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張太炎編

 紅華会の後ろ盾であったジャン・カルネ巡査総長。黄西飛と繋がっていたインチキ司祭。そして霊王を殺した田学芳。紅華会に組する者たちへの粛清の嵐は、青幇の復活広告として上海に吹き荒れた。だがそれは同時に、拳志郎が上海に留まる理由が無くなったという意味でもあった。しかしそんな時、拳志郎の前に、かつて出会ったあの謎の道士が姿を現した。この大陸で強き男達と出会うがいい。そう言い残し、道士は煙のように拳志郎の前から姿を消したのだった。

 その頃、ギーズは、あの拳志郎の友人でもある北大路剛士と顔を合わせていた。二人が共に描く夢……それは、この上海に、行き場の無い流民達のための安息の地を建設する事であった。ギーズにそれを思い立たせたのは、妹・ソフィーの存在であった。ユダヤ人への弾圧強まるドイツから逃亡した彼女は、その道中に恋人を殺され、記憶を失っていたのである。新国家創設という危険な夢を追う間、俺に代わって妹の命を守って欲しい。そのギーズの願いを、拳志郎は快く引き受けた。拳志郎にとって、大恩あるギーズもまた、彼の大切な朋友の一人となっていたのであった。

 上海の遥か南の地、西湖。杭州一の色町であるその地では、生き残った紅華会の面々が、復活に向けて動き出そうとしていた。彼等がこの地へと訪れたのは、紅華会の二番頭・張太炎の力を頼るためであった。女を抱くことにしか興味がないその虚け者は、北斗三家拳の一つ・北斗曹家拳の使い手であった。

 その頃、上海の病院では、奇跡が起ころうとしていた。拳志郎が突いた秘孔により、ソフィーが記憶を取り戻し始めたのである。だがギーズの歓喜は、直ぐに絶望へと変わった。彼の目の前で、ソフィーのいた病室が爆破されたのである。悲しみに暮れるギーズ達に向け、死の宣告"堕天掌"を送っていたのは、あの張太炎であった。朋友の無念を心に刻み、拳志郎は太炎のへの復讐を心に誓う……。

 翌日、拳志郎が訪れたのは、上海一の女郎屋「桃華荘」であった。この店にいる太炎の女・梨花の話から、太炎の情報を得ようと考えたのである。だが聞き出すまでも無く、太炎は不敵に笑いながら拳志郎の目の前に現れた。互いの力量を計るかのように、梨花を間に挟んでの凄まじい攻防を繰り広げる二人。だが爆破で大怪我を負った拳志郎の身体は、とても万全で闘えるような状態ではなかった。こんな死にかけを倒しても俺の拳が泣くだけだ。そう言って桃華荘を後にした太炎であったが、その身体には、拳志郎の強さを証明する傷が残されていた。

 上海を再び紅華会の手に取り戻すため、張太炎は、自らの"兄"に協力を持ちかけた。その者の名は章烈山。国民党西北軍の総司令でありながら、紅華会の御大を務める、天を突かんばかりの巨漢であった。
 紅華会の新戦力として章烈山が送り込んできたのは、辺境の馬賊達であった。そんな中、章が自らの嫁と称する女馬賊・李秀宝もまた、上海へと足を踏み入れていた。彼女が現れた場に偶然居合わせた拳志郎は、残しされたその匂いに衝撃を走らせた。懐かしきその香りは、行方不明となっていた恋人・玉玲のものに他ならなかった。

 李秀宝が訪ねたのは、章元帥ではなく、日本人である北大路剛士であった。日本軍に攻撃され、壊滅間近に追い込まれていた彼女達は、救援を送ってくれない章元帥を見限り、日本軍に帰順する道を選んだのである。それは、部下達の命と引き換えに自らの首を差し出すという、彼女の覚悟に他ならなかった。
 数日後、李秀宝の下に、日本軍との交渉役を務める通師が現れた。拳崎志郎と名乗ったその男の正体は、拳志郎であった。霊王が残した秘雷孔の術により、玉玲の記憶を取り戻すことが出来ない拳志郎には、こうして近付く以外に彼女を守る方法が無かったのであった。

