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レイ



登場:原作(26〜82話)、TVアニメ版(23〜57話)
   レイ外伝、ユリア伝、北斗無双、北斗が如く、他
肩書:南斗六聖拳の一人 義星の男 南斗水鳥拳伝承者
流派:南斗水鳥拳
CV:塩沢兼人(TVアニメ版、劇場版、PS版、他)
   原沢勝広(激打3)
   千葉一伸(審判の双蒼星、リバイブ)
   三木眞一郎(ユリア伝)
   植木誠(DS版)
   子安武人(北斗無双)
   岸尾だいすけ(DD北斗の拳)
   鳥海浩輔(イチゴ味)
   緑川光(スマートショック)
   森川智之(北斗が如く)

身体データ
身長:185cm
体重:100kg
スリーサイズ:132・92・106
首廻り:45cm

 南斗六聖拳 義星の男。南斗水鳥拳の伝承者。両親を殺し、妹アイリを連れ去った「七つの傷の男」を殺すため、人間の心を捨てた狼となって放浪を続ける男。

 野盗集団である牙一族と手を組み、マミヤの村に用心棒として潜入。だがその中に北斗神拳の使い手・ケンシロウがいたため、村側のほうが有利と見てあっさりと寝返った。弟を殺されても気丈に振舞う村のリーダー・マミヤの涙に心動かされ、本格的に牙一族殲滅へと動くが、彼らのアジトにて人質として捕らえられた妹アイリと再会。牙大王の命令に逆らうことが出来ず、ケンシロウと闘うよう強要されるが、奥義・聖極輪による口裏あわせによって相討ちを演出。敵の裏をかくことによって、無事アイリの奪還に成功した。

 その後、兄を探しに出たケンを追って奇跡の村へ。トキの名を騙る男がアミバなる男であることを暴露することで、危機にあったケンシロウを救った。その後、マミヤと合流してカサンドラへと向かい、捕えられていた本物のトキを救出。だがその帰路で、アイリ達を残した村が拳王侵攻隊に襲われていることを知り、一人だけ先に村へと戻ることに。一人拳王軍に屈しなかったリンの涙に怒りを爆発させ、部隊長であるガロンを打ち倒した。だがその後、拳王軍の長である拳王・ラオウが登場。その圧倒的な闘気と拳の前に完敗を喫し、秘孔 新血愁によって残り3日の命とされた。後に到着したケンシロウとラオウの戦いを見守り、マミヤが殺されそうになった際には、己が彼女に思いを寄せている事を告白した。

 秘孔による激痛に苛まれる中、己にために薬を取りに行ったマミヤを助けるため、メディスンシティーへ。そこで、マミヤがかつてユダに捕らわれ、地獄を見た女であることが発覚。女を捨てて生きるマミヤを呪縛から解き放つため、残り少ない命をかけてでユダを倒すことを誓った。だが狡猾なユダの策略によって煙に巻かれ、目的を果たせぬまま死期が切迫。しかしトキによる秘孔 心霊台によって、激しい痛みの果てに少しだけ命を延ばすことに成功。その激痛によって髪は白髪と化した。その後、マミヤの村へと攻め込んできたユダとの直接対決へ。水攻めによって足の動きを封じられ、苦戦を強いられるも、最後は飛翔白麗によって勝利。同時に最期の時が訪れ、ケンシロウにこの世の光となるよう告げ、一人小屋の中で絶命した。


 TVアニメ版では、髪の色が原作カラーの黒から薄い水色に変更されている。また、南斗水鳥拳で敵を攻撃する際に「ヒョーッ シャオッ!!」という掛け声を発するという演出が加えられ、更に爪先の軌道に青く光る線を描くことで、水鳥拳の持つ優雅で華麗な部分を強調することに成功している。


 『レイ外伝 蒼黒の餓狼』では、アイリの行方を追う中で辿り付いた『アスガルズル』なる歓楽街を舞台に物語が展開。その街の女王・エバを殺した疑いをかけられ、その真犯人を探すうち、己の師であるロフウが犯人であることが発覚。そしてその師こそが、アスガルズルの支配を目指す用心棒達のボスである事が明らかとなった。アスガルズルの新女王となったユウに、アイリと同じ悲劇を繰り返させないため、ロフウを討つ事を決意。南斗聖闘殿にて対決に臨み、死闘の末、皆の思いを乗せた究極奥義、飛翔白麗にて勝利。後に、この勝負はエバが命を賭して実現させた宿命の闘いであった事を知り、成長した拳と心を携えて再びアイリを探すための旅に出た。
 過去編では、レイの修行時代が描かれ、師ロフウから学んだ剛の水鳥拳と、その妻のリンレイより授けられた南斗水鳥拳の女拳の両方を会得することで、真の南斗水鳥拳を修得。闇闘崖での修行に耐え、南斗水鳥拳の次期伝承者に選ばれた。

