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[第126話]
あえて世紀末に愛を説く! 
その名はレイア!!


 この修羅の国の男達の目的は、戦いに勝つこと。互いに命を喰らいあう修羅達には、勝利によって己の強さを誇示することが全て。だが、そんな国の中でたった一人、愛を説く者がいた。タオがケンを連れてきたのは、マンホールから地下に入った先の隠れ家であった。そこで子供達を相手に私塾を開くタオの姉。彼女が愛の伝道者であり、かつてシャチを愛した女、レイアであった。好きな人を失う哀しみ。その心は生まれもって知っている消せない心。どんなに苦しいことがあっても最後に安らげる場所・・・それが愛。レイアの話に、子供達は食い入るように聞き入っていた。しかし、どんなに彼女が愛を説こうとも、誰にも届きはしない。それが、この国の現状であった。そして、昔ここで暮らしていたシャチもまた、北斗琉拳を得て狂ってしまったのだという。タオから紹介されたケンは、早速シャチの居場所に心当たりがないか、レイアへと尋ねる。だが、その条件としてレイアが出したのは、シャチの殺害であった。地上最凶の拳、北斗琉拳。その拳が覇権を握ったとき、この国は更なる悲劇に包まれるであろう事をレイアは感じていたのだった。

 修羅として八千八百勝を打ち立てたカイゼルの拳、虎背熊牙盗。それは、シャチの北斗琉拳を相手にしても全くひけをとらなかった。間合いを詰めてきたシャチを、強力無比な一撃で怯ませたカイゼルは、ならばと足を狙った蹴りをも闘気によって迎撃。熟練されたカイゼルの戦い方に、シャチの足が止まる。だが、守りに入ったシャチの構えの中にも、カイゼルの目は死角を捉えていた。その死角――右胸の下へと向けて、手拳を飛ばすカイゼル。孟古流妖禽掌により突き入れられた手が、シャチの肋骨を掴む。しかし、その手が引き抜かれる寸前、シャチはカイゼルの腕を捕らえた。死角は、シャチが意図的に作り出したものだったのである。ひねりあげられたカイゼルの右腕は、破孔により捻り切られ、ボトリと砂の上へ落とされた。肋骨一本で、腕一本をとったシャチの闘い方。それは、シャチが既にカイゼルの動きを見切ったという事を意味していた。

 熾烈を極める戦いに二人が集中していると感じたリンは、隙をついて逃亡を謀る。しかし、シャチはその動きを見逃してはいなかった。投げつけられた短剣が右肩を掠め、その場にへたりこむリン。今度逃げようとすれば女でも殺す。そのシャチの瞳は、脅しではなかった。

 愛を説くレイアが死を願う事は本来許されないこと。しかし、もはやレイアにとってシャチは人間の道を踏み外した悪魔であった。北斗琉拳が、シャチの全てを変えてしまっていたのである。そして、帰ってきたタオに対しても、レイアはほほえみを返そうとはしなかった。シャチを目指し、あえて修羅に連れ去られることを選んだ弟を、許すことができなかったのである。だが、タオはそれを否定した。タオは、修羅に怯えて生きる日々から逃れるため、修羅の道へと入ったのである。そして親友を殺せといわれたとき、初めてタオは姉の言葉が真実であることを知ったのであった。タオの流す涙が、愛を知ったものの哀しみの涙であることを知ったレイアは、無事に帰ってきた弟に初めて笑顔を見せ、そしてその体を抱きしめたのであった。

