TOP

修羅の国編
(161話〜210話)

-上陸編-


 浚ったリンを連れてジャスクが赴いた場所。それは、死の海を渡った先にあるといわれる国、「修羅の国」であった。武の掟に統治されたその国は、戦いの修羅しか生まぬという戦士の国であった。

 リンを救うために海を渡るケンシロウは、海賊「双胴の鯱」の船と遭遇する。自分の船を壊された代償として海賊船へと乗り込んだケンシロウは、船長である赤鯱を打ち倒し、船を強奪したのであった。その赤鯱は、かつて百人の部下と共に修羅の国へと攻め込んだことがあった。しかし15歳にも満たぬ一人の少年に全滅させられてしまったのだという。その際、赤鯱は片目、片腕、片足を失い、さらには息子・シャチをその国に置き去りにしてしまったのであった。

 上陸を果たしたケンシロウの目に飛び込んできたのは、一足先に上陸を果たしていたファルコの変わり果てた姿であった。彼を瀕死に追い込んだ男こそ、かつて赤鯱の部隊を全滅させた修羅であった。ファルコの仇を取らんとするケンシロウ。だがファルコは、拳士としての誇りと共に死ぬことを望み、秘孔 刹活孔によって得た一瞬の生で再び修羅に立ち向かう。死闘の末に勝利を果たしたものの、ファルコの死は、元斗皇拳が潰えることを意味していた。だがその時、彼の元に一羽の伝書鳩が舞い降りた。手紙に記されていたのは、ミュウがファルコの子を身篭ったとの報せであった。


・修羅の国の初期設定
渡航前にファルコが修羅の国の概要を色々話してくれるシーンがある。「北斗南斗元斗の源流となった4千年の拳法がある」「男子の生存率は1%」「15歳までに100回の死闘をする」といった内容だ。しかしこれらは当の修羅の国では誰も口にしていない。ファルコもおそらく噂程度で口伝されただけだろうし、いつ頃の情報なのかも怪しい。なのにこれらが、あたかも修羅の国の公式設定であるかのよう扱うのは、ちょっとどうかと思うんですよね。これだけを頼りに「南斗も元斗も北斗宗家の拳からの派生!」とかさ、そんな超大事な事を、現地に行ったことも無い男の怪しい情報だけで決め付けるのはよくないと思うわけです。
・15歳
「修羅の国は15歳までに100回の死闘を繰り返す。」「赤鯱達は15歳にも満たないガキに全滅させられた」「当時15歳になる息子を置き去りにしてしまった」。なんだこの突然の15歳ラッシュは・・・
・伝衝裂波
修羅の国に上陸したケンシロウが、最初に対峙した仮面の修羅二人を相手に使用した水切り技。あれはどうみても南斗紅鶴拳の伝衝裂波ですよね。シュウ相手にも使用していたのでこれで2回目。アニメじゃラオウ様も使っているし、おそらく相当使い勝手が良い奥義なのだろう。技はこんだけ重宝されているのに、ユダ当人は無想転生メンバーに入れてもらえないというのは哀しい気もしますが。
・夕日
かつて遣隋使として中国を訪れた小野妹子は、「日出處天子致書日沒處天子無恙云云」と書かれた書簡を中国側に渡した。東側にある日本の方から日が登り、西側にある中国の方に日が沈む事を例えた、有名な一文である。しかし北斗の拳ではこの常識が覆されている。物語序盤の舞台は日本。そして修羅の国が中国のはず。それなのに、ファルコが修羅の国から故国(日本)を見つめる方角に夕日が沈んでいるのだ。これに関しては色々な説をたててみたが、どれもしっくりこなかった。ここは・・・地球ではないのか・・・?

【TVアニメ版での主な変更点】
赤鯱の海賊船に乗り込んでくる修羅が登場しない
砂蜘蛛が忍棍妖破陣を使う相手が、ケンシロウからファルコに変更されている



-羅刹編-


 リンは、郡将カイゼルなる男の城に捕らわれていた。そこで行われていたのは、リンが花嫁となる修羅を決めるためのデスマッチであった。勝ち残った修羅・アルフは、最後の条件として侵入者である「七つの傷の男」の討伐を命じられる。しかし歴戦の修羅もケンシロウの前では赤子同然であった。

 そのケンシロウの闘いを目撃した一人の「ボロ」がいた。ボロとは、闘いに敗れ足の腱を切られた男達・・・。だがそのマントの下に隠れていたのは、鍛え上げられた肉体を持つ若き拳士であった。彼の名はシャチ。あの海賊赤鯱の息子であり、北斗神拳と酷似した謎の拳、「北斗琉拳」の使い手であった。ケンシロウの強さに目を付けたシャチは、リンを連れ出し、ケンシロウをおびき出そうとする。だがそれを追って現れたのは、郡将カイゼルであった。カイゼル使う孟古流妖禽掌や、熟練の戦法に苦戦を強いられるシャチ。だが古傷を狙うことでカイゼルの隙を誘ったシャチは、奥義 破摩独指を炸裂させ、勝利を掴んだ。彼がボロに扮していたのは、そのカイゼルの弱点を見抜くためなのであった。

 一方、リンの行方を追うケンシロウは、修羅に追われていた少年・タオを救う。彼の姉レイアは、この国で禁じられた「愛」を子供たちに説くため、秘密の私塾を開いていた。そして彼女は、シャチの恋人でもあった。だが今のシャチは、北斗琉拳に魂を狂わされた修羅を喰らう羅刹。そう言ってレイアは、ケンにシャチを殺すよう依頼する。だがそれがレイアの本心でないことを、ケンは見抜いていた。


