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極星十字拳
きょくせいじゅうじけん




流派: 南斗鳳凰拳
使用: ・サウザー(対 ケンシロウ)
 …北斗の拳(87、88話) アニメ版(62、63話)
・サウザー(対 ラオウ)
 …ラオウ外伝
・オウガイ…北斗の拳Legends Revive
登場: 北斗の拳/アニメ版/ラオウ伝殉愛の章/ラオウ外伝/北斗の拳3/
北斗の拳5/北斗の拳6/北斗の拳7/SEGA2500/激打2/激打3/
DS版/パンチマニア/PS版/審判の双蒼星/北斗無双/真北斗無双/
北斗が如く/リバイブ/ぱちんこ北斗



 南斗鳳凰拳の技。凄まじい速さの踏み込みから高速の手刀を繰り出し、敵を十字に切り裂く。

 サウザーケンシロウとの戦いで使用。一度目は躱されたものの、二度目は斬られたケンシロウ自身が気付けないほどの速度でその身に十字の傷を刻み、三度目で勝負は決着。ケンシロウを瀕死の状態に陥らせた。





 見えない踏み込みから放たれる高速の斬撃。そんな回避困難な技を、初見で回避してみせたケンシロウに対し、サウザーは素直に賛辞を送った。そういった経緯もあるため、この技のセールスポイントは「躱し難さ」であると思われている方も多いだろう。だが私は、極星十字拳の真価は殺傷力にあると考える。




 考えてみて欲しい。あのタフなケンシロウを、たった二撃で戦闘不能に追い込んでいるのだ。これは凄い事である。他にケンシロウに大ダメージを与えた技としては、南斗獄屠拳蒙古覇極道暗琉霏破などが挙げられる。だが獄屠拳の頃のケンはまだヘッポコだったし、蒙古覇極道や暗琉霏破の時は、ケンが防御不能な状況にあった。だが極星十字拳は一点の曇りなく、真っ向からケンシロウに瀕死の傷を与えているのだ。間違いなく、北斗の拳において最高クラスの殺傷力を持った技だと言えるだろう。


 それを間接的に伺える場面がある。シュウの魂の叫びを聞き、ケンシロウが地下水道から現れる場面。瀕死にあったとは思えぬ強さを見せるケンシロウに、兵士が言う。「な…なぜ 奴は聖帝様の十字拳で切り刻まれているはず!」。そう、聖帝正規兵達は知っているのだ。極星十字拳が刻む傷の深さを。それを負った者が動ける筈がない事を。彼らの、その極星十字拳への絶対的な信頼こそが、その拳が築き上げてきた勝利の歴史を証明しているのである。


 南斗鳳凰拳の秘奥義は、天翔十字鳳である。相手の攻撃を空切らせつつ敵を切り裂くという、まさに帝王不敗の拳の呼び名に相応しき強力な奥義だ。だが、ケンシロウの体を二度も切り裂いたにも関わらず、天翔十字鳳では深手は与えられなかった。その威力の低さが、サウザーの敗北に繋がったとも言えるだろう。そんな弱点を補える存在こそが、極星十字拳なのである。天翔十字鳳、帝王の体に加え、この破壊力抜群の極星十字拳を有しているからこそ、サウザーは南斗聖拳において絶対的な存在となり得ることが出来たのだ。





●十字拳は何故強いのか

 先述の通り、極星十字拳の威力は凄まじい。その強さの秘密とは何だろうか。もちろん、サウザー自身の才……幼くして石灯篭をスパスパ切っちゃう程の才能に加え、南斗聖拳最強の鳳凰拳の主力技なのだから、強いのは当然と言える。だが、私は他にも要因があると考える。


 まず極星十字拳の性質について改めて考えてみよう。この技、一見すると「十字に切り裂く」というだけのシンプルな技のように思えるが、実はそうではない。考えれば考えるほど奥深い拳である事が解る。






 サウザーが最初に極星十字拳を放った際、見えない踏み込みからの手刀斬りはケンシロウに回避された。だが彼はその後も止むことなく攻撃を続け、ほぼ一方的に攻め立てた。その後、「フフ よくぞ極星十字拳をかわした!」とサウザーは口にするのだが……。

 この場面、二通りの捉え方がある。最初の手刀斬りが極星十字拳なのか、それとも、その後の連続攻撃も含めて極星十字拳なのかだ。


 手刀斬りのみを十字拳と捉えた場合、問題にぶつかる。それは、サウザーの手刀斬りが真横にしか走っていない事だ。極星十字拳は「十字に斬る」技であるのに、縦の攻撃を繰り出していないのである。


 私が思うに、おそらくサウザーは横の手刀斬りの後、縦の手刀を繰り出す予定だったのだと思う。ケンシロウはあの手刀を奇跡的に回避できたが、正直言ってあれを初見で躱せる人間など殆どいないだろう。北斗三兄弟とジュウザ、羅将クラスでないと無理だ。つまり殆どの場合において初弾の手刀斬りは「当たる」のである。当然、斬撃を受けた相手は大きく体勢を崩すだろう。その隙を突き、悠々と次弾の縦斬りを浴びせ、十字傷を完成させる……これが本来の極星十字拳の形であり、これまでサウザーが屍を築き上げてきた黄金パターンなのだと思われる。


 だが初弾をケンシロウに躱されたことで、そのパターンは崩れた。おそらくサウザーにとってもほぼ初の経験だった事だろう。だがそこで動揺しないのが帝王たる所以。すぐにプランを変更し、貫手突きや後ろ回し蹴りといった連続攻撃に繋げ、主導権を握り続けた。そう、まだ極星十字拳は終わっていなかったのだ。攻撃を続けながら、彼は再び十字に切り裂ける機会を伺っていたのである。最後の蹴りが刻んだ横一文字も、十字傷の一画だったのかもしれない。だが結局は間合い外に逃げられ、十字は完成しなかった。故にサウザーはそこで初めて「よくぞかわした」と口にしたのである。







