2018年3月8日に発売された、プレイステーション4専用ゲームソフト。開発はセガ。同社が手がける人気シリーズ「龍が如く」と、漫画「北斗の拳」のコラボレーション作品。北斗の拳35周年記念企画の一つとして製作された。キャッチコピーは「「北斗」の常識を、ぶち壊す」。 シンを倒したケンシロウが、原作とは違うストーリーを歩み始めるIFの物語となっている。「龍が如く」シリーズと同様、巨大歓楽街でのバトルやアドベンチャーが主要コンテンツとなっており、本作ではケンシロウが旅の末に辿り着く「奇跡の街 エデン」がその舞台となっている。レイ、サウザー、ラオウといったキャラクター達も登場し、原作とは違う形でケンシロウと出会い、戦うことになる。 キャラクターの声は、これまでの龍が如くシリーズに携わった声優陣が努め、ケンシロウの声も「龍が如く」シリーズの主人公・桐生一馬の声を担当する黒田崇矢氏が担当している。 ゲームパッケージには原哲夫先生の描き下ろしイラストが使用されているほか、主要な新キャラクター達のデザインにも原先生のチェックが入れられている。 [個人的感想] 北斗だけでなく「龍が如く」シリーズのファンでもある私からするとまさに夢のようなコラボであったこのゲーム。発表されたときは本当に心躍る気持ちだった。実際にプレイしてみても、やはり「龍が如く」という実績十分のゲームが下地にあるのだから当然の如く面白かったし、歴代北斗ゲーの中でも最高峰に位置づけていい内容だったと思う。ただ、二大コンテンツを融合させた事による相乗効果はあまり感じられなかった。期待が大きすぎたという部分もあるのかもしれないが。 ミックスが良い方向に出た所としては、バトル面が挙げられる。もともと龍が如くのバトルは「少し人間の限界を超えた殴り合い」なので、レベル的に北斗に近い事もあり、ノウハウも完璧だったのだろう。バトル中に入るムービー演出や北斗神拳奥義の繰り出し方はほぼ文句のつけようの無い出来だった。システム面においては「ジャスト秘孔」の存在が素晴らしかった。これまでのゲームには無かった「経絡秘孔による一撃必殺」を見事に表現できていたと言えるだろう。 逆にあまり良い方に働かなかったのがストーリー面。龍が如くの主人公・桐生一馬。北斗の拳のケンシロウ。両者は普段はクールだが、ここぞという時には怒りや哀しみといった熱き感情を剥き出しにするという共通点がある。にも関わらず、今作のケンシロウにはその「熱さ」が無かった。原因は、主要キャラが死なないという展開にあると考えられる。「ケンシロウが決着をつけるのはあくまで原作で、本作の中では明確な決着は描かない」というのが製作陣の意向だという。その趣旨は理解できる。ただ、同時にそれが「北斗の拳」としての魅力を半減させてしまった点は否めない。相手を殺さないということは、言い換えれば殺すほどの理由が生まれないということ。故に原作程にケンシロウが感情を爆発させるシーンが無く、ほぼ終始に渡って淡白なストーリーとなってしまっているのだ。これでは話が盛り上がろうはずがない。 安易にラオウ・カイオウ級の敵を登場させられない代わりに、原作第一話の一コマ目に登場した「核の炎」を最大の問題として扱ったのは、面白い発想だったと思う。「エデン」や「スフィア・シティ」の設定も含め、そういった話の核心部分に関しては良く出来ていた。だが、それらを元に上手く話を構成できていたかと言われると疑問だ。サウザーの侵攻目的の薄さ、ナダイがユリアを殺そうとする理由の曖昧さ等、後半になるにつれ展開に粗さが見えた。また、プレイアブルキャラクターがケンシロウだけだとか、原作キャラの出番が少ない等、北斗の拳要素のボリュームの無さも残念だった。 原因は、単純に時間不足だろう。開発スタッフへのインタビューによると、発売まで1年しかない状況で脚本を全て書き直したという。更には「龍が如く極2」との同時製作であったことで、とにかく時間が無かったらしい。加えて、製作チームが既存の作品を元にしたゲームを作る事自体が初めての事であり、にも関わらず、スタッフの中に北斗の拳に詳しい者が殆どいなかったという。そのウィークポイントが特に現れているのが、サイドミッション。全80話に及ぶサイドミッションは、一通りのデータが揃ってからスタッフが総出でアイデアを出し、一気に作り上げたらしい。だがその殆どが、ケンシロウが出ているという以外の「北斗の拳」要素がゼロに等しかった。エピソードの中には、子供を浚うといった内容のものも幾つかあった。その実行犯を聖帝軍にするだけで原作と結びつけられるのに、それをしなかったのだ。それはつまり、アイデアを出した者達の北斗知識の欠如が原因であると考えざるをえない。 もし次回作があるのなら、原作要素の増加はもちろん、原作に引けを取らぬ程に感情を揺さぶられるケンシロウの姿を我々に見せて欲しい。あと、完全に放置された「南斗聖拳の究極奥義」の回収も忘れずに。 |