 一方その頃、張太炎は、青幇壊滅に向けた大きな作戦を展開しようとしていた。青幇が阿片を溜め込んでいる倉庫に、ペスト菌を持ったノミをばら撒くことで、敵の資金源を凍結させようと考えたのである。だがその動きは、既に閻王たちの耳にも届けられていた。倉庫に忍び込んだ刺客を捕らえた拳志郎は、彼に全てのペストノミを飲ませ、張太炎の下へと案内させるのだった。

 十六舗碼頭に停泊する巨大な商業船。そこが、紅華会の生き残り達が潜む最後の砦であった。炎に包まれゆくその船内で、二人の北斗が対峙する。だが、張太炎が放った奥義は、北斗曹家拳のものではなかった。太炎の拳は、北斗曹家拳伝承者である父・章大厳を殺すために練り上げられたものだったのである。幼き頃、目の前で大厳に母を殺された太炎は、その復讐を果たすため、独自に拳を磨き続けてきたのであった。

 爆龍陽炎突、幻夢百奇脚といった独自の奥義で、拳志郎を一方的に攻め立てる張太炎。だが、北斗神拳の凄まじさは、太炎の想像を遥かに超えていた。獣のごとき速度で移動する奥義・雷暴神脚と、卓越した動体視力が合わさったとき、もはや太炎の奥義は拳志郎の身体に触れることすらできなかった。太炎が作り上げたのは、父・大厳を殺すためだけに編み出された奇襲の拳。憎しみによって練り上げられた奇拳では、闘神の拳である北斗神拳に及ぶはずもなかったのであった。



 敗北した太炎が死を選ぼうとしたその時―――、それを止めたのは、北斗曹家拳の精鋭部隊「五叉門党」の者達であった。彼等が命をかけて太炎を守る理由……それは全て章大厳の命令によるものであった。大厳は、太炎から向けられる己への憎しみを見抜いていた。だが大厳は、それを知った上であえて太炎の北斗曹家拳を伝授したのだった。太炎がいつか己を倒し、真の北斗曹家拳伝承者となる事を信じて―――。章大厳と闘うその日まで、太炎は死ぬべき男ではない。その思いを汲み取ったギーズは、太炎の顔に十字の傷を刻みこんだ。それは、妹ソフィーを殺した罪を背負って生きろという、ギーズからの戒めの傷であった。


 イタチの陳が戦場へと突撃したとき、既に北斗の戦いは幕を降ろしていた。その場で太炎から新・二番頭の座を譲り受け、喜びの涙を流す陳であったが、彼にこの沈みゆく船から脱出するだけの肺活量などあるはずも無かった。そして、逃亡した幹部達もまた、取り囲む青幇達によって皆殺しにされていた。それは、永きに渡る青幇と紅華会の戦争が、遂に終結した事を意味していた。



・カルネ、船の中で潘光琳に暗殺される。
TVアニメ版じゃこのあと、カルネの死体が黄浦江に浮かべられてるんですよね。先代のフランス租界巡査総長であるジタンダールも、娼婦と一緒に黄浦江に浮かべられてたから、それになぞらえたんだろうか。
・玉玲、李秀宝として馬賊に転身
いくら王欖把とかに鍛えられたからって、2年やそこらであそこまでの技術と度量が身につくもんかしらねえ。これも血統のなせるわざなのかね。流石はヤクザの幇主の妹と言うべきか。
・道士、指突きでコップに穴を開ける。拳志郎も真似するが割れる
これは後の天授の儀で、劉宗武の掌を貫通したのシーンの複線になっている・・・のだろうか?この時はまだグラスもまともに貫通できなかったけど、強敵との死闘によって成長して、遂には拳で相手の防御を貫通させられるまでになりました、ってな感じで。
・バーのマスター、道士を見えていると答えるが、数刻後にはそんな者はいなかったと口にする。
この人、ミスタービーンだよね?ホクロの位置が左右逆だけど。

