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再会編

 紅華会が事実上の最期を迎えていたその頃―――。上海の上空に、落下傘をつけた大きな影が現れた。紅華会の御大・章烈山が、遂に上海の町へと乗り込んできたのである。だが章が向かったのは、太炎達がいる港ではなった。彼にとって優先すべきは、弟・太炎を救うことではなく、青幇の壊滅と、李秀宝を手に入れることであった。

 章元帥から身を隠さんと日本大使館へと向かう李秀宝は、ある店に飾られていた一枚の写真に目を奪われた。そこに写っていたのは、通師である拳崎と、その横で笑う自らの姿であった。失われた過去の記憶がこの上海にある―――。そう確信する秀宝であったが、拳崎はそんな彼女にこう告げた。

「俺は あんたのことなんか知らない!!」

 自らの力で記憶を取り戻さねば意味がない。拳志郎にとってそれは、あまりにも辛い決断であった。だがその秀宝の確信は、日に日に強まっていった。次々と現れる章の刺客を、からかうように蹴散らしていく拳志郎の姿―――。それと同じような光景を、秀宝は過去に幾度となく目にした覚えがあった。

 李秀宝と青幇に向けた章元帥の攻撃は、日を追うごとに強まっていった。だが拳志郎の護衛の甲斐もあり、李秀宝は、遂に日本軍への帰順の日を迎えることとなった。だがそれは同時に、李秀宝に処刑の決定が下されるという事でもあった。なんとか彼女を助けたい。そう願う北大路であったが、その交渉相手である大川中将に、決定を覆す意思は無かった。抗日運動のシンボルである李秀宝は、罪を見逃すにはあまりにも有名すぎる存在だったのであった。

 迎えた運命の日―――。目覚めた大川は、何者かによって届けられた"贈り物"の存在に気がついた。それは、彼の息子の殺した馬賊・宇占海の首と、自らの胸に残された北斗七星の血痕であった。それは、「彼女を殺すな」という、死神からの手土産に他ならなかった。

 死神からの脅しを受けても、大川の確固たる決意は揺らぎはしなかった。対面した李秀宝の美しさに驚きながらも、当初の決定通り、処刑を言い渡そうとする大川。だがその時、彼の胸の七つの痕が、彼の身体に激痛を走らせた。その痛みも、宇占海の生首も、全ては秀宝の背後にいる通師・拳志郎の仕業だったのである。閻王を突き動かしたのは、この美しき女への恋。それを知った大川は、大きな笑い声とともにこう告げた。全てを許そう。武士の心を持って―――と。大川の心を動かしたもの……それは閻王からの脅しではなく、死神をも惚れさせた李秀宝の笑顔であった。

 その日、潘の店では、李秀宝の生還を祝う宴が開かれていた。そこには、料理長に扮した潘光琳の姿もあった。兄として名乗り出ることができないもどかしさを感じながらも、妹の命が救われたことに、何よりも喜びを噛み締める潘。だがその時、自室で一人になった潘を、章の刺客の凶弾が襲った。全身を銃弾で撃ち抜かれた潘は、途絶えそうな意識の中、駆けつけた妹の名を呼んだ。玉玲―――と。


 医者もサジを投げるほどの昏睡状態にありながらも、潘の命の灯はまだ消えてはいなかった。願いを込めた秘孔に、僅かな希望を託し、潘の奇跡の復活を待ち続ける拳志郎。そして今、拳志郎は、もうひとつの奇跡を起こそうとしていた。己と潘、そして玉玲の思い出の地、平安飯店。三人を引き裂いた非情の運命が、今ひとつの終わりを迎えようとしていた。

 店を訪れた李秀宝は、目に飛び込むもの全てが懐かしいような感覚に襲われていた。聞き覚えのあるピアノの曲… 幼馴染である楊美玉との思い出… そして青幇の仲間達の顔ぶれ…。失われた記憶が、次々と彼女の中に蘇る。残るは今ピアノを弾く、己の"恋人"の名前だけ―――。突如現れた章の刺客が、その"恋人"に向けて刀を振り下ろした瞬間、玉玲は無意識に叫んだ。

「拳志郎!!」

 刺客を撃退し、玉玲の前に立ったその男は、紛れもなく彼女の恋人、霞拳志郎であった。溢れ出る涙と共に、彼女は全てを思い出していた。拳志郎への想いも、そして黙って彼が上海を去ったあの日の哀しみも。数々の運命を乗り越えた二人は、遂に今、真の再会を果たしたのであった。




・大川中将、北大路剛士と面会。南方視察の帰りに上海に寄った。
あれー、67話じゃ奉天から上海に来るって言ってたんだけどなあ。奉天って満州だから、南方というよりは北方になるはずなんだが・・・
・李秀宝、過去の自分を探すために上海の街中へ
TVアニメ版じゃ拳志郎が力車の引き手になって、本格的に上海を漫遊しちゃうんですよね。龍華寺や多倫路文化名人街といった実在の観光地とか、宗武がヤサカにやられた上海競馬場とかにまで足を延ばしちゃいます。馬券はハズれたぽいですけど。
・北大路、紅華会の隆盛と衰退の時期などから、拳志郎が閻王である事を見抜く。更には李秀宝こそが、彼が愛した女性である事も。
ここの北大路さんの推理タイムはかなりカッコイイ。頭冴えすぎ。蒼天の拳ってやっぱりメインキャストが殆ど中国人なんで、日本は敵役な描かれ方をしてるんですが、その反動なのか、この人だけ特別にカッコ良く描かれてる感じがするんですよね。
・潘光琳、章元帥の刺客に銃撃され、上海華福病院に運ばれる
なんでフランス陸軍病院に運ばなかったんだろう・・・?葉とかソフィーとかも入院してた実績ある病院なのに。わざわざあんなイヤミったらしい医者がいるこんなとこに運ぶ必要性がないよね。・・・もしかしてソフィーの爆弾事件で閉鎖しちゃったとか?
・李秀宝、女神像の裏に隠してあったかつての恋人(拳志郎)からの手紙を見つける
玉玲って初期の方では字の読み書きが出来ないって設定だったんですけどなあ。ちょっと前には料理長の潘からのまた食べに来てください的なお便りも普通に読んでたし。ちなみにTVアニメ版では手紙をもらうたびに楊美玉のところにいって読んでもらってたという設定が加えられてました。作画はクソだけど、たまにいい追加シーンがあるんだよな、アニメ版。
・李秀宝、平和飯店へ。かつてこの店で開かれていたパーティーの様子がフラッシュバックし、徐々に記憶を取り戻す。
TVアニメ版では拳志郎と玉玲の結婚前夜のパーティーという設定になってまして、あの李永健おじいちゃんや、五叉門党にあっさり殺された宋全徳さんなんかもゲスト出演しています。必見!
・玉玲、全ての記憶を思い出し、拳志郎と涙の再会。
TVアニメ版ではここがラストシーンとなってるんですよね。まあ確かにこのシーンは蒼天の拳の中でも天授の儀のシーンに次ぐ山場であり、一番泣けるシーンでもあるので、キリがいいっちゃキリがいいんですが・・・・その所為で、アニメのラストの3話はほとんど戦闘シーンが無いんですよね・・・


≪張太炎編 章烈山編