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南斗最後の将編
(110話〜130話)

-風・炎編-


 覇権を目前に控えた拳王軍に対し、風の旅団なる者達が牙を剥いた。率いる男の名は、風のヒューイ。南斗六聖拳最後の将を守護する「南斗五車星」の一人であった。剛拳によってヒューイを一撃で粉砕したラオウであったが、ケンシロウ、そして南斗の将が動き出したことに、ラオウは時代の鳴動を予感するのであった。

 旅を続けるケンシロウとリン、バットは、拳王軍に暴行を受けていた大男・フドウと出会う。身体が大きいだけの気弱な男に見えたフドウであったが、彼もまた南斗五車星に属する「山」の男であった。フドウに与えられた使命、それはケンシロウを南斗最後の将の下へと導くこと。二人を引き合わせ、将に笑顔を取り戻させることこそが五車星の望みであり、その為ならば死する事すら厭わぬ覚悟を彼らは持っていた。

 ヒューイに続いてラオウの前に立ち塞がったのは、炎のシュレン率いる朱の軍団であった。燐を用いて炎を自在に使いこなすという独自の戦法でラオウに挑むシュレン。しかし、全身に炎を纏わせるという命を賭した攻撃ですら、ラオウの肉体に傷一つつけることは出来なかった。そのシュレンの執念を目にし、南斗最後の将への興味を深めたラオウは、部下たちにケンシロウの足止めするよう命じるのであった。


・弱すぎた二人の敗因
北斗の拳におけるワンパンの代名詞、ヒューイ
それよりは若干頑張ったものの、やはり見せ場もなく散った
シュレン
彼らの敗因は、単純に弱かったからであることは間違いない。だが
惨敗を招いた要因は、ラオウが馬から下りなかった所にあると思う。一般的な馬の背の高さが160cm程度なので、黒王なら200cmは優に越える筈。そんな高さにいる相手にまともに攻撃を当てるには、跳躍して攻撃するしかない。だがそれは、回避や後退といった選択肢を捨てた決死の行動に他ならない。もともと攻撃力に絶望的な差がある二人が真正面からぶつかったら・・・ああいう結果になって当然なのである。もし彼らが地上戦に持ち込めていたならば、そのフットワークを活かし、もう少しページ数を稼げるくらいは善戦できていたかもしれないのだ。
そもそもヒューイ達は、どうして黒王号を攻撃しなかったのだろうか。戦国時代の合戦でも歩兵はあまり馬を攻撃しなかったらしいが、それは馬を戦利品として持ち帰るためであり、黒王号に関しては当てはまらない。では彼らが動物愛護精神あふるる者達であったからか?黒光りする巨躯に威圧されたからか?いや、おそらくは、馬から下りたほうが厄介だと考えていたからだろう。馬上のまま戦う事を舐めプだと思い込み、馬上故の強みを考慮しなかったことが、彼らを惨敗させたのである。
・燐を使う
拳王様の見立てによると、シュレンが用いる発火能力は燐によるものらしい。と言われても残念ながら管理人の化学の知識はほぼゼロなので、少し燐について調べてみた。
燐にも色々な種類があるのだが、おそらくシュレンが用いているのは「赤リン」であると思われる。これに火薬を混ぜた混合剤を宙に撒き、そこに火花を起こすことで発火させているのだろう。一番発火しやすいのは「黄リン」なのだが、これは60度程の空気中で自然発火するため、水の中で保存しなければならないらしい。最後にシュレンが全身に炎を纏ったときにはこの黄リンを用いたのかもしれない。装備の中に水に入れた黄リンを忍ばせておき、いざというときにケースを割って・・・いやこれ相当危ないな。でも燐使いなら状況によって色々な燐を使い分けるとかしてくれたほうが魅力ありますよね。


【TVアニメ版での主な変更点】
アニメオリジナルの拳王配下が多数登場。
ヒューイのもとに出陣を報せるハヤブサが飛来するシーン追加
ヒューイがケンシロウと拳を交え、その力を見定めるシーンが追加
風の旅団の役目に、敵を誘き出しそのの力を見極めるという設定が追加。
ヒューイの弟、シオンが登場。ヒューイ死亡後にリハクのもとへと走り、拳王の強大さを伝えて絶命する
シュレンのもとにヒューイの死を知らせる手紙が届く。その後、居城を燃やして、拳王打倒へ出陣する。
アニメ版でケンシロウ達の足として活躍したバギーが敵に燃やされる。以降は原作と同じく徒歩に。



