TOP

マミヤ



登場:原作(26〜245話)TVアニメ版(23〜115話)
   ラオウ外伝、セガサターン版、AC北斗の拳等
肩書:村のリーダー
戦法:ヨーヨー 娥媚刺
CV:藤田淑子(TVアニメ版、PS版、AC版)
   進藤尚美(真北斗無双)
   川庄美雪(北斗が如く)
   生天目仁美(リバイブ)


 のリーダーとして戦う美しき女戦士。刃の飛び出るヨーヨーや、娥媚刺などを用いて戦う。ユリアと瓜二つの容姿をしている。

 20歳の誕生日にユダ一味の襲撃を受け、両親は死亡。連れ攫われ、背中に「ユダの女」の証であるUDの焼印を押された。数日後、ボロボロの姿となって村へと帰還。その日から女を捨て、人を愛する事を放棄する生き方を選んだ。

 村を狙う牙一族と抗争を繰り広げていたとき、用心棒として雇われたケンシロウレイと対面。弟コウを殺されるという哀しみを背負いながらも戦い続け、用心棒2人の手によって牙一族は壊滅。村に平穏を取り戻した。

 その後、ケンシロウの義兄トキカサンドラに囚われている事を掴み、ケンシロウ、レイと合流して現地へ。しかしその間に拳王侵攻隊が村へと侵攻。拳王との戦いでケンシロウ達が動けなくなったため、今戦えるのは自分しかいないと拳王にボウガンを放った。結果、二指真空把で矢を跳ね返されたものの、秘孔縛を破ったケンシロウが盾になってくれたおかげで九死に一生を得た。

 死期の迫るレイのため、メディスンシティーへ赴くが、ガルフに捕らえられ処刑台へ。駆けつけたケン達の手によって救出されたものの、かつて己がユダの女として地獄を見た者であることを知られ、自分にはレイの愛に報いる資格はないと愛を拒んだ。だがその後、レイの命を賭けた闘いにより、頭上に煌いていた死兆星が消失。女として生きろと言う最期の言葉を胸に、レイの死を涙で見送った。


 数年後、アスカを預けに村を訪れたケンシロウと再会。金色将軍ファルコの手によって長老が殺されたことを告げ、帝都の勢力が拡大していることを伝えた。


 そのまた数年後には、ユリアの墓参りに訪れたケンと再会し、バットリンの記憶を消した事を報告。だがケンが問題への介入を避けたため、女の心が解らないと詰った。
 その後、ボルゲがケンを狙っている事を知り、身代わりにならんとするバットに協力。拷問にかけられるバットをせめて安らかに送らんと、自らの手で止めを刺そうとした。だがその後、記憶の蘇ったケンシロウによって救われ、三者の結末を見届けた。


 TVアニメ版では、牙一族戦やカサンドラでも積極的に戦闘に参加。元斗の軍が村に攻めて来た際には、レイの墓の下に封印してあった武器を再び手に取ろうとしたが、寸前でケンシロウが駆けつけたため、未遂に終わった。


 『ラオウ外伝 天の覇王』では、ユダに調教された女の一人として登場。同じく牢獄に捕らえられていたレイナに、自らが刺客として着るはずだった衣服を渡し、脱獄の手引きをした。


 『ジュウザ外伝 彷徨の雲』では、村に訪れたジュウザを野盗と勘違いし、ヨーヨーで捕縛。その後、アイリの口添えによって誤解だと知り、解放した。ケンシロウの事を「愛する者を守れなかった」と卑下するジュウザの言葉に、レイを守れなかった自らの罪と重ねてしまい、ジュウザの頬を叩いた。





 北斗の拳が誇るザ・イイ女。当時で言うならマブいスケ。山下達郎センスなら高気圧ガール。80年代のイケイケガールやスケバンといった文化の、男性受けする部分のみを凝縮したかのようなエロかっこいいお姉さん。それがマミヤという女だ。ちなみにエロかっこいいは2006年だ。


