
なんとか命を繋ぎとめた潘光琳であったが、立つ事すらできぬその身体では、青幇の御大を続ける事はできなかった。その後釜として葉が推薦した人物……それは、舞い戻ってきたばかりの玉玲であった。女頭目として馬賊を纏め上げた実績のある彼女は、まさに組織を率いるに相応しい"カリスマ性"を備えていたのである。突然の言葉にうろたえる玉玲であったが、彼女自身、それが運命である事を理解していた。2年間、馬賊の頭として生きた自分には、もはや普通の生き方は出来ない……。重い宿命を背負い、血塗られた道を歩もうとする玉玲に、拳志郎はその"夫"として、運命を共にする事を約束するのだった。
潘が倒れた今を好機とばかりに、遂に章元帥が動き出そうとしていた。章の目論見……それは、各地から呼び寄せた馬賊達を手懐け、"第二紅華会"として仕立て上げる事であった。そして、それを成せるだけの人物を、章はすでに上海へと呼び寄せていた。抗日の英雄として知られる伝説の馬賊将軍、羅虎城。章烈山と対照的な、驚くほど小さな体躯を持つその人物こそが、章が用意した新たなる紅華会の頭であった。
数日後、羅将軍から異常なもてなしを受ける章烈山は、すぐにこれが罠である事を見抜いていた。だが、目の前に閻王が現れても、章に焦りは無かった。己は生まれながらに強い―――。相手が北斗神拳であろうとも、その数倍の体躯をもつ自分が負けるはずは無いと考えていたのである。爆弾が如き破壊力を持つ巨大な釵で、矢継ぎ早に拳志郎を攻め立てる章烈山。だがその中で拳志郎は、章の眼に宿る、死への恐怖を見抜いていた。それは、かつて父・章大厳が、烈山に北斗曹家拳を伝承しなかった理由でもあった。拳志郎がその眼に静寂なる殺意を込めたとき―――、死を感じた章烈山からは、もはや完全に戦意が失われていた。
それは父・大厳の願いでもあった。彼が烈山に北斗曹家拳を伝承しなかった真の理由……それは、烈山が父・大厳を愛していたからであった。北斗曹家拳は、師との命を賭した闘いの果てに伝承を許される拳。既にその大厳も、張太炎と闘いの果てに、命を落としていた。だが優しき烈山には、自らの父を殺す事など出来る筈が無い―――。それを見抜いていたが故に、大厳は烈山を突き放し続けていたのだった。
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| ≪再会編 | 流飛燕編≫ |