-ジュウザ編-


 圧倒的な力で盗賊団のボスを倒し、女と食料を奪って去っていった一人の男。自由気ままに生きるその男の名はジュウザ。南斗五車星、雲の男であった。ラオウを止める事ができるのはジュウザを置いて他に無い。そう考え、部下をジュウザの元へと遣わせるフドウであったが、ジュウザは全く動こうとはしなかった。彼が心を捨て去った理由・・・・それは、自らが愛した女が母違いの妹であることを知ってしまったからであった。彼女の名はユリアといった。

 睡眠薬を盛られ、将のもとへと連れて来られたジュウザは、その仮面の下の素顔に驚愕する。そして同時に、ジュウザの中に魂が蘇った。それは、彼もまた五車星の一人、雲のジュウザとして将の為に死する覚悟を決めた瞬間であった。ラオウの進軍を止めるため、その眼前に立ちはだかったジュウザは、天賦の才から繰り出される変幻自在の我流の拳でラオウを攻め立てる。だがジュウザの真の狙いは、ラオウを倒すことではなかった。黒王号に跨り、見事に宥めてみせたジュウザは、ラオウの「足」を奪って颯爽と戦場を後にしたのであった。

 ラオウからの命を受けた拳王軍の精鋭部隊が、次々とケンシロウ達に襲い掛かる。このままではラオウが将のもとへと先んじてしまうと考えたフドウは、ケンシロウを単身将の城へと向かわせ、自らが拳王軍の相手をする事に。しかしその行く手に現れたのは、拳王軍の中で最も冷酷非道と言われる男、ヒルカであった。フドウが親代わりとなって育てている孤児を、流砂の中へと投げ込むヒルカ。罠と知りながらも子供等を見捨てる事が出来ず、流砂へと飛び込むフドウであったが、その巨体はどんどんと砂の中へと沈んでいく。だがその時、フドウの危機を知らされたケンシロウが救援に駆けつけた。他人の命を犠牲にして、己の未来を掴むことなど、ケンシロウには出来なかったのであった。

 ケンシロウという男の生き様を確かめたジュウザは、黒王を駆り、再びラオウのもとへと舞い戻った。自ら防具を脱ぎ捨て、背水の覚悟でラオウへと挑むジュウザ。身体に塗った油でラオウの攻撃を滑らせ、間合いへと飛び込んだジュウザは、渾身の撃掌を炸裂させる。だがそれは、ラオウの命を奪うには至らなかった。奥義が炸裂する寸前、ラオウはジュウザの肩の秘孔を突いていたのだった。両腕を破壊されたジュウザは、ラオウにわざと我が身を撃たせ、その腕を捕える。己の命と引き換えに、せめて腕一本を折ろうというジュウザの執念であったが、ラオウのパワーはそれすらも許さなかった。秘孔 解唖門天聴。相手の口を割らせるその秘孔で、南斗最後の将の正体を聞き出さんとするラオウ。しかし、ジュウザの強い意志は、ラオウの秘孔を凌駕した。「拳王の・・・ク・ソ・バ・カ・ヤ・ロ・ウ」。何者にも縛られない「雲の男」は、己の道を貫き通した凄絶なる最期を遂げたのであった。

 フドウと子供達を村へと送り届けたケンシロウは、フドウの傷を思い、村に留まるよう命じる。そして何より、子供たちにはフドウの存在が必要なのだと考えたのであった。出発の直前、今までひた隠しにされてきた将の正体を尋ねるケン。だがフドウの口から語られたその正体は、あまりにも意外な人物であった。それは、ケンシロウ、そしてジュウザが愛した女、ユリアであった。あの時、シンの居城から身を投げたユリアは、南斗五車星の手によって命を救われていた。更に五車星は、拳王の軍勢が近付いている事をシンに告げ、ユリアの身柄を預かることとなった。そしてシンは、自らユリア殺しの汚名を被り、ケンシロウとの戦いに臨んだのであった。