・アルフの狙い
122戦中105人を2分以内に倒したアルフ。しかし残る17人は倒す価値も無いと見切り、2分以上の時間をかけたらしい。何故わざわざそんな面倒臭いことをしたのか?私が思うに、おそらくあの大会には時間制限があり、アルフはそれによる判定勝ちを狙ったのだと思う。しかしそれにしたって、相手が弱いのならさっさと倒してしまったほうが体力の温存にもなるし、郡将への印象度も違うはずだ。だがそれにも理由はある。おそらくアルフは「強者の血の純度」を薄めたくなかったのだ。彼は勝利すると愛羅承魂で相手の血を自分の中に取り込む。それによって強くなっていくわけだが、ここに弱者の血も取り込んでしまうと、逆にパワーダウンしてしまう(と思い込んでいる)のではないだろうか。愛羅承魂をするのは強い相手の血だけで、弱い相手の血はスルーしたい。そのために弱者との試合はタイムオーバーによる判定勝利にすることで、愛羅承魂を回避していたのだ。
・シャチが急成長できた理由
ジュウケイに弟子入りした時点でほぼ成人していたと思われるのに、そこから数年修行しただけで圧倒的な力を手に入れたシャチ。その成長速度は他のキャラクターと比べても群を抜いている。北斗宗家の血も流れていない彼が、何故それだけの速度で成長することができたのか。
その要因の一つとして考えられるのは、
彼の修行した環境にあると思う。北斗門派の拳の強さを支えているのは、なんといっても秘孔(破孔)の術だ。しかしその知識をいくら学ぼうとも、なかなか会得することは難しいだろう。それこそアミバの如く、生きた木人形を用いた練習をしなければ、そう簡単に身につくものではない。しかし修羅の国ではそれが容易に行える。ジュウケイがそこら辺の修羅を浚うだけで、シャチの練習のための木人形をいくらでも調達できるというわけだ。もちろん実戦相手としても彼らは的役だ。鍛え上げられた修羅との命を懸けた戦いを何度でも行うことが出来るというこの環境は、経験不足というシャチのウィークポイントをいとも簡単に補ってくれただろう。ケンシロウ達が育った文明の残る日本とは違う、一人の人間の命が軽い修羅の国で拳を学んだからこそ、シャチは驚くべき速度で北斗琉拳を会得することができたのだ。まあ、その分基礎となる身体能力の向上が足りなかったため、あの程度の実力でストップしてしまったとも言えるのだが・・・。
・幻闇壊
カイオウ編までに登場した北斗神拳奥義の中でアニメに登場しなかったのは、北斗断骨筋と、幻闇壊だけだ。しかし断骨筋は「あべし!」という超有名ワードを生み出したし、所々で目にすることもある。しかしこの幻闇壊は、あらゆる媒体において一度も目にした事が無い。しかもこの奥義は、厳密に言うと誰も使ってはいない。シャチが幻闇壊に「似た」北斗琉拳の技を使っただけなのだ。というわけで、私はこの幻闇壊こそが北斗神拳奥義の拳の中で最も不遇な存在だと思う。バランが使いかけた北斗七点掌も同条件ではあるが、幻闇壊のほうは「アニメ化されている部分なのにカットされた」というエピソードが悲壮感を煽っているので、やっぱこっちだろう。
・殺・斬
カイゼルさんイチオシの修羅として出番を与えられた殺(シャー)・斬(ザン)のお二人。しかし彼らは見ての通り仮面をつけている。修羅は強くなれば仮面を外すことが出来るという設定だったはずだが、先にシャチに殺られた見回り修羅のほうが殺・斬より遥かに弱かったため、この時点で設定は崩壊しちゃってますよね・・・。まあ仮面つけてて名前も無い砂蜘蛛さんがあれだけ強かった時点で設定なんか崩壊してますけどね。

話はそれますが、カイゼル配下の仮面修羅というなら、個人的には殺・斬よりも、左の画像の二人のほうが強そうじゃないですか?黒夜叉を髣髴とさせる漢服や竹笠、そしてなによりこのガタイ。2m120kgほどありそう。是非バトルの機会を作って上げてほしかった。


【TVアニメ版での主な変更点】
アニメではケンシロウがカイゼルの居城へとのりこみ、その入り口でアルフと戦う。撃破後にリンの牢まで行くが、既にシャチに連れ出されているため不在。
シャチにやられた修羅が幻闇壊(に似た技)で死亡するシーンが削除
カイゼルの戦歴が1800勝から8800勝に増加



-羅将ハン編-


 修羅の国の頂点に君臨する3人の羅将。シャチが向かったのは、その中の一人である第3の羅将ハンの居城であった。彼もまた北斗琉拳の使い手であり、その速き拳は誰も影すら見たことがないと言われるほどの男であった。今の自分ではハンに勝つことはできない。そう踏んだシャチは、リンをハンに献上することで、ケンシロウと闘わせようと画策する。だがその時、既にケンシロウはハンの居城へと潜入していたのだった。

 退屈から解放してくれそうな相手の登場に歓喜しながら、ケンシロウとの闘いに臨むハン。その拳は噂通りの速さであったが、ケンシロウの拳も負けてはいなかった。そしてその互角の闘いは、シャチの目論見通りであった。シャチは、どんな手を使ってでも自身の拳を強大にせねばならないと考えていた。愛するレイアのため、この国を変えるために。かねてより、この国には「救世主伝説」があったが、シャチにはそれを待つことはできなかったのだった。いつか海を渡りこの国を救うと言われる救世主・・・。その男の名はラオウと云った。

 ハンと互角の戦いを繰り広げるこの男こそ伝説のラオウなのではないか。ざわめく修羅たちは、川を赤く染める伝達の赤水により、国中にラオウ来襲を伝える。しかしハンは、目の前の男がラオウではなく、ケンシロウであることを知っていた。それは、この国がラオウやケンシロウの故国であり、彼らがこの国を発った時の事を知っていたからであった。

 戦いが佳境を迎える中、ケンシロウの足が止まる。必殺の破孔が突けぬと感じたハンは、代わりに徐々にケンの足の動きを封じていたのである。だがケンの心臓目掛けて放った一撃は、大きく狙いを逸れた。ケンもまた、戦いの中でハンの視神経を封じていたのである。ケンシロウの放った無数の拳がハンの身体に叩き込まれた瞬間、闘いは決着したのだった。

