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破摩独指
はまどくし



流派: 北斗琉拳
使用: シャチ(対 カイゼル)
登場: 北斗の拳(170話)/TVアニメ(126話)/
パンチマニア/激打MAX/パチ系/リバイブ/
モバイル真・北斗無双



 北斗琉拳の技。相手の眼球に人差し指を突き入れ、指先にを込めて頭部を破裂させる。シャチカイゼルとの戦いで決着に使用した。頭部の右目周辺を破裂させ、致命の傷を負わせてはいるが、作中では死亡する場面までは描かれていない。

 TVアニメ版では右目ではなく、額に指を突き指す形になっている。それに合わせ、破裂個所も頭頂部周辺に変更。原作同様、死亡シーンは描かれていない。




 シャチが原作で使用した北斗琉拳の技は、これと喝把玩の二つのみ。それらの傾向を見ると、目の上辺りを凹ませるとか、目玉に指を入れるとか、なんかこう……北斗神拳とは毛色の違うエグさというか…不気味さが前面に出たような性質になってて、あんまりカッコよくないんですよね。シャチが今一つハネなかったのは、こういった技のビミョーさが影響したんじゃないだろうか。
 だいたいこんなもん子供が真似した日にはドエラい事になるからね。社会問題待ったなしよ。だから集英社側も強くシャチを推せなかった…とか?


 それが関係しているのか、ゲーム作品への登場率も相当低い。『パンチマニア2』で何故かケンシロウの相手として出てきたシャチが使用したのを最後に、長らく無視され続けることになった。


 悲惨だったのが『真・北斗無双』である。このゲームにはシャチの奥義が5つ搭載されているのだが、そこに破摩独指は選ばれていないのである。原作で2個しかない奥義の内の一個が落選してるんですよ。おかしいでしょ。部員2人のバスケ部が助っ人を4人集めたら部員の一人がスタメン落ちしたようなもんよ。可哀想でしょ!破摩ちゃんの気持ちも考えて!(※ただし通常技の中に破摩独指っぽい技があるとの情報を頂きました。情報提供:むらけぬ様)


 

 そんな不遇の時代を経て、2020年に『北斗の拳 LEGENDS ReVIVE』でしっかりとモーションが作られた時はうれしかったですね。事前に北斗七星を描く所とか、軌道変化の蹴りまで再現されてましたし。爆発時の「噴破!」のインパクトが強すぎてプレイヤーからはフンハーフンハー呼ばれて愛されておりました。




●破孔を突く技ではない?

 秘孔や破孔は、経絡に気を送り込むことで初めて効果が発現する。ならば指先に気を込めて頭部を破裂させる破摩独指も、当然その手法を用いていると考えるのが自然だ。だが果たして本当にそうだろうか。

 逆に私は、破摩独指は破孔を突く技ではないという説を推したい。




 上図の「噴破!」の場面を見て欲しい。確かにカイゼルの頭部は破裂しているが、どこか違和感を覚えないだろうか。

 まず注目すべきは、シャチの指先付近で破裂が起こっている点だ。明らかに指を中心とし、放射状に破裂が広がっている。このような爆発の仕方は他に見た事が無い。そもそも指を突っ込んだまま破裂させる事や、突いた秘孔の位置そのものが爆心地になるのも異例である。

 また秘孔や破孔は、破裂する前に肉体が膨らむ事が多いが、これにはそういった破孔ならではの予兆が見られない。いきなり爆発しているように見受けられる。ZEEDが第一話で言っていた「小型の時限爆弾」のようなもので吹き飛ばされている感じだ。

 そして、破孔にしては威力が弱すぎるのも気にかかる。確かに威力の弱い秘孔・破孔もある。だが今回は、狙いにくい眼球、更にその奥深くまで突いている。表皮を突くだけで充分な破孔に比べると、かなり難度が高い。にもかかわらず、威力が弱いというのは割に合わない。またシャチの「ぬうう!!」と掛け声を見ても、かなり気合を込めている様子が伺えるのに、それでこの程度というのも不自然だ。




 では破孔突きで無いとするなら、破摩独指はどういった技なのか。上記で挙げた性能から推察するに、おそらく指先に込めた闘気を体内で爆発させる技なのだと思う。「なんちゃって破孔」みたいな事だ。メリットとしては「破孔を突かなくても破裂させられる」。デメリットは、「破孔よりも威力が劣る」といった所だろう。威力が弱いのは、あまりに爆発が大きいと自分の手まで吹き飛ばしてしまうからだと思われる。

