
1936年 南京。集められた国民党軍の重鎮達は、羅将軍を殺した閻王への報復の方法について話し合っていた。拳法には拳法で応ずるのが中国人の誇り―――。その蒋介石の一言を受け、党の組織部長・陳立夫は、ある一人の男の名前を挙げた。彼の名は流飛燕。普段は物資輸送を生業とするその男の正体は、馬賊たちから"死鳥鬼"と呼ばれ恐れられる、極十字聖拳の使い手であった。
その頃、上海では、一人の男が拳志郎に勝負を挑んできていた。男の名は彪白鳳。流飛燕が閻王抹殺の指令を受けなかったため、その代役として放たれた、飛燕の兄弟子であった。野次馬達が見守る中、路上喧嘩とは呼べぬ程の凄まじい攻防を繰り広げる二人。だが決着を待たずして、白鳳はその場を後にした。己の拳を避けようともせず、倒れてきた街灯から子供を庇った拳志郎の姿に、白鳳の仁義はそれ以上の攻撃を許さなかったのであった。
闇に乗じて勝負を挑んできた流飛燕を、北斗孫家拳で迎え撃つギーズ。だがギーズの力では、飛燕の鋭い拳を躱す事は出来なかった。致命の傷を受けたギーズは、最期に飛燕にこう告げた。お前が安心してエリカを託す事のできる男は、霞拳志郎を置いて他にない―――と。その後、駆けつけた拳志郎に全ての事情を話したギーズは、朋友達に見守られながら、静かにその生涯を終えたのであった。
拳志郎と闘う意思を固めた飛燕であったが、その優先権を主張したのは、兄弟子の彪白鳳であった。北斗神拳を超え、極十字聖拳を最強の拳にすること―――。それは彼らの師父である魏瑞鷹から受け継がれる、極十字の悲願だったのである。だが、その白鳳の思いは、突如飛来した無数の銃弾によって閉ざされた。彼らが潜むアジトは、既に希望の目録を狙うナチス軍に包囲されていたのである。しかし、そんな飛燕たちの危機を救ったのは、突如壁を破って現れた拳志郎であった。ギーズの死を無駄にしないためにも、拳志郎は今ここで飛燕とエリカを死なせるわけにはいかなかったのだった。
極十字聖拳の真の強さ……それは完璧なる受け技にあった。千に及ぶ飛燕の手は、拳志郎の連続拳を全て防いでしまうほどの完璧な防御を誇っていたのである。だが全ての拳を止めたと思った次の瞬間、飛燕の左肩が音を立てて爆ぜた。北斗神拳奥義 天破活殺―――。指先に闘気を込め、触れずして秘孔を突くその奥義の前には、鉄壁の防御も通用しなかったのであった。
エリカを頼む。そう拳志郎に告げ、自らの致命の秘孔を突こうとする飛燕。だがその指は、エリカの悲痛な叫びによって止められた。もはやエリカにとって飛燕は、実の父親以上に大切な存在となっていたのである。己ではエリカを幸せにする事はできない……そう思いながらも、飛燕には駆け寄ってくるエリカを抱きしめずにはいられなかった。それを見た拳志郎は、飛燕に突いた致命の秘孔を解除した。死鳥鬼と呼ばれた男が選んだ道…それはエリカと共に歩む新たな道。飛燕はまだ死ぬべき男ではない。拳志郎には、そんな天からのギーズの声が聞こえていた。
|
| ≪章烈山編 | 劉宗武編≫ |