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北斗断骨筋
ほくとだんこつきん



流派: 北斗神拳
使用: ・ケンシロウ(対 スコルピオ)
 …北斗の拳(原作20話)
・ケンシロウ(対 アイパッチ)
 …PC-88版
登場: 北斗の拳/PC-88版/北斗が如く


 北斗神拳の奥義のひとつ。敵のパンチを躱しつつ、打ち出された腕に素早く秘孔を突く。喰らった相手は、手首から肩にかけて順に骨が砕けていき、最終的に顔面をへこませて死亡する。

 ケンシロウが、ジャッカルの部下のスコルピオ(元プロボクサーの男)に対して使用。「あべし!!」と断末魔を残した。










 文字通り、骨や筋肉がどんどん断たれていく奥義なのだろう。カウンターのような形で使用したのは偶々なのかもしれないが、秘孔の位置(肘周辺に複数個)を考えると、必然的に敵のパンチを躱しざまに突くのがナチュラルな使用法になるのではないか。北斗神拳の真髄の一つ「打ち出される拳にこそ隙がある」を実践した奥義のひとつということだ。
 OVA「新・北斗の拳」では、ケンシロウがセイジの攻撃を防御・回避しながら、細かく秘孔を突いて拳の鋭さを奪っていくという戦闘法を用いていた。その時に用いられていたのも、この断骨筋のような秘孔の突き方だったのではないかと思われる。



●断骨筋はマイルド奥義なのか?


 そんな柔の奥義であるが故か、断骨筋は北斗神拳奥義の中ではかなり地味な方だと言える。ここまでに登場した奥義は、全て相手の肉体を破裂させてきたのに、この断骨筋は音こそエグかれ、一切血は流れていない。全て体内で完結しているのだ。




 これに近い描写として挙げられるのが、ジャギが己の部下を殺した場面である。ジャギの素顔を見てしまい、ぶっ飛ばされた小太り野郎は、頭部の上半分がズレるという地味目の死に方をした。ケンに後頭部を吹っ飛ばされた同僚の死に様とは対照的だ。
 ジャギが未熟な拳士である事を考慮すると、この「破裂しない」という効果は、経絡秘孔としては失敗……本来の威力とは程遠い結果という見方もできる。つまり断骨筋は、北斗神拳の中で最弱に分類される奥義、ということなのだろうか。


 いや、単純にそうとも言い切れない。あの場面、傍にはトヨの村の子供たちがいた。年端もいかぬ子供たちにとって、脳髄や臓器が飛び散る死に様は、あまりにショッキング。これはレーティング違反であると判断し、ケンシロウが意図的に威力を弱めたとも考えられる。実際、ウォリアーズの偵察隊が村に押し掛けた際も、ケンは北斗虚無指弾によって無傷で撃退しているし、なんなら「水を飲んだら帰れ」というケンシロウにしては甘すぎる対応を見せている。これらも全ては現場の年齢層に配慮したが故の選択だったのではないだろうか。
 ん?リンバット?いや彼らはもう…慣れてるから…スレてるから…。


 つまりだ。もしあの場が子供不在のCERO Dな場面であったならば、断骨筋の威力は跳ね上がっていた可能性もあるということだ。まるでダルマ落としの如く、手首から先がポーン!前腕ポーン!肘ポーン!上腕ポーン!肩ポーン!と吹っ飛び、最後に顔面グンニャ〜〜ボーンという、「あべし」では済まされない程の凄惨な奥義。それが断骨筋の真の姿なのかもしれない。







●コンビ格差により消えた奥義


 「ひでぶ」と並ぶレジェンド断末魔「あべし」。北斗断骨筋は、それを生み出した偉大過ぎる北斗神拳奥義……なのだが、どうにも知名度が低い。それもそのはず、この北斗断骨筋は、ケンシロウが使った北斗神拳奥義の中で唯一TVアニメ版に登場していないのである。


 断骨筋が登場するシーン……つまりジャッカル達がトヨの村を襲撃する話は、TVアニメの11話。この回はタキとケンシロウ達の出会いから、トヨが死ぬまでという、原作の4話分を一気に消費する忙しない回である。故に断骨筋の場面がカットされたのも仕方ないのかもしれない。ただ、アニメのKING編はかなりアニオリ回が多く、露骨な引き延ばしがされていたのだから、もうちょっと配分を考えてくれていれば、断骨筋がこんな憂き目に遭うことも無かったのでは……と思わざるを得ない。


 おそらく脚本家の方も、「あべし」がこれほどメジャーな存在になるとは想像できなかったのだろう。実際、TVアニメ版の北斗の拳では「ひでぶ」は山ほど登場するが、「あべし」は一度もちゃんと口にされていない。12話で、同じくジャッカルの部下の男が「なーべーしー!」と惜しいやつを叫んでいるくらいだ。



 「あべし」が注目されるようになったのは、ファミコンの初代「北斗の拳」が発端だと思われる。ピンク雑魚を倒すとあべしの文字が浮遊するというシュールさが、その三文字を一気に有名にしたのだ。だがその頃、既にアニメは南斗最後の将編に突入。「あべし」を、そして北斗断骨筋にオファーをかけるには遅すぎたというわけだ。


 その後、「あべし」の方は、SFC「北斗の拳5 天魔流星伝 哀★絶章」でザコが必ず叫ぶ断末魔として起用されるなど、スターダムへとのし上がっていった。だがそれは「あべしと断骨筋はセットじゃなくても良い」と世間に認知される要因ともなった。そして独り歩きし始めた「あべし」を尻目に、相方であるはずの北斗断骨筋は完全に世間から忘れ去られていくのである。




 ゲーム界においても、断骨筋の出番は全くなかった。北斗ゲーの始祖である『北斗の拳 バイオレンス劇画アドベンチャー(PC-8801他)』でKING軍のアイパッチに使用したのを最後に、実に32年間、断骨筋は存在を抹消されていたのである。
彼、何かしました?不祥事起こしましたか…?





 そして2018年。悲運の奥義は、PS4ソフト『北斗が如く』に拾われ、ようやく陽の目を浴びることとなった。それは、アニメを欠席した断骨筋が、初めてモーション付きで再現された瞬間でもあった。更には敵のパンチに合わせて発動するカウンター奥義という、原作ままの設定で搭載してくれたセガの心意気に、不遇の歴史を知る者たちは涙を禁じ得なかったとか。

 だが唯一注文を付けさせてもらうなら「あべし」とセットの奥義という事に拘ってほしかった。その共演を見たかった者も少なからずいるはずだ。…いや、今断骨筋はようやく表舞台に復帰したばかり。大スターである「あべし」との共演を勝ち取るのは、今後の彼の活躍次第なのかもしれない。可也のコンビ格差はついてしまったが、いつか断骨筋がブレイクを果たし、華やかな舞台で共演を果たすその日を、我々はいつまでも待ち望んでいるのだ。嘘だが。