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劉宗武編

 流飛燕との激闘が終わって暫くの後―――。ある一人の暗殺者が、ドイツから上海へと呼び戻されていた。彼の名は劉宗武。北斗三家拳最後の一つ、北斗劉家拳の伝承者であった。だが彼にとってその拳は、時代の英雄を殺し、歴史を弄ぶための手段に過ぎなかった。

 そんな彼を上海へと呼んだのは、同じドイツ国防軍の大佐、エドモンドヘッケラーであった。彼が持つもう一つの顔……それは、ドイツの兵器を世界に売りさばく、武器商人としての素性であった。この世に戦場が多いほど兵器が売れるは必然。故にヘッケラーは、この世に戦争を齎す劉宗武の拳を必要としたのである。平和な世を望まぬ二人の男の手によって、今上海は血の海に染められようとしていた。

 その頃、玉玲は単身日本を訪れていた。拳志郎の妻として、霞鉄心の下へ挨拶へと訪れた玉玲は、まだ日本に帰ることは出来ないという拳志郎の意思を伝える。鉄心は、その意味を理解していた。拳志郎がやろうとしていること、それは天授の儀。北斗神拳に伝承者無き時は、これを北斗劉家拳より出す。それが北斗の掟……。拳志郎にとって、北斗劉家拳の者との死合は、真の北斗神拳伝承者となるに避けられぬ宿命なのであった。

  拳志郎の前に現れた一人の女僧、夏文麗。彼女はかつて劉宗武に捨てられた、北斗劉家拳の女であった。彼女の願い、それは拳志郎に劉宗武を殺してもらう事であった。この世に平和をもたらすのが北斗神拳伝承者の使命……。ならば戦争を齎そうとする劉宗武を倒すは貴方の宿命―――。そう説く夏文麗であったが、拳志郎は、彼女の目に宿る宗武への愛を見抜いていた。愛を否定する宗武から、乳房を抉り取られた今でも、彼女は宗武を愛し続けていたのであった。


 その頃、日本と中国の戦争をこれ以上拡大させぬため、北大路はある人物を密使として送ろうとしていた。鮫島義山。かつて孫文の中国革命を支えたその人物は、蒋介石が会うことを承諾した唯一の日本人であった。だが、その北大路の希望を絶ったのは、刺客として鮫島の前に現れた、劉宗武であった。

 何故和平への道を阻むのか―――。その鮫島の質問に、宗武は答えた。かつて宗武は、ハンス・ゼークトの命を受け、ヒトラーを暗殺しようとした事があった。だがそこで宗武が見たのは、神と呼ばれる男とは程遠い、威光の欠片も無い男の姿であった。この男を殺したところで、戦乱の時代は終わらない。天は戦乱の世を望んでいる―――。そう確信した宗武は、自らの手で、戦乱の世を作り出す事を選んだのだった。そんな宗武にとって、今目の前にいる鮫島は、まさに殺すに値する男であった。

 自分やギーズの夢も全ては徒労だったのか―――。死んだ鮫島の亡骸を前に、己の無力さを嘆く北大路。その友の哀しみを受け、拳志郎は、劉宗武との戦いを決意する。数日後、宗武の目の前で、突如帰還したドイツ兵が爆死した。それは拳志郎から送りつけられた、宗武への挑戦状であった。

 拳志郎と宗武の最初の対面は、ギーズの墓の前であった。朋友ギーズの生き様を否定し、墓石を破壊する宗武に、怒りの一撃を放つ拳志郎。だが宗武の剛腕は、その攻撃を圧倒的な力で打ち返した。吹っ飛ばされ、動かなくなった拳志郎に向け、止めの拳を振り上げる宗武。だがその時、宗武の拳法家としての本能が、それを思いとどまらせた。拳志郎の中に潜む闇……そこから漂うただならぬ殺気を、宗武は感じ取っていたのである。宗武が恐れたもの……それは、無想のうちに放たれる回避不能の拳、北斗神拳究極奥義 無想転生の存在であった。

 互いに一歩も譲らぬ壮絶な殴り合いを展開する二人。スピード、パワー、技能、全てにおいて互角の二人に、優劣を分けるものは無かった。そして放たれた最後の一撃が、互いの致命の秘孔を外れた瞬間、もはや二人には闘いを続ける力は残されていなかった。

