ナダイへの復讐という共通の目的の下、密かに手を組んでいた三人。
「艶っぽい女」「ゴリラ」「緑」という、改めてみると
ドロンボー一味のような三人組であったが、本家のような絆は彼等の間に存在しなかった。
タルーガの凶弾は、「同志」である二人を容赦なく貫いたのだった。
タルーガの本当の狙い。
それはスフィア・シティの持つ
核の力。
それを我が物とするために、タルーガは「復讐」を口実にジャグレ、ライラと手を組み、ナダイをこの地へと誘き出したのであった。殺すためはなく、扉を開けさせるために。
その目的が果たされた今、タルーガにとってただの「手駒」に過ぎないジャグレとライラは、もはや用済みと化したのであった。
裏切りに次ぐ裏切り……。そしてジャグレ達の復讐までをも己の野望に利用せんとするタルーガに怒りを滾らせるケンシロウ。
そんな外道漢に鉄拳を叩き込まんと、タルーガに突進するケンであったが……
その拳が当たる瞬間、
突如タルーガの姿が消失。
気付いたとき、タルーガの姿はケンシロウの数メートル後方……
そこで彼は、ナダイに銃口を突きつけて勝利の笑みを浮かべていた。
は、疾い!!
ケンシロウが眼で追えないだと!?
何故こんな奴が羅将ハンクラスのスピードを!?
その秘密は、彼の服の下に隠されていた。
こ、これは……!!
サイボーグ!!
男児なら100%反応する魅惑のワード「サイボーグ!」
輝くメタリックボディにみんなが夢中「サイボーグ!」
最後は自爆して読者が涙するパターン「サイボーグ!」
その要素だけで人気投票上位入り確定のキラー設定「サイボーグ」……
まさかこんなクソミドリにそんなトキメキな秘密があろうとは……
あっ、もしかしてあの超スピードは、
加速装置だったとか……?
タルーガの身体は、その大半が
機械に覆われていた。
199X年。タルーガは核の炎によって体の半分以上を失った。その後、欠損箇所を機械で補うことで生き永らえた彼は、その機械の力を借り、人間の限界を超えた力を手に入れることに成功したのだった。
しかし、その一方で、機械には明確な弱点も存在する。
それは
「電気」
マシン系のモンスターが出現した際にはとりあえず
雷属性の攻撃を選択するというのは、最早ゲーム界における一般常識と言えるだろう。
<水にも弱いぞ!
つまりタルーガにとって
ナダイは唯一の天敵であるということ。
<ワシもな!海だから!
その相性の悪さ故に、タルーガはナダイを力で捻じ伏せることが出来なかった。故に彼は、ジャグレ達と結託してナダイを誘き出し、「自らの意思で」扉を開けてもらう必要があった。
その後、不要となったナダイを「他の誰か」に片付けてもらう必要があったタルーガは、ケンシロウの力に目をつけた。
今日ここでケンとナダイが闘い、ケンシロウが勝利したのも、タルーガの描いた筋書き通りだったのだ。
ううむ……目的や手段こそ外道極まりないが……
これは
見事な謀略だと言わざるを得ない。
どこぞのヘッポコ軍師のヘッポコ采配とは雲泥の差だ。
<うるせーバカ
しかし、褒めると大概ロクなことにならないのが世の常。
あまりに策がハマって気持ちよくなっちゃったのか、人質を取っている状況を忘れて、
全身で喜びを表現するという油断を犯してしまうタルーガ。
その隙をついて、
ナダイのバリバリが炸裂!
<プッ!