 彼女の魅力を挙げるなら、まず第一に美しさ。初登場時から美人ではあるが、個人的にはメディスンシティーの頃の影のある感じが一番ヤバい。もちろん作中でも超美人という設定であり、美の求道者であるユダから「心から美しい」と認められた女なのだから、それはもう凄いのだろう。こんな美女をずっと独り身のまま縛り付けているレイも罪な男である。




 加えてスタイルも抜群。場面によってはもはや頭身がバグってしまっている。高橋陽一先生の見解を伺いたい。


 そしてカッコよさ。女でありながら強いリーダーシップとカリスマ性で村人たちを引っ張る姿は、まさに働く女性たちの理想像であろう。カサンドラ編でのライダー姿も実にクールだった。戦士なのにヒール高いロングブーツなのも意味が解らんくて好き。




 更には強さ。北斗の拳唯一の「女戦士」として戦闘で躍動する姿は実に美しい。猛犬へのヨーヨー絞殺や、ガルフの部下への後ろ蹴りは、まさに女性拳士ならではのスタイリッシュな動きだった。オリジナリティある武器センスも素敵だ。


 当時の流行に乗ったかのような男勝りで勝気な性格も、我々世代には実に刺さるポイントだ。これは好き嫌いが分かれる所だろうが、少なくともフィクションにおいてはこういうタイプの女性の方が人気上位になりやすい。男は心の中にMを飼っているものだ。


 しかしただ勝気なだけではなく、初登場時にリンに「花は好き?」と聞いてくるような優しい側面も持ち合わせており、大概の男はそのギャップにやられて終了する。デレたスケバンほど可愛いものはない。




 そして忘れてはいけないのがエロさだ。別に本人がエロいわけではないのだが、あの1ページまるまる使ってのおっぱいポロリは、ジャンプ史に刻まれる衝撃シーンであることは間違いない。当時の多くの読者に二次性徴を齎したとかなんとか。私はリアルタイム世代では無いので被害は無かったが、直撃していたら危なかっただろう。

 あのシーンの何が凄いって、彼女、その回の冒頭部分で凄くカッコいい演説してるんですよね。高々と腕を突き上げて、村人達もウオーって湧き立って。そんな女傑っぷりを見せつけた直後に裸に剥かれるんですよ。そら興奮もしますよ。武論尊先生による謀略ですよこれは。ああ恐ろしい。おっぱい怖い。



 彼女がここまでイイ女に描かれたのには理由がある。北斗の拳の連載前にも原哲夫先生は何本か作品を描かれているが、それらに登場する女性キャラって、良くも悪くも「普通の娘」ばかりなんですよね。出番も少なめだし。

 で、北斗の拳の連載が始まり、主人公の恋人としてユリアが登場するも、早々に退場。だが続くマミヤには準レギュラー級の出番を与えられた。つまり彼女は、原先生が初めてガッツリ描くことになった女性キャラなのだ。

 だからビジュアルにも設定にも力が入っており、そこに武論尊先生の好みがぶち込まれたことで、両先生の癖の塊のようなキャラクターが誕生したというわけだ。そりゃあ人気も出るし、おっぱいも出ますよ。




●何の因果かマッポの手先


 そんな彼女のモデルは、『スケバン刑事』の主人公である麻宮サキである。ヨーヨーを武器に戦うという唯一無二の共通点、そして苗字の「麻宮(あさみや)」が「まみや」とも読める点から考えても間違いないだろう。





 『スケバン刑事』というと一般的にはTVドラマが有名だが、斉藤由貴主演の第一期の放送年は1985年。これはマミヤの登場よりも後なので、順番が逆のように思えるが……






 スケバン刑事には原作漫画が存在し、連載期間は1975年〜1982年。つまりマミヤの元ネタは、こちらの漫画版『スケバン刑事』であると考えられる。

 なのでドラマ版の主役である斉藤由貴、南野陽子、浅香唯らは無関係な訳だが、マミヤの雰囲気で言えばどちらかというと実写版のほうに近い気もするんですよね。ナンノとか若干マミヤの方に寄せてたりしないかな……





●壊れていた女





 マミヤが20歳の誕生日を迎えた日、村はユダの襲撃を受け、マミヤの両親は死亡。連れ攫われたマミヤは、数日後、ボロボロの姿で村へと戻ってきた。その後、彼女は「女」を捨てることを決意。強気な性格と行動力で、村人たちを牽引するリーダーとなった。