 その膠着状態を打ち破ったのは、現場へと駆けつけた流飛燕であった。国民党が迫っているとの報せを受けた二人は、一先ず決着を預ける事を約束し、その場に崩れ落ちた。北斗神拳と北斗劉家拳。その決着は、天授の儀という宿命の時へと続いていくのであった。



・ドイツ将校 劉宗武、中国へと帰国。北斗劉家拳の伝承者。
見た目だけでいうと拳王様の祖先に間違いないんだけど、拳王様が北斗宗家の血を引いてるのに対し、宗武はただの金貸し屋の息子なんだよなあ。まあ彼の父・劉宗建が実は宗家の血族だったとかいう妄想も出来るっちゃ出来るんだけど、唐の時代に日本へと渡った三兄弟の中にも若き日の拳王様にそっくりな方がいるんですよね。おそらくこの世界では珍しい系統の顔ではないのでしょうきっと。
・北斗神拳に伝承者なきときはこれを劉家拳より出す。北斗劉家拳は別名を北斗琉拳と呼び、その掟ゆえに後にラオウ、トキ、ケンシロウの三人が北斗琉拳の伝承者より日本へと送り込まれた。
この台詞から察すると、ケンシロウも劉家門の生まれだと言う事になる。リュウケンのいる日本の寺院で生まれているにも関わらず、である。つうことは「劉家門の者が日本滞在中に産気づいて、そこでケンシロウを生んで、後にその子を連れて修羅の国に戻った」ってことになのだろうか。
・ジュウケイ、戦争に巻き込まれて妹を失う。後の北斗琉拳伝承者。
まさかのジュウケイ登場! 北斗劉家拳=北斗琉拳ってことは、このあと劉宗武がジュウケイを弟子にとるって事なんでしょうか。宗武も何回か飛燕の教会訪れてたから、面識くらいはあってもおかしくないよね。気になるのは同い年くらいのエリカとの関係ですが・・・もしこの後ジュウケイと結婚したとすると、エリカも子供も魔界に入ったジュウケイの魔闘気に巻き込まれて蒸化されちゃうんだよねえ・・・
・拳志郎、ジュウケイに羅龍盤を託す
こんとき確かにジュウケイに渡したはずなのに、後の天授の儀の直前、例の道士がまたヒョイっと取り出してるんですよね。実は何個もあるとか?あとどうでもいいけど、ジュウケイってこんなん持ってる割にはミスチョイスが多かったよね。拳さんがちゃんと使い方教えてあげないからだよ。
・宗武はかつて文麗に己を忘れさせるため、その乳房を抉り取った
・・・の割にはえらく巨乳な膨らみですよね。おそらく詰め物か、服にそういうパットが付いてるのかだと思うんですが、それにしたってそんな巨乳に見せんでも・・・。ちょっと失くす前より何割か増してたりしません?
・宗武はかつてヒトラーを暗殺するために寝室へと忍び込んだが、そのあまりの霊気のなさを見て、自らの拳の使い方に無意味さを感じる。
ゼークトが中国からドイツに戻ったのが1935年の3月。宗武もこの時一緒にドイツに渡ったのだろう。で、拳志郎と飛燕の死合いが終わったのが1937年の中ごろなので、この2年半の何処かでヒトラー暗殺計画が行われたのではないかと思われる。
・宗武、ギーズの墓参りへと訪れた拳志郎の前に現れる。
太炎は一度でも来た事あるのだろうか?ヤサカはちゃんと飛燕の墓にいったぞ。お前もちゃんと参れよ。
・宗武、拳志郎に止めの一撃を振り上げるも、そこに深い闇をみて躊躇。北斗神拳究極奥義・無想転生の一端を見る。
北斗の拳じゃ「未だかつて無想転生を体得した者はいない」との事だったのに、なんで拳志郎は使うことが出来たのだろうか。疑問に思う方もいるかもしれないが、これは簡単な話だ。要するに「体得」はしていないが、「使った」者は居たのだ。そもそもこの世に姿も見せたこと無いようなもんが究極奥義として伝えられるはずがないじゃないか。きっと拳志郎以前にも無想転生を「使った」事がある伝承者は何人かいたのだろう。ちなみに堀江信彦氏によると、ケンシロウも無想転生を「体得」はしていないとの事らしい。
・拳志郎と宗武の戦いは引き分けに。
容姿が拳王様そっくりだなーと思ったら、初戦の決着のしかたまでソックリなんだもんなー。歴史は繰り返すですなー。


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