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胡潤
こじゅん



登場:第199話〜
肩書:豊潤洋行の店主 鉄心の朋友

 寧波にある雑貨店「豊潤洋行」の大旦那。霞鉄心の朋友。かつて宿命故に別れるしかなかった鉄心と月英の恋の終わりを見届け、荒れる鉄心に酒をおごり、共に哀しみを分かち合った。後に月英が鉄心の子を産み落としたため、その子(拳志郎)を鉄心の元へと送り届けた。

 数十年後、寧波へと上陸した拳志郎と再会。初めは鉄心と勘違いしていたが、後に息子・拳志郎であることを知り、かつてこの地で起こった事を全て話して聞かせた。その後、天授の儀を見届けんと泰聖院に向かったが、見物者を許さぬという五爪の龍の声を聞き、素直に引き返した。
 天授の儀の前後に開かれた花見の席には、二度とも酒を持って参加している。





 初登場時の彼は、相当ヨボヨボであった。歩くだけでも杖と付き人による支えが必要な有様。黒目がやけに大きく見えるとうのも目が収縮した老人ならではの特徴だ。頭の方も、拳志郎を鉄心を思い込むという耄碌具合であった。それがどうだ。わずか数話後には見違えるほどにシャンとし、表情も引き締まり、逆に部下の虎(フー)へのツッコミに回る立場に。天授の儀当日には泰聖院への長い階段をダッシュで駆け上っていた。彼を変えたのは、拳志郎との出会い。そして彼を通じて、遥か海の向こうに居る朋友・鉄心との語らいが、老いたその身体に今一度活力を与えたのだ。

 実際、胡潤と鉄心の仲は生半可なものではない。なんせ鉄心が、その存在すら知らなかった子・拳志郎を、海の向こうの国まで送り届けたほどの関係だ。それだけではない。彼が拳志郎を鉄心のもとへと届けたとき、既に鉄心には日本で娶った妻が居たのである。鉄心にとっても、そして妻にとってももちろん寝耳に水の隠し子フロムチャイナ。鉄心の妻・・・つまり羅門の母がどのような人物であったかは定かではないが、そこが修羅場と化したことは想像に難くない。胡潤とて、そんな夫婦の仲を壊しかねないお届け物などしたくはなかったはずだ。だがそのリスクを負い、自らが悪党になる覚悟をもってでも、鉄心のもとに彼が真に愛した月英の子を届けることが朋友の役目だと考え、海を渡ったのである。そんな胡潤に、鉄心は更に感謝を深めたに違いない事だろう。

 そんな、朋友の大事さを教えてくれるのは、拳志郎とケンシロウの差だ。赤子のときに中国から日本へと送られたという点で、二人の境遇は良く似ている。だがその内容は余りにも違いすぎる。
 豊潤洋行のオーナーである胡潤はかなりの資産家であるため、きっと赤子の拳志郎も複数のボディーガードと共に、大型の客船で日本へと送迎されたことだろう。後に北斗神拳の伝承者となる男だ。本来それくらいのVIP扱いがあって然るべきである。
 それに比べてケンシロウは、ジュウケイの手によって兄二人とともに小船に乗せられ荒海へと放り出された。あんなもんで中国から日本へと渡れたこと自体がもはや奇跡だ。天に選ばれし宿命ならば〜とかそういうオカルティックな理由だけでは見逃せない程のギャンブル行為だ。
 この両者の差を生んだもの。それが朋友の有無だ。鉄心には胡潤という信頼に足る朋友が居た。かたやジュウケイには、命令を下せる者たちは居ても、信頼できる友、朋友がいなかった。彼はかつて魔道に心狂わせた男。妻子供も手にかけたような男に、心底心許せる者等いなかったのだろう。

 もし胡潤がいなければ、拳志郎だってちゃんと海を渡れていたかどうかわからない。見ず知らずの赤子を連れて海を渡り、どこにあるやも知れぬ怪しげな拳法寺院を探し出し、新婚夫婦に赤子を渡して修羅場を引き起こすなどという面倒くさいお使いを、誰が好んでやろうものか。胡潤と鉄心が出会ったのは、鉄心が寧波に入ってからだろうから、その関係はほとんど「旅行先で知り合った気の合うオッサン」程度のものだっただろう。にも関わらず、そんな大役を引き受け、そして結果的に北斗神拳の歴史を紡いだ胡潤老人こそが、蒼天の拳における「朋友」という存在の集大成なのでは無いだろうか。