 状況に応じて変化する十字拳の多様性。それは二度目の時により顕著になる。注目すべきは、上図の手刀斬り。一度目の手刀斬りが「内から外」に開く形で切り裂くのに対し、二度目のは「外から内」に閉じる形に変わっているのである。


 変更した理由は勿論、一度目の結果を受けての事だろう。初弾を避けられ、更にケンから「見切った」とまで言われているのに、サウザーは自信満々に「ならばもう一度極星十字拳を受けてみるがいい」と宣言した。その自信はどこから来るものだったのか。それは極星十字拳が特定の型に捕らわれない、状況に応じて変化する拳であるからに他ならない。




 更に興味深いのが、実際にケンシロウが十字の傷を受けた場面である。二度目の十字拳の際、サウザーは初弾の手刀を躱され、逆に連続拳で秘孔人中極を突かれた。勝ちを確信し、指を三本立ててドヤるケンシロウであったが、3カウント後に傷を負ったのはケンシロウの方だった……という流れだ。


 今一度言うが、ケンシロウはこの時、サウザーの手刀を"回避"している。にも関わらず、いつの間にか十字の傷を負わされていた。一体この傷はいつ付けられたものなのか。考えられるのは一つ。ケンが秘孔人中極を突いていた時である。秘孔が効かぬことを自覚していたサウザーは、ケンシロウのアタアタを喰らいながらも、しぶとく反撃していたわけだ。


 ここで注目してもらいたいのは、その反撃で負わせたのが「十字の傷」であった事だ。相手の攻撃を浴びながらという状況であるにも関わらず、サウザーは律儀に十字にこだわった。「例えどんな形であろうとも、必ず相手を十字に切り裂く。」それこそが極星十字拳という技に込められた理念なのではないだろうか。そしてその「十字」への強いこだわりこそが、極星十字拳の強さなのではないか。


 サウザーにとって十字は単なる記号ではない。彼が率いる聖帝軍の紋章も十字。権力の象徴でもある陵墓も十字。帝王の誇りをかけた拳である天翔十字鳳は、自らがその十字となる秘奥義だ。そして彼の背負う星は、南斗十字星。オウガイは、サウザーの瞳の中にその十字星を見ていたという。まさに生まれてから死ぬまで、その生涯全てが十字に彩られた男なのである。





 だがその十字に込められた思いは、むしろ哀しみ……。師オウガイの命を奪ったのは、サウザー自身が切り裂いた十字の傷であった。サウザーの最も愛すべき存在であったオウガイ。その死が、サウザーに愛を拒絶させた。十字を刻むその拳が、サウザーと愛を決別させたのだ。つまりサウザーにとって極星十字拳は、聖帝十字陵と同じく、愛への否定を意味する拳なのである。


 サウザーが愛を否定するのは、師を失った哀しみから逃れるため。そのために彼は十字拳を振るう。師オウガイに抱いていた大きな愛を、己の内から全て打ち消すために。そんな悲哀を込めて放たれる拳であるからこそ、極星十字拳は強く、深く、その身を切り裂くことが出来るのである。





●原作以外の極星十字拳

 原作でサウザーの使った数少ない奥義の一つであるため、極十字聖拳は多くの作品に登場している。その殆どで「十字に切る技」として描かれているが、中には上記で述べたような、複数の攻撃を組み合わせた技として登場している場合もある。




 『ラオウ外伝 天の覇王』では、ラオウとの戦いで使用。ラオウの攻撃を跳躍で躱し、そのまま上空から斬撃を浴びせた。その後、ラオウが傷を押さえて動けなかった事、闘いが痛み分けで終わることを了承させた事、患部に相当な包帯が巻かれている事などから、かなりの深手を与えたものと推測される。




 『北斗の拳 -審判の双蒼星 拳豪列伝-』においては、「否退」「否媚」「否省」という3つの型の極星十字拳を連続して繰り出す形となっている。



「極星十字拳(否退)」は、原作で最初に見せた手刀斬り。




「極星十字拳(否媚)」は、二連続の貫手突き。原作で手刀斬りの後に繰り出した技だと思われる。




否媚には「極星十字拳(否媚・下段)」という別パターンも存在する。こちらは下方を切り裂く手刀斬りとなっており、原作で二度目に使用した極星十字拳がモチーフとなっている。




「極星十字拳(否省)」は、ローリングソバットのような蹴り。原作で見せた後ろ回し蹴りに近い形となっている。





 アプリゲーム『北斗の拳 LEGENDS ReVIVE』では数パターンの極星十字拳が登場しており、初期のサウザーの場合は背転脚で相手を打ち上げて手刀斬り、仮面サウザーの場合は手刀、貫手、後ろ回し蹴りの連続攻撃パターンとなっている。



 また、このゲームでは先代の鳳凰拳伝承者であるオウガイの極星十字拳も見ることができる。原作でサウザーが二度目に使用した、外から内に振りぬく形の手刀斬りとなっている。







 『北斗無双』シリーズでは、暗黒の闘気で周囲の敵を吸い寄せ、集まった敵をまとめて斬り裂くという特殊な形になっている。斬撃は、手刀の横切りに続いて踵落としを繰り出すことで十字型を形成している。


 その他、 『北斗の拳7』では、手刀で発生させた真空波を飛ばして攻撃する技に、『北斗の拳(PS版)』では、連続突きで相手を浮かせて空中で十字に切る技として登場している。