 かつてこの国は軍事国家に侵略され、滅亡寸前にあった。やがて文明は滅び、拳がものをいう時代が訪れる。そう予見した先代北斗琉拳伝承者ジュウケイは、ラオウ、トキ、ケンシロウの三人をリュウケンのもとに送った。それでも不安を拭えなかったジュウケイは、伝えてはならぬ北斗琉拳を3人の男に教え、彼らはその凄絶さに魂を狂わされてしまったのだった。その者達こそが、羅将と呼ばれる3人の男、カイオウ、ヒョウ、ハンなのであった。自らの過ちを悔いながらも、ラオウが全てを解決してくれると安堵するジュウケイ。しかし、この国に来たのがケンシロウであると聞いた途端、その顔色は変わった。ケンシロウでは第二の羅将ヒョウに勝つ事は出来ない―――。ケンシロウにとってヒョウは、血を分けた実の兄だったのである。しかし、ヒョウにはその記憶は無かった。拳に甘さは不要だと考えたジュウケイは、ヒョウの記憶を消し去ってしまっていたのだった。


・西嶽派銀槍
新たな修羅となり、ハンの所にお目通りに訪れた男。彼の使う槍術は、西嶽派のものだという。西嶽というのは中国の五岳の一つ。別名を華山と言う。そう、西嶽派というのは要するに華山流と同じなのだ。雑学でした。
・ないあるないある
ケンシロウにハンの城の場所を問われ「知らないアルよ!」と返答した結果、「あるのかないのかどっちなんだ」と言ってボッコボコにされた挙句、最終的に爆殺されるという惨い目に遭った修羅。結局場所は吐かなかったものの、目当ての城はすぐ側にあり、それに気付いたケンは「あれか・・・」と呟いて何事も無かったかのように歩き出す・・・。ケンのドSさが良くわかる有名な場面だ。ところでこの男、修羅の中でもかなり弱そうな見た目だが、自称「この地を治める修羅」であるという。何故こんな奴がそんな出世を果たせたのだろう。だがおそらくこれは、彼が張った虚勢であろう。この男はきっと偶然付近を通りがかっただけの一介の修羅なのだ。彼がハンの城の場所を吐かなかったのも、本当に知らなかっただけなのである。だってそうでしょう。あんだけボコボコにされたら普通吐くでしょ。そんなに我慢強い奴にも見えないし・・・。
・ケンの態度が急に変わった理由
ハンのもとに現れたケンシロウは、チェスを指しながら告げる。「チェックメイトだ!お前には命を投げるしか他に手は無い!」。しかし次話、ハンから勝負をつきつけられたケンは「なぜ!?戦う理由は無い」と突然態度を豹変させる。まあ確かに理由はそんなにないのだが、それなら何故最初にあのような事を言ってしまったのか。
私が思うに、
原因はチェスにあると思う。ハンに気配を気付かれることなく、部屋奥のテーブルへと着席したケン。しかも目の前にあるのは、あと一手でチェックメイトをかけられる絶好の盤面。
こんなグッドタイミングで来てしまったのなら、もう言っちゃうしかないでしょ!といった心情から「チェックメイトだ!」という決め台詞が口をついてしまい、その流れでお前はもう終わり的な事を口走ってしまったのである。
確かにそんな状況に遭遇してしまっては、一瞬イキってしまったのも仕方の無いもの。しかしそれはケンシロウの大きな勘違いだったのだ。何故なら
すでにそのチェスは、ハンが駒二本を投擲した事で無茶苦茶になっていたのだから・・・
・天将奔烈
ケンシロウが使った天将奔烈を見て、ハンはそれをラオウの技だと言った。何故彼はそれを知りえたのか。一番考えられるのは、ラオウ様が一度修羅の国に上陸した際に天将奔烈を披露し、それをハンが目にしたという可能性だろう。しかしその時の描写をみると、ラオウ様はカイオウと会っただけで、他に目立った行動はしてないようなイメージを受ける。自身が無敵の技と自負する奥義をそう簡単に披露するとも思えない。
しかしハンには確実にラオウ様と会っている瞬間がある。それは、ラオウ様が海を渡る前の頃だ。無論、まともに拳も学んでいないこの頃のラオウ様に天将奔烈が使えるはずは無い。しかし、「構想として」既にあったとしたらどうだろう。
「俺は兄者を越えるほど強くなってみせる!そのための必殺技ももう考えた!両手から闘気をバーって発射するんだ!技名は・・・テンショウホンレツな!」といった子供ならではの妄想を周りに話し、やがて本当にそれを実現させた・・・なんていう二十世紀少年的な展開があったとは考えられないだろうか。そういえば、伝達の赤水を流してしまったボロは、天将奔烈を見たことでケンをラオウ様と誤認していた。ラオウ様の顔を知らないのに、天将奔烈がラオウ様の技という事は知っていたわけだ。おそらくそれは、流布されたラオウ伝説の中に、テンショウホンレツなる技がラオウの代名詞であることも織り込まれていたのだろう。かつてラオウ様が描いた小二妄想が、修羅たちを震え上がらせる伝説として国中に広まってしまっていたのだ。これは恥ずかしい・・・
・20数年前
20数年前、ジュウケイの手によってラオウ、トキ、ケンシロウの三人がリュウケンのもとへと送られた・・・。ハンが口にしたこの台詞こそが、北斗キャラの年齢を考察するにおいて最も重要な情報であり、同時に障壁ともなっていることは間違いない。ここから無理矢理計算すると、どうしても物語冒頭のケンシロウの年齢がティーンエイジャーになってしまうのだ。だがそれはありえない。というか二十歳前後の若造に、一生分の愛と哀しみを全部背負いましたみたいな顔をして欲しくない。
そもそもその考察を成り立たせるには、ハンの言う「20数年前」を「29年」とすることが大前提になる。だが、この時点で解釈が間違っているのだ。辞書によると、「数年」というのは、「2〜6年」を意味とある。つまり「20数年前」とは、「22〜26年前」であり、29年前はそれに該当しないのだ。そうなるとケンシロウの年齢は益々下がり、第一話時点で15歳前後ということになってしまう。
というわけで、
ハンのこの台詞は無視しろ!ケンの年齢は86年発売のムック本に有るとおり、26歳〜30歳くらいにしとけ!ってことを、私は声を大にして言いたいわけです。

【TVアニメ版での主な変更点】
ハンが犬に毒見をさせた後、その毒入りのワインを飲みほす。
アルナイ修羅が、アルナイ系の言葉を言わない。
シャチが、己の狂気が偽りと語るのはハン戦の最中だが、アニメでは赤鯱が死ぬ寸前。
原作ではハンがケンシロウの名を当てるが、アニメではケンが自ら名乗る。
ハンを倒した後、ケンがリンとシャチを赤鯱の船が見える浜まで連れて行くシーン追加。