 レイ外伝には全2回の読みきり版も存在し、第一話は野盗から妹を取り返さんとする少年サイに己と同じ境遇を感じ、その妹マリの救出に助力するというストーリー。第二話では、マミヤの村に攻めて来た拳王侵攻隊を迎え撃ち、その部隊を率いる旧友の少女・カレンとの非情の戦いが展開。彼女の南斗翡翠拳の前に苦戦を強いられるも、飛翔白麗によって勝利し、死に行く直前のカレンを拳王の秘孔の呪縛から解き放った。

 『トキ外伝 銀の聖者』では、盗賊に襲われていたルカなる少年を救い、マミヤの村へと搬送。彼の口から、アミバによって引き起こされた奇跡の村の惨状を知らされ、それを聞いたことでレイはアミバのもとへと向かった、という設定になっていた。

 『ジュウザ外伝 彷徨の雲』では、己の修行を見ていたジュウザから、型通りの凡庸な拳だと評されるも、その後の攻防ではジュウザと互角の勝負を展開。いつか南斗水鳥拳を極め、その先に行き着く境地を知りたいという己の意思を語った。
 後にジュウザがマミヤの村へと訪れた際には、墓に花を手向けられた。

 『真救世主伝説 北斗の拳ユリア伝』では、南斗最後の将の意思により、五車星の連携プレーによって捕えられ、南斗の城へ。将と対面し、己の持つ星が義の星であることを予知され、ケンシロウという男に会うよう告げられた。
 また、死期を目前に控えた際、トキに白髪を託し、ケンシロウと引き合わせてくれた恩義の証として南斗最後の将に渡してほしいと頼んだ。

 『劇場版 北斗の拳』では、捜し求める"七つの傷の男"の部下達がいる村にて、本物のケンシロウと対面。アイリを拐った男の正体がジャギである事を知らされ、ケンと共にアジトへと乗り込んだ。その後、カサンドラでのユリアの処刑を止めるために飛び出し、ウイグルを瞬殺。だが続いて対戦したにラオウは手も足も出ず、原作のような三日の命も与えらずにその場で死亡した





 KING軍やGOLANといった巨大組織との戦いでも、常に孤独な戦いを強いられてきたケンシロウ。そんな彼に出来た初めての「共に戦う仲間」。それがレイであった。北斗神拳とは全く性質の異なる、美しさをも兼ね備えた南斗水鳥拳の斬撃は、作品に新たな息吹をもたらした。共闘や同士討ち、別行動による戦力の分散など、ケンシロウ独りでは描けなかった新たなる展開が可能となり、時には敵の強さを表現するための噛ませ犬の役目をも果たした。バトル漫画における仲間キャラの成すべき役割を全てやり遂げたレイは、まさにケンシロウにとっての最高の仲間・・・いや「相棒」であった。

 そう、レイは北斗の拳のキャラクターの中で唯一ケンシロウの「相棒」と呼べる存在だった。ケンシロウが邂逅した「強敵」の中には、仲間として行動を共にしたキャラクターも幾人かいるが、年配すぎるシュウやフドウ、年下過ぎるシャチやバットでは、「相棒」と呼ぶには違和感があった。ケンシロウと同年代であり、匹敵する程の強さを持ち、共に死線を潜り抜けたレイだけが、「主人公の相棒」という称号に相応しいキャラクターであると言えるだろう。


 あくまで私見だが、レイは当初「シンの代役」として作り出されたキャラクターだったのではないかと思う。シンは、10話で姿を消すには余りにも惜しいキャラクターであった。実力、因縁、恋敵、対極の拳法、かつての友・・・こういった数多の設定を活かして、まだまだエピソードを生み出すことができたはずなのだ。しかし北斗の拳は男塾でも闘将拉麺男でもない。一度死んだキャラクターを生き返らせる事は出来ないのである(例外アリ)。そこで、レイという男が生み出された。ケンシロウと共に旅をし、ケンシロウと共に戦い、ケンシロウのために命を捧げる・・・本来はシンにさせたかったこれらのエピソードを、本人に代わってこなしてもらうことが、レイに与えられた役目だったのではないだろうか。