・王欖把の馬賊はかつて張作霖の正規軍だった者達
張作霖って、日本軍のスパイとして活動してたけど、彼の軍の勢力が大きくなってきて邪魔になってきたから、日本に列車ごと爆破されて殺されたとされていたんですね。でも1990年頃に発見された資料から、ソ連諜報局の仕業だったという説の方が有力になってきたそうです。東京裁判で無理やり日本のせいにされたらしい。まあ・・・そんなん作中に描いたらいろんな所から抗議が来そうなんで、描かなくて正解かもしれない。
・ギーズ、パンダ顔の殺し屋に殺されそうになっていたところを拳志郎に救われる。
あんたの北斗孫家拳は護身術のためじゃなかったのかよ・・・護身術にすらなってねえじゃねえかよ・・・つうかその前に殺気に気付けよ・・・家の外の霊王の気配には気付いてたじゃないかよ・・・
・ギーズの願いはソフィーらが安心して暮らせるための桃源郷を作る事
ユダヤ人を迫害するニュルンベルク法が成立したのが1935年9月15日。これ切欠でソフィーは上海へと逃げてきたわけですが、作中での台詞などを見る限り、ギーズはこれよりも遥かに前からユダヤ人移住計画に着手していることになる。つまり彼が桃源郷の建国を目指したのは、決してソフィーの記憶喪失が原因ではないという事だ。同じシスコンでもレイ程じゃないって事かな。
・紅華会二番頭、張太炎。杭州で女を抱き続けていた男。北斗曹家拳の使い手。
この人の鬼畜ぶりは、父・章大厳への復讐心を隠すための仮面に過ぎないんですよね。しかしこの超女好きという設定は、果たしてどっちなんでしょうか。これもすべて狂気を演じるためのウソなのでしょうか。あ・・・・もしかしてそのための金剛猛力回春丸だったりする?
・拳志郎、ギーズからソフィーを守って欲しいと頼まれる。
拳さんは確かに記憶も取り戻させたし、マルローの手から守ったし、ちゃんと護衛してましたよ。でも最後に爆殺されたのは拳さんが病室を離れたのが原因だよね。マルローが死んで、大きな脅威が取り除かれた後だったから油断するのは仕方ないにしても、頼まれた以上はちゃんとこなさないとダメよね。
・看護婦、ソフィーが記憶を取り戻し始めたのを見て涙する
この看護婦さん、TVアニメ版じゃ拳志郎たちの作戦に協力して、金髪のズラをかぶってソフィーのフリをします。しかも紅華会に蜂の巣にされる救急車の中で。まあギーズが操気術で全て弾を防いでくれたから大丈夫でしたが、いち患者のためにそこまで頑張るかね。拳さんにホれてたからだったりして。
・拳志郎、マルローに解唖門天聴を突いて意思とは関係なく自白させる
拳王様がジュウザに突いた時は「己の意思に関係なく口を割り、拒めば毛根に至るまで血を噴出して崩壊する」というものだったが、マルローさんは拒んでも別に血は噴出しませんでした。あのオッチャンの忍耐力では、血が噴出する状態まで我慢することが出来ないのかもしれん。それか拳王様みたいに首の裏に指ブッスー突っ込んでないとその効果は発揮されないとか。
・宋全徳、五叉門党に暗殺される
この宋さん、私の中で「静かなるドン」に出てくる鳴戸竜次とカブるんだよなあ。あっちのほうは組の中でもかなり重要なポストで活躍してはる人物なんで、こっちの宗さんにも期待したんですが、残念ながら一話で消えてしまいました。残念。
・ソフィー、爆殺される
拳志郎ですら大怪我を負うほどの大爆発なのに、爆心地にいたソフィーはツララ大の破片が刺さっただけ!?顔とか外傷全く無し!?・・・運が良いのか悪いのか・・・
・梨花、結婚式当日に張太炎に略奪される
まー確かに可哀想なんだけど、相手のボンボンも大概なヤロウっぽいんで、あんまり同情する気になれないんだよなあ。いろいろ紆余曲折あって、地獄も見たけど、結局あれで人生変わってよかったなーと思える日が来るかもしれないよ。
・北斗曹家拳は剛の拳と言われるがその本質は一撃必殺の勁力以上にその気力にある
曹家拳も結局「気」がメインなの?それって孫家拳とカブってない?つか、このあと太炎さん、気を利用したような攻撃とか特に披露してないんだけど。
・紅華会御大、章烈山。身の丈10mはありそうな巨人
もうこの後、烈山が登場するたびに「デカすぎるネタ」をはさまってくるので、結構おなかいっぱいになります。まーでも、原センセの性格的にはイヂらんと気がすまんのでしょうね。
・子英、青幇の者達に命じて、太炎の所へ向かおうとする拳志郎を止めようとする。
こんときの子英ぼっちゃん、青幇の人たちに命令口調なんですよね。やっぱ幇の番頭の御子息ともなれば、あの年でも青幇の兵隊達なんてアゴで使えるんでしょうね。
・複数の秘孔を突く事である特定の秘孔に地雷を仕掛ける術、秘雷孔。
実はカイオウって、リンにこれ使用してたんじゃないですかね。だって死環白で記憶失ったって、ケンさんなら簡単に記憶取り戻せるでしょ。秘雷孔の条件である「複数の秘孔を突く」はクリアしてないけど、きっと死環白って単体でその効果を発揮するマルチな破孔なんですよ。
・拳志郎、記憶復元の秘孔を突くか否かで悩み、仏像の前で瞑想する。
この寺、原作では名前が明らかにされていませんが、TVアニメ版では「龍華寺」という名称がはっきり映りこんでいます。実在する龍華寺と外観も一緒なんで、テキトーな名前ではないみたいです。