-敗北編-


 リンとシャチは待ち人の下へは戻らず、ケンシロウと共に往く事を決める。その行く手に広がっていたのは、ラオウ来襲の報を信じて反旗を翻し、返り討ちにあったボロたちの死骸であった。彼らの嘆き、そしてラオウを倒した北斗神拳伝承者の宿命を背負い、ケンは自らがラオウ伝説を継ぐ事を決める。

 その頃、ジュウケイは羅将ヒョウの居城を訪れていた。自らが撒いた種を刈り取るため、ケンシロウに代わり自らがヒョウを倒す決意を固めたのである。そしてもう一つ・・・かつて己がヒョウから奪った記憶を復元させることが、ジュウケイの目的であった。

 ジュウケイからの命を受け、ケン達のもとへと駆けつけたレイアは、かつての優しさを取り戻したシャチの姿に涙する。だがリンと共に村へと戻ろうとしたとき、突如現れた第一の羅将カイオウによって、リンが連れ浚われてしまう。報せを受け、カイオウの居城へと乗り込むケンシロウ。しかし、自らの位置を見失わせるという奥義、暗琉天破の前に、手も足も出ずに打ちのめされてしまう。北斗宗家への憎しみが生む圧倒的な魔闘気によって、闘気を全て飲み込まれたケンシロウは、完全なる敗北を喫するのだった。

 北斗琉拳はこの世から抹殺せねばならない。それは、かつて北斗琉拳の魔に支配され、己の妻子をも死なせた過去を持つジュウケイが一番良く解っていた。そのために必要な、カイオウを倒しうる唯一の拳・北斗宗家の秘拳は、ヒョウの記憶の中にだけ隠されていたのである。死闘の末、その身を貫かれながらも、遂にヒョウの記憶復元の破孔を突くことに成功するジュウケイ。だがその命を賭した作戦は失敗に終わった。破孔は、既にカイオウによって上書きされていたのだった。

 張り付けにしたケンシロウに魔闘気をぶつける凄惨な処刑を開始するカイオウ。なんとかケンシロウを救わんと飛び出たシャチであったが、カイオウの圧倒的パワーの前になす術無く返り討ちに遭ってしまう。だがその時、シャチの父である赤鯱が、手下たちと共に救援に駆けつけた。濃硫酸を浴びせ、カイオウが水へと逃げた隙に、見事ケンシロウの救出に成功する赤鯱。だが追撃しようとしたその時、カイオウの放った矢を受けた赤鯱は、命を落としてしまう。哀しみを振り切り、ケンを抱えて逃走するシャチであったが、執念を見せるカイオウに追い詰められ、絶体絶命に。だがその時、突如カイオウの魔闘気が逆流し、息を詰まらせた。意識のないケンシロウの背後に現れた闘神の影。それこそがカイオウの恐れ憎む北斗宗家の血の真髄なのであった。


・リンの髪の毛
ハン戦の頃と、シエが出てきた辺りの描写を見比べると、リンの髪がかなり伸びているのが確認できる。およそ15cm〜20cmくらいだろうか。髪の毛が伸びる速度は月に1.5cm程らしいので、下手すりゃ1年ほど経過しているということになる。・・・一体何してたんだ?
・オーム
ジュウケイが唱える呪文の中にたびたび登場する「オーム」という言葉。これはバラモン教などで神聖視される宇宙の真理を意味するマントラ(言葉)で、後に仏教に伝わり「南無」や「オン」に変化したらしい。漫画では聖闘士星矢の乙女座のシャカが使う技として有名ですね。ちなみに某真理教が教団名に使用したあの言葉も、同じ意味です。
・ジュウケイに喧嘩売った人
魔界に堕ちたジュウケイが北斗神拳の寺院へと訪れた際、1人の男が彼の前に立ちはだかった。既に幾人もの門下生が殺されている中、顔色一つ変えずに「ひかえい!」 と一括した男であったが、あえなく魔闘気の餌食となり、粉々にされてしまった。おそらく彼は、この寺院で拳法を学ぶ者たちの師範代的存在だったのだろう。故に拳に自信もあったし、弟子達の前で弱気な態度も見せられなかったのだ。
ところでこの男、
もしかしたらキムの父親なのではないだろうか。そう、幻の5人目の北斗神拳伝承者候補のキムである。最初は「両者ともポニーテールだから」というしょうもない思いつきだったが、他にも理由はある。考えてみると、キムにはあの若さで追い出される程度の才能しかないのに、一瞬でも伝承者候補に入れたのはおかしい。そこには何か特別な理由・・・そう、例えば「死んだ師範代の忘れ形見」という可能性だ。暴走したジュウケイを止めるために命を失った師範代の死に、多少なりとも自責を感じていたリュウケンは、その忘れ形見であるキムが拳の道を志している事を知り、特別に伝承者候補に加わる事を許したのではないか。しかしその才能はジャギをも大きく下回る程度であったため、やむなく早々に雪原へと放り出した・・・などという救われないエピソードがあったのかもしれない。
・伏線?
「秘拳を呼び覚ますもののありかは・・・ヒョウ!おまえにのみ伝承されているのだ!」とジュウケイが語る場面。このシーンで描かれているのは、雷が岩山を砕き、その中に埋もれていた像が半身だけ姿を現すと言うもの。一見すると意味不明な描写だが、よく見るとその埋もれている石像は、ケンやヒョウが北斗宗家の血に目覚めた時に現れる闘神にそっくりだ。そう、これはつまり、眠っていた闘神が姿を現したとき、ヒョウの記憶が戻り、そして北斗宗家の秘拳の在り処も明らかになるという後の展開を示唆する伏線なのではないだろうか。
・密かに再登場
カイオウに破れ、北斗七星を象ったオブジェに磔にされるケンシロウ。この時、その処刑台の根本を見てみると、あのカイオウ滅殺隊が頑張って台を支えている姿が確認できる。最初に出てきた奴等はケンの旋風脚で全滅させられたので、おそらくは別の部隊なのだろう。
そしてその後、赤鯱率いる海賊団が登場。襲撃が始まっても頑張って台を支え続けていた滅殺隊だが、気付けばいつのまにかケンシロウは救出されていた。ということはつまり、彼らは海賊に敗れたということになる。ク、クソ弱え・・・。カイオウ城の門番的存在だというのになんという弱さか。だからこそ処刑台の補助という庶務係にまわされたのかもしれないが。

