牙大王
登場:原作(30〜37話)TVアニメ版(24〜29話)、劇場版等
肩書:牙一族の首領
流派:華山角抵戯
CV:渡部 猛(TVアニメ版・PS版)
福原耕平(北斗無双・真北斗無双)
坂本頼光(DD北斗の拳)
酒井敬幸(リバイブ) |
牙一族の首領。野獣が如き
息子達を統率し、近隣の村を襲撃させている。
華山角抵戯によって鍛えた抜かれた肉体を武器とする。
マミヤの村を手に入れるために息子達を差し向けるが、用心棒である
ケンシロウと
レイの前に部隊は壊滅。身内を殺された恨みを晴らすため、用心棒達の肉親を捜索し、奴隷として捕らわれていた
アイリを強奪した。
アジトへと乗り込んできたケンシロウ達の前に現れ、アイリ、更にはそれを助けようとした
マミヤまでをも人質に。妹を助けたくばケンシロウを殺せとレイを脅迫し、二人を戦わせて相打ちさせることに成功。だがその死が偽装であることに気付かず、人質を奪還された。その後、
華山鋼鎧呼法による鋼鉄の肉体でケンシロウに挑むも、
秘孔大胸筋によって筋肉をブヨブヨの脂肪に変えられて敗北。息子達をけしかけたり、隠し持っていた手投げ弾などで足掻くも、最後は
岩山両斬波にて頭部を叩き割られて死亡した。
TVアニメ版では、人質を取り返された後、あらかじめ地に仕掛けておいた爆薬で地割れを誘発。辺りを溶岩地帯に変え、ケンシロウ、レイ、女性陣の3つに戦力を分断させるという作戦をとった。岩山両斬波を喰らった後は、その溶岩の中に転落して死亡している。
『劇場版 北斗の拳』では、アジトに侵攻してきた
拳王軍と全面対決。息子達が劣勢の中、自らの華山鋼鎧呼法にて流れを変えるも、
ラオウの
闘気に吹っ飛ばされ、岩山にめり込みながら爆死した。
KINGを倒した後、ケンシロウの敵として登場したのは、
軍人、卑怯者、巨人といった個性を持つ者達。それに続いたのが、この
牙大王が率いし集団・牙一族。彼等の武器は
「野生」であった。
漫画においてこの「野生」を持つキャラクターは、
強キャラとして描かれることが多い。プロゴルファー猿やターちゃん、上杉鉄平、国宝憲一といった主人公キャラは勿論、「あしたのジョー」のハリマオや「刃牙」のピクルなどのライバルキャラも、その野生みで主人公を苦しめた。
こういった野生キャラは、主に
高い身体能力や動物的な勘を武器とし、一気に流れを掴んで圧倒するという戦い方が多い。逆に
頭脳戦に弱く、策を弄されてペースを乱されるのが負けパターンとなっている。
だが牙一族には、
そのセオリーは全く当てはまらなかった。確かに彼等は獣の身体能力を持ってはいたが、ケンシロウ達にとって全く脅威たりえなかったのだ。結果を見ればよく分かる。
なんとケンシロウは、牙一族との闘いで傷一つ負ってはいないのだ(ゴジバの挑発で剣をプスプスされただけ)。野生キャラとしてはあるまじき大惨敗である。
しかしその一方で、牙大王が事前に用意した「策」は、割とうまく嵌っていた。
野生キャラが苦手としがちな頭脳戦を、逆に彼は得意としていたわけだ。ある意味漫画界の定石を覆した存在と言えるだろう。ありがちな設定を嫌い、あえて外していった事で生まれた、武論尊先生のセンスが光るキャラクターである。
ただ惨敗とは言っても、
決して牙大王は弱い訳ではない。華山鋼鎧呼法による鋼鉄の肉体は脅威だし、華山角抵戯で鍛えたパワーも凄まじい。特に『劇場版 北斗の拳』で、拳王軍の強化兵士たちを撫でるだけで肉片に変えていく姿は相当な強者っぷりであった。流石にちょっと盛りすぎな感はあったが。
しかしそれだけ強いにもかかわらず、やはりケンシロウにひと傷も負わせられていないのは印象が悪い。なにより
戦いの展開そのものが良くない。最初に鉄骨をひん曲げてみせたのと、その後のケンの攻撃(大胸筋)を受けたのはいいとしても、
その後もう一度鉄骨を喰らってみせたのは意味がわからない。いやさっきやったじゃん。もう一回検証する意味ある?(あったけど)。
そんな感じで、ここの鉄骨のくだりは少々くどくてあまり好きではない。おもしろ科学実験ならともかく、戦闘描写としては明らかにテンポが悪い。なので個人的にケンシロウvs牙大王は、
作中屈指のクソバトルだと思っている。
尚、ここまで彼の通称を
「牙大王」で通してきたが、これは公式な呼び名ではない。というか媒体によって
「牙大王」「牙族長」「牙親父」とバラバラで、未だに統一される気配が無い。「牙大王」はアニメで使われた呼称であるため、私はそれで通しているが、公式的には「牙族長」を推していきたいようだ。シンプルに
「牙王」で良い気もするのだが、ライダーとかで先に浸透しちゃったからね…
彼のモデルは、映画
『プロジェクトA』に登場する海賊の頭領
ロー・サン。もう見た目からしてそのまんまだし、賊の頭という立場や、武器が剣であること、そして
頭を右に傾ける癖なんかも共通している。
彼は
数あるジャッキー映画の中でも最強のボスとの呼び声高く、ジャッキー、ユンピョウ、サモハンの三人を相手にしても互角以上に渡り合うバケモノでもある。三人から打撃を受けても殆ど効いたそぶりが無い程のタフガイであり、その辺りも華山鋼鎧呼法のモチーフになっているのだろう。
