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田 学芳
でん がくほう



登場:蒼天の拳(第33〜43話)
肩書:紅華会新三番頭
CV:稲葉実(アニメ)
   島田敏(ぱちんこ)

 紅華会幹部の一人。黄西飛呉東来が死亡した後、紅華会の新三番頭に昇格した。かつてはそのハゲ頭から「水虎(カッパ)の田」と呼ばれていたが、純銀製のカツラを装着することで、その汚名を隠蔽。バレバレだが、何故か皆には気付かれていないと思い込んでいる。カツラは銃弾をも跳ね返すほどの強度を誇るが、自分の首で支えきれないほど重く、48度以上傾けると倒れてしまうため、事在る毎に事故に遭っている。それを解消するため、死んだ呉東来のギプスをつけて首への負担を減らそうとしたこともあった。かつて閻王にやられた事があるのか、両手が機械化されている。

 閻王と霊王が闘っているという情報を聞きつけ、部下と共に平安飯店へ出撃。扉越しに銃を連射するが、霊王の腹部に命中させるに留まった。その後、(既に皆気がついている)カツラの事を拳志郎にバラされそうになったため、手榴弾をばらまいて逃走した。

 後に自宅で風呂に入っていた時、マッサージ師を呼ぶが、代わりに閻王が登場。四股の骨を外されたまま風呂へと投げ込まれ、カツラの重さゆえに水面に顔を出せず、5時13分溺死。遺体からヅラだけ持ち去られた。

 TVアニメ版では、水槽につっこみそうになったところをジャン・カルネに支えられ、その抱き合った姿を部下に見られてアブナイ関係だと誤解された。その後、平安飯店への襲撃にもカルネを同行させ、フランス軍に護衛をさせたりした。


 『蒼天の拳リジェネシス(漫画)』および『蒼天の拳REGENESIS(アニメ)』には、双子の弟である田楽伝が登場。容姿はそっくりで、自らの遺品となった鋼鉄のヅラをかぶっている。ただしアニメのほうは兄同様に禿げているが、漫画の方では剛毛。




 初登場から死亡まで、おはようからおやすみまで、とにかくヅラいじりに終始した男。もし自分がハゲだったら哀しくなるくらいの執拗ないじり具合であった。原先生がいかにハゲ好きかがわかるというもの。おそらく自分を含めて作品に携わっている人の中にハゲがいないから気兼ねなくやれたのであろう。いたとしたらそれは鬼である。

 黄と呉が死んだ後に三番頭にまで昇格していることを考えると、あの中ではなかなか有能な人物ではあるようだ。私が思うに、彼が担当していたのは諜報ではないかと思う。青幇から紅華会に寝返った奴は多くいたが、青幇に身を置きつつ裏で紅華会に情報を流していたのは周ただ1人であった。その周と通じていたのが田であり、その功績を評価されての三番頭ではないかと思われる。田が、周に青幇を裏切らせる事ができたのは、ハゲという同じ哀しみを背負いし男だったからであることは間違いない。

 そんな頭部以外に語る事もない彼だが、やはりどうしても無視できない事がある。なぜ、どうして彼はあのヅラを被ったのか。いや被るのは百歩譲っていいとして、何故バレないと思ったのか。どう考えても無理がある。

 彼はあのヅラを精巧だと思い込んでいるので、初対面の人にバレていないと思うのは致し方ない。しかし兄弟や部下達は、「水虎(カッパ)の田」だった頃の彼を良く知っている訳で、いきなり髪がモッサリ増えたらどう考えてもおかしいし、おかしいと思われる事くらい分かるはずだ。どうして彼はあれでイケると思い込んでしまったのだろうか。

 実は私は、過去にこれと似た状況を体験したことがある。かつて私がとあるオンラインRPGをプレイしていた時、仲間内の1人が「今のキャラと名前が気に入らないから一からキャラを作り直して今の仲間達と最初から冒険したい」と言い出した。作り直すのは勝手にすれば良いが、その新しいキャラと今まで通りの関係で接すれば「最初から感」がないので、皆と初めて出会う所からやり直したいと言い出したのだ。こいつは何を言っているんだと思っていたが、どうやら本気のようなので「私達はNPCでなく人間なので記憶はリセットできないし、皆が初対面を装って接した所でそれはウソになるわけだから貴方が辛くなると思うよ」と言って諭したのだが、忠告も空しく、数日後に彼は全く別の名前と容姿となって、素知らぬ顔で話しかけてきたのだった。本人はバレていないと思っていたのようだが、アカウントが同じなので誰がどう見ても丸わかりだった。

 おそらく彼は、ネットの向こう側にいる人間の思考をシャットアウトしたのだろう。我々にどう思われようとも、チャットにそれが表示されない限りはそれは無いものだと考える事によって、新しい世界に飛び出す事に成功したのだ。一種の自己暗示のようなものだと考えられる。

 田学芳の精神状態も、彼とほぼ同じ・・・いや、それの更に上をいく状態だったと考えられる。昔の自分を捨ててしまいたいが、周りの人間は過去の自分を記憶している。どうすれば良いのか。悩んだ末に、彼はひとつの答えに至る。案外みんな過去の俺の事なんて覚えてないんじゃないだろうか。人間の記憶なんて曖昧なもの。どこの誰がハゲていたか等という生きて行く上で不必要な情報など、わざわざ記憶に留めておく必要性がない。今こうして「髪がある」自分が堂々としていれば、記憶の中にある過去の俺の頭にも髪が生えていた事になるはず。いや、そうに違いない―――。そのあまりにも都合のいいポジティブシンキングは、やがて彼の中から「願望」ではなく「事実」となった。田学芳は、仲間達がみんな自分のハゲを覚えていない世界に1人生きているパラノイア(妄想性障害)だったのである。

 あの純銀のヅラで誤摩化せると思い込めたのも、その症状によるものだろう。彼にとって、ヅラが本物の頭髪であるために一番大切な事は、本物の質感に近づける事ではなく、絶対にズレない事であった。ズレさえしなければ、その下の禿頭を見られる事は無い。ならばヅラの質感が多少(?)おかしかろうがヅラだと断定するには至らない。断定できない以上、それはもうヅラではない。皆も思ってくれるはずだと妄信しているのである。

 パラノイアになりやすいのは、過度のストレスとなる内因的事情を抱えた40歳以上の男性であるらしい。田はまさにこれに符合する。絶対にヅラであることをバレたくないという強い思いは、相当なプレッシャーだっただろう。そして黄と呉が死に、章と太炎がいない以上、事実上の紅華会のトップに立ったという重責と、それにより自分が最も閻王の標的になる可能性が高くなったという恐怖。これだけのストレスを抱えてしまったなら、そりゃ妄想の世界に逃避するのも仕方が無いというもの。恋人と我が子を失ったショックで記憶を失ったソフィーと、見栄のために髪を欲し続けたが故に現実から目を逸らした田。この哀しき二人に、一体何の違いがあろうか。