【TVアニメ版での主な変更点】
ハン撃破後、ケンはリン、シャチと行動を共にするが、アニメでは単独で動く。
シャチがボロに扮してレイア達のもとに現れ、ジュウケイのもとまで手引きするというエピソードが追加
コセム(ボロたちのリーダー)はブロンのアジトでは死なず、ケンシロウによって村へと運ばれる。
コセムの息子・ロックとその仲間たちが登場。最初はケンシロウを敵視するが、やがてこの男こそがラオウ伝説を継げるものだと確信し、ケンの代わりにヒョウを倒そうとして命を失う。
シエと戦う場所が不帰の谷ではなく収容所に変更。闘うまでの経緯も異なる。
ヒョウが率いる軍隊「親衛機甲団」が登場。ケンシロウを討つ為に出撃するが、対戦なく帰還する。
原作ではリンはいきなりカイオウにさらわれるが、アニメではシャチがカイオウに引き渡す形に変更。
カイオウ滅殺隊は登場せず、かわりにカイオウ守王隊が登場する。呪龍羅斬陣を使うのはギャモンなる郡将の部下たちという設定に変更されている。
ヒョウがジュウケイを殺した時の記憶を失っているという設定が追加
レイアとタオが、ヒョウからジュウケの弔いをまかされるというエピソードが追加。川を下る途中にカイオウ配下の修羅に襲われるが、赤鯱達に救われ、共にシャチのもとへと赴く。
赤鯱が死亡した後、海賊船のある浜へと戻り水葬をするというシーンが追加。その最中にカイオウが海中から現れたため、海賊たちが命をかけてシャチを逃がすという流れになっている。



-羅将ヒョウ編-


 意識のないケンシロウを抱え、なんとか逃げ延びることに成功したシャチ。だがその道中、羅将ヒョウと遭遇してしまう。ボロに似つかわしくない眼の輝きを訝しまれたシャチは、左目の眼球を掴み取り、ヒョウへと差し出した。己の背にあるこの男は、己の命を捨ててでも守るべき全て。そのシャチの言葉に心打たれたヒョウは、その場を見逃し去っていった。カイオウと同じ羅将でありながら、北斗宗家の血が流れるヒョウは、情けを知る男なのであった。

 師ジュウケイを殺めてしまった哀しみを癒すため、ヒョウは婚約者であるサヤカのもとへ向かっていた。だがそこにあったのは、彼女の兄・カイオウが抱えたサヤカの遺体であった。殺したのはケンシロウ―――。そう告げられ、強い憎しみを抱くヒョウから、魔闘気が立ち上る。それは、ヒョウもまたカイオウと同じ魔神と化したことを意味していた。そしてそれは、カイオウの思惑通りであった。北斗宗家の血を持つケンシロウとヒョウを戦わせて相討たせるため、カイオウは実の妹であるサヤカをもその手にかけたのであった。

 死闘から二日後、ケンシロウは意識を取りもどした。満身創痍だった筈の身体に、前以上の闘気を携えて。シャチの左目、赤鯱の命を背負い、再び闘いへ向かうケン。その道中、ヒョウの軍勢に焼き討ちされた村を通り掛かったケンシロウは、罪無き人々の無念を晴らすため、ヒョウのもとへと向かおうとする。ヒョウがおまえの実の兄でも行くのか。シャチから告げられたその真実に驚くケンシロウであったが、彼の決意に揺らぎは無かった。

 北斗琉拳発祥の地、羅聖殿。北斗琉拳伝承者たちの怨念渦巻くその地を闘いの場として選んだヒョウは、ケンシロウの従者・黒夜叉の襲撃をも退け、魔神となったその力を見せ付ける。だが既にケンシロウは、カイオウとの闘いにより、魔神の拳の正体を見切っていた。暗琉天破を破られたことで優位な状況を失い、その力の差の前に押し込まれるヒョウ。なぜこれほどの男がサヤカを殺したのか。ヒョウの中に葛藤が生まれたその時、彼の背後に哀しみの闘神が現れた。それは、ヒョウもまた北斗宗家の血に目覚めた事の証・・・・。彼が繰り出した技は、紛れも無く北斗宗家の拳であった。無限の力同士がぶつかり合った果てにあるのは勝者無き相討ち。その後に訪れるのは光無きカイオウの時代・・・。そう考えたシャチは、思わぬ行動に出た。ヒョウが最後の奥義を繰り出そうとしたその時、その身体は背後からシャチに貫かれていた。自らの罪を詫び、死を選ぼうとするシャチ。だがそれを止めたのはヒョウであった。哀しみのオーラが弾けたあの時、ヒョウの記憶は戻っていたのである。そして己の犯した罪を償うため、ヒョウは最後の攻撃で死ぬつもりでいたのだった。カイオウの手により阻まれていた弟ケンシロウとの再会に、ヒョウは穢れ無き涙を流すのであった。