・拳王軍最強部隊 長槍騎兵隊
ケンシロウの足を止めるべくザク様が差し向けた、拳王軍が誇る精鋭最強部隊。それが長槍騎兵隊だ。相手が相手だけに目立った戦果は挙げられなかったが、崖の上からダイブする死の特攻や、ケンの棍棒攻撃を受け止めるパワーなど、その身体能力の高さを窺い知ることはできる。
意外と知られていないが、
彼らは「拳王軍の中で最初にケンシロウに差し向けられた部隊」でもある。それまでにもケンと拳王軍のバトルはあったが、偶然遭遇したり、ケンから攻め込んだり、相手が単体の場合ばかりであった。つまり拳王軍にとってケンシロウは、「厄介な存在」ではあっても「驚異的な存在」としては見られていなかったのである。そんな中、とうとうラオウ様が直々に最強部隊を差し向けることとなった。これはケンシロウが拳王軍最大の敵として認識された瞬間であり、拳王軍という集団とケンシロウという個の戦争が幕を上げた瞬間でもあるのだ。長槍騎兵隊は、その合戦の初陣を任された、文字通りの「一番槍」なのである。
・ゲルガ親分
泰山破奪剛の使い手であるゲルガさん。ジュウザに自慢の腕をねじられた挙句、最後は逆エビで真っ二つに折られてしまった彼だが・・・・この人、そんな殺され方されるような悪人だったのか?そもそもゲルガの村に入り込んだのはジュウザのほうだし、水場の女たちもジュウザのおふざけを相当嫌がっていた。もし彼女たちがゲルガに無理矢理囲われていたのなら、ジュウザに助けを求めるなりしたはずだ。それが無かったということは、彼女たちがあそこでの生活を気に入っていた証であり、ゲルガやその部下たちとも仲良くやっていたという事だろう。つまりゲルガは、ただの力自慢の心優しい村長であり、そんな彼をイライラしていたという理由でぶっ殺したジュウザは結構酷いヤツだということだ。
・崖の上のテキ
炎の軍団に崖の上から火矢を浴びせられた拳王軍は、その数日後、ジュウザとの戦いの最中に崖の上から岩を落とされ乗り物を全部壊されました。
・・・・いやいや、何回同じ轍を踏むの!峡谷とか一番ヤバい地形なんだからもっと警戒しろよ!本隊が通る前に斥候送るなりしなさいよ!
・母違いの兄妹
イチゴ味の中でもネタにされているが、ユリアの家系はなかなか複雑な事情を抱えている。ユリアとリュウガは実の兄弟で、ジュウザは彼らとは母違い。しかし年齢的にはリュウガ>ジュウザ>ユリアであるため、リュウガとユリアの父(以下リュウガパパ)はリュウガを作った後に別に女とジュウザを作り、その後再び最初の女とユリアを作ったということになるのだ。なぜそんな事になったのだろうか。
鍵となるのは、ユリアが継ぐ
南斗正統血統の存在だろう。彼女の父方、母方、どちらが南斗正統血統の家系なのかによってその解釈も変わってくる。
父方(リュウガパパ)が南斗正統血統だった場合・・・彼が複数の女と子を作ったのは、南斗の血統が濃い子供を作るためではないかと推測される。リュウガは薄かった。別の女と作ったジュウザも薄かった。しかしもう一度最初の女と子を作ってみたところ、実に濃厚な血を引くユリアができた。選ばれし血筋であるからこそ許された一夫多妻制というわけである。ただ、慈母星の名を継ぐものが、血のためにそんな節操無い事をするかという疑問は残る。
母方が南斗正統血統だった場合・・・リュウガパパは「南斗正統血統の女と結ばれて南斗の一族入りをさせてもらった立場であるにも関わらず他所でも子供を作った」という不貞野郎ということになる。そんな奴が許される筈がないため、バレた時点でリュウガパパは追放、下手すりゃ死罪まである。ユリアを作るどころではない。そう考えるとこちらの線は薄そうなのだが、ジュウザ外伝での「ジュウザの母の妹は娼婦だった」という設定がひっかかる。もし彼女の姉、つまりジュウザの母も娼婦であったならば、ジュウザは「リュウガパパが娼婦との間に作った子供」と考えられるのだ。ガッツリとした不倫ならすぐバレそうだが、たまたま行った娼館での一夜限りの火遊びで出来た子供となればそうそうバレないだろうし、実に「ありがち」な設定だ。ただこの場合、ジュウザには全く南斗の血は流れていないということになるので、あの天才的な才能は全くの偶然ということになる。それは少し考えにくい。
以上の考察を纏めて考えると、やはり一番可能性が高いのは、父方のほうが南斗正統血統であるという考え方だろう。しかしジュウザは血の濃いものを作るための種馬大作戦で生まれた子ではなく、娼婦との間に出来た子供だった。リュウガは母方の血が濃かったため将になれず、ジュウザは存在を隠されていた&娼婦の子という理由でやはり将になれず、結果的に血も濃く、スキャンダルもないユリアが将として選ばれたのだ。
・ジュウザの狙い
ラオウ様が南斗最後の将の正体に確信を持ったのは、ジュウザの戦いの中での台詞や、その凄絶なる死に様であった。実質ジュウザがユリアの事をばらしたようなものだ。というかそもそも何故彼は黒王を返しにいったのか。せめてケンが南斗の城に着いたのを確認した後くらいでも良かったのではないのか。ユリアのために命を捨てた男の行動にしては、疑問が多い。
私が思うに、
ジュウザは南斗の城でケンシロウとラオウを鉢合わせたかったのだと思う。ケンシロウの様子を見に行き、将の下への到着時間を予測したジュウザは、そのタイミングでラオウも同着させるため、あえて将の正体を悟らせることでラオウを急がせたのだ。
何故二人を会わせたかったのか。それは、ケンシロウにラオウを倒させるためだ。五車星たちはケンとユリアを会わせんと躍起になっているが、それで得られる将の幸せは一瞬。ラオウを倒さねば真の平安は訪れない。そう考えたジュウザは、南斗の城でケンシロウがラオウ様に勝てる状況を意図的に作り上げようとしたのである。その状況とは、ラオウ様が万全で無い状態・・・つまりジュウザによって右腕が破壊された状態だ。あの命を懸けた腕ひしぎも、全てはケンシロウのためのサポートだったのである。