 だがレイというキャラクターのポテンシャルは、制作側の想定を遥かに超えていた。美しくも残虐な南斗水鳥拳のスタイルや、端正な顔立ちに浮かべられる不敵な笑みは、瞬く間に読者(主に女性)のハートを鷲掴みにし、やがて主人公をも超える人気を獲得するまでに至ったのだ。シンの代役などという当初の設定を彼方へと吹き飛ばし、「南斗水鳥拳のレイ」という何物にも冒されない確固たる存在を築きあげたのである。


 改めて初期のレイを見てみると、キャラクターの変わり様に驚かされる。中でも大きく変わったのは表情だ。初めてケンシロウの前に現われた際、彼はリンから「あの人の目は人を助けるような人の目じゃない!!」と言われ、バットからも「あのツラァ〜〜大悪党のツラだ!!」と罵られ、それを受けてケンシロウも「……わかっている」と同意されていた。初対面でここまで顔面をボロカスに言われたキャラクターなど、後にも先にもいないだろう。この時点では制作側にもそこまでレイを推す意図がなかったことが伺える。こういったキャラ作画の変移は漫画ではありがちな現象だが、レイの場合は本当に餓狼モードからの人間回帰を果たしているので、人相の変化もちょうどいい具合に当てはまったと言えるだろう。


 潮目が変わったのは、最初に牙一族のキャンプ地に乗り込んだ場面。思いもかけずケンシロウと共闘することになったレイだったが、二人のコンビネーションは、つい先日出会ったばかりとは思えぬほどに呼吸が合っていた。特に二人が背中合わせで闘う場面は、まさに興奮のワンシーンだった。まだお互いに信頼し合う程の仲ではない。しかし互いに背中を任せるられる程に、その実力には信頼を置いている。この絶妙な関係がたまらなかった。まさに、ケンシロウにとって唯一無二の「相棒」が誕生した瞬間だ。そしてこれ以降、結局ケンシロウは誰とも背中合わせで戦う事は無かった。どんな頼れる仲間が現われても、ケンシロウが背中を預けられるのは、「相棒」であるレイを置いてほかに居なかったのだ。


 その後、牙一族のアジトにて、レイは己が捜し求めた妹・アイリとの再会を果たす。人質とされた妹の姿を見た途端、それまで不敵な笑みがトレードマークであったレイが、キャラ崩壊と言わんがばかりに狼狽し始めた。その様は、冷酷さの中に隠されていた彼の人間味を大々的に晒すことになり、逆に彼の人気をより高めることとなった。
 尚、この時の慌てっぷりから、レイには極度のシスコンというイメージがつきまとうことになる。確かにそうなのだが、後にアイリが独り立ちした際、それを受けてレイも脱・妹を宣言していることを考えると、まずアイリのブラコンが先にあり、そんな兄依存の妹だったからこそレイは「自分が守らねば」という強い使命感に駆られていたのだと考えられる。単に妹が好きすぎてデレデレしていただけの兄ちゃんではないということだけは解って欲しい。


 その後は暫く出番がなかったが、アミバの前で強烈なネタバレをかましながら再登場し、再びケンシロウと行動を共にすることに。しかし、ふられ気分で教会の鐘を鳴らしたり、カサンドラで「その他」扱いされたり、ライガフウガに苦戦するなど、あまり良い役回りが与えられない展開が続いた。おそらく想像以上にレイの人気が高まってしまったため、一旦その熱を沈静化させたかったのではないかと思う。脇役の人気が高まりすぎて、相対的に主人公の人気が下がるという現象はままある。そういったリスクを回避するための名采配だったと言えるだろう。

 そしてカサンドラでトキを救出したことで、主人公サイドの戦力は更に潤沢となった。矢でも鉄砲でも拳王でもなんでも来い状態だ。しかし勢いがつき過ぎると、大概ロクな事が起こらないのが漫画というもの。原作第62話、突如として登場した「死兆星」という設定は、トキ、マミヤ、そしてレイまでもが死ぬ運命にあるという事実を読者に突きつけた。まさに絶望の極地。これが武論尊のやり方か―――!と理不尽な怒りをぶつけたくなるほどの衝撃的な展開であった。


 しかし死が確定したことで枷が外れたのか、ここからラストに向けてレイの魅力は加速度的に上昇していく。たった一人で拳王軍に反抗し続けたリンの血をぬぐい、怒りに身を震わせながらレイは叫ぶ。



