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北斗有情断迅拳
ほくとうじょうだんじんけん



流派: 北斗神拳
使用: ・トキ(対 聖帝軍)
 …北斗の拳(92話) TVアニメ版(65話)

登場: 北斗の拳/アニメ版/北斗の拳3/北斗の拳4/
北斗の拳5/激打2/審判の双蒼星/ONLINE/
北斗無双/真北斗無双/リバイブ/モバイル真・北斗無双


 トキが使用した北斗神拳の奥義。襲いくる多数の敵の間を駆け抜けながら、敵全員の秘孔を突く技。有情拳の効果により、相手は天国を感じながら爆死する。

 聖帝十字陵に向かう際、立ちはだかってきた聖帝の部隊に対して使用。確認できるだけで7人の兵士を同時に爆死させ、敵軍を慄かせた。同時に、病が進んでも寸分の衰えを見せない拳を見せた事で、ラオウにとってトキが恐ろしき存在である事を再認識させた。

 スマホアプリ『モバイル真・北斗無双』では、ケンシロウが水影心で使う技の一つとして登場している。




 この技の特徴は「有情拳」「一度に多数の敵を葬る」の2点である。


 まず「有情拳」に関してだが、ここでこの技を出したのは、おそらく読者に有情拳の復習をしてもらうためであったと思われる。この後、ケンシロウがサウザーを北斗有情猛翔破で倒すわけだが、有情拳がどのような技なのか、ちゃんと把握していなければ、ケンシロウの情けが伝わらない。最初に有情拳が使われてから1年が経過し、その設定が希薄になってきていた事を危惧した先生方は、ここで改めて有情断迅拳を使わせることで、その効果を読者に思い出してもらおうと、そう考えたのではないかと思う。


 もう一つの「一度に多数の敵を葬る技」である点だが、実はこれ、思っている以上にレアだったりする。北斗神拳には、敵をガンガン蹴散らすド派手な技も多数あると思っている人もいるかもしれないが、それは間違いだ。原作北斗の拳において、最も多くの敵を倒した技がこの有情断迅拳の7人。次いで虚無指弾の3人。北斗有情破顔拳の2人。それ以外の技は全て1人に対して使用されているのだ。




 誤った印象が広がったのは、主にTVアニメ版の影響であろう。有情断迅拳よりも遥かに殺害数の多い翻車爆裂拳北斗百方斬といった奥義がバンバン登場していたし、それ以外にも毎回のように集団を相手に大立ち回りが繰り広げられていた。当時のキッズ達が勘違いするのも当然と言える。
 近年では北斗無双の影響も大きい。ゲーム内容は勿論のことだが「北斗の拳は無双化される漫画」と認識させるだけで充分な効果があっただろう。



 以上のように、多対一を想定した技というものは(原作において)ほとんど登場しないわけだが、だからといって種類が少ないとは限らない。単に作中で使っていないだけかもしれないし、他の奥義も使い方によっては多数の敵を葬れる可能性はある。だが私は、本当に少ないという説を推したい。いや、減少したというべきであろう。




 『蒼天の拳』にて、ヤサカ拳志郎に対しこう言っている。「西斗月拳は戦場の拳法。一対一の死合いに不向きなだけだ!」。これは逆に言えば、北斗神拳は一対一の闘いを得意とする拳法という意味にとれる(拳法は本来そういうものだが)。


 北斗神拳にとって西斗月拳は源流の拳。ならば同様に、多対一を想定した戦闘法も取り入れられているはず。また、もうひとつの源流である北斗宗家の拳も、当時の戦乱の時代を考えると、大人数を相手にした戦闘法は必須であったと考えられる。しかしその2つが融合して生まれた北斗神拳は、その後の1800年の間に、むしろ一対一の闘いの方に重きを置いて進化したのだと考えられる。

 理由は幾つかある。まず北斗神拳が「暗殺拳」であること。その宿命は、時代の英雄を守護する事にある。主の命を狙う者、平和の妨げとなる者の排除が主な用途であり、進んで戦場に出る事がなくなった。故に多対一で戦う機会が減少したのである。

 文明の進化と共に秩序が形成された事も理由の一つ。これにより、大人数が命を奪い合う戦そのものが減少。806年以降、北斗神拳は日本に在ったので、江戸時代は特に顕著に減少したことになる。この時期に北斗神拳も大きな変革を迎えたのではないか。