・サヤカとカイオウは実の兄妹なのか?
サヤカはカイオウの妹との事だが、果たして血のつながりはあるのか。アニメ版では実の兄妹であるような台詞があったが、私はどちらかというと血縁ではない可能性が高いと思う。見た目の年齢的にちょっと無理がある点や、兄達に全然似ていない点もそうだが、私は「ヒョウが惚れたのが皮肉にもカイオウの妹だった」という点がひっかかる。もしかしたらそれは民衆がそう思い込んでいるだけで、真相は「ヒョウが惚れた女をカイオウが義妹にした」のではないだろうか。本編でもそうだったように、サヤカはヒョウを魔界に落とすためのトリガーだ。カイオウにしてみれば常に側に置いておきたいと考えるだろう。「俺がサヤカを妹にすれば俺とお前は兄弟弟子ではなく真の義兄弟になる!」とか言えば、ヒョウも全力でOKを出したはず。それに・・・そのほうがまだ人道的にマシが気がしますしね。流石に実の妹をあっさり殺すというのは業が深すぎる・・・
・滝が逆流した理由
瀕死の状態から復帰し、もう万全だと言わんばかりに闘気で滝を逆流させてみせたケンシロウ。これはもしかして、カイオウとの戦いで北斗琉拳を会得した・・・・魔闘気が無重力を生むということを見抜いて、自分もそれをやって見せたのでは?いやでもいくら水影心でも魔闘気は出せなそうだしなぁ。ていうかハン戦のときに既に大岩浮かしてたよなぁ。関係ないか。
・カンの鋭い姉弟
ヒョウの城に向かうケンシロウ達のもとにサイドカーで駆けつけるレイアとタオ。その後、ケンシロウを助け出したシャチは、いつの間にかレイアと合流していた。再びヒョウの城に向かい始めたとき、今度はバギーにのったタオが登場。そしてシャチが一人で泰聖殿へと駆けた際、その行く手にいきなりレイアが現れた。
・・・お前らどんだけ勘鋭いねん!発信機でもつけてんのか!?ていうかそんだけ移動してよく修羅に捕まったりしないな。ジュウケイがやられた時も普通にヒョウの城に入ってきてたし・・・
・一方的な展開
ケンシロウとヒョウの兄弟対決は、かなり一方的な展開となった。5回ほどあった二人の攻防は、ほぼヒョウの全敗と言っていい結果だった。二人の力量差は想像よりも遥かに大きかったわけだ。まあケンシロウが既に北斗琉拳を見切っていたり、もともとヒョウは宗家の血が薄いなど色々理由はあるが、私はそれよりも大きな要因があったと考える。それは、ヒョウのモチベーションだ。この戦いに限ってはサヤカやハンの仇と言う大儀があったが、ここに至るまでのヒョウに何か強くなるための目的などあっただろうか。思い返せば彼は魔界に入る前からカイオウが最強、この国はカイオウのものと連呼していた。そこにはトキのような「兄を超えたい」という向上心はもちろん、切磋琢磨していきたいという気概すら感じられない。良血とジュウケイのスパルタによってある程度の強さは得られたが、目指すべきものがない彼には、それ以上伸びることはなかったのだと思う。ともすれば、弟ケンシロウのためにと自決を図った頃の強い気持ちがあればまた違っていたかもしれないが・・・。結局は記憶を奪ったジュウケイ(カイオウ)が諸悪の根源ってことですね。
・暗琉天破破りの仕組み
無重力の中で自ら回転し遠心力によって位置を確保する―――。ケンシロウが行ったこの暗琉天破破りは、その見た目も合わさってよくネタにされる。しかしこれ、意外と理にかなっているのだ。
あの時ケンシロウはどうやって制止したのか。描写を見ると、回転後にケンがいきなり宙空で制止したように見えるが、それは違う。無重力状態で自らの回転を止めるなど不可能。ということは、
あの制止は、ケンが宙空から地面へと戻って着地したと考えるより他に無い。ケンが止まった時、その目線がヒョウと同じ高さになっている事からも間違いないだろう。つまりあの回転で生み出した遠心力は、宙から地面へ戻るための推進力を発生させるためのものなのである。
ここで重要になるのが回転方法。もしケンが抱え込み宙返りや、コマのような横回転を選べば、失敗していただろう。それでは遠心力も弱く、重心も安定しすぎているため、その場で回り続けてしまうからだ。しかし伸身で回転すれば、重心は微妙に身体の中心からズレる。完全な無重力状態ならそのズレも意味は無いが、暗琉天破が生む無重力はほんの一瞬。徐々に効果が薄まり、完全なる無重力で無くなったならば、重心のズレはやがて伸身による強い遠心力によって推進力を生み、ケンを地面へと辿りつかせるのだ。
なおこの説は、管理人の付け焼刃の物理知識によるものなので真に受けぬよう。
・ヒョウの従者・カイオウ
北斗宗家の男には代々最強の拳士が仕える。ケンシロウには黒夜叉が、そしてヒョウにはカイオウが従者となる予定だった。確かに「最強の拳士」という点ではカイオウは申し分ないだろう。しかし、その他の適正については何一つ考慮しなかったのだろうか。そもそもカイオウは激しき性情を持つが故に修羅の国に残された男だ。性格を問題視されて伝承者候補から落選した男が、従者って・・・。北斗宗家を最も憎む男が、北斗宗家の従者って・・・。そんなお役所仕事な人事してるから屑星って言われるんだよこの一族は。

【TVアニメ版での主な変更点】
カイオウと共に水路に落ちたリンが逃亡を図り、サヤカに匿われるというエピソードが追加。
ケンを連れて逃げるシャチが関所で修羅と戦うことになり、黒夜叉に危機を救われるというエピソードが追加。
シャチがケンを匿う先の小屋にコヨテなる老人が登場。レイアは不在。ヒョウのもとに訪れる直前に合流する。
コヨテの小屋に郡将ケインの軍勢が襲撃をかけるが目覚めたケンに蹴散らされるというエピソード追加。
ギョウコ一味は原作ではケンの潜伏場所まで来るが、アニメでは途中の村でケンと鉢合う。
ギョウコはケンに殺されず、メッセージを持ってサヤカの葬儀の場へ。怒るヒョウの魔闘気で殺される。
シャチの手当ての為に、ケン達がナガトの家に招かれるというエピソードが追加。



-決着編-


 ケンシロウやヒョウが生まれ育った地、泰聖殿。そこが、北斗宗家の秘拳の在処であった。傷で動けぬヒョウに代わり、レイアと共にその場所へ向かったシャチであったが、そこには怒れるカイオウが待ち受けていた。左腕と右脚を失いながらも、自らの命を賭してレイアを護ろうとするシャチ。その最中、一同は地下に隠されていた秘拳の在処を発見する。そこに祀られていた女人像は、カイオウの魔神の血を拒絶し、そして力尽きたはずのシャチに再び力を与えた。北斗宗家の霊の力を借り、カイオウを圧倒するシャチ。それは、レイアを護りたいと願うシャチの愛に、北斗宗家の霊が応えた証であった。北斗神拳の源である愛の力・・・それを根底から否定するカイオウは、自らの信ずる悪の力を証明するため、あえてケンシロウに秘拳の封印を解かせる事を選ぶのだった。