思わず
「びえええええ!!」と情けない声を出しちゃったタルーガは、激怒してナダイの脇腹を銃撃。そのままスフィア・シティの中へと逃亡するのだった。
<wwww
タルーガが向かったのは、核の発射装置のある
「奇跡の間」。
そして今、その部屋で起動装置を握っているのはユリア。
このままでは、核を手に入れるためにタルーガがユリアが殺すは必定。
最悪の事態を防ぐため、直ぐ様タルーガの後を追うケンシロウ。
だがその前に、彼はナダイに聴かねばならぬことがあった。
「……教えてくれナダイ。
あの透明のドームを閉めることはできるのか?」
スフィア・シティがドームを開いたのは、ミサイルを飛翔させるため。
逆に言えば、
ドームを閉じればミサイルは飛び立たない。
かつて核の炎を完全にシャットアウトしたほどの強度を持つドームならば、例え内部で核ミサイルが爆発したとしても、外の世界に被害が及ぶことは無い。そうケンシロウは考えたのである。
だがそれは、
ドームを閉じた者が確実に死ぬことを意味する。
人類の救済と引き換えに、ケンシロウとユリアの身体は、塵一つ残さずにこの世から消滅することになる。
だがケンシロウは、それでも構わなかった。
ユリアが生き残るには、世界を犠牲にするしかない。
しかし例えそうして生き残ったとしても、彼女は自ら命を絶つだろう。
シンの暴走に責を感じ、身を投げた、あの時のように。
つまり世界の行く末に関わらず、
最早ユリアが生き残る道は無い。
ならば彼女は、己の命と引き換えに、世界を救う方選ぶだろう。
そしてそんな女だからこそ、ケンは心の底から彼女を愛した。
最後にユリアと会い、たった一言を伝える。
ただそれだけ……その願いさえ叶うならば……
もはやケンシロウには一片の悔いも無かった。
死を賭した最後の戦いに向け、スフィア・シティを進むケンシロウ。
その行く手に立ちはだかるは、
凶王軍の大軍勢。
しかし、所詮彼らはナダイにコントロールされていただけの野盗。
そこには信念も、誇りも、そして将への忠誠心もありはしない。
彼らがエデンを翻弄できたのは、凶王として彼らを導いたナダイの優れた戦術があったからこそ。そんな優秀なる頭を失った今の彼らは、ただの烏合の衆。もはやケンシロウの敵ではなかった。
だがそれでも、時間稼ぎとしては十分……
「奇跡の間」へと先着したのは、タルーガの方であった。
だが、ユリアはまだ生きていた。
タルーガは、最初からユリアを殺すつもりなどなかった。
タルーガが抱く真の野望。
それは
「支配」ではなく
「浄化」
199X年、世界は核の炎に包まれた。
しかし、その叡智の炎がもたらしたのは混沌の世界。
強きものが弱きものを虐げる、獣が支配する醜悪なる世界。
何故こんな世界が生まれたのか。
それは
「火力」が足りなかったから。
「強き者だけが生き残る炎」では足りない。
タルーガが求めるのは
「全ての人間を焼き尽くす炎」
ユリアをこのまま目覚めさせ、今一度世界を核の炎で包む。
生き残るのは、この奇跡の間にいる人間。即ち、タルーガとユリア。
その二人の間に子を儲け、その子孫たちが新たなる人類史を築いていく。
それこそがタルーガの真の野望。高邁なる姦計。
そして
「汚物は消毒」という概念の究極系。
「聖帝も拳王もいない新しい世界で……」
「俺は……神となる」
かつて「核」により身体の半分以上を喪失したタルーガ。
そんな男が今「核」の力で世界をリセットし、神になろうとしている。
これは「核」への、そしてそれを作った「人間」への復讐なのか。
それとも、もう彼は壊れてしまっているのか――――――。
タルーガの真意は判らない。
だが彼が野望を実現するには、超えねばならぬ壁がある。
第64代北斗神拳伝承者 ケンシロウ。
こことは違う世界で、「神」を目指した者達を倒してきた男。
北斗神拳は、時代に平安をもたらす英雄の守護拳。
その伝承者として、世界を破滅させんとする者を見逃すことはできない。
そしてなにより
「ユリアと子作りする」と宣言したこの男を
死んでも許すわけにはいかない。
ユリアの貞操をかけた、ある意味ケンシロウにとって過去最大級の
絶対に負けられない戦いが、始まろうとしていた。
次回、最終回!!