第壱話 『呪縛の街』 |
第弐話 『禁じられた拳』 |
第参話 『男が哀しみを背負うとき』 |
登場人物 | 流派・奥義 | STAFF・CAST | 小説差込漫画 |
かつて世界は核の炎に包まれ、高度な文明の時代は終わりを迎えた。 水は放射能を含み、人を死に至らしめる毒の水へと変わった。 世界は力と力のぶつかり合いにより、新しい秩序を確立しようとしていた。 |
伝聞屋を生業とする男・トビは、自由の村の男たちと共に大地を掘っていた。そこに水が出るとの"情報"を売ることで、トビは彼らから報酬を貰う約束をかわしていたのである。だが念願の水を掘り当てたその時、彼等にむけて無数の矢が放たれた。襲ってきたのは、ラストランドと呼ばれる国の警備軍であった。水は全て"神"である己達のもの―――。そう宣いながら、次々に村人たちを殺害する警備軍。唯一生き残ったトビに向け、最後の矢が放たれたその時―――、突如現れた一人の男が、その危機を救った。飛来する矢を素手で掴んだその超人は、あの北斗神拳伝承者ケンシロウであった。 圧倒的な力で、次々と警備軍を蹴散らしていくケンシロウ。だが副長のギースは、全く臆することなくケンシロウの前に立ち、こう言い放った。俺が使うのは伝説の暗殺拳、北斗神拳だ―――。そう言って両手の鍵手を外し、自信満々にケンに殴りかかるギース。だがその拳は、一発としてケンに命中る事はなかった。そして次の瞬間、そっと額に指を添えられたギースは、頭部を異形に変形させ、爆ぜた。これぞ本物の北斗神拳―――。伝聞屋であるトビにとって、それを見抜く事は、容易なことであった。 |
城塞都市ラストランド。その国を創設し、支配していたのは、サンガという名の初老の男であった。彼は辺り水源を独占し、近隣の村人たちを奴隷として従える独裁者であった。ギースが殺されたとの報告を受けたサンガは、その犯人が向かったという"自由の村"への派兵を命じる。だが、サンガの真の狙いは他にあった。自由の村に住む"ある女"を捕らえる事が、彼の真の目的なのであった。 傷を負ったトビの治療のため、自由の村へと向かうケン達。その車内に飾られていた写真には、トビと、その弟ビスタが映っていた。二人はあの核戦争の中で生き別れになってしまったのだという。だがトビは信じていた。ビスタは必ずどこかで生きている―――。弟との再開を誓うそのトビの想いを聞いたケンは、あのリュウとの別れの日の事を思い出していた。 |
ラストランドの支配に抵抗する人々が作った村、『自由の村』。男手の帰りを心待ちにしていた村人達にとって、トビが持ち帰った報告は辛い事実であった。だが幼子のマインには、その事実を理解する事ができなかった。彼女の父親もまた、あの水を堀に出た一団の一人だったのである。そんな彼女を優しくなだめたのは、この村に住む医者、サーラであった。"奇跡の女"と呼ばれる彼女は、いまや数多くの人がその力を頼って自由の村に足を運ばせるほどの存在として知られている女であった。サーラが持つ奇跡の力―――。矢を受けたトビの傷を、痛みを感じさせずに治療したその手法は、北斗神拳の秘孔術に他ならなかった。北斗神拳は一子相伝。伝承者争いに敗れたものは拳を封じられるのが掟だが、知識は残り続ける。その知識を医学として活かし、伝えてきた一族の末裔・・・それがサーラなのであった。 その夜、トビのねぐらへと訪れていたケンは、ただならぬ血の臭いを嗅ぎ取った。二人が自由の村へと駆けつけたとき、既にそこは火の海と化していた。ローグ率いるラストランドの軍隊が、自由の村を壊滅させ、サーラを連れ去ったのである。その中には、あの幼きマインの変わり果てた姿も転がっていた。彼女が握り締めていた父のペンダントを手に、ケンは外道なるラストランドの壊滅を誓う・・・ |