「てめえらの血はなに色だ―――っ!!」

感情に身を任せて発した言葉にしては少々捻りの利きすぎた名言だとは思うが、そんなこたあ関係ない。拳王軍をナマス切りにして欲しいという読者の願い。そして死兆星というフラグ。期待を不安を同時に背負ってしまったレイは、もう何をやっても格好良いフィーバー状態へと突入した。だが拳王の登場により、お祭りは一気に収束。高まる読者の不安はすぐに現実化し、指一本で高々と掲げられたレイは、拳王という男の強さを表現する前衛芸術と化したのだった。




 ちなみに「北斗の拳で一番好きな場面は?」と聞かれれば私はここを挙げます。


 拳王が去ってからのおよそ10話は、レイを中心として物語が描かれた。北斗の拳の中でも、これほど長くケンシロウの存在が希薄になったことはない。わずか10話とはいえ、ケンシロウから主人公の座を完全に奪ったのは、この時のレイだけであった。残り3日の命となってしまったことが、逆にレイの終活をたっぷり描くための理由付けとなったのだ。秘孔 新血愁は、拳王の恐怖ではなく、レイという男の凄絶な死に様を世に轟かせてしまったのである。


 あと三日の命とされたレイは、死に方を模索する中で、南斗紅鶴拳のユダの名を耳にする。己にとっても因縁のある相手であり、かつマミヤの生き方を縛る存在でもあったその男は、まさにレイの最後を飾るに格好の相手だった。少し都合が良すぎる気もするが、ユダにとってもレイに哀れな死を与える事が本懐だったわけで、放っておいてもユダの方から近寄ってきていた可能性は高い。ユダがレイから逃げ回っていたのは、単に好きな子に告白する勇気が出なかったのと同じであり、どう言い繕おうが最終的には「来ちゃった…」するつもりだったのだ。

 刻々とタイムアップが迫るレイは、遂に心霊台という裏技を用いての延命を決意する。この秘孔に耐え切った後、それまで定期的に襲ってきていた苦痛がなくなった事を考えると、おそらく心霊台とはその後に訪れる予定だった苦痛を全て前倒しで承るという秘孔だったのだろう。その圧縮凝縮濃縮された地獄のような痛みは、レイの髪を一瞬にして白髪に変えた。原作の黒→白はともかく、アニメはレイの髪を初期設定で水色にしてしまっていたので、結果的にすごく解りにくい変化になってしまった。原作の展開を見てスタッフは頭を抱えたことだろう。



 ちなみに短時間での白髪化現象は、マリー・アントワネットが処刑される前日、そのあまりの恐怖によって一夜にして白髪になったという伝説から広まったと言われている。日本に限れば、漫画「ベルサイユのばら」で、やはりマリー・アントワネットが捕えられた際の恐怖と心労で白髪化したエピソードの方が有名だろう。
 知名度だけで言えば、「あしたのジョー」でジョーとの対戦を終えたホセ・メンドーサが一気に白髪化した場面が一番だろうか。現実にも短期間で白髪化した現象は確認されているのだが、結局のところ恐怖や痛みとの因果関係は科学的には証明されていないらしい。


 ユダとの最後の戦いへ臨んだレイの拳は、以前のそれよりも切れ味を増し、ユダを圧倒した。誰かのために生きる星「義星」の男であるレイは、残りの命をマミヤに捧げると決めたことで、自己最高の強さを発揮したのである。
 足元を流砂化されたことで一転して危機を迎えたものの、最終的には飛翔白麗の美しさで再びユダを魅了し、闘いはレイの勝利で幕を閉じた。そして訪れた別れの時。マミヤに女として生きる事を願い、ケンシロウの拳に時代を託し、男は独り小屋へと入って最期の時を迎えた。TVアニメ版では、小屋に入ってから死ぬまでの回想で丸々1話を使うという盛大な弔いとなった。

 北斗の拳において強敵と呼ばれる存在、または一定以上の強さを持つ拳士は、秘孔を突かれての爆死、斬撃による切断などを受けず、ほぼ「原型」を留めたままで死を迎える。そんな中で唯一、描写できぬほどの無惨な最期を遂げたのが、このレイだった。北斗の拳の中で最も美しいとされた男が、その真逆である見るに耐えない姿へと変わり果てたのだ。だがそれは、レイが凄絶なる生涯の歩んだことの証。一度は人の心を捨て、悪魔に魂を売った男は、友との出会いによって人間へと戻ることができた。そして最後は、本来死んでいたはずの時間をずらしてまで、愛する女のために戦うことを許された。彼に与えられた凄惨な死に様は、悔い無き最期を迎えるために運命すらも捻じ曲げた、その奇跡の対価だったのかもしれない。