 使いどころは沢山ある。拳士の中には秘孔・破孔が通用しにくい相手(サウザー、芒狂雲等)もいるし、経絡が通っていない義手や義足に対しても有効だ。対人戦に限らず、岩などの無機物を破壊するときにも役立つだろう。万が一ゾンビやロボットを相手にするときなんかは大活躍間違いなしだ。北斗琉拳は、対人戦だけでなく、人外との闘いも視野に入れて進化を遂げてきたわけだ。そんなんだからいつまでも北斗神拳に勝てないのである。




●「羅刹」であるが故の選択

 破摩独指が上記のような性能だったとした場合、それを何故カイゼル相手に使用したのかという疑問がある。彼は技こそ特異だが、身体の構造自体は普通の人間だ。あの場面、致命の破孔を突かず、わざわざ威力の低い技を使う意味がない。


 だがあの場面、シャチがあえて殺傷力を抑えたと思われる事がもう一つある。それは、カイゼルの右眼を突いた事だ。





 シャチが破摩独指を放ったのは右手。ならばカイゼルの目を狙う場合、正面にあたる左目を狙うのが普通だ。だがシャチは、何故か狙いにくい右目に指を突き刺した。つまりシャチの腕は正対した相手と垂直ではなく、若干斜めに刺さっていることになる。





 普通に真っすぐ左目を突いていれば、噴破による爆破は頭部のほぼ中央で起こっていた筈。その場合、脳が破壊されてカイゼルは即死だっただろう。だが逆側の右目を突いたことで角度が生まれ、爆破は頭部中央から逸れた。結果、脳に深刻なダメージを与えるに至らず、カイゼルは暫く喋れる程度は生き永らえたのだ。


 もしシャチがこれを意図的に狙ったのだとすると、彼はカイゼルを瀕死に留めておきたかったという事になる。相手は1800勝の郡将。決して侮れぬ相手だ。すぐに止めを刺さない理由などあるのだろうか。


 考えられるのは、彼が「羅刹」となった事だ。訪れぬ救世主(ラオウ)に代わり、シャチは自ら拳を学び、羅刹となって国を変えようとした。だが、ただ修羅を喰らい続けるだけでは変革は起こせない。まさにラオウの如く、その名を聞き、伝達の赤水が流れるだけで、修羅たちの金玉が縮みあがる。そんな存在にならねばならなかったのだ。




 その活動の一環と思わしき場面がある。修羅の一人に幻闇壊を用い、北斗七星輝く夜に爆死させたシーンである。あれも本来は全く無意味な行為だが、三日三晩に渡り修羅が硬直し続ける異常さ、そして予言通りに死に果てた悍ましさは、目撃した人々に強烈なインパクトを残した。「羅刹」が畏怖すべき存在である事を人々に知らしめるため、シャチはあのような「演出」を施したのである。


 そんなドサまわりを経て辿り着いた、郡将カイゼルとの対戦。ここに勝利すれば、一気に羅刹の名はメジャーにのし上がる。シャチにとって一世一代の舞台だったわけだ。だからこそ彼は「演出」に拘る必要があった。ただ勝つだけでは不十分。羅刹がげに恐ろしき存在であるかを知らしめる事こそが肝要。そのためにシャチが選択したのが、カイゼルをすぐには殺さないことだったのだ。
 修羅たちにとって雲の上の存在である郡将カイゼル。そんな男の片腕を捻り折り、片目を潰し、頭部を破裂させる。まさに圧倒的な勝利。そして最後に、血塗れで膝をつくカイゼルの目の前で、シャチは言い放つ。





「神こそわがしもべよ!!」


 まさに不遜の極み。だが郡将を倒したという事実がこの言葉に重みを与え、瀕死のカイゼルの姿がそれを加速させた。全てはこの「演出」のため……羅刹という名の恐怖が修羅の国に降臨したことを知らしめるため、彼はあえて破摩独指を使い、カイゼルを即死させない方法を選んだのである。


 すぐには殺しては恐怖は伝わらない。死までに猶予を与えることで恐怖は伝説となり、その者の名を絶大にする。この思想こそ、まさにシャチが目指したラオウそのもの。幼き頃、ラオウ様に撫でられたその日よりラオウチルドレンの一人となったシャチが、同じ感性を持つに至ったのは当然と言えるだろう。