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伐陀羅
ばっだら



流派: 孟古流妖禽掌
使用: カイゼル (対 シャチ)
登場: 北斗の拳(170話)/アニメ版(126話)/
北斗の拳3/リバイブ




 郡将カイゼルが使う孟古流妖禽掌の奥義。片手で強烈な突きを放つ。シャチに対して繰り出したが、相手が胸の古傷を狙ってきたため、攻撃を中断して防御へと切り替えた(すでに片腕を失っていたため)。ゆえに技の詳細は不明。




【解説】

 いわゆる不発奥義なので、どんな技だったのかは判らない。虎背熊牙盗で見せた闘気の拳なのか、例の臓器抜きをもう一度やりたかったのか、もしかしたら、両方をミックスさせた最終奥義とかだったりして。その場合、闘気の拳で筋肉をブチ破って体内をまさぐる……という事になりますね。神秘性もクソも無くなるけど、普通にそっちのほうが強い気もする。「痛みを感じさせない」なんて要らんかったんや!




 TVアニメ版でも、闘気を込めた貫手を真っすぐ突くという形で、目新しい発見は特にない。
 ちなみに原作での読みは「ばっだら」だが、アニメでは「ばつだら」と発音している。バッテラは塩鯖の押し寿司である。






 スマホアプリ『北斗の拳 LEGENDS ReVIVE』は、今のところ唯一、技が出きった際のモーションが確認できる作品となっている。ただ、抜き取った臓器を握り潰した瞬間、相手の体に連続で衝撃が走るというゲーム的な内容となっているので、あまり参考にはならない。そうはならんやろ。





●伐陀羅は何故に中断されたのか




 カイゼルは、この技でシャチに止めを刺そうとしていた。ならばそれに事足りる高威力の技だったと考えられる。その場合、賞賛すべきはシャチの度胸であろう。なんせその超破壊力の拳が目前に迫っているのに、彼は蹴りで応戦しているのだ。

 古傷を狙ったとはいえ、シャチの蹴りはただの蹴り。当たったとて命を奪える程ではない。かたやカイゼルの方は、高火力の拳を頭部へと放っている。直撃すれば即死は免れないだろう。シャチにとってあまりにも利の薄い選択だ。

 



 にもかかわらず、カイゼルはその蹴りを見て伐陀羅を中断。一本残った手を防御へとまわした。命を惜しまぬシャチの狂気が、敗色濃厚の状況を一変させたのである。お前は赤木しげるか。そういや二人とも白髪だわ。


 もしカイゼルが伐陀羅を中断しなければ、両者被弾の末、威力の差でカイゼルの勝利。悪くても相討ちだっただろう。しかし日和って技を中断したことで、防御も中途半端となり、側頭部に蹴りを被弾。続けざまの破摩独指を受けて敗北という結果となった。歴戦の雄とは思えぬ判断ミスである。


 一体なぜカイゼルは伐陀羅を中断するという判断に至ったのだろうか。もちろん、狙われたのが胸の古傷というのもあるだろう。ハンにやられたトラウマがフラッシュバックし、反射的にガードしてしまったとも考えられる。

 しかし私は、彼が「郡将」であった事に大きな理由があると考える。羅将に次ぐ「郡将」の称号は、修羅の国においてあまりに重い。一方の羅刹ことシャチは、最近深夜にイキってると噂のチンピラが如き存在。本来はカイゼルが出張るほどの相手ではないのである。だからこそ、カイゼルにとってこの戦いは絶対に負けられなかった。相討ちすら許されない。求められるのは「圧勝」のみ。既に片腕を失った今、これ以上の失態は許されない。そんな折に放たれた、古傷への蹴り。万が一これを受ければ、「ノーマルな蹴り一発で悶え苦しむ郡将様」という醜態を晒すことになる。そうなれば、将としてのカイゼルは死んだも同然。故に彼には、目前の勝利を先延ばしにしてでも、ガードを選ぶより他に道は無かったのである。勝ち星を積み重ね、郡将へと上り詰めたが故の気負いが、一瞬の判断を誤らせたのだ。




 作中には、カイゼルがそういう思考に至るようシャチが導いたかのような描写がある。伐陀羅を放つ直前、己が優勢な事に気分良くドヤるカイゼルに対し、わざわざシャチは「フ…さすがに千八百勝の修羅よ!」とヨイショしている。もしかするとこれはただの賛辞ではなく、改めてカイゼルに自分の実績や立場を認識させることで、この戦いが勝って当然のマッチメイクであることを印象付けようとしたのかもしれない。

 戦いの流れを見ても、自力ではカイゼルの方が上回っていた事は間違いない。だからこそシャチもボロに扮しての弱点探しなどを行っていたのだろう。来たるカイゼルとの闘いに向けて日々対策を練り続けたシャチが、最終的に辿り着いた勝ちへの道筋。それこそがカイゼルの背負う「郡将」という名の枷だったのかもしれない。



 以上の事から、この勝負はシャチの心理戦による勝利……と言いたいところではあるのだが、それを加味しても「伐陀羅って実際ヘボくない?」という思いもある。だってさぁ、まっすぐ突くだけですよ。さっきまで「すべてにクセがある!」だの「見切るまでもない!」だのハイレベルな攻防してたのに、なんかいきなり雑に技出したな〜って感じがするんですよね。なんかスピード感もないし、シャチも躱そうと思えば楽々躱せたんじゃないかなあ。

 まあ後にシャチも言ってますからね。「殺してもおらぬのに勝利を確信したがおまえの油断よ!」ってね。つまりこの技は、威力重視で隙の大きい油断塗れの技ということだろう。
 ただ、言うてもカイゼルさんは片腕を失っているわけで、失血量を考えれば長くは戦えない。状況的には早期の決着を狙いたいところであり、一発で決めたいという判断に至るのも仕方がないだろう。しかしそもそも片腕を失ったのも、シャチの策に嵌ったのが原因。もしや奴はそこまで読んでいたのか…?片腕を奪い、勝負を焦らせ、片腕でも出せる奥義・伐陀羅を誘発し、それに合わせて古傷を狙い、ガードを強い、蹴りの軌道を変化させ、そして破摩独指で決着まで、全てがシャチの筋書き通りだというのか…?凄すぎでしょ。赤木しげるじゃん。






●伐折羅像との関係


 この「伐陀羅」という技名に関して、一つ心当たりがある。薬師如来を信仰者を守護する十二体の武神「薬師十二神将」の一神に、「伐折羅(ばざら)」という名の神がいるのだ。伐陀羅とは一字違いである。




十二神将 伐折羅像


 七億の夜叉(悪魔)をひきつれ、仏法を守護するという夜叉王であり、梵語でvajra(ヴァジュラ)、大夜叉将軍や金剛大将と訳される。最も有名なのは、奈良県の新薬師寺に祀られている十二神将立像であろう。


正直、名前が似ているだけであまり関係なさそうに思えるが、実は結構大アリなのだ。2012年4月11日にBSプレミアムで放送された「極上美の饗宴」という番組に原哲夫御大がご出演された際、この新薬師寺の十二神将立像を訪ねておられるんです。そして数ある像の中でもこの伐折羅に最も注目され、伐折羅の表情、風体、構え方はまさに主人公のそれだと絶賛された挙句、スケッチまでされておられました。それ程までに思い入れのある神なのだから、その名を作品に拝借したという可能性は十二分にあるだろう。

その割にはショボめの技ではあるが……