【TVアニメ版での主な変更点】
ジュウザと行動を共にするアウトロー仲間達が登場。対拳王軍の初戦にも同行するため、フドウの部下である若草色の軍団は同行しない。
拳王軍が門を開いて町を通過するシーンで見物人の中にジュウザがいる
原作ではゲルガのアジトにある水浴び場にジュウザが飛び込むが、アニメではジュウザが拐ってきた女達を取り返しにゲルガが押しかけるという流れに変わっている
原作でフドウは偶然流砂地を通りかかるが、アニメではヒルカからおびき出される
ヒルカとタンジ・ジロの関係が、「実の親子」から「同じ一族」に変更
ヒルカの部下たちも泰山妖拳蛇咬帯を使用する
ヒルカは最期、流砂に落ちて死亡する
フドウが負った傷は、原作では拳王部隊と戦ったときのものだったが、アニメではタンジとジロを投げたときに受けた傷に変更
ジュウザが解亜門天聴後も暫く戦う。



-決戦編-


 ユリアが生きている―――。昂る気持ちを胸に、南斗の城へと急ぐケンシロウ。だが城門へとたどり着いたその時、ラオウもまたその場に現れた。ジュウザの凄絶なる死に様は、皮肉にもラオウに将の正体を悟らせていたのである。ラオウにとって、ユリアを手に入れることもまた「野望」の一つなのであった。

 五車の兵団を蹴散らし、塔を上るラオウは、遂に仮面を被った将の姿を眼前に捉える。だが、その仮面の下にあったのは、五車星 海のリハクの娘・トウであった。己のラオウへの想いを告白したトウは、その願い届かぬならと、自害という方法でラオウの心に己を刻もうとする。しかし、ラオウはそのトウの行為を否定した。想い届かぬ時は、相手を殺せば誰の手にも渡ることは無い・・・・。それがラオウの考えであり、それはユリアに対しても変わることはなかった。

 最後の部屋でラオウを待ち構えていたのは、天才軍師と呼ばれる海のリハクであった。部屋に仕掛けた無数の罠でラオウを仕留めんとするリハクであったが、ラオウの圧倒的な力によってその全て無力化されてしまう。だがその頃、ユリアは既に階下へと向かっていた。別の部屋でケンシロウと落ち合い、逃亡する手はずとなっていたのである。しかし、辿りついたその部屋にケンシロウの姿は無かった。ラオウある限りユリアに生は無い。そう言ってケンシロウは、ラオウとの決着をつけるため、その場を後にしていたのだった。

 遂に相対するケンシロウとラオウ。しかしラオウの攻撃がケンシロウに届くことは無かった。トキの動き・・・レイの水鳥拳・・・。強敵達の姿を背負い闘うケンシロウの瞳には、深い哀しみが宿っていた。その時、ラオウは師リュウケンの言葉を思い出した。北斗神拳究極奥義 無想転生。無より転じて生を拾うその奥義を体得できるのは、哀しみを背負った人間のみ。数々の強敵との闘いで流されていった血が、哀しみとなって刻み込まれ、ケンシロウに究極奥義を体得させていたのであった。その事実を認めたくないラオウであったが、無想転生の威を感じた彼の肉体は、恐怖に震えていた。自らの死を覚悟し、捨て身の攻撃を繰り出そうとするラオウ。だがその時、リハクが仕掛けていた最後の仕掛けが発動する。足元が崩れ、ラオウは階下へと落下する。だが落ちたその先にあったのは、ユリアの姿であった。やはり天は俺を望んでいる―――。そう確信し、ユリアを抱えて黒王号を駆るラオウ。一方ケンシロウは、先ほどの仕掛けによって両目を負傷してしまっていた。手負いの獅子である今のラオウは、触れるもの全てを打ち砕く暴凶星となる。兄を止めるため、そしてユリアを取り戻すため、ケンシロウはラオウの後を追う・・・・