何故自分を連れ去ったのか―――。サーラのその問いかけに対し、サンガは目の前でその"理由"を見せつけた。王であるサンガが跪いたのは、この国の"神"である少年、ドーハであった。サンガに促され、バルコニーに姿を現したドーハに、城下に集った民衆達の視線が集まる。次の瞬間、ドーハの手から眩いばかりの水が噴射し、民の頭上に降り注いだ。それはまさしく、ドーハが起こした「奇跡」であった。恐怖による統治では限界がある。真の支配とは民の肉体と魂を握り掴むこと―――。サンガにとって、サーラはそのために必要な「奇跡」を起こせる第二の"神"なのであった。 秘孔によってサーラの居場所を聞き出したケンとトビは、民が集まる歓喜の塔の前へ。そこでは、サンガによる「新たなる神」の誕生を見せ付けるためのパフォーマンスが行われようとしていた。民衆が見守る中、突如サンガは、一人の男の胸に剣を突きたてた。その男の傷をサーラに治させることにより、彼女を新たなる"神"として民に認識させようとしたのである。その企みを理解しながらも、サーラには男を見殺しにする事は出来なかった。俺は奇跡を見た!!傷の癒えた男がそう叫んだ瞬間、サーラは新たなる神として民の脳に刷り込まれたのであった。と、その時、もう一人の神であるドーハがバルコニーに姿を現した。それを見たトビは、驚愕した。神ドーハとしてそこに立っていたのは、トビの生き別れの弟・ビスタに間違いなかった。 数年前、とある廃墟で、サンガは少年に出合った。手品を披露する事で食糧を貰おうとするその少年は、記憶と言葉を失っていた。それが、今この国で神と崇められているドーハの正体であった。サンガはドーハの手品を"奇跡"として民を誑かし、圧倒的な権力を手に入れたのである。人を支配する事・・・それが、サンガが今の世に見出した唯一の快楽であった。そして今、サンガが必要としていたのは、ドーハによる虚像の奇跡ではなく、サーラのもつ実体のある奇跡なのであった。 |
その夜、サーラはドーハの眠る寝室へと忍び込んだ。用済みになればいずれドーハは見捨てられてしまう。そう考えたサーラは、秘孔でドーハの記憶を蘇らせ、彼を救おうとしたのである。だが彼女が秘孔を突いたその時、サンガの手が彼女の顔を叩いた。自らの野望をふいにせんとするサーラの行動に、激怒するサンガ。しかしその時、部下のローグが慌てて報告に駆けつけた。侵入者が―――そう言い終わらぬ内に、彼の身体は肉片へと変わっていた。 立ちはだかる兵士達を蹴散らしながら、城内を進むケンシロウとトビ。辿り付いた部屋では、気を失ったサーラを抱えるサンガの姿があった。名も知れぬ侵入者を排除せんと、自ら「神の拳」を称する拳法でケンシロウに襲い掛かるサンガ。先の先を読むという老獪な戦法を武器に、一方的にケンを攻め立てる。だが、次第にその顔からは自信の色が失せていった。完全に読みきっている"はず"の彼の拳は、ただの一度もケンに触れる事ができていなかったのである。サンガが追っていたのは、ケンの残像に過ぎなかったのであった。逆にケンの連撃を受け、吹き飛ばされたサンガは、その男の胸にある七つの傷を見て初めて理解した。己が相手にしていたのが、伝説の男であった事を。 そのとき、騒ぎを聞きつけたビスタが、王の間へと姿を現した。しかし、トビとの感動の再会は成らなかった。ケンの意識をそらすため、サンガがビスタに燭台を突き刺したのである。致命の傷を受け、その場に斃れこむビスタ。だが霞みゆくその目は、己を抱く「兄」の姿をとらえていた・・・。 サンガが逃げ込んだのは、地下水の流れる秘密の空洞であった。俺と手を組めばこの国も水も思いのままだ。自らの築き上げた帝国をエサに、ケンに結託を持ちかけるサンガ。しかしケンは、幼き血と涙の上に帝国を造り上げたサンガのやり方を、許すわけにはいかなかった。最後の抵抗の火炎放射攻撃を、岩を崩落させる事で破ったケンシロウは、怒りの形相でサンガの前に立つ。俺にも神はいるんだ・・・・。そう言って慈悲を求めるサンガに対し、ケンは言い放った。「お前を救う神はいない!!」。怒りの連撃を叩き込まれたサンガは、宙でその身を崩壊させ、自らが独占する水を赤く染めたのであった。 |
その頃―――、野望を抱く一人の男が、岩壁の上から帝国を見下ろしていた。その男の目的は、サンガの支配するラストランドを、その手中に治めることであった・・・。 |