 また、北斗神拳が基本的に「陰」の拳である事も忘れてはならない。もし多数の敵との闘いで奥義を使用した場合、倒しきれずに逃亡した敵によって北斗神拳の脅威が広められる恐れがある。これは、門外不出の暗殺拳である北斗神拳にとっては好ましくは無い事。求められるのは、静かに確実に敵を全滅させるスキルであり、派手で目立つ奥義など「陰」の北斗神拳には必要ないのである。あくまで核で世界が崩壊する前までの話ではあるが…。



 そういった時代の変化に合わせ、北斗神拳も徐々に変化していった。それまでにあった対多人数用の技を減らし、代わりに強敵との一対一の戦いを想定した技を組み込んでいったのだ。
 だがそんなリストラの嵐が吹き荒れる中で、しぶとく現代まで生き残った奥義の一つが北斗有情断迅拳なのだろう。もしかしたらこの技は、北斗神拳の中でも最古の奥義なのかもしれない。

 
 しかし、199X年を境に世界は崩壊。秩序が失われたことで、悪党たちは徒党を組んで暴れ始めた。再び多対一の奥義が必要とされる時代がやってきたのだ。
 世紀末とはニーズの異なる進化を遂げてしまった北斗神拳。故にケンシロウは、苦戦を強いられること……にはならなかった。もともと集団で挑んでくる敵などザコばかり。多対一専用の奥義など無くとも苦戦するはずがないのだ。むしろケンの場合は、歴代のどの伝承者よりも強敵と拳を交える機会が多かったはず。北斗神拳の進化の方向性は、決して間違っていなかったわけだ。





●原作以外の有情断迅拳


 原作以外の作品にも結構登場する有情断迅拳だが、作品毎になかなかバラエティに富んだ表現がされていて面白い。


 まずはTVアニメ版。原作でも多数の敵を葬っている有情断迅拳が、対多数奥義のメッカであるアニメに舞台を移すと、とんでもないことになっている。



 まず北斗天帰掌の構えで士気を高め、軽く4人を撃退。その後に原作の駆け抜けをやった後、追加で5人を葬り、更に北斗指流点で2人をふっとばす。そこから遥か上空に飛び上がり、眼下に広がる敵の群れめがけて高速ダイブしながら、超広範囲の天翔百裂拳で一掃して〆。

全奥義の中でも最長尺ではないかと思われる約1分強もの時間を使っての大暴れっぷりを堪能することができる。

君、本当に病人か?







 『北斗無双』シリーズでは、手刀で闘気の刃を連続して飛ばす技となっている。旋回からの手刀打ちを連続で繰り出した後、最後に両手を水平に切り開く。

 七星点心とかが駆け抜け系の奥義になっているのに、何故本来駆け抜け系の奥義である有情断迅拳がこんなダンスみたいな技になっているのだろう…。原作唯一の対多奥義なのに、逆にこちらでは大した人数を攻撃できないのも不満だ。ただ「有情」の効果が表現されているのは高ポイントではある(とは言っても頭が風船みたいに膨らんでプカプカするだけだが)。






 『北斗の拳 審判の双蒼星 拳豪列伝』では、原作を上回る高速ダッシュの後、遅れて敵に連続ダメージが入るというカッコイイ仕様になっている。早すぎて途中から横棒になっちゃってる。

 アニメ版同様、最初に天帰掌をするのだが、そこからダッシュ終了時までは完全無敵となっている。






 スマホアプリ『北斗の拳 LEGENDS ReVIVE』では、若き頃の黒髪トキの奥義として使用できるのだが……





 繰り出す技が何故か「技の切れ、流れ、速さ、心技体 どれをとっても非のうちどころなく、あのジャギでさえも認めていた……」の時のポーズになっているという謎仕様になってるんですよね。







 『激打2』では一枚絵だけだが、その一枚がもう明らかに断迅していない、全く別の技になっている。ただ、天将奔烈と言いながらチョップかますような当ゲームにおいては、この程度はマシな方である。



 RPGである『北斗の拳4-七星覇拳伝 北斗神拳の彼方へ-』では、次代の北斗神拳伝承者が使用することができ、このゲーム独自の「有情」の表現方法である「取得経験値が倍になる」の効果を得ることができる。中々面白い発想です。