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泰山妖拳蛇咬帯
たいざんようけんじゃこうたい



流派: 泰山流
使用: ・ヒルカ (対 ケンシロウ)
 …北斗の拳(118話)アニメ版(95話)
・ヒルカ(対 フドウ家の見張り)
 …アニメ版(94話)
・ヒルカの部下(対 ケンシロウ)
 …アニメ版(95話)
登場: 北斗の拳/アニメ版/プレイステーション版


 拳王軍団ヒルカが使う、自称「拳王配下の最強拳」。袖から伸ばした長い帯を自在に操り、相手に巻きつけて動きを封じる。帯は決して外れることなく、相手の視界と呼吸を奪い、肉と骨を締め上げる。その後、動けなくなった相手に対し、全身に刃を生やした鎧で抱きつく死の抱擁で止めをさす。

 ケンシロウに対して使用し、帯を巻き付ける事には成功したが、あっさりと帯を千切られ、難なく脱出された。

 TVアニメ版では巻きつけた村人達南斗聖拳のように切り裂いたりもしている。更にヒルカだけでなく、部下たちまでもが蛇咬帯を使用している。







 帯の強度次第ではあるが、かなり強い拳法と言っていいだろう。ケンシロウがバシッと手で打ち払った瞬間、まるで獲物見つけたと言わんがばかりにその手を絡め取り、数秒後には顔を、そして上半身を捕縛することに成功している。とんでもない帯操作の精度だ。


 注目すべきは、ケンの裏拳でも帯を弾けなかった所だ。つまりあの帯は、布としての柔らかさを保っているということ。硬化させた武器なら弾いたり破壊したりできるが、ヒラヒラの布ならばそうはいかない。南斗聖拳のような切断術を有していない限り、殆どの相手はあの「柔らかさ」の前に苦戦を強いられるだろう。拳王配下の最強拳を自負するのも頷ける。実際、あの時点ではジャギ、アミバ、ウイグル、ユダ、リュウガといったメンバーが逝去しているのだから、繰り上がりでヒルカが拳王軍トップクラスの実力者であったとしてもおかしくはないのだ。


 しかしあの自由自在な帯操作は、どのようにして行われているのか。新体操のリボンを極めれば、あの域にまで達することができるのだろうか。いや流石に無理があるだろう。何かタネがあるはずだ。帯に細いワイヤーでも入っているとか、電気信号を送っているとか、それとも困った時の「闘気」で片付けてしまうか…。確かに、北斗孫家拳が得意とする操気術であればあの程度の操作は可能だろう。問題は、あんなド畜生にそんな高度な術をマスターする才能があるかどうかだが……もしかすると彼の一族が、そういう能力に特化した一族だったのかもしれない。ならばタンジやジロにも可能性があるということだ。頑張れタンジロ。泰山妖拳蛇咬帯の未来は君たちにかかっている。


 そしてこの拳法の根幹を支えていると言っていいのが、帯の強度である。ヒルカはケンに巻きつけた時点で勝利を確信し、「二度とはずれぬわ」とまで言い切っていたので、強度に関しては相当な自信があったことは間違いない。彼がペナントみたいなのを額につけているのは、帯へのリスペクトを表現しているのだろう。そう考えると、ヒルカは生地に関する分野にも精通していたと考えられる。呉服問屋の名家の生まれなのかもしれない。いや、強度で考えるならカーボンファイバーという可能性もあるので、理学系方面もありえる。なんにせよ、更なる帯の強度が拳の進化に繋がることは間違い無い。頑張れタンジロ。泰山妖拳蛇咬帯の未来は君たちにかかっている。


 しかし残念だったのは、ヒルカ自身が格闘術に長けていなかった事だ。蛇咬帯でグルグル巻きにした相手に対して選んだのが「死の抱擁」という点から見ても、彼の直接戦闘への自信の無さが見て取れる。
 まあ殆どの場合は帯を巻き付けた時点で勝ち確なので、肉体強化を疎かにするのは仕方ないだろう。だがもし彼に驚異的な身体能力があれば、もっと泰山妖拳蛇咬帯の可能性が広がったのではないだろうか。



 具体的な例として、ストリートファイターシリーズにローズというキャラクターを挙げたい。彼女は「ソウルパワー」という力を使い、長尺のマフラーを自在に操るという、泰山妖拳蛇咬帯とかなり近い戦闘スタイルを用いる。だがその使用法が、相手に巻きつけるのは勿論、直接攻撃に用いたり、防御したり、自身の腕に巻いて攻撃を強化したり、支えにして自身を宙に浮かせたりなど、実に多彩なのだ。

 もしこれと同じことがヒルカにも出来れば……いや、泰山妖拳蛇咬帯の有用性を考えれば出来ないはずがない。ヒルカ自身が動ける拳士でさえあれば、十分実現可能だったはずだ。その場合は、ケンシロウとの勝負の結末も変わっていただろう。ケンシロウが蛇咬帯を引きちぎるまで、少なくとも数秒は要していた。あの時もしヒルカが崖の上ではなく、近接戦闘を行える位置にいたならば、その数秒間の隙に致命傷を負わせられた可能性だってあるのだ。


 相手を巻き付けて締め上げる。それだけでも十分に泰山妖拳蛇咬帯は強い。だがその強さに胡坐をかき、更なる可能性を見なかった事が拳の成長を阻み、ヒルカの敗北に繋がってしまった。ケンシロウに「つまらぬ拳だ」と揶揄され、評価が地の底までに落ちた泰山妖拳蛇咬帯の復権のため、頑張れタンジロ。泰山妖拳蛇咬帯の未来は君たちにかかっている。





 尚、ゲーム作品においては中々お目にかかれない泰山妖拳蛇咬帯であるが、『北斗の拳 世紀末救世主伝説(プレイステーション)』においては絶大な存在感を放っている。なんせ強い。とにかく強い。ロングレンジの攻撃を連発してくるだけでも厄介なのに、それが多段ヒットするのだからたまったものではない。ボスよりも雑魚のほうが強いこのゲームにおいて、ウォリアーズのバイク隊、ユダの犬と並ぶ三大脅威としての地位を確立しているので、未プレイの方は是非体験してみて欲しい。