・ラオウがサザンクロスを攻めなかったのは
ユリアを奪いに軍を率いてサザンクロスに迫ったラオウ様だが、結局シンを倒すことも領土を奪うこともせず、帰還されたようだ。何故ラオウ様はあのまま攻め込まなかったのだろうか。
大きな理由としては、
ユリアが死んだことを聞かされたからだろう。だが折角大軍を率いてきたのに、真相も確かめずにハイそうですかと踵を返すとは思えない。おそらくは、シン本人と直接会って話をされたのだろう。そしてシンは、ケンシロウをもコロッと騙したあの迫真の演技力で、ラオウ様にもユリアの死を見事に信じ込ませたのだ。ユリアが自分の下から去ったことに変わりは無いので、哀しみの涙も別に嘘ではないわけだから、きっとラオウ様も全く疑うことは無かったことだろう。
ならばと目的をユリアから侵攻へと変更し、そのまま領土を制圧する事もできたはず。しかしそれすらもしなかったのは、イチゴ味でもネタにされていたが、
サザンクロスを落とすことにそこまでの戦略的価値が無かったからだろう。あの時点では拳王軍の勢力もそこまで大きくなかったであろうから、KING軍と正面からぶつかっては戦力が大きく削られること必死。シンが己の配下となるような男で無い以上、侵攻すれば争いは避けられない。同時に、ユリアを失ったシンにこれ以上の勢力拡大の意思もない。そういった諸々の事を総合して考えた結果、無益な戦は避けるべきだと判断し、兵を引いたのだと考えられる。
しかし一番の理由は、シンを倒すべきはケンシロウだと考えておられたからだろう。二人が昔から友人関係にあっただけでなく、胸に七つの傷を付けられるという因縁が生まれた以上、その間に己が入るのは野暮だとお考えになられたのだ。
・トウの存在意義
ラオウへの足止め要員として将の影武者となるも、大して時間を稼ぐことも出来ず告白だけして死んでいった女、トウ。彼女は一体なんのために登場したのか。それは、ラオウ様というキャラクターを輝かせるためである。
まずラオウ様をあそこまで愛していた事(少々ヤンデレだが)が大きい。拳王を名乗り、人間とは思えぬ力で敵を粉砕する2メートルオーバーの男など、尊敬や畏怖の対象にはなっても、なかなか恋の対象とし見られることはないだろう(個人の見解です)。しかしトウのあの命を投げ出すほどの想いが、その価値観をガラっと変えた。
ラオウという男の本質がいかに人間として、男として魅力的であるかを、トウの恋心が証明しているのである。
そんなトウには可哀想だが、ラオウ様のユリアへの想いが本気であることもよく分かる。将(影武者)と対面したラオウ様は、目の前の人間がユリアでないことを、甲冑の上から見抜かれた。これはラオウ様の中にそれだけ深くユリアが焼き付いているという証。シンが作った人形を本物と見紛えたどこぞの男よりも、遥かにユリアという人間を理解しておられるのだ。
そしてあの名台詞が生まれたのもトウの功績だ。
「誰を愛そうがどんなに汚れようが構わぬ。最後にこのラオウの横におればよい」。ラオウ様が求めているのはユリアの心でも、美しさでも、共に過ごす時でもない。ユリアという存在、そして彼女が持つ慈母の心。非情に染めあげ荒みきった己の心に、安らぎを与えられるのはユリアの慈母性を置いて他にない。覇道を成して全てを終えた後、最後に還る場所としてラオウ様はユリアを求めていたのだ。そんなちょっぴり恥ずかしいラオウ様の本音を引き出せたのも、トウの無謀なるアタックのおかげ。25コマしかない出番の内の20コマで号泣した甲斐があったというものである。
・軍師リハクとは
世が世なら万の軍勢を縦横無尽に操る天才軍師・・・とラオウ様に評された程の人物である海のリハク。だが作中の彼は、ハッキリ言って無能の極みであった。それも活発的に動く無能だったので余計たちが悪い。意味不明な指示を出しては悉く読みを外し、状況を悪化させるばかりだったのだ。代表的なところでいうと、ヒューイ、シュレンを無策のままラオウにぶつけた件だ。いたずらに兵力