TOP

我が背に乗る者
(Special Episode)

 ケンシロウとユリアが荒野に消えてから数年。リンとバットは逞しく成長していた。だが今、彼らの前には死体の山が広がっていた。世界を包んだ平和と言う名の光は、永くは続かなかった。天帝軍を名乗る軍勢がその勢力を拡大し、各地で凄惨な侵略を続けていたのだった。北斗の軍を結成し、抵抗を続けるリンとバットは、己達の無力さを思い知るたび、一人の男への想いを馳せるのであった。

 岩山の中に佇む、とある村―――。稲穂実るその豊かな地には村人たちの笑顔が溢れていた。しかしその町の外れからは、哀しげな槌の音が響いていた。かつて救世主と呼ばれた男、ケンシロウ。彼は今、亡きユリアの面影を岩に刻むだけの日々を送っていた。愛するユリアの死、そして数多くの強敵達の死の果てに己だけが生き残ってしまった今、ケンシロウは完全に魂を失ってしまっていたのだった。

 そんなケンシロウの身を案じ続ける者達がいた。ショウザなる少年、そしてかつてラオウの愛馬・黒王であった。ケンが再びその背に跨る時に備え、二人は毎日滝へと訪れ、黒王の背を洗い続けていたのだった。何者にも懐かぬ黒王がショウザに接近を許す理由・・・それは、彼があの雲のジュウザの息子だからなのであった。

 その時、ショウザの下に火急の報せが届けられた。司刑隊長ダルジャ率いるX郡都(エックスぐんと)の司刑隊が、村へと侵攻してきたのである。持参したショベルカーやブルドーザーで村の外壁を破壊し、一気に村の中へと攻め込む司刑隊。村はあっという間に惨劇の場と化した。だがその報せを受けても、ケンシロウは動かなかった。黒王の突進を受け、肩に歯を食い込まされても、ケンの心は戻ってはこなかった。

 司刑隊は、見せしめの処刑をするためとして、村の子供たち数人を郡都へと連れ去っていった。わが子を助けんと無謀にもX郡都へと向かおうとする親たちであったが、その中の一人は、ショウザに村から逃げるよう進言して来た。彼はかつて、雲のジュウザに命を救われたという男であった。ジュウザへの恩義のため、彼はどうしてもショウザを死なせたくなかったのである。そんな男に対し、ショウザは笑顔で答えた。ああ逃げるさ!親父と同じ雲のようにね―――。しかし、X郡都で今まさに子供達が殺されようとしたその瞬間、現れたのは、黒王号に跨ったショウザであった。

 ケンシロウの前に戻ってきた黒王の背には、変わり果てたショウザの姿があった。そして黒王も全身に矢を受け、その左目には深々と矢が突き刺さっていた。数百に及ぶ司刑隊を相手に果敢に渡り合った二人であったが、その物量と火力の前には敵わなかったのであった。雲のジュウザ。そしてその息子ショウザ。親子二代に渡って、自らの血を、命を賭して闘ったその生き様。そしてボロボロになりながらも、尚ケンシロウにその背を預けんとする黒王の"漢"の誇りは、空虚となった男の眼に再び涙を、そして魂を蘇らせたのであった。

 ダルジャのもとへとゆっくり歩み寄る一人の男。その行く手を遮るはずの司刑隊達は、何かに気圧されるかのように次々とその場に倒れていく。それは、ケンシロウの心と共に蘇った闘気であった。無謀にも一人で現れたその挑戦者に、巨大なハンマーを振り下ろさんとするダルジャ。だが自分の数分の一の身の丈しかないその男の蹴りに、ダルジャの両足はいとも簡単にへし折られてしまう。そしてケンシロウの怒りが爆発し、服が弾け飛んだその瞬間、その身体はダルジャの巨躯を遥かに凌駕していた。裂帛の気合と共に、ダルジャへと叩き込まれる無数の拳。「お前はもう・・・死んでいる!」北斗千獄拉気拳―――――。ダルジャに痛みは無かった。だが秘孔を突かれたその身体は徐々に歪み、やがて断末魔と共に地上から消え失せたのであった。

 ケンのもとに黒王が運んできた一枚の手配書。そこに描かれていたのは、成長したリンとバットの姿であった。それは、二人もまた己の遺志を継ぎ、闘い続けているのだという証であった。ケンの心に、もう揺らぎは無かった。己にその背を預けてくれる相棒・黒王と共に、ケンシロウは再び北斗神拳伝承者としての宿命の道へと歩みだすのだった。



・X郡都(えっくすぐんと)
「ぐんと」!?「エリア」じゃなくて!?
このあと、ケンがバスクの所に行くまでに読み方変更のお触れがでた・・・とかかな?
・ショウキの村じゃない?
このショウザがいる村でユリアが死んだというような描写だが、どうもショウキの村とは別の村のように見える。少なくとも立地や建造物は似て似つかぬ感じだが・・・・。前の村は野盗に襲われた事で防衛的に不安であることが露呈したから全員で移住したという可能性も考えられるかな。
・突然のショウザ
黒王が背を許したのはケンシロウとラオウ様を置いてはジュウザしかいない。だから、このスペシャルエピソードにはジュウザのエッセンスが必要だとの事で、ショウザを登場させたという事なんだけども・・・あまりに突然の登場で、どうにもリアクションし辛いというか、せめてケンとの出会いの経緯とかをもう少し掘り下げてもらいたかった。ていうか、「ショウザ」って。「ジュウザ」の息子で「ショウザ」って。おまけにエピソード的にショウキもちょっと絡んできてるからもうなんか凄くややこしい。
・欝シロウ
救世主が!北斗神拳伝承者が!欝になっちまった!確かに愛するユリアに死なれたのが辛いのはわかる。わかるよ。でもケンさん一回それ受け入れてたよね?いや二回か。サザンクロスの時と練気闘座の時と。なんであの時は大丈夫だったのに今回は欝に?いやむしろ3回目だからなのか?蓄積なのか?
・賢すぎる馬
この左のコマの黒王を御覧頂きたい。これはどうみてもケンシロウの発言に対してビックリしている。ケンの気持ち理解したとかそういう次元じゃなく、完全に言語を理解して驚いているのだ。もともと凄く賢い馬だという事は理解していたが、ここまでとは・・・。







・黒王、左目に二本の矢を受ける
そうか、これが片目の理由だったのか・・・
マミヤの村でケンシロウに殴られた時のダメージが原因じゃないかとか邪推してごめんね!
・リン&バットの手配書
この時はまだ北斗の軍も駆け出しの頃だから、リンとバット二人纏めて一枚の手配書なんだろうか。なんか、売れてきたら楽屋別々にして貰えるお笑いコンビみたいね。

≪北斗練気闘座編 天帝編