 だがレイは、そんなマミヤの生き方を否定し、「女」として生きるよう説き続けた。それは、彼女に女としての幸せを掴んで欲しかったからだ。だが問題はそれだけではない。この生き方を続ければ、確実に彼女は死んでしまう。そう判断したからこそ、レイは命を懸けて彼女を止めようとしたのだ。






 マミヤの言う「女を捨てる」という言葉の意味は、序盤では曖昧だったものの、終盤になるとそれが「戦い続ける」ことだと明らかになる。しかもそれは、モットーや指針といった生半可なものではない。何度も命の危機を迎え、死を目前にしたレイからの説得でも、彼女は頑なにその生き方を捨てようとはしなかった。もはや呪縛に等しいほどの決意である。


 彼女は何故戦い続けるのか。もう二度とユダの時のような目に遭いたくないとか、リーダーとして強くなりたいといったような、自身を鍛えることが目的ならば納得もできる。だがそういったポジティブな理由だけでは説明のつかない事がある。それは、彼女が無謀な戦いを繰り返していることだ。どう考えても勝ち目のないような戦いにも平然と飛び込んでしまうのである。もはやそれは、死を恐れていないというレベルではない。破滅願望と言っても差し支えないだろう。


 マミヤは「女」を捨てることで、幸せを放棄した。つまり彼女には失うものが無いわけで、生へ執着心がないのも判らないでもない。だからといって、自ら死にに行くかのような行動にはやはり違和感がある。何が彼女をそうさせているのだろうか。





 もしかすると「ユダの性癖」が関係しているのかもしれない。完璧な美しか認めないユダは、侍女に傷があるのを見つけると、その女を無慈悲にパージしていた。逆に言えば、傷さえあればユダの下を去れるという事。かつてマミヤはそれを利用し、自ら傷を負うことでユダから解放されるという手段をとったのではないだろうか。

 だがそれにより、彼女の中に「傷を負うことで救われる」という体験が刻まれることになった。もう二度とユダに攫われないためには、己が傷を負うことが最善の方法。そしてその傷が大きくあるほど効果は高まる。そのためにはより強い相手と戦わねばならない。そんな潜在意識が働くことで、彼女は無謀な戦いへと身を投じる人間になってしまったとも考えられる。


 本人は、信念に従って戦っているつもりだったのだろう。だがその実は、潜在する破滅願望に突き動かされていただけ。気が付いた時にはもう死が目の前に迫っている。そんな状態にあったのだ。彼女は既に壊れてしまっていたのである。

 そんな彼女が如何にして「己」を取り戻し、そして「女」を取り戻していくのか。その軌跡を辿りながら読むことで、この作品の新たな魅力に気付くことができるだろう。




●女をとりもどせ!


マミヤがいかに壊れていたのか。
そしてどうやって「女」を取り戻したのか。
彼女の行動を追いながら確かめてみよう。



 レイが最初にマミヤの異常に気付いたのは、コウが牙一族に殺された時だと思われる。冷徹なマミヤの対応を最初は褒めていたレイだったが、コウがマミヤの弟である事を知った瞬間、その表情は一変した。弟(妹)を失う辛さを一番判っていたのがレイだったからだ。その辛さを全く顔に出さなかったマミヤに、レイは尋常ならざる覚悟を感じた。だが己を殺し続ければ、いずれ彼女は壊れてしまう。マミヤの抱える危うさにも気付いたレイは、彼女に「女」を取り戻させることを決意する。




 そんなレイにとって、コウの葬儀は見るに堪えないものだった。コウの形見を掲げ、力強い演説で鼓舞するマミヤに、心震わされる村人たち。これにより、マミヤは更にリーダーとしての評価を上げたわけだが、同時にそれは彼女が更に「女」から遠ざかった事を意味していた。マミヤを担ぎ上げるということは、彼女をより危険な立場に追い込むという事。それを理解せず、無責任に歓声を上げる民衆たちに、レイは苛立っていたのだ。故にレイは、その直後にマミヤを裸に剥き、「女」であることを判らせようとしたのである。その際、レイの表情に怒が篭っていたのは、そういう事だったのだ。