<小説版とOVA版の違い> 小説版でのみ描かれたシーンや、OVA版で変更されたシーンなどを紹介。 ●ケンとトビの出会い ・ギースはOVAではラストランドの警備軍副長だが、小説では小さな村を支配している野盗団のボス。よってケンとトビの出会いのシーンは全く別ものになっている。 <小説版でのケンとトビの出会い> 用心棒という名目で村支配し、搾取を続けるギース野盗団。食糧を求めて村を訪れたケンシロウは、悪行を続けるギース軍に対し、拳を振るう。不思議な技で部下を葬ったケンに向かい、得意の鍵手で襲い掛かるギース。だがその巨体は、遥かに体格の劣るケンの連撃に吹っ飛ばされ、その身を破裂させた。伝聞屋として記事を売ることを生業とするトビは、伝説の男を目の前にして大興奮。ケンを車に乗せ、彼が向かうは、サーラなる女性が住む村であった。トビは、ケンの北斗神拳と、サーラの使う奇跡の力に、似たものを感じていたのだった。 ・トビの顔は、小説の挿絵ではサル顔。 ・自由の村の人々が水を掘りに来るなどというエピソードも無い。 ・小説版ではギース一味のボウガン攻撃もないので、トビも怪我はしない。 ・ギースが自らを北斗神拳の使い手だと名乗るシーンは無し。鍵手もはずさない。 ・OVAではトビを治療するためにサーラのもとへと向かうが、小説ではトビがケンシロウとサーラを会わせたいと思ったために向かう。運転もトビがする。 ●自由の村 ・小説では「自由の村」という名称は無し。多数の商店が立ち並ぶ活気のある街。 ・マインは登場せず。父親も。 ・ケンがサーラにユリアの面影を見る。 ・ケンがサーラの秘孔術を見るのは、トビの治療ではなく、老人の治療。 ・自由の村襲撃の知らせが届くのが、OVAではトビの家(夜)だが、小説では小高い丘(夕方) ・村を襲いサーラを連れ去ったのは、OVAではラストランドの軍隊だが、小説ではラストランドの国民達。神への狂信ゆえに、村人たちの攻撃を受けても痛みを感じない不死兵と化している。最後に残った二人は、ケンに口を割らせる秘孔「新一」を突かれる事を防ぐため、自らに刃を突きたて自害した。 ●ラストランド ・サンガが自らの配下の者達と拳を交えて鍛錬を行うというシーンがある。バズという名の若者のパワーに押されて本気になり、目潰しや踏み付けというルール違反を犯して完勝。変わらず服従する事を誓わせるが、それは一時的な屈服だと告げ、心臓を握りつぶし殺害。 ・ドーハの奇跡に見に来た少女を、3人のサンガ兵が"神の兵"という立場を利用して強姦しようとする。しかしケンシロウによって邪魔され、秘孔新一で城の情報を吐かされる。 ・トビは前に一度ラストランドを訪れたが、誰も外界に興味を示さなかったために情報が売れなかった。それ以来一度も行っていない。 ・サンガに刺される男はOVAでは必死で抵抗し、腹部を刺されたが、小説では目を閉じてすんなり受け入れ、右腕の上腕部を抉られた。またその後、バルコニーから身を躍らせて結局命を絶っている。 ・ドーハがコインに指を通すのを見たサーラは、トビの弟であることを確信する。 ・ドーハの寝室はOVAでは装飾のある綺麗な部屋だが、小説では無機質な石の部屋。 ・OVAではサンガが修練場にいるが、小説では修練場で暴れるケンのもとへサンガが現れる。 ・サンガとケンシロウのバトルがOVAと小説では全く内容が異なる。 OVAではサンガがケンシロウの先の先を読み次々と攻撃を繰り出すが、結局己が追っていたのはケンの残像だった事を知らされ、連続拳を受けて敗北。ビスタに燭台を突き刺して地下に逃げる。 小説では防御に重きを置いた戦い方で、ケンシロウの攻撃を悉くかわしながら隙を狙う戦法。しかし足を踏まれて動きを封じられ、下腕部の秘孔を突かれて骨が粉砕。更にハイキックや往復ビンタなどを食らわされ、敗北する。その後ヤケクソでビスタに槍を突き刺すが、地下には逃げず、その場でケンに致命の一撃を受けて死亡。 |
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