 片腕を失っても、カイゼルから戦意は失われていなかった。それどころか、戦況は再びカイゼルに傾き始めていた。カイゼルは、シャチが攻撃に移る際に現れるクセを全て見切っていたのである。だが、優位な戦いの流れは、カイゼルの中に油断を生んだ。一気にとどめをささんと、孟古妖禽掌 伐陀羅を放つカイゼル。それを避けると同時に、シャチは左足で中段回し蹴りを放つ。不意に放たれたその蹴りは、当然カイゼルの読みの中にはなかった。カイゼルの無防備な受けを嘲笑うかのように、シャチは蹴りの起動を変化させ、側頭部を捕らえることに成功。大きく体勢を崩したその隙を、シャチは逃さなかった。北斗琉拳奥義、破魔独指。カイゼルの額には、シャチの指が深々と突き刺さっていた。

 シャチが指先に闘気を込めると同時に、カイゼルの頭から血飛沫が飛び散った。勝負は決した。しかし羅刹としてのシャチの目的は、まだ先にあった。全ての修羅を食い尽くし、神をも下僕とする。それが、北斗琉拳を手に入れたシャチの野望だったのだ。だが瀕死のカイゼルは、そんなシャチの宣言を嘲笑した。この国に君臨する3人の闘神と呼ばれる羅将。彼等にはシャチ如きの力では到底敵わない事を、カイゼルは見抜いていたのだ。その羅将の強さは、カイゼルは身をもって知っていた。第三の羅将ハンと戦い、胸に傷を受けたとき、カイゼルはそのコブシの姿すら見ることができなかったのである。しかし、シャチもその事は理解していた。シャチがリンを連れ出した真の目的、それはケンシロウを捨て駒としてハンにぶつけること。その戦いの最中にハンの高速の拳を見切る事が、シャチの狙いなのであった。

 レイアがケンを連れてきた洞穴、そこはシャチが魔道へと入った地であった。

 数年前、一人の男が雨宿りをするために洞穴へと逃げ込んだ。だがそこは、盗賊が宝を溜め込んでいたアジトであった。宝を取り返しに来たのだと勘違いした盗賊は、その巨体で男を追い詰める。だがその時、シャチの笑い声が響いた。盗賊の噂を聞いたシャチは、その男を北斗琉拳の実験台とするためにやってきたのである。駆けつけたレイアの声によって一度は拳を止めたシャチであったが、もはや魔道へと踏み込んだシャチに、後退は無かった。盗賊と交錯したシャチの手が、妖しく光る。その手には、経絡破孔を握った感触がしっかりと残されていた。腹を破裂させ、真っ二つに折れた盗賊の死骸を前に、シャチは己の拳の完成と覇道の始まりに対し、声を挙げて笑うのだった。

 レイアの私塾にいたボロが手に入れた情報によると、シャチはボロを纏い、リンという女を拐っていったのだという。リンを追ってこの国に来た自分が、同じ北斗を冠する男に連れ去られたということに、ケンは運命を感じずにはいられなかった。シャチがケンをおびき出そうとしているならば、向かった先は羅将ハンの下。彼もまた北斗琉拳の使い手であり、そして彼も北斗琉拳の魔道に魅せられ、野望の色に染まった男であった。

 倒された椅子の上で仰向けになる口髭の男と、その脇に立つカミソリをもつ男。一見するとただヒゲを剃っているだけの光景であったが、カミソリを持つ男の手は恐怖に震えていた。隙あらばいつでも喉を掻き切ってもいい。そう言われた男は、ゆっくりとカミソリの刃をその喉の上へとあてがう。しかし、横になり、目をタオルで覆っているだけのその男には、微塵の隙もありはしなかった。彼こそがこの国の第三の羅将と呼ばれる男、ハンであった。

 闘技場にて新たな修羅が生まれたとの知らせを受けたハンは、お目通りを望んでいるというその男の下へ。今日まで生き残った褒美を与えようと男の望みを聞くハンであったが、ここまで勝ち残っただけで十分だと男は返答した。よければこのままハン様に仕えたい。野心を持たず、ただ忠実なハンの下僕となりたいと語るその男に、ハンの興味は完全に失せていた。だったら生きていてもしょうがあるまい。そうハンが男に告げた瞬間、ただならぬ空気が周囲を包んだ。このままでは殺されると直感した男は、得意の西地派の槍で、背を向けているハンに襲い掛かる。だが、彼の肉体は既に死んでいた。野心はないと男が答えた瞬間、既にその命はハンに奪われていたのだ。北斗琉拳奥義 魔舞紅躁。影すら見えないほどに早いハンの拳は、まさに疾風の如きであった。