ちなみアニメでは、李秀宝との上海漫遊の時にも通りがかったり、道士に会う為に拳志郎が駆け込んだりとかしてます。拳さんその時に仏像破壊しちゃってるんだけど、大丈夫か?
・張太炎、モグラの普に秘雷孔を仕掛けるが、拳志郎に見抜かれて不発
これは太炎側の情報の少なさと、応用力の欠如が失敗の原因だね。彼がもし拳志郎という人間のことを詳しく知っていたなら、自白秘孔なんぞではなく、「全て飲み干す秘孔」のほうに秘雷孔を仕掛けていただろう。世が世なら万の軍勢を縦横無尽に操るあの天才軍師の人クラスならきっとそうしていたはず!
・張太炎は父・章大厳を殺すため、北斗曹家拳の剛の拳に加えて己だけの柔の拳を身につけた
こ、この時代の「柔の拳」って結構アレだね。トキのやつと随分違うんだね。この物差しで区別するなら、ジュウザの我流拳も柔の拳に数えられちゃいそう。
・張太炎はかつて無敗の拳仙・李散より無影脚を直伝された
何モンなんでしょうねこの人。よくわからんけど、少なくとも張太炎が弟子入りしてる時点で、当時の太炎よりは強かったと考えられますよね。北斗とかの超人拳なしでそこまで強い人って他にいないんじゃないかな。まあなんでもいいけど、鉄心に雷暴神脚で負けたことあるんだったら、それを太炎にも教えといてやりんさいよ。無敗の称号が惜しいからって敗けたこと隠してたのかしら。
・拳志郎、雷暴神脚で張太炎の奥義の速度を超える
この奥義、この初登場を切欠に、蒼天の拳を代表する存在となるんですよね。ドラえもんで言うところのタケコプター的存在ってところでしょうか。なんか事ある毎に披露してた気がします。後になったら劉宗武やヤサカまで使ったりしてます。・・・ん?ということはこれってもともとは西斗月拳の奥義だったりする?
・ギーズ、章大厳の意思を汲み、太炎が伝承者の座をかけて大厳と戦う日までその命を預ける事を決める。そして妹・ソフィーを殺した痛みを忘れぬよう、その顔に大きな十字傷を刻み込む。
このシーンは蒼天の中でもベスト3に入る「納得いかねぇ」シーン。そんな事で見逃しちゃうんだ!?っていう。見ず知らずのジジイの思いなんてどーでもいいことでしょうに。・・・でも思い返してみると、実はギーズって結構拳法マニアではあるんですよな。拳志郎を初めて見たときとか、極十字聖拳の使い手が現れたときとかなんか、すげーはしゃいでたし。なので、彼にとって曹家拳の伝承をかけた戦いってのは、実は結構愉しみなイベントの一つだったのかもしれない。
・陳狷民、紅華会二番頭昇格、直後水死
33話では「陳永祥」になってたけど・・・本名はどっちなの?幹部がいっぱい死んで昇格したから、名前も変えちゃった感じ?安馬が大関になって日馬富士になった感じ?


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