 そしてレイの懸念は現実のものとなる。アイリを人質にとる牙大王に対し、マミヤは自分が代わりになると提案。牙大王に近付き、娥媚刺による不意打ちを仕掛けるも、あっさりと失敗に終わるのだった。

 ハッキリ言ってこんな作戦、どう考えても成功するわけがない。そもそも牙大王に勝てるわけがないし、奇跡的に倒せたとしても、牙息子達の報復に遭って嬲り殺しがオチだ。マミヤは「首領さえ倒せばなんとかなる」と考えていたようだが、その「なんとかなる」の中に自分の命は入っていなかったのだろう。

 本来ならこんな提案はレイが真っ先に却下すべきところだが、残念ながらこの時の彼はアイリの登場で絶賛パニック中。逆に推奨してしまう有様であった。だがこの時の「あの女が妹を救うことができたら俺の一生をあの女にくれてやってもいい!」という台詞が、後にちゃんと履行されているのはエモい。




 その後、人質となったマミヤは、ケンとレイの同士討ちを防ぐために自死を選ぼうとするが、これも微妙な判断だ。仮にマミヤが死んだとて、アイリが人質である以上、状況は変わらないからだ。むしろそれを受けてアイリも死を選んでしまうような事になれば最悪だ。こういった判断力を欠いた行動の裏には、やはり彼女の死への衝動が関係しているように思えてならない。



 だがそんなマミヤに変化が起こり始めた。牙一族の壊滅を機に訪れた平安。そして仄かなケンシロウへの恋心が、マミヤにドレスを纏わせたのだ。一時的とはいえ、マミヤが「女」を取り戻した事は、彼女にとって大きな進歩であった。ここから彼女の物語は大きく動き出す。






 とはいえまだまだはっちゃけマミヤさん。ケンシロウの為、トキの情報を集めんとするマミヤは、バイクを駆って各地を奔走。その結果、カサンドラの処刑部隊に見つかり、取り囲まれてしまう。果敢に立ち向かったものの、隊長ザコルの前にあっさりと敗北。あと少しケン達の登場が遅ければ、やはり殺されていただろう。

 ここで気になるのはマミヤの弱さだ。牙大王より10枚以上は格下であろう相手に惨敗というのは頂けない。その程度の実力で戦い続けていること自体が、彼女の無鉄砲ぶりを証明している。

 また、ケンシロウにトキの情報を伝えた後「さあもう用は済んだわ。殺しなさい」とか言っちゃうのも良くない。ブラフだったのかもしれないが、自分の命を軽んじているからこそ、そんな言葉が口を突くのだろう。もっと自分を大事にして欲しい。






 続いて彼女はシーカーとの戦いでも完敗を喫した。先の相手は「カサンドラ処刑部隊」という武闘派っぽい奴等だったので負けたのも仕方ないが、このシーカーは「偵察隊」。そんな奴に手も足も出ないというのは流石に情けない。

 ……いや、ちょっと待って欲しい。以前の彼女は、牙一族程度の相手なら2人同時に倒せるほどの強さを持っていた。それが今はどうだ。あの頃の強さは何処に行ってしまったのか。もしかすると彼女、弱くなっていないか?

 以前の彼女には、失うものが無いが故の捨て身の強さがあった。だが恋を知ったことで、彼女は「女」を取り戻し始めた。生きる理由が生まれたのだ。それはまさしくレイが望んだ事ではあったが、同時にそれは彼女から「捨て身の強さ」を奪ってしまったのである。






 その弱体化は、マミヤの「戦士としての勘」をも鈍らせた。とある民家にて、マミヤが対面したのは、2メートルを超える老婆であった。だが彼女はその怪しさ満点の生物に対して全く違和感を抱かなかったのだ。初登場時の頃の、バチバチに尖りまくっていた彼女なら、絶対に危険を察知できていたはず。初見でヨーヨーを投げていてもおかしくない。それがこんなヌルい奴に成り下がったのは、彼女がどんどん「女」を取り戻りつつあることの証。決して悪い傾向では無いのだ。




 だがその後、彼女に最大の危機が訪れる。トキを追い詰めたラオウに対し、ボウガンを構えるマミヤ。北斗神拳には二指真空把がある。放った矢がそのまま自分に返ってくる――――。そうレイから告げられたマミヤだったが、今戦えるのは自分しかいないと、彼女は頑としてボウガンを降ろさなかった。





違うねん


「戦えるのは自分だけ」やないねん


「戦うな」言うてんねん!!