●レイの強さ、南斗水鳥拳の強さ

 南斗の拳士の中では断トツで出番が多かった故か、なんとなくレイは南斗六聖拳の中において「標準的な強さ」というイメージがある。(※個人の感想です)。南斗聖拳のスパッと切るイメージの基点になったという所や、強い描写もあれば弱い描写もあり、なかなか強さの判断がし難いキャラクターだったというのが大きな理由だ。

 彼の伝承する南斗水鳥拳は、野盗さんによると「動きは水面に浮かぶ水鳥のように優雅華麗だが、その拳の威力は比類なき残虐非道の必殺拳」といった感じらしい。「比類なき威力」「残虐非道」というのはまだ解るとして「動きは水面に浮かぶ水鳥のように優雅華麗」というのはどういう意味なのだろう。それ動いてるのか?たゆたってるだけではないのか?動いているとしたら水面下でバタつかせている足だが、どう考えても優雅華麗ではないような・・・。

 しかしその「優雅華麗」というイメージは、結局最後まで崩れることなく、最終的にはその美しさを武器にユダを倒していた。技を繰り出す姿が美しいということは、それだけレイの動きに無駄がないという事。つまりは南斗水鳥拳の極地に達しているということだ。拳を極めるたびに美しさも増す・・・それが南斗水鳥拳の持つ特性であり、美しさ鑑定士ユダ様のお墨付きをいただけたことが、レイの強さの証明と言えるのである。

 そんなユダの話によると、南斗水鳥拳の奥義は華麗な足の動きにあるという。実際、流砂によって下半身の動きを封じられたレイは、ほぼ無力と化していた。確かにレイの闘い方を見ると、高速の突進や高い跳躍といった脚力を活かした動きが多い。おそらくそのスピードを生かして側面や背後などの死角に回り込んだり、無防備な頭上とったりする事で優位な状況を作り出すという戦闘スタイルを得意とするのだろう。更にはその体移動のスピードを拳に乗せることで、斬撃の威力を高めるという効果もあるのかもしれない。

 作中では言及されていないが、私は「手首から上の使い方」も水鳥拳の強みの一つだと考える。他の南斗聖拳は、肘から上を剣のように見立てて振るうが、レイの場合は肘から上をしならせて切る"撫で斬り"の様な攻撃がしばしば見られる。つまりレイは肩や肘に加えて手首や指の関節をも連動させることで、「指先」での驚異的な切断力を生み出しているのだ。指先での切断はユダも行っているが、彼の場合は手首や指間接は固定されたまま。つまり通常の南斗聖拳の切っ先を細くしただけであり、レイのように"しなり"で切る技術とは根本的に違うのだ。

 時には肩や肘を用いず、手首から上の動きだけで切断する左図のような場面も見受けられる。この小さな動きであれだけの威力を生み出せるということは、レイには大きなモーションが必要ないということ。つまり連続で拳を繰り出してもその一撃一撃が必殺の威力を持っているという意味だ。更に広げた手の指先で切断できるのだから、手刀よりも攻撃範囲は広くなる。そこに華麗な脚の動きまで加わればもう手が付けられない。広角度から繰り出される高速のラッシュ攻撃は、殆ど回避することは不可能だろう。手も足も止むことなく動かし続けるその戦闘スタイルは、まるで水面に浮かぶ水鳥・・・その水面下の脚が如くだ。あれ?やっぱあの人の言ってた事正しいのかもしれない。



 次に相対的な部分からレイの強さを考えてみよう。判断材料となりうるバトルは、水入りしたケンシロウ戦、惨敗した拳王様戦、最後のユダ戦の3つだ。だがそのいずれもストレートなバトル内容ではなかったため、どうにも判断が難しい。

