芒狂雲/霊王
ぼうきょううん れいおう
登場:第25〜41話
肩書:霊王 北斗孫家家の使い手
流派:北斗孫家拳
CV:梁田清之(アニメ)
東地宏樹(ぱちんこ)
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「霊王」の異名を持つ
北斗孫家拳の使い手。百メートル先の囁き声まで聞き取るほどの聴力の持ち主。
シャルル・ド・ギーズとはかつての同門にあたる。
修行時代、始祖の拳である
北斗神拳を超えるため、阿片の力を借りて「
狂神魂」や「
秘孔変位」といった狂気の奥義を修得。その力をもって、制止しようとする
師父すらもその手にかけた。その代償に死の病に冒されるが、
謎の道士によって暫しの命を与えられ、北斗神拳伝承者との戦いの時を待ち続けた。
翁洪元からの依頼を受け、当時の
青幇のボスであった
魏教父を暗殺。その報酬として
潘玉玲を許婚に貰うが、玉玲が
拳志郎を愛し続けたため、自らの手で殺すことに。しかし彼女の深い慈愛を目にした事で殺すことが出来なくなり、その代わりに記憶を抹消して
馬賊にその身柄を預けた。だが表向きは己が玉玲を殺したことにし、己と拳志郎が闘うための理由として利用した。
拳志郎が上海へと戻ってきた後、
紅華会に召喚され、
呉東来の護衛に。
グランドシアターにて拳志郎との対決に臨み、双方とも腕の骨を折る痛み分けに終わった。その後、新聞記事を利用した拳志郎からの挑発を受け、
平安飯店にて再戦。秘孔変位で拳志郎を追い込むが、
秘孔奇穴の存在によってその奥義を無力化され、敗北した。
その後、
田学芳一味の銃撃を受け、拳志郎の助けを借りてビルの下の
蘇州河へと逃亡。北斗神拳伝承者との闘えた事で、この世に未練を残すことなく絶命した。
TVアニメ版では、狼に襲われていた馬賊の
郭を助け、記憶を失った玉玲の身柄を預けた。その際、たとえ殺しの報酬で得た女ではあっても、玉玲は己がただ一人愛した女である事を口にした。
また、拳志郎を狙って日本に渡らなかった理由として、秘孔変位を完全修得したことで己の限界を超えてしまい、身体が崩壊したからだという理由が加えられた。
北斗神拳に分派は無いという設定を、言い訳のしようが無いくらい真正面からぶっ壊して登場した北斗三家拳。その先陣を切ったのが、孫家拳の霊王こと芒狂雲だった。それだけでなく、金克栄やゴランでは到達できなかった「作品最初の強敵」というポジションも担った、作品の全体評価に影響しかねない程の重要なキャラクターであったと思う。
結果的には、彼はその重責を充分に果たしたと言える。だがその成功は当然と言えよう。何故なら彼は、過去に成功したキャラクターの集合体だからだ。始祖の拳を超え、孫家拳こそが最強であると証明する―――。その北斗神拳に対する対抗意識は、北斗の拳でいうところの南斗や琉拳に通じる。最愛の人を殺した殺してないのくだりもシンにそっくりだ。秘孔変位はサウザーの身体と似たものがあり、狂気を源とするのも北斗琉拳の魔道に近い。師殺しのエピソードはラオウ様だ。これだけ北斗の設定を良いとこ取りしたキャラクターが失敗するわけがない。
ともすれば「使いまわし」などと揶揄されかねない設定ではあるが、この相似は意図的なものであろう。北斗の拳とは違い、1930年代の国際情勢が大いに絡んでくる蒼天の拳には、少なからずとっつきにくさがあった。しかし芒狂雲というキャラクターを使って北斗の拳との相似性を印象付ける事で、「世界観は変わっても作品の色は変えてないよ!」と読者に伝え、往年のファンの安心を買いたかったのではないかと思われる。狂気を売りにしたキャラクターだというのにその公務員ばりの安定性は何よ、と思われるかもしれないが、最初の敵が太炎のようなチンコ野郎だったら「ん!?」ってなるでしょう?サザンクロスで待ってるのがユダだったらイヤでしょう?いいんですよ最初は。判りやすい奴で。
そんな、最初の敵として相応しい「割とベタ」な狂雲だが、もう一つ、最初の敵ならではの特徴がある。それは弱さだ。彼は弱い。バトル内容だけを見れば健闘してはいるが、その実はミスを積み重ねた弱者の人生であった。
