊重したいなら、あまり好ましい設定とは言えないのかも知れない。


 一方で1986年発売の「北斗の拳 special」には、このような記述がある。

Q:リュウケンはなぜジャギのような人間を養子にしたのですか? 

A:兄弟を競い合わせるにはジャギのような毒を持った人間も必要だったのです。彼があのような破壊者になったのも、兄弟間の競争に敗れたからで、もともとは、拳法の才能豊かな人物だったのです。


 兄弟を競わせるための毒・・・つまり仲良しこよしでいくよりも空気を険悪にしたほうが切磋琢磨できると考えた、というわけだ。だが正直言ってその役目は、ラオウ様だけで十分事足りていた気がする。それにそういう役目はラオウ様のような強者がやるから効果があるのであって、ジャギのような弱者が吠えたところで場をかき回すだけ。実際ジャギと組手をしたケンの態度も「関わりたくねぇ…」って感じで、全く発奮材料にはなっていない様に見えた。彼の毒が役に立つとするなら、チンピラに挑発されても平常心を保てるための「煽り耐性の強化」くらいのものだろう。


 そもそもジャギが伝承者になる可能性はあったのだろうか。確かに彼は兄弟の中で一番弱かったが、伝承者の選考において強さは指標の一つに過ぎない。ラオウ様をさしおいてケンシロウが選ばれている時点でそれは明らかだ。おそらくボーダーラインを超えるだけの強ささえあれば伝承者としては問題ないのだろう。それでもあの性格は致命的だが、他の兄弟達にも問題が無いわけではない。ラオウ様は強すぎる野望を持っていたし、ケンシロウは性格が甘すぎた。トキも医療に偏向しており、暗殺拳の伝承者としては少々どうかと思われる。そういう決めきれない状況だったからこそ、ジャギも選考に残り続けられたとも考えられる。

 ジャギに伝承者の目があったとすれば、それは彼の拳と心が大きな成長を遂げたときだ。その可能性はゼロではなかった。何故なら彼は、誰よりも強い伝承者への執着心を持っていたからだ。ラオウ様もかなりご執心の様子だったが、ケンシロウが選ばれたときのリアクションを見る限り、間違いなくジャギのほうが上だ。その強い執念をもって修行に励み、少しでも他の兄弟達との差を縮め、ついでに心をも入れ替えてくれれば、ジャギにもワンチャンあったかもしれないのだ。
 だがしかし、それは年末ジャンボ1等当選確率並の奇跡。そしてその奇跡が起こったとて、トキやケンシロウを落選させてまで選ぶほどの素材ではない。つまりは他の三兄弟が不慮の事故で死にでもしない限り、ジャギが伝承者になっていた可能性はゼロと断言できるだろう。


 伝承者に選ぶつもりもない。当て馬として置いておくにもデメリットが大きすぎる。ならばこう考えるしかないだろう。リュウケンはジャギを破門しなかったのではなく、したくても出来なかったのだ。作中では何一つ明言されていないが、ジャギもまた一般人ではない特別な存在だったのではないだろうか。彼は一体何者なのか。いや、何者だとこじつければ無理のない説になるだろうか。

 私は、ジャギもまた北斗宗家の一族の人間だったのではないかと考える。そう、彼もまたラオウ、トキ、ケンシロウと同じく、海の向こうからやってきた男だったのだ。とは言っても、ケンシロウやヒョウのような「宗家の血族」ではない。宗家に仕える存在・・・いわゆる「屑星」と呼ばれる者達の一人である。

 「屑星」というのは酷い呼ばれ方ではあるが、そんな彼らも十分に尊重された扱いを受けている。ラオウ様やトキが北斗神拳伝承者候補として送られているのがその証拠だ。だがあの家系は(認知はされていなかったが)リュウオウの子孫であったため、「こいつら宗家の血も引いてねえのにやたら強ーな」として屑星の中でも特別視されていた可能性はある。しかし、シュケン系でもリュウオウ系でもないのに強かった男もいる。ジュウケイやハン、黒夜叉などがそうだ。つまり北斗宗家の一族の人間は、宗家の血を引く者でなくとも強者となりうる可能性を秘めているのだ。ジャギもその可能性を見出されて、第四の伝承者候補として抜擢されたのではないだろうか。

 もしそうだとするなら、リュウケンがジャギを切り捨てられなかったことも理解できる。一族の推薦を受け、わざわざ海の向こうから送られてきた人間を簡単に不合格には出来なかったのだろう。・・・いや待てよ。ラオウとトキも同じような境遇だったが、リュウケンはそのどちらか一人しか養子にとらないと宣言していた。相手の事情など考慮しない、忖度のカケラもない男、それがリュウケンなのだ。ならばジャギが一族の人間だからといって、優遇される理由にはならない。つまりもっと重要な何か・・・血族だの一族だのを超えるほどの特別な理由が、ジャギには隠されていたということだ。その秘密とは何なのか。


 北斗宗家の一族であり、かつ年齢的にジャギに見合う存在が一人いる。ジュウケイの息子だ。
 かつて魔界へと足を踏み入れたジュウケイは正気を失い、妻と子をその手にかけた。正気に戻ったジュウケイは、リュウケンより二人の遺品を受け取り、愛するものの命さえ奪う北斗琉拳の業の深さに動哭を上げた。しかし、ジュウケイの妻子が死んだというのは、あくまでリュウケンの証言のみであり、その描写はない(アニメではあるけど)。そして被疑者であるジュウケイ自身にも犯行時の記憶はない。彼等は本当に死んだのだろうか。むしろ遺品だけ渡すというのは、リュウガがトキのヘッドバンドを見せたときの例があるので、生存フラグのようにすら思えてしまう。

 つまり私が言いたいのは、ジュウケイが殺したのは妻だけであり、息子の方は生き残っていた。その子供こそが、ジャギだったのではないか、ということだ。リュウケンに保護されたジャギは、そのまま素性を伏せられたままリュウケンの養子として育てられることになった。北斗琉拳伝承者の息子となれば、才能も十分期待できる。そしてこのような重い理由があって引き取った子供なのだから、多少(?)性格が悪かろうとも追い出すわけにはいかない。故にジャギは、伝承者候補の最終選考まで残ることができたということだ。

 通常なら、息子が生きていたならすぐにジュウケイのもとへ返すのが当然だ。リュウケンの行為はただの未成年者略取誘拐罪であり、7年以下の懲役が課せられる重罪である。しかし、それでもリュウケンは、ジュウケイに息子の生存を隠し続けなければならなかった。息子にとって父ジュウケイは、母親を殺した男。そんな二人がうまくやっていける筈がないからだ。息子が事情を知らなかったとしても、嘘を隠し続ける事にジュウケイの方が耐えられないだろう。その葛藤が再びジュウケイを狂わせるやもしれぬ。そういった事情を考慮し、このまま息子を死んだことにしておく事が最善だとリュウケンは判断した。そして素性不明の伝承者候補の一人として彼を育てることにしたのだ。

 流石は北斗琉拳伝承者ジュウケイの息子だけあり、ジャギは一般人より遥かに優れた才能を持っていた。だが同時に、魔界に足を踏み入れた男の血は、彼の心の奥に生来からの悪を潜ませていた。宗家の血を引く三人に遠く及ばないと悟ったとき、その悪が芽吹き、彼を"魔界"へ・・・魔闘気の発生しない、ただひたすら性格が悪いというだけの「なんちゃって魔神」へと生まれ変わらせてしまったのである。

 こんなん出ましたけど〜