 まずケンシロウ戦だが、これは中々高評価していい内容だった。一見すると無抵抗のケンシロウ相手に攻めきれていないのでもどかしく感じるが、よく見れば最初の攻めが終わった段階で既にケンシロウにかなりの傷を負わせている。両頬に傷、そして頭部からもかなりの出血が見られ、更に足下もふらついていた。見た目以上に大きなダメージを与えていたと考えられるだろう。
 何より凄いのは、状況的に"ケンシロウに攻撃が当るはずが無い"のにこれだけ傷を負わせているところだ。まずケンシロウはレイの拳を何度も間近で目撃しているのだから、既にその拳は見切っていた筈。心情面においても、攻める事に躊躇があったレイに対し、ケンシロウが回避行動をとることに躊躇う理由は無いので、あれが全力の回避だった事は間違いない。またケンは躱す事だけに意識を集中していたのだから、普通に戦うよりも遥かに回避に特化した状態だった筈。こういった理由が揃っているにもかかわらず、あれだけケンシロウに攻撃を掠らせることが出来たということは、それだけレイの拳がキレていたということだろう。上で述べたような、回避が難しいという南斗水鳥拳の特性も影響しているのかもしれない。

 続いて拳王様戦。この戦いは、結果だけで言うなら「馬上の相手に指一本で敗北」というこれ以上ないほどの完敗であった。だがこの結果をそのまま両者の力量に反映するのは実に愚かな事だ。レイは、例え相討ちとなってでもラオウを「倒す」つもりでいた。だが相手は遥か格上。まともにやったとて勝機は無い。故にレイは「まとも」な戦いを捨てた。防御することを完全に放棄し、一撃に全てを込めるというギャンブルに出たのだ。100か0しかあり得ない有り金全部を注ぎ込んでの一点勝負で、残念ながら0の目が出てしまった。ただそれだけの事。善戦する気などハナから無かったのである。

 TVアニメ版では、ラオウ様がレイの断己相殺拳を脳内シミュレートするという描写があり、まともに奥義を受ければ相打ちになるという結果が弾き出されていた。レイのギャンブルにはちゃんと勝ちの目も存在していたのだ。状況さえ嵌ればラオウ様を倒しうる程の力を、彼は有していたのである。


 最後に、彼が一番輝いたユダ戦。流砂に足を取られてからは可也苦戦を強いられていたが、平地での戦いではほとんどユダを圧倒していた。ユダの強さ自体が不鮮明ではあるが、仮にも南斗六聖拳の一人なのだから弱かろうはずは無い。十分に誇って良い結果と言えるだろう。
 しかしユダによると、この時のレイの拳は以前より技がキレていたらしい。おそらくは心霊台による激痛を耐え抜いた事がレイに何らかの変化を及ぼし、彼の拳を高めたのだろう。ならばこの時のレイを基準に強さを判断することは出来ない。何故彼は白髪化して強くなったのか。その理由を探る必要がある。

 「レイ外伝 蒼黒の餓狼」の中に、このような記述がある。「義星をもつレイの拳は、己のためでなく誰かのために生きたとき、誰よりも切れ味を増す」。ユダとの闘いに臨んだレイは、残り少ない己の命をかけて、ただマミヤ一人のために拳を振るった。まさに言い伝え通りの状況で、言い伝え通りの強さを発揮していたことになる。十分信憑性に足る考え方と言えるだろう。色々物議を醸すレイ外伝だが、時折こういうのを挟んでくるから侮れない。


 そしてもう一つ、レイの拳を高めたと思われしものがある。それはレイの悪癖ともいえる「焦り」が消えたことだ。

 思えばレイはしょっちゅう焦っていた。牙大王の華山鋼鎧呼法、ライガ・フウガの二神風雷拳、ウイグルの泰山流双条鞭&千条鞭、そしてガロンの火闘術。仮にも南斗聖拳を極めた男が、これらの二流技を見て冷や汗を流しているのだ。例え小さくとも、恐怖や焦りは身体を強張らせ、本来の力を出せなくしてしまう。南斗水鳥拳を極めたレイであったが、その臆しやすい精神面がネックとなり、彼は常に本来の力を出せずにいたのではないだろうか。
 しかし死を目前に控え、そして心霊台の激痛を耐え抜いたことで、レイは悟りの境地に達した。そしてマミヤという己の命を投げうって惜しくない存在を得たことで、レイは何物にも動じない鋼の精神を手に入れ、焦り癖を克服したのである。マミヤが死兆星を見たという事実を知らされても全く動揺しなかった事がその証明と言えるだろう。つまりあの白髪モードのレイこそが、彼本来の強さ我々が永きに渡って見届けてきたレイは、常に焦りという名の鎖に縛られた姿であり、最後の最後になってようやくその呪縛から解き放たれたことで、ようやく彼は我々の前に真の姿を晒してくれたのである。