その最たるものが、阿片に頼ってしまったメンタルの弱さだ。彼が阿片を使うことで秘孔変位を会得できたことは確かだ。しかしその使用理由は、自分自身の秘孔を突く事への恐怖に耐えられなかっただけ。彼に死を乗り越える心の強ささえあれば、阿片など必要なかったのだ。相手は始祖の拳・北斗神拳の伝承者。それは神の拳であり、所詮は人間の拳である三家拳とは最初から大きな開きがある。その歴然たる差を埋めなければ勝利はありえないというのに、シラフでは死線を越えられなかったから薬に頼りましたというのは覚悟が足りなさ過ぎる。臆した時点でもう始祖の拳への挑戦は諦めるべきだったのだ。
もう一つ、彼は阿片の力を借りることで、孫家拳の強さの源である「狂気」を高めたわけだが、そもそも彼には言うほどの狂気は無いように思える。玉玲の優しさに触れて殺すのを止めてしまうような情を持った男が、狂気の権化を謳ったところで説得力は無い。というか、彼は本当に阿片で狂気を高められていたのだろうか。阿片の効果は鎮痛や恍惚感が主であり、実際狂雲はそれで恐怖を和らげているのに、それと平行して狂気も高まるというのは変だ。まあ阿片を使っている時点で狂気ではあるが。
戦いの内容に関しても、実にお粗末と言わざるを得ない。秘孔変位は確かに強力な奥の手であり、実際狂雲はその奥義のおかげで拳志郎を相手に優位に立ったわけだが、ハッキリ言って「優位」では全然駄目だ。死を乗り越え、阿片で身体をボロボロにしてまで会得した究極奥義だというのに、結局それで得られたのは相手の左手の指3本のみ。全く持って割に合わない。
確かに秘孔突きを無効化されるのは北斗神拳にとって痛手だが、ケンシロウがヒョウ戦やった「秘孔が突けぬならその身体砕き割る」戦法のように、対処の使用はいくらでもある。秘孔変位を会得したといっても、ほぼ同じ土俵に立ったに過ぎないのだ。この奥義を最大限に活かせるのは、まさにこの奥義を見せたその一瞬。相手が秘孔を突いて勝利を確信し、油断を見せたその瞬間こそが、絶好の勝機となるのだ。実際、狂雲が師父を倒したときは、その油断を突いたような形での勝利だった。なのに何故拳志郎戦ではあのような使い方をしてしまったのか。虚を突くような勝利ではなく、実力で始祖の拳をねじ伏せたかったとでも言うのか。その傲慢さもまた、孫家拳が誇る「狂気」故なのか。だとするなら、それはもう孫家拳が歩んできた道そのものが間違っていたと言わざるを得ない。
だいたい狂気などに頼らずとも、孫家拳には操気術という卓越した技がある。離れた位置から拳志郎に膝をつかせた吸収技や、銃弾の軌道を変えるというギーズの使い方も実に強力だった。拳志郎に至っては、操気術の技術を応用して天破活殺まで修得してしまっている。皆様もご存知の通り、北斗神拳奥義の中でも反則級の強さを誇る奥義だ。しかし拳志郎に出来たのなら、本来の孫家拳の使い手である狂雲だって会得することはできた筈。そこに至れなかった原因は、やはり「狂気」の所為であると私は思う。そのような不埒な方法で闘気を高めるのではなく、ただ一筋に操気術を磨き続けていれば、孫家拳は更なる飛躍を遂げ、もっと始祖の拳に肉薄することが出来ていたのではないかと思えてならない。狂雲を弱者たらしめたのも、全ては孫家拳が進化する方向性を見誤った事が原因なのである。
ただ、狂雲の拳に対する想いだけは、蒼天の拳の中で誰よりも強かった事は間違いない。文明が発達し、北斗に属する者達もそれぞれ拳法家とは別の生業を持って生き始めている中で、狂雲だけは特定の組織に属したりする事無く、ただひたすらに拳の道を往っていた(一応紅華会に協力はしていたが、以前は青幇の翁の依頼を受けたりもしているのでフリーの用心棒といったような立場だったと思われる)。ヤサカのように祖先の復讐に突き動かされて等という理由もなく、ただ拳士として北斗神拳伝承者を超える事を望んだのだ。
時代の流れに取り残された不器用すぎる男。彼が生きるべきは、拳の強さだけがものを言う時代・・・・そう、北斗の拳の世界だったのかもしれない。