
峻険な山脈の中に隔離された「神が捨てた地」。かつて野獣に支配されていたその地を平定するため、国王となって立ち上がったアサム。国民達の英雄であるアサムは、自らの強さを誇示し続けることで、病に冒されている事を隠し続けていた。サラが連れてきたケンシロウの腕を確かめんとするアサムは、自らの会得する大乗南拳で渾身の一撃を振り下ろす。しかしケンはそれを受け止めただけでなく、一瞬にしてアサムという人間の本質を見抜いていた。この男こそが秘伝書に記された北斗の男に間違いない。そう確信したアサムは、自らの苦悩をケンシロウへと語りだした。
アサムの後継者であり、彼の実子である三人の副王、カイ、ブコウ、サトラ。アサムは、その三人の息子の殺害をケンに依頼してきた。互角の力を持つ彼らは、互いに引くことなく、アサムの後継の座を狙っていた。かつて預言者から、三人が相和することがないと言われたアサムは、全てを三人平等に分けることで、諍いが起こらないよう育てた。だがその結果、三人は譲り合うという事を知らずに育ち、それが今の悲劇を生むこととなったのであった。アサムがいなくなれば国は必ず三つに割れる。それを危惧するが故に、アサムは今まで野獣達の討伐に討って出ることが出来なかったのであった。
王の間へ呼び出された三兄弟を出迎えたのは、玉座に座ったケンシロウであった。この国は俺が貰う。そう告げるケンシロウに対しサトラは、こいつを倒した者が後継者になるのはどうかと提案する。それに応じるブコウ、カイであったが、ケンシロウの強さは彼等の想像の遥か上にあった。圧倒的な力量差で、次々と返り討ちにあう三人。だが彼等を真に驚かせたのは、父アサムが余命幾許もないという事実であった。父の愛に溺れ、その愛を忘れて盲目となったクズ。三人をそう罵り、制裁を加えようとするケンシロウ。だがその時、サトラが、ブコウが、命を投げ出してケンシロウへと飛び掛った。そしてカイもまた、己の命を差し出す代わりに、二人の命を助けて欲しいと懇願してきたのである。ケンは、あえて圧倒的な力を見せ付けることで、離れていた三人の心を一つにしたのであった。
サヴァ国は、三人が一体となっての新国王として、新たな出発の日を迎えていた。既に事切れているカイを含めた三人が、壇上で国民の前に姿を現す。だが、そこにアサムの姿は無かった。アサムは、自らの愛した国民達の一人として、その光景を見守っていたのであった。もはやアサムは目も見えなくなっていた。だが、壇上の立派な子供達と、それに声援を送る国民達の笑顔こそが、アサムの望んだ全てであった。王として民のために尽くした男は今、父として、その生涯に幕を下ろしたのであった。![]()
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