 結果的には、マミヤが撃ったことでケンシロウの覚醒に繋がった。しかしそれは結果論に過ぎない。本来なら完全な無駄死にだ。二指真空把の説明もされているのだから、もはや言い逃れは出来ない。間違いなく彼女は自ら死ににいっている。


 この頃のマミヤは、初期の頃の勝気な性格は影を潜め、代わりにアンニュイな表情が多くなった。そういった点から見ても、かなり「女」を取り戻しつつあるように見受けられる。しかしいくら「女」を取り戻そうとも、戦う事を止めさせなければ意味が無い。残り3日と迫った命で、なんとかその解決の糸口を掴もうとするレイであったが、その心配をよそに、当のマミヤは単身メディスンシティーへと赴き、当然のように捕まってしまう。全然懲りてない。凄い。



 その後、マミヤの肩にUDの紋章がある事が判明。彼女の過去に何があったのか。彼女に戦う事を宿命づけたのは誰なのかが明らかとなった。レイは、その男・ユダを、己の最後の相手として指名する。





 そしてレイの命が潰えるその日、マミヤの前にユダが姿を現した。両親を殺し、己の人生を狂わせた憎き宿敵……。だがそんな因縁の男を前にして、マミヤは一歩も動くことが出来ず、その表情は恐怖に慄いていた。


 過去に受けた仕打ちを考えれば、それは仕方のない事だろう。だがそのトラウマを払拭するために、彼女は戦い続けてきたのではないのか。命を惜しまず戦ってきたのに、今ここでユダに怯えてどうするのだ。全ては無駄だったとでも言うのか。

そう、無駄だったのである。


 傷を負った自分には幸せになる資格はない。そう思い、戦いに明け暮れたマミヤだったが、結局それは何の解決にもならなかった。大切なのは、過去を乗り越えて幸せになる事。そんな単純な事も判らなくなっていたのだ。






 闘いは、レイの勝利で幕を閉じた。

 「女として生きろ」

 レイが最期に告げたのも、やはりその言葉であった。

 だが、レイは気付いていなかった。マミヤが既に「女」を取り戻していた事に。自分のために残り僅かな命を賭けて闘ってくれた男を、マミヤは心から愛してしまったのだ。

 その想いに気付くことなく、レイは天へと帰っていった。だがそれで良かったのだろう。死に行く男を愛しても幸せになることはできない。多分レイならそう言ったのではないだろうか。


 その死に様に応えるかのように、マミヤの死兆星は消失した。誰かのために生きる星、義星。その星の強き輝きが、死を司る星を打ち消したのである。激動のヒューマンドラマのラストにそんな奇跡をも起こして、マミヤの物語は幕を閉じたのだった。



 こうやって改めて振り返ると、マミヤというキャラクターの完成度の高さを思い知らされる。キャラとして魅力があるのは勿論だが、彼女を巡る物語の変遷と、ラストの決着の仕方は、完璧としか言いようがない。アニメ版でいうところの第二部(牙一族〜ユダ)において、彼女は間違いなく主人公の一人と呼べるほどの存在であった。この作品において、最も「成功」したキャラクターの一人と断言できる。





……とまあ、ひとまずここでマミヤの物語は一区切りしたわけだが、一応その後も出番はあるので、ついでにそこも見届けよう。




 まずは帝都編。数年ぶりにケンシロウが再会したマミヤは、もう完全に「女」へと戻っていた。戦士としての面影はどこにもない。TVアニメ版では帝都と戦うために武器を手に取ろうとしてケンシロウにちょっと怒られるというシーンがあるが、割と好きだったりする。武器をレイの墓に封印しているのもエモい。

