
岩山の中に佇む、とある村―――。稲穂実るその豊かな地には村人たちの笑顔が溢れていた。しかしその町の外れからは、哀しげな槌の音が響いていた。かつて救世主と呼ばれた男、ケンシロウ。彼は今、亡きユリアの面影を岩に刻むだけの日々を送っていた。愛するユリアの死、そして数多くの強敵達の死の果てに己だけが生き残ってしまった今、ケンシロウは完全に魂を失ってしまっていたのだった。
司刑隊は、見せしめの処刑をするためとして、村の子供たち数人を郡都へと連れ去っていった。わが子を助けんと無謀にもX郡都へと向かおうとする親たちであったが、その中の一人は、ショウザに村から逃げるよう進言して来た。彼はかつて、雲のジュウザに命を救われたという男であった。ジュウザへの恩義のため、彼はどうしてもショウザを死なせたくなかったのである。そんな男に対し、ショウザは笑顔で答えた。ああ逃げるさ!親父と同じ雲のようにね―――。しかし、X郡都で今まさに子供達が殺されようとしたその瞬間、現れたのは、黒王号に跨ったショウザであった。
ダルジャのもとへとゆっくり歩み寄る一人の男。その行く手を遮るはずの司刑隊達は、何かに気圧されるかのように次々とその場に倒れていく。それは、ケンシロウの心と共に蘇った闘気であった。無謀にも一人で現れたその挑戦者に、巨大なハンマーを振り下ろさんとするダルジャ。だが自分の数分の一の身の丈しかないその男の蹴りに、ダルジャの両足はいとも簡単にへし折られてしまう。そしてケンシロウの怒りが爆発し、服が弾け飛んだその瞬間、その身体はダルジャの巨躯を遥かに凌駕していた。裂帛の気合と共に、ダルジャへと叩き込まれる無数の拳。「お前はもう・・・死んでいる!」北斗千獄拉気拳―――――。ダルジャに痛みは無かった。だが秘孔を突かれたその身体は徐々に歪み、やがて断末魔と共に地上から消え失せたのであった。![]()
|
| ≪北斗練気闘座編 | 天帝編≫ |