 ケンシロウが泰聖殿に現れるのを待っていたかのように、女人像が崩れ、その中から聖塔が姿を現した。秘孔詞宝林を突き、そこに刻まれていた文字を解読したケンシロウは、遂に北斗宗家に伝えられる秘拳を会得する。ケンが見たもの、それは北斗神拳創始者の凄絶なる生涯と、大いなる遺言であった。

 カイオウが最後の闘いの場として選んだのは、憎悪の瘴気渦巻く熱泥地帯であった。悪こそが愛を支配できる。その証明の手始めとして、カイオウはリンに破孔・死環白を刺突する。それは、眠りから目覚めた時に最初に目にした男に全ての情愛を捧げるという非情の技であった。外道なるカイオウのやり方に激怒するケンシロウ。だがそのカイオウの憎悪の発端となったのは、ケンシロウとヒョウの兄弟にあった。かつてカイオウの母は、火事に巻き込まれた幼いヒョウとケンシロウを救い、命を失った。だが愛を教えたかった彼女の行動は、カイオウの心に深い傷を与え、その苦しみから逃れる為にカイオウは心を悪に染める道を選んだのであった。心に傷を負う度に、自らの身体に傷をつけるという方法を用いて・・・。そしてその傷の中には、弟ラオウとの決別のために刻まれたものもあった。カイオウがこの国にラオウ伝説を広めたのは、自らが情愛と決別したという証なのでもあった。

 硫摩黄煙なる毒ガスが充満する地下の空洞。更には北斗神拳伝承者が辿る動きを封じるかのように配置された石柱など、地形を利用した様々な方法でケンシロウを苦しめるカイオウ。だがケンシロウに流れる北斗宗家の血が、その全てを跳ね返す。自らが屑星ではないことを証明せんとするカイオウは、生まれついてより身につけていたという不敗の構えで決着をつけんとする。だがカイオウは気付いていなかった。その構えこそが、北斗宗家の秘伝の技であること・・・そして己が忌み嫌う宗家の血が、自らにも流れていることを。

二千年前、宗家の血を引く姉妹は同日に男児を産み落とし、妹シュメの子であるシュケンが北斗神拳の創始者となった。そして姉オウカの子であるリュウオウは、母に捨てられた事で愛を失い、愛に彷徨した。カイオウは、そのリュウオウの血を引く者だったのである。自らの憎悪の源を知ったカイオウは、改めてその血に刻まれた不敗の拳でケンシロウに攻撃を叩き込む。しかし、その拳は通用しなかった。泰聖殿の聖塔に刻まれていた秘拳。それこそが、北斗宗家の拳を無力化する受け技なのあった。

 カイオウ達のもとへと向かうヒョウと黒夜叉は、リンが死環白を突かれ、荒野に放たれたことを知る。修羅に捕らわれていたリンを間一髪で救い出したヒョウであったが、その行く手に現れたのは、300にも及ぶカイオウ配下の陸戦隊であった。激闘の末、黒夜叉が絶命し、ヒョウもまた絶体絶命の危機に陥る。だがそれを救ったのは、黒い汗馬に跨った一人の男であった。それは、ケンシロウとリンを追って海を渡ってきたバットであった。

 常に己が一番だったカイオウ。それに対し、己より強い男達の戦場を生き抜いてきたケンシロウ。拳技互角の闘いの勝敗を分けたのは、その歩んだ闘いの道であった。カイオウが最後に放った上空からの一撃は、ケンシロウの渾身の拳によって撃墜され、永き戦いは終わりを迎えたのであった。完膚無き敗北を喫したカイオウからは、もはや邪気は消えうせていた。それは、自らが弱かった故に心を悪に染めたのだという事を、受け入れたからであった。

 その時、リンとヒョウを連れたバットが二人の下に駆けつけた。自らが犯した罪の清算のため、ヒョウに止めを刺すよう促すカイオウ。しかし、ヒョウにそのつもりはなかった。お前が歪んだのは、北斗宗家の嫡男である己の力量が足らなかったが故・・・。その言葉を伝えるため、ヒョウは最後の力でこの地へとたどり着いたのであった。ヒョウの言葉に大粒の涙を流すカイオウは、息絶えたヒョウの身体を抱えながら、岩山の頂上へ。噴出した溶岩を全身に被ったカイオウとヒョウの亡骸は、母の眠るこの地に立ち続ける石像と化したのであった。

 全ての闘いが終わり、残されたのは死環白を突かれたリンのみ。だがケンは、リンの目覚めを待つことなく、その場を去ることを選んだ。リンが背負った宿命は、北斗を戦場に導き救世主を生み出すこと。だが闘いが終わった今、リンは己の幸せに生きる時が来たのだと。リンの愛に応える役目をバットに託し、ケンは再び荒野へと姿を消したのであった。