ちなみに最後は手投げ爆弾で吹っ飛ばされるのだが、これも牙大王が隠し持っていた爆弾で右手を失うシーンの参考にされていると思われる。
●一族の未来を掴むために
牙大王が立てた作戦は、
アイリを人質にしてケンシロウとレイを相打ちにさせるというものであった。確かに二人を戦わせるところまでは上手くいったが、
「双方互角だから戦えば勝者は無い」という根拠の乏しい情報を鵜呑みにしてしまったのはいかがなものだろう。北斗南斗の脅威は理解していたのだから、仮にどちらかが勝利した時点で相当ヤバい事になるのは判っていたはず。にも関わらず、言い伝えを信じて両者KOにオールインは流石にギャンブラーが過ぎる。
彼がそこまでして
ケンシロウとレイに戦いを挑んだ理由はなんだろう。単純に考えれば
息子達を殺された復讐なわけだが、最終的には息子たちを蔑ろにしていたし、本当はそこまで愛は深くないはずだ。まあ息子たちの手前、尻に帆掛けて逃げるわけにいかないってのは判るが。
牙大王自身が
なまじ実力者だったのもあるかもしれない。仮にケンシロウかレイのいずれかが勝ち残っても、無傷では済まない。ならば後は華山鋼鎧呼法で十分押し切れると考えても不思議では無いだろう。
だが私が思うに、牙大王の最大のモチベーションとなっていたのは、
マミヤの村の存在ではないかと思う。牙一族のアジトはゴツゴツの岩山。かたやマミヤの村は緑も豊かで自給自足できる土壌。更には湧水が豊富でダムまである。牙一族にとってはまさに
エデンに等しい場所なのだ。そう簡単に諦められるものではない。
特に彼等牙一族には、どうしても安住の地を手に入れねばならない理由があった。現状のままでは、
牙一族には消滅する未来しか無かったからだ。
牙一族には、他の組織にはない特徴がある。それは、
血を分けた家族のみで構成されているところだ。それ故、誰かが死んだ時は深く嘆き、哀しみ、怒る。葬儀までやっちゃう。これは他の軍閥や野盗団ではあり得ない事だ。
だが彼等にとってメンバーの死は、ただ哀しいだけではない。
組織の存亡に関わる事なのだ。なぜなら、
牙一族にはメンバーの補充が効かないから。血縁者のみで構成されている牙一族は、牙大王、もしくは牙息子が子供を作る以外に増員はできない。だが例え子供が生まれても、戦力として数えられるには最低15年はかかるだろう。その間にも各地で戦闘を繰り返せば、どんどん戦力は削られて行くばかり。かといっておとなしく過ごしても、大家族が生きて行けるだけの食料は確保できない。そう、彼等は既に詰んでいるのだ。
このままでは、牙一族はただ先細って消滅するのみ。それを回避するためには、略奪を行わずとも暮らしていける生活が必要だった。その大願成就こそが、マミヤの村の奪取だったのである。故に牙大王は、
例え北斗と南斗の男を同時に相手にする最高難度のミッションであろうとも、チャレンジするより他に無かったのだ。村を守るために戦ったマミヤと同じく、牙大王もまた一族存続のために命を賭したリーダーなのである。
●突然の「ジョーカー」の理由
第30話『おまえは女!』の中で、リンがマミヤに「誰か好きな人とか愛してる人いないの…」と質問し、自分はそんな感情を無くしたと答えるシーンがある。早い話がおっぱいポロリする直前の場面だ。
そのシーンの背景に、こんな描写がある。
部屋の奥で
ケンシロウと長老が机を挟んで向かい合っている。
しかしただ座っているのではなく、視線が互いの顔に向いているので、二人で何かを行っているように見える。そしてどうやら
手に何かを持っているようだ。
更に色を付けて分かりやすくしてみよう。
緑の部分が疑惑の物体。それを長老が目の前に持っていて、そこからケンシロウが一つ取ったように見える。
この体勢や動作から推測するに、もしや二人は
トランプに興じているのではないだろうか。更に言うと、相手の手札からドローしているので、ルール的に
ババ抜きである可能性が高い。
二人でババ抜きというのは変な気もするが、すぐ横に座っているバットが先に抜けた可能性もある。もしかしたらリンが一抜けして暇なのでマミヤに話しかけたのかもしれない。ケンシロウ弱…。
ご存じの通り、ババ抜きというのは
相手にジョーカーを引かせるゲームである。最終的にジョーカーを手にしていた者が敗者となるわけだ。
そしてこのシーンの直後、ケンシロウ、レイ、マミヤの三人は、牙一族のアジトへと出発。追い詰めた牙大王に向かい、ケンシロウが指を差してこう言い放った。
貴様は最初から
死神(ジョーカー)を
引いていた!!
そう、これは
ケンシロウが直前にババ抜きで遊んでいたからこそ飛び出した決め台詞だったのだ。
今は慣れてしまって何も思わないが、改めて考ると
突然こんな事言いだすのは不自然極まりない。「死神にとり憑かれていた!」とか「死神に選ばれていた!」とかならまだしも、
あえて死神をジョーカー呼びしてババ抜きに例えるって脈絡無さすぎでしょ。それこそトランプ関係の名前をつけてたKING編の時に言うべき台詞じゃないかと。
しかし直前のあの描写がババ抜きだったとするなら、この不自然なチョイスも全て繋がるんですねぇ。こんな難度の高い伏線を忍ばせるなんて、本当に恐ろしい先生方やでぇ……