
上陸早々、助けた少年からカバンを盗まれるという"上海の洗礼"を浴びた拳志郎。だがそれは、思わぬ運命の引き合わせであった。その少年・子英は、かつての潘光琳の右腕・葉の息子だったのである。しかし再会した葉は、全身に包帯を巻きつけた無残な姿へと変わり果てていた。上海を支配した紅華会が、フランス租界と手を組んで行っている「青幇狩り」。捕らえられた者達を待つのは、見世物にされる中での処刑。その中でも葉は、その処刑遊戯に3度も出場させられ、全身に火傷を負わされていたのである。それを取り仕切るのは、紅華会三番頭
黄西飛。神に祈れば全ての罪が許されると思い込んでいる、卑劣漢であった。朋友の無念を晴らすため、そしてその義気に応えるため、閻王が今再び動き出す。
黄に近付くために拳志郎が選んだ方法。それは、葉に変装して処刑遊戯に出るという作戦であった。筋骨隆々の包帯男としてリングに上がった拳志郎は、対戦相手のボクサー・ゴランを圧倒する。だがその決着がついたとき、身体を覆う包帯は、ほぼ全て剥がれ落ちていた。突如現れた閻王に向け、フランス軍に射殺を命じる黄西飛。しかし、誰一人としてその命令を聞くものはいなかった。それを中止させたのは、若きフランス軍の情報武官、シャルル・ド・ギーズであった。閻王という男、そして彼の使う北斗神拳は、ギーズにとってなによりも興味深い存在であった。
事件後、拳志郎達は、ギーズよりある情報をもたらされた。
かつての潘の恋人・楊美玉の協力を得て呉東来を誘い出した拳志郎であったが、既にそこには霊王が待ち伏せていた。操気術を操る霊王の前に苦戦する拳志郎だったが、闘いは互いに右腕を折る痛み分けに終わる。しかし拳志郎はその闘いの中で、霊王から漂う潘の匂いを嗅ぎ取っていた。その情報から、潘の監禁場所を突き止めた拳志郎は、呉に処刑されかけていた潘を間一髪で救い出す。お前は死んではならない。生きて再びこの上海の王となれ。そう言って拳志郎は、ネズミに喰われた潘の足先を切り落としたのだった。
霊王が玉玲を殺した理由、それは玉玲が拳志郎を愛していたからであった。玉玲は、ある暗殺の報酬として霊王に差し出された、彼の許婚だったのである。それでも拳志郎を愛し続けた玉玲を、霊王は許すことが出来なかったのだった。そしてその狂気こそが、霊王の誇る最大の武器でもあった。北斗孫家拳奥義
狂神魂。経絡を操って高められた狂気が、霊王に圧倒的な闘気を纏わせる。だがそれは、更なる秘奥義のための踏み台に過ぎなかった。北斗の拳において必殺の武器である経絡秘孔。その秘孔の位置を自在に変化させるという奥義「秘孔変位」を、霊王は体得していたのである。秘孔攻めを封じられ、無力となった拳志郎を、一方的に攻め立てる霊王。しかし次の瞬間、霊王の掌が音を立てて爆ぜた。秘孔の中には動かす事ができない秘孔奇穴が存在する事を、拳志郎は知っていたのである。秘拳を破られた霊王には、もはや形勢を逆転させる力は残っていなかった。だがそれは、拳志郎から受けた傷によるものではなかった。彼の身体は、既に死の病に蝕まれていたのだった。
死にゆく直前、霊王は、かつて目撃したある導士について語りはじめた。それはかつて拳志郎も目撃した、北斗の運命を導く者と名乗る謎の老人であった。病に伏した霊王の元に現れたその道士は、彼にこう告げた。良き運命の旅を―――。その言葉通り、潘や玉玲を殺さなかったことで、霊王は自らの夢を叶える事が出来た。北斗神拳伝承者
拳志郎と闘いという夢を。強く願えばお前も玉玲と出会う事ができる。お前も運命の旅を楽しめ。そう言って霊王―――芒狂雲は、拳に費やしたその生涯に幕を下ろしたのであった。
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| ≪日本編 | 張太炎編≫ |