  ケンシロウはアスカを預けるために村を訪れたわけだが、これもマミヤが「女」を取り戻したからなのだろう。ヨーヨーとか娥媚刺を振り回してる女に託児は任せにくいよね。

 そしてもう一つ、マミヤが「女」になった事がハッキリと判るシーンがある。それはファルコが長老を殺した事だ。ファルコは、バットが北斗の軍のリーダーを名乗っても、真のリーダーがリンである事を見抜いていた。そんな彼が、長老を「村の長」として処刑したということは、今のマミヤがもうリーダーではない「一人の女」と判断したということだろう。



 そして最終章では、あくまで顔見せ程度だった帝都編とは異なり、マミヤの出番はかなり多かった。始まりの3人であるケンシロウ、バット、リンの最後の物語。そこに4人目のキャストとして加われる者など、彼女を置いて他に無いだろう。それが、マミヤというキャラクターに対する作者の評価ということだ。

 この話の中で、マミヤは再び武器を手にすることとなった。だがそれはレイとの約束を破ったのではない。ここでバットを見殺しにすれば、「女」である以前に、もはや「人間」ですら無くなってしまう。かつての無謀な戦いではなく、盟友であるバットのため、彼女は死を賭して戦ったのだ。かつて己が愛した男の、義の星の如く。その覚悟に対し、レイが異を唱えることなどあろうはずがない。

 まあ死兆星すら乗り越えた女が、ボルゲ如きで死ぬとは思えないけどね。多分140歳くらいまで生きると思うよ彼女。





●何故死兆星は消えたのか





 見た者にはその年の内に死が訪れると言われる星、死兆星。それはマミヤの頭上にも輝いていたが、レイが凄絶な死を遂げた直後、突如として消失した。彼女は作中で唯一、死兆星の宿命から逃れた人物なのだ。


 何故マミヤの死兆星は消失したのか。少なくとも数時間前、ユダが村に攻め込んできた時には、マミヤには死兆星が見えていた。それがあのタイミングで消失したという事は、その間に起こった出来事に原因があるはずだ。




 最有力は、レイがユダを倒したことであろう。ユダがマミヤの死兆星の鍵であることは、ケンシロウも、そしてユダ自身も語っている。キーマンであるユダが死んだことで運命が変わり、マミヤは死の運命から逃れられた。そういう事なのだろうか。

 しかし作中での死兆星への信頼度は相当高い。パチスロ風に言うなら「確定演出」と言って差し支えないレベルだ。そんな絶対的な予兆が「特定の人物を倒す」などというイージーなお題をクリアしただけで白紙にできるとは思えない。絶対に避けられない運命だからこそ、皆あそこまで深刻に思いつめていたのだ。


 そんな「確定」した未来を覆すためにはどうすればいいのか。神が定めし運命を変えることなど、最早人間には不可能な行為に思える。




 だがこの時、既に人間では無い者がいた。レイである。新血愁を突かれ、残り3日の命となったレイは、あの時すでに死の淵にいた。あと数分で彼は全身から血を噴き出して死んでいたのだ。だが彼は、心霊台という方法でその運命を捻じ曲げた。地獄の苦しみを乗り越え、白髪となったレイは、本来あの時間軸には存在していなかったはずの人間。神をも欺く「イレギュラーな存在」だったのである。ユダはそんなレイを「死人同然」と嘲笑ったが、実は完璧に的を射た表現だったのだ。


  そしてユダは、その「存在しないはずの人間」と戦うことになった。つまりこの闘いは、起こるはずのない「バグイベント」だったのだ。そして結果は、ユダの敗北。これにより、運命は変わった。死ぬ運命になかったはずのユダが、死んでしまったのである。


 これを受け、運命は修正を計ろうとする。ユダが死んだことで、命の総数に齟齬が生じた。その帳尻を合わせるには、「死ぬ運命にある者」を生かすより他に無い。それに選ばれたのがマミヤだった。彼女の死兆星のキーマンであったユダが死んだ以上、マミヤの運命が変わる事は必然だったのだ。こうしてマミヤは、絶対的な死兆星の呪縛から逃れることができたのである。