・父と同じになれたシャチ
かつて砂蜘蛛修羅に敗れ、片目、片腕、片足を失った赤鯱。そしてその息子シャチもまたケンシロウをかばって片目を失い、そしてカイオウの戦いの中で片腕、片足を失った。偶然なのか、はたまた作者の意図か。もし狙ってやったのだとしたら、その説明を劇中で一切しないというのは凄すぎる。我々読者なら気付いてくれるだろうという信頼のもとになされた演出なのかもしれない。
・泰聖殿は寧波?
蒼天の拳の中に、中国 寧波にある泰聖院という寺院が登場する。そしてそこには泰聖殿にある者と同じ形の女人像が祀られている。ということはつまり泰聖院=泰聖殿であり、寧波にあるということになるのだろうか。だがそうとは言い切れない。そもそも蒼天の拳の中で女人像は砂と化してしまっているので、北斗のそれと同一ではない。では女人像の下に眠る勾玉・・・シュケンをはじめとした北斗の者達の魂が込められた勾玉が移されたヤーマの墓こそが泰聖殿なのか。しかしそれがあるのは西域の砂漠(現在で言うトルキスタンの辺り)。そこは月氏族が栄えた地であり、北斗宗家の聖地と言われる泰聖殿のはずがない。
結局のところ・・・・よくわかんないです。
・死に絶えたシャチの闘い
片手片足を失い、その肉体までも朽ち果てたシャチが、北斗宗家の亡霊の力を借りてカイオウを圧倒する。数ある北斗の拳の場面の中でも、私が最も鳥肌の立つシーンです。・・・しかしアンケートなどであまり挙げられることがないんですよね・・・。単純に修羅の国編の認知度が低いからなのかもしれません。この魂が震えるシーンだけでも知っていれば、「ラオウ編で終わっておけばよかった」なんて台詞は絶対に出てこないはずなんですけどね・・・。
・間に合わない男
シャチよ早まるな!そう願いながら泰聖殿へと走るケンシロウであったが、駆けつけたその時、既にその体は骸と化していた・・・。なんというか、ケンってダッシュで駆けつけてもほとんど間に合わないよね。レイも新血愁突かれてたし、シュウも駆けつけた直後に殺されたし、トキもリュウガに浚われた後だったし、フドウも瀕死だったし、んで今回のシャチも間に合わず。間に合ってる時もあることはあるのだが、「ダッシュで駆けつける」という描写があった時点でほぼ間に合わなくなるんですよね。これもまた俗に言う死亡フラグなんでしょうね。
・北斗逆死葬
人間の動きの中にある七つの死角、いわゆる北斗七星の形を辿る歩法、北斗七星点心。カイオウが地下洞穴に用意していた北斗逆死葬は、まさにその奥義を破るための仕掛けであった。たかだか一つの技法を破るためだけに、わざわざ七本もの石柱を生やしていたのだ。無想転生ですら一蹴した男が、北斗七星点心に対しては完璧な対応策を準備していたのある。これはつまり、七星点心の存在が北斗神拳の強さの根幹にあることの証拠。この奥義の前にラオウ様が手も足も出なかったのも当然と言うわけだ。
・地の利を得たぞ!
某映画の翻訳として有名なこの一文。しかしオビ=ワンのように偶然地の利を得たのとは違い、カイオウは事前に有利な地形を用意していた。自分にとっての最大のホームである魔瘴の沼や、自分だけ無呼吸闘法のできる硫摩黄煙、そして北斗逆死葬。まあ「悪」を座右の銘に掲げる男なんで、汚いという言葉も心地よく響くのだろうが、それにしたって小物感は否めない。結局は自分にも北斗琉拳にも自信が持てなかったということなのだから。
・極められた拳・北斗宗家の拳
極められた拳であるが故に受け技も極められてしまったという北斗宗家の拳。これはつまり、数ある攻撃技の中から完璧と思われるものだけを厳選して組み上げたから攻めがワンパターンになり、攻略法を確立されてしまったということなのだろう。相手もまた成長するという発想を考慮しなかった、柔軟性に欠ける者達によって生み出された拳だと言う事だ。そういえば宗家の高僧たちは、オウカとシュメが同日に子供を生んだ際、ただ掟に従ってどちらかを殺すという発想に凝り固まっていた。これもまた彼らに柔軟性が無い事の現れであり、それがあの悲劇が生んだのである。うーん成長してねえ。
・うぬぬほ
カイオウの台詞の中で、ある意味最も印象的なワード。それがうぬぬほ。
「うぬぬほ・・・北斗神拳であるがゆえにその男たちを凌駕したというのか!」

修羅の国編もクライマックス。北斗宗家の因縁を巻き込んだ永き戦いが終わろうかと言うその時に突如発せられた意味不明な言葉、うぬぬほ。嫌が応にも違和感を覚えたという人は多かろう。だがその答えは至ってシンプル。単に
「うぬぬ」と、「ほ・・・北斗神拳で〜」が繋がってしまっているだけのことなのだ。だがやはり違和感が強かったのか、「北斗の拳 完全版」では「うぬぬぬ・・・」に修正されてしまい、我々隠れうぬぬほファンは哀しみに包まれた。しかしその後に刊行された「北斗の拳 究極版」では待望の復活を果たし、再びこの世に光が戻ったのであった。
・バットの闘気波?
修羅に殺されそうになっていたヒョウをバットが救うシーン。この時、修羅の身体に大きな風穴が空けられている。これを見て「バットが闘気波を撃った!」と言う人がいるようだが、そんな事はありえない。どう考えても黒王号の蹄デコピンによるものだろう。バットからすればそれこそ飛び道具がないと届かない距離だが、黒王なら普通に前脚が届く距離だし、今までの戦暦から言ってもバットには不可能で、黒王のパワーなら可能な所業である。
大体バットにそんな力量があるなら、ボルゲ戦でも使っているはず。それに北斗の拳における闘気波は、ケンやラオウ様が使った場合でもこのような「貫通力」を見せた事が無い。そして決定的なのが、風穴の空き方である。描写を良く見ると、
衝撃を受けて吹っ飛ばされた修羅の臓腑は、水平より若干上方に飛び散っている。これはつまり、この攻撃が修羅の胴より下方から放たれたことの証。つまり、馬上にいるバットではなく、黒王が下方から蹴り上げたが故の衝撃だということだ。

【TVアニメ版での主な変更点】
カイオウの命令で修羅たちがシャチを捜索するというエピソード追加。
原作ではレイアがケンたちのもとへ赴いて合流するが、アニメでは行き倒れているところをシャチに救われる。
泰聖殿時のカイオウが、終始カブトをかぶっている。
シャチの左腕、右脚が千切れない(使用不能にはなる)。
ケンシロウが泰聖殿に到着した時にまだシャチが生きている。
原作では女人像の指が指した方向に走りカイオウの姿を見つけるが、アニメでは黒夜叉が偵察してカイオウの居場所を突き止め、それをケンシロウに報告するという展開。
サモトの容姿がヌメリになっており、リン発見から目覚めの破孔まで一人でやる。
ラオウが修羅の国へ渡りカイオウと対面するシーンがカット。
リュウオウが北斗琉拳を作ったことになっている(原作では明言されていない)。
原作でヒョウを助けるのはバット一人だが、アニメではリハクを含む北斗の軍のメンバーが同行。

≪天帝編 コウケツ編