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忍棍妖破陣
にんこんようはじん



使用: ・名も無き修羅 (対 ケンシロウ)
 …北斗の拳(163話)
・名も泣き修羅 (対 ファルコ)
 …アニメ版(124話)
登場: 北斗の拳/アニメ版/パンチマニア/
真北斗無双/リバイブ/モバイル真・北斗無双


 伸縮自在の二本の棍を己の手足が如く扱う戦闘術。棍を伸ばして敵の頭上を取ったり、棍と蹴りの連続攻撃を仕掛けるなど、多彩な攻撃で相手を攻め立てる。

 名も無き修羅ケンシロウに対して使用し、意表をついた蹴りで肩当てを破壊する傷を負わせた。だがその後、交錯時に棍を切断され使用不能となった。
 また、ファルコがその拳の威を知っていたことから、先のファルコ戦でも使用したと考えられる。

 TVアニメ版では、そのファルコ戦の模様も描かれている。ほぼ一方的な展開でファルコを圧倒し、義足が外れて戦えなくなった後は、容赦なくその身を棍で殴り続けた。
 また、原作でケンシロウに使用したシーンが、アニメでは相手がファルコに変更されており、ほぼ同じ内容で破られている。





 北斗の拳において武器を使う拳法は冷遇されがちだ。そんな逆風の中で最も結果を残したのが、この忍棍妖破陣である。なんといってもファルコを倒したという実績は凄い。銃器でもない、鋭い刃も無い、たった二本の棒だけで、元斗皇拳最強の男を圧倒したのだ。相手が万全ではなかったとはいえ、偉業と言っていいだろう。


 棍を使う拳法といえば、他にはハブ野猿牙殺拳が思い出される。こちらも伸縮性の棍を用い、更には超人的な跳躍力、そして飛び回りやすい室内という地の利まであった。しかし、ケンシロウには全く歯が絶たなかった。なぜ野猿牙殺拳は通用せず、忍棍妖破陣は通用したのか。それは「意外性」の差である。




 闘いの流れを追ってみよう。まず砂蜘蛛が最初にとった行動は、棍棒を構えての突進。殴りかかってきた相手に対し、パンチで迎撃しようとしたケンシロウであったが、次の瞬間、砂蜘蛛は棍棒を伸ばしてケンの頭上をとっていた。いきなりのトリッキーな戦術にケンも焦ったのか、顔には冷や汗が見える。





 頭上をとった砂蜘蛛の選択肢として通常考えられるのは、そのまま上空から攻撃、もしくは鉄棒の大車輪のように回転して蹴るかの二択だろう。だが砂蜘蛛が選んだのは片方の棍棒を浮かして下方から殴りつけるという方法であった。またも意表を突かれたケンシロウであったが、なんとか紙一重で回避する。





 だが本命は最後の蹴りであった。直撃こそ避けたケンシロウであったが、肩当てを割られたその傷は中々の出血を負った。

 おそらくケンにとってこの蹴りは、全く頭に無かったのだろう。片方の棍を地面から浮かせた不安定な状態からの蹴りなど通常ではありえないからだ。歴戦の中で積み重ねられた経験則を持つ者だからこそ、このセオリー無視の攻撃は避けきれなかったのである。
 ハブのように、ただ高速で動き回ったとしても、ケンシロウの動体視力から逃れられる筈がない。必要なのは、相手の予測を外すこと。二重三重に相手の裏をかくこの「意外性」こそが、忍棍妖破陣の強みなのである。




 TVアニメ版では、また別の妙技を見ることができる。



 上の場面、ファルコ相手に頭上をとった砂蜘蛛は、背中側に回りながら踵蹴りを叩き込んだ。確かにそちら側に倒れた方がファルコの死角にはなる。だが同時に自身も相手を視認できない状態で攻撃しなければならず、リスクを伴う。通常なら腹側から回って蹴るのを選択したいところだろう。しかし彼はそういったリスクなど全く意に介さず、相手の裏をかける方を選び、見事なヒールキックを炸裂させた。砂蜘蛛の厭らしさが出た良い攻撃である。





 この場面も地味に凄い。単に攻撃を二発繰り出しただけのように見えるが、そうではない。最初の攻撃をあえて大振りし、ファルコの意識をそちらに向けることで、二発目の攻撃を命中させているのだ。もはやファルコの視線は完全に右に向き、正面からの突きなど全く見えていない。二発目を直突きにしたのも、一発目からの軌道の変化や緩急、そしてガードし難いという長所を考えての事だろう。センスが爆発している。





 これはファルコの飛び蹴りを、自らも蹴りで迎え撃ち、迎撃した場面。上空からの攻撃に対して蹴りを選択する発想も凄いが、棍を使って蹴りの打点を高くしているのが面白い。棍を己の手足とするという忍棍妖破陣の特性がよく表れているシーンである。

 その他にも、支える棍の片方を蹴られても全く崩れないボディバランスや、登場時に逆光を選んでいる等、砂蜘蛛の巧者ぶりが表現されている。名も無き男がファルコ程の強者に勝利できたのは、こういう繊細さの積み重ねがあったからなのだ。



 闘気の扱いに長けた元斗皇拳は、中距離をも己の間合いとする強力な拳だ。業を煮やして相手が間合いを詰めてきたところを奥義で撃退するという勝ちパターンが出来ている。だからこそ、自分の間合いで勝負できなかった時、元斗皇拳は脆い。中距離を保ちながら、予測不能な攻撃を仕掛けてくる忍棍妖破陣は、まさに元斗皇拳の天敵ともいうべき存在だったのだ。

 更にもう一つ、この戦法が威を発揮した理由として、「砂地」だったという点が挙げられる。走るにしても飛ぶにしても、砂地ではろくなパフォーマンスを発揮できない。だが長棍の上を移動する忍棍妖破陣なら、全くその不利を受けないのだ。
 思えば砂蜘蛛は、幼い頃から修羅の国の沿岸警備を任されていた。常に砂地での闘いを求められる彼が、生き抜くために編み出した戦闘術。それが破魔砂蜘蛛であり、千手魔破であり、そしてこの忍棍妖破陣という三種の神技だったのである。






 『真・北斗無双』では、二本の棍を高速で振り回し、何度も敵を殴りつけた後、最後に真横に薙ぎ払って吹っ飛ばすという技となっている。忍棍妖破陣の特性である多角的な攻撃が失われており、再現度は低い。





 スマホアプリ『北斗の拳 LEGENDS ReVIVE』では、原作で最初に見せた回転蹴りになっている。一度目の回転は原作同様に右手の棍だけで立ち、二回転目は両方をついて回っている。