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斬風燕破
ざんふうえんぱ



流派: 北斗琉拳
使用: ハン(対 ケンシロウ)
登場: 北斗の拳(177話)/TVアニメ(129話)/
北斗の拳3/北斗の拳5/サターン版/
真北斗無双/リバイブ/モバイル真・北斗無双



 北斗琉拳の奥義。高速の二本貫手で相手の心臓を貫く疾風の拳。

 ハンケンシロウへの止めに使用。寸分の狂いも無く心臓を貫いたつもりだったが、戦いの中で知らぬ間に視神経を奪われていたため、腕へと狙いを外された。









 衝撃を置き去りにする魔舞紅躁疾火煌陣、闘気をぶっぱなす白羅滅精といったド派手な技を連発してきたハンが、最後の締めとして選んだにしては、聊か地味すぎた気がする奥義。だって「強力な二本貫手」としか形容しようがないもんね。結局失敗しちゃってるし。


 思うに、あの時のハンにはこれくらいしか出せる奥義が無かったんじゃないかしら。だってハンvsケンシロウ戦って、北斗史上においても屈指の大熱戦だったじゃないですか。なんか途中プロレスみたくなってたし。だから闘いの終盤に差し掛かったあの時の二人は、相当疲弊してたと思うんですよ。そんなヘロヘロ状態から出せる技と言ったら、もうこれくらいしか残ってなかったんじゃないですかね。




 ゲーム作品においてもその地味さは変わらず、『北斗の拳(セガサターン版)』『真・北斗無双』でも北斗琉拳の奥義の中では一番ランクが下という扱いを受けている。言うなれば、最も消費MPの少ない初期魔法的なことだ。つまりハンにとってこの技は、総力戦の果てに残された最後の切り札。サヨナラのチャンスに代打に送られた走塁要員が如き存在だったのかもしれない。




●真実はいつも一つ!


この技を放つ前に、ハンはこう口にしている。




「わが疾風の拳、寸分の狂いもなく
 貴様の心の臓を突き破ってくれるわ!」




この台詞の中には、斬風燕破の特性が3つも挙げられている。

「わが疾風の拳」=速さ
「寸分の狂いもなく」=正確性
「心の臓を突きやぶって」=破壊力


速さ、正確さ、破壊力……
攻撃に必要な要素を全て兼ね備えた、理想的な技と言えるだろう。
ただし、ハンの言葉が本当ならばの話だ。


私は、このハンの台詞はミスリードだったのではないかと考える。


まず疾風と例えられた「速さ」だが、正直言ってこの技、魔舞紅躁や疾火煌陣らと比べると全然スピード感がない。技を出してから当たるまでの間にリンが「ケーン!」とリアクションしているということは、非戦闘員である彼女ですら目で追える程度のスピードだったということ。むしろ遅いと言ってもいいレベルだろう。そもそも技名を口にしながら繰り出している時点で速さを感じない。




 次に「破壊力」だが、こちらも全く話にならない。心臓を貫くと宣言したにも関わらず、結果はケンシロウの上腕に指の第一関節までだけ刺さるという程度であった。もし狙い通りに胸に命中したとしても、絶対に心臓までは届いていなかったであろう。


 最後に「正確性」だが、こちらは視神経の異常によって大きく狙いを外された。だがその結果とは裏腹に、実はこれだけが真実であったのではないかと思う。つまり斬風燕破とは、威力や速さではなく、正確さを重視した技だということだ。




何故ハンがミスリードする必要があったのかについては後記するとして、まずは何故この奥義に「正確さ」が必要なのかについて考えてみよう。

答えは、技を放った後のハンの台詞にある。




「な……なぜオレの突きが
 経絡破孔をそれたのだ!!」


 そう、斬風燕破の正確性は、破孔突きを確実に成功させるために磨き上げられた特性なのだ。「それだけ?」と思われるかもしれないが、極論を言えば北斗同士の闘いは破孔を突いた方が勝つのだから、そこに特化した技があっても何ら不思議ではない。蒼天の拳でのヤサカの台詞にある「乱れ闘う中で達人相手に必殺の一撃など狙えまい」の言葉通り、そう簡単に突こうと思って突けるようなものではないのだ。


 その特性は、技名にも隠されている。斬風燕破――――風を切り裂くツバメの一撃という意味だ。これが「ツバメ」であることに意味がある。多くの鳥は地面や枝の上で餌を探すが、ツバメはあえて飛んでいる昆虫を捕獲する珍しい鳥なのだ。高速で飛翔しながら正確に獲物を捕える能力……まさに私の考える斬風燕破の特徴そのものである。他にも強そうな鳥は数多くいるのに、わざわざツバメを選んで技名に付けているという事が、この技の極意が「正確性」にあるということの証と言えるのではないだろうか。


 そもそもメタ的に言っても、このシーンで重要なのは、ケンの計略によってハンが「狙いを外した」という所にある。そしてそれは、斬風燕破が「狙いを外さない技」であることでより意味合いが増す。ハンの「寸分の狂いもなく」という台詞が、いわゆる"フリ"になってたわけであり、制作側が最も注目して欲しかったポイントであることは間違いないだろう。




●嘘つきダンディズム


 しかし斬風燕破が破孔を狙う技だとするなら、ひとつ矛盾が生まれる。技を放つ前、ハンは「心臓を突き破る」と宣言していた。これはおかしい。もし本当に心臓を貫いていれば、当然相手は即死。ならばその後に破孔を突いても全くの無意味だからだ。


 考えられる答えは一つ。心臓を突き破るというのはブラフだったということだ。。彼の狙いは最初から破孔一本であり、心臓を狙う気などさらさら無かったのである。実際、どう見ても心臓を貫ける威力では無かったわけだし。


 なぜブラフをかける必要があったのか。それはもちろん破孔突きを成功させるためである。あの時、ケンシロウは足の自由は奪われていたが、上半身は普通に動かせる状態にあった。つまり防御されてしまう可能性は十分あったわけだ。そこでハンが用いたのが、上で述べたミスリードであった。斬風燕破でお前の心臓を貫いてやるぞ!と宣言することで、ケンシロウの防御意識を心臓に向けさせ、破孔を狙いやすくしようと画策したのだ。


 そういえばハンは、修羅の国がお前の故郷だと話すことで、ケンシロウに一瞬の隙を作るという戦術をとっていた。戦闘狂であるハンにとっては、そういった心理戦もまたバトルを愉しむ要素の一つなのかもしれない。