 海の向こうを見つめるシャチ。哀しさの宿るその瞳を見たリンは、シャチがこの国の男ではないことを確信する。だが、シャチはそのリンの言葉を制し、改めて宣言した。己は修羅を喰らい、神をも超えようとしている羅刹。そしてお前はその礎となるための、ケンをおびき出す為の餌なのだと。しかし、リンはシャチのその行動が無意味な事だと告げた。羅将ハンが倒すべき男であるなら、ケンは必ず現れる。リンはそう信じていたのである。ケンに対するリンの信頼の正体、それがレイアの唱える愛であることに、シャチは気付き始めていた。

 町を見下ろす崖の上で、レイアはシャチとの思い出を振り返っていた。己の胸にかけられたペンダント。それは、やさしかった頃のシャチが、レイアへと贈ったプレゼントであった。そのペンダントの鎖を引きちぎり、地へ落とすレイア。それは、かつて抱いたシャチへの愛を、今捨てたのだという意思の表れであった。そして、改めてシャチ討伐の依頼を確認してきたケンに、レイアはだまって頷いたのであった。だがタオは知っていた。レイアが本当に望んでいるのは北斗琉拳の滅亡であって、シャチの死ではないことを。そしてケンもまた、そのレイアの気持ちに気がついていた。ペンダントを拾い上げ、ケンはレイアに約束した。レイアが失った愛も、必ずその手で取り戻すことを。
放映日:87年8月13日


[漫画版との違い]
・レイアの私塾にいくため、タオがマンホールに入るシーン追加
・原作ではレイアは塾生たちは地上で解散するが、アニメでは地下の塾内。
・カイゼルの戦歴が、1800勝から8800勝に変更。
・ボロがシャチの行方を知らせに来るのは、原作では村の中だが、アニメではシャチが噂のバケモノを殺した洞窟。
・破摩独指が、原作では右目に突き刺さるが、アニメでは額。
・カイゼルの胸の古傷を狙ったことに関しての台詞削除。ハンにつけられた事は言う。
・バケモノの洞窟に男が逃げ込むのは、原作では巨大な黒トラから逃げるためだが、アニメでは雨宿り。トラも登場しない。
・バケモノが男を襲うのは、原作ではナデナデするためだが、アニメでは溜め込んだ宝を奪いに来たと勘違いしたから。
・原作のバケモノは左右の目の高さがズレているが、アニメでは比較的マシに。
・ヒゲをそる修羅に、侍女達がサインを送るシーンは削除。
・「あなたはそうやって何人の〜」から「百人から先はおぼえていない!」までの台詞が削除。
・原作では玉座に座っているハンに、新しい修羅が生まれたと知らせが入るが、アニメではヒゲ剃り中。


・7000サバよみ
詐称してない?という疑いが出るほど、アニメで戦歴がアップしたカイゼル様。修羅として8800勝ってことは、修羅の国制度が199X年からはじまったとして、だいたいまあ10年とすると、一年に900人、一日に平均2〜3人くらいは殺している計算になる。うーん凄まじい。数もだが、その記憶力も。ハンなんて100以上数えてないっていうのに。
でも
ジェモニさんは9999人殺してますけどね。
・待たせとけ
原作じゃあ玉座に座っていやらしそうな事してるときに、西獄派銀槍の男の知らせが入る。しかしアニメじゃ、ヒゲ剃り真っ最中。おまえ・・・羅将様のヒゲ剃りを中断してまで呼びつけるようなことか?それ。待たせとけ待たせとけ!髭剃り待ちや!


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