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[第125話]
善か悪か? 
謎の北斗琉拳現わる!!


 ケンシロウは、リンが囚われるカイゼルの居城まで辿りついていた。あまりのケンの強さに、戦意すら失う修羅達。だがその時、逃げ出そうとした修羅の退路を塞ぐかのように、一人の男が現れた。彼の名はアルフ。リンを花嫁として迎えるための武闘会で優勝した、あの修羅であった。ケンの目的が、自らの花嫁となるべき女だと知ったアルフは、力で奪い取ってみろとケンを挑発。背後のボロより受け取った杖を地面へと突き刺し、アルフは宣言した。俺は今まで敵を2分以内に倒してきた。その杖に付けられた砂時計が流れ落ちるまでの2分の間に、貴様の命も尽きるのだと。

 俺の相手はどっちだ。そのケンの言葉を理解したとき、アルフは激怒した。ケンは、アルフとその背後のボロを同格に例えたのである。猛烈な突きの連打を放つ、誘闘赤円舞にて先制攻撃をかけるアルフ。その攻撃を全て交わし、負けじと攻撃へ転じたケンであったが、その拳はマントを囮に空を切らされた。そして次の瞬間、アルフは早くも勝利を確信する笑みを浮かべた。ケンが突いたそのマントには、毒を仕込まれていたのである。視神経を狂わされたケンの眼には、無数のアルフの姿が映っていた。

 二人の戦いを最後まで見届けることなく、現場にいたボロはその場を後にした。彼が向かった先、それは牢獄に捕らえられているリンのところであった。彼は、ただのボロではなかった。ボロの仮面をかぶり、リンのような切り札を手に入れる機会をずっと伺っていたのである。だがリンは、野望を抱くその男にある匂いを感じていた。それは、この国の人間にはない、人としての匂いであった。

 ケンを取り囲んだ数十体ものアルフの幻影が、一斉にケンへと攻撃を放つ。だが、アルフ程度の男が何人いようが、ケンには関係のないことだった。その場で高速回転を始めたケンは、己を取り囲むアルフの幻影全てに拳を叩き込んだのである。敵が幾重にも見えるなら、全員を殴ればいい。それがケンの導き出した答えであった。約束の2分が経過したことを、流れ落ちた砂が知らせる。だが、その時間内に倒されたのはアルフのほうであった。己の体に残された拳痕の数に呆然としながら、アルフは爆死。鬼神の如きケンの強さを眼にした修羅たちは、口を揃えて叫んだ。この男こそあの"羅刹"だと。

 戦意を無くした修羅に導かれ、リンの牢へと案内されるケン。しかし、先程まで囚われていた筈のリンの姿は、煙のように消えうせていた。リンは、既にあのボロによって連れ出されていたのであった。

 城を抜け出し、荒野を行くリンとボロ。だが、その姿はすぐにパトロール中の修羅に見つかってしまった。女が修羅の子を産むべき女であることに気付いた修羅は、その出過ぎた真似をしたボロを一撃の下に捻りつぶそうとする。しかし、そのパトロールの男がたった一人であることを確認したボロは、突如口調を変え、修羅に対して帰れと言い放った。怒れる修羅は一撃の下にボロを叩き潰そうとする。しかし、ボロはヒラリとその攻撃をかわしてみせた。ボロとは戦いに負けて死に切れなかった男達。足の腱を切られ、飛べないはずのそのボロの俊敏な動きに、修羅は驚きを禁じえなかった。だがそれは当たり前のことだった。ボロの衣の下から現れた男の正体、それは羅刹と呼ばれる、修羅を喰らう鬼として修羅達に恐れられている男であった。北斗琉拳 喝把玩。男の奥義を喰らった修羅は、その体を不自然にひしゃげさせ、押しつぶされるかのように破裂。それはケンの使う北斗神拳と限りなく酷似した、北斗を冠する謎の拳法であった。男の狙い、それはケンが数多くの修羅達を殺した後に力尽き、その後自らがこの国の覇を握ること。男にとってケンは、己の北斗琉拳をこの地に輝かせるための礎なのであった。

 再び荒野を行こうとするシャチであったが、その行く手には、郡将カイゼルの部隊が立ちふさがっていた。城へ帰還する途中、偶然この現場へと通りかかったのである。男の正体があの羅刹であることを聞かされたカイゼルは、その強さに免じ、男がリンを連れて行くことをを受諾。そして、修羅にとっての名誉である名を名乗る権利までをも与えた。しかし、男には既に名を持っていた。彼の本当の名はシャチ。そのシャチがもうひとつカイゼルに望んだものは、己の正体を見たカイゼルの首であった。

 果敢にも自らに挑もうというそのシャチの力を試すため、カイゼルは2人の修羅をけしかけてきた。殺と斬。シャチを真ん中に対極に位置取った二人は、タイミングを計り、同時にシャチへと飛び掛る。しかし、自らに刃が届くまでの僅かな差を、シャチは見逃さなかった。僅かに早いとみた斬の攻撃にカウンターをあわせたシャチは、続く殺の攻撃を紙一重で回避。そのまま裏拳で殺を間合いの外へと追い払った。二人同時に倒すのは無理だと判断したシャチは、間合いの一瞬の差を見切り、もう片方の敵に背を向けるという荒業をやってのけたのである。そしてこの一瞬の攻防で、彼等の勝敗は決していた。シャチの拳を浴びた斬は、北斗琉拳によりその場へと身を拉げさせ死亡。相棒のその死は、殺の戦意を一瞬にして奪ってしまった。だが後ずさるその殺の後ろには、怒れるカイゼルの姿があった。おもむろに殺の横っ腹に手を突き入れるカイゼル。抜き取られたその手に握られていたのは、数本の肋骨であった。血一滴も流すことなく相手の内臓筋骨を抜き取ることのできるカイゼルの奥義、孟古流妖禽掌。その拳の凄まじさは、顔から血を噴き出して息絶えた殺の死体が物語っていた。

 シャチの強さを認め、自ら相手になることを決めたカイゼル。だが、彼には一つだけ判らないことがあった。リンを与えると言っているにもかかわらず、このカイゼルを倒して奪っていこうとするシャチの行為が理解できなかったのである。その問いかけに対し、シャチは答えた。自分の狙いはこの女ではなく、女を追ってくる男だと。その男を利用した、壮大な野望の実現のため、シャチはカイゼルをも倒しておく必要があったのである。だが、やはりカイゼルには理解できなかった。たった一人の女のために命を懸けるなどという生き方は、この国の者には理解できない事であった。

 夜の街を走る仮面の少年。その足に鞭を絡ませ、転倒させたのは、二人の修羅・ピゲとパゲであった。修羅を目指すための修練場から逃げ出したこの少年・タオを捕らえるため、追ってきたのである。この国の男児は12歳になれば、修羅の目指さねばならない。その掟に従い、タオもまた修羅の道へと入っていた。しかし、彼が最初に戦わされた相手は、親友であった。憎しみのない戦いが出来なかったタオは、今夜修練場から逃げ出したのである。だがそれは、この国において邪教とされているものだった。戦いを挑んできたタオを難なく返り討ちにしたピゲとパゲは、さっさとタオを殺して帰ろうとする。だがその時、二人は背後にとてつもない殺気を感じた。北斗七星輝く夜、修羅の喰らう羅刹が現れる。巷で騒がれているその噂を思い出し、緊張を走らせる二人。しかし、姿を現したその男は、噂されている羅刹ではなかった。だが、彼は言った。どのみちお前達が死ぬ事に変わりはないと。そしてその言葉通り、二人は男の北斗神拳の前に瞬殺されたのであった。

 北斗琉拳。四散した修羅の死に様を見て、タオはそう口にした。タオが知るその拳と、ケンの使う北斗神拳があまりに酷似していたからである。その拳の使い手を尋ねられたタオは、答えた。名はシャチ。僕の姉さんが愛した人だと。シャチ・・・それはケンが船の上で聞いた、赤鯱の息子の名前であった。あまりにも数奇なこの巡り会わせに、ケンは宿命を感じずにはいられなかった。
放映日:87年7月30日


[漫画版との違い]
・アニメではケンがカイゼルの居城まで赴き、そこの入り口でアルフと戦う。
・原作でアルフが出てきたのは滝の中からだが、アニメでは修羅の門から。
・原作でケンがアルフに名乗るのは倒した後だが、アニメでは流派名と一緒に言う。
・アニメでは、船でつけていたサングラスをつけてアルフと闘う。誘闘赤円舞の最初の一撃で壊れる。
・憤詛熄、は言わず。
・原作で、アルフは突かせたマントを再びまとうが、アニメではそのまま拾わない。
・原作ではボロ(シャチ)はアルフ敗北まで残り、ケンと会話を交わすが、アニメでは途中でリンの所へ。
・原作ではボロ(シャチ)がリンに食事を運んでくるが、アニメでは削除。
・原作ではリンの牢の中でシャチが正体を現すが、アニメでは修羅と対峙したときに初披露する。牢内の台詞もその時。
・正体を現す〜カイゼル倒す、まで原作では上半身裸だが、アニメでは服を着ている。
・ボロ(シャチ)がリンを連れ出したときに城内を通るシーンは削除
・原作では修羅二人がリンの姿が消えた事に気付くが、アニメではケンがリンの牢まで赴いたときに初めて発覚する。
・アニメではリンが連れ出されるとき、カイゼルは出かけている。故に連れ去られた報が入れられるシーンは削除。
・ボロ(シャチ)を発見した修羅は、原作ではカイゼルの差し向けた追ってだが、アニメではパトロール中に偶然発見。
・カイゼルがリン達の所へ来るのは、原作では城から追ってきてだが、アニメでは城への帰還途中に偶然通りかかる。
・羅刹が北斗幻音階に似た技で修羅を死亡させる一連のシーンが削除。
・原作で殺が肋骨を抜き取られるのは左脇腹だが、アニメでは右脇腹。
・抜き取られた肋骨は、原作では粉末状に握りつぶされるが、アニメではふつうに砕かれる。
・羅刹か、と問われたケンが、アニメでははっきり否定する。



・しらんけど
誘闘赤円舞って名前なんだし、マントは赤いほうが良かったんじゃないかなあ。
思いっきり黒ですが・・・。
・蛇足
カイゼルがシャチのところに現れるとき、そこそこの数の部下を引き連れてくる。でも殺と斬が殺された後、その部下達の姿はみえない。カイゼルがやられそうになっても助太刀もしない。これはどういうことなんだろう、と思って原作をよく見てみると、実はこの時最初から殺と斬の二人しかいないんですな。アニメでは多く描いちゃったんだ。それ故、なんかカイゼル放っておいて先に帰っちゃったみたいな感じになっちゃったんですな。がんばって多く描いたのに、それがミスになるなんて。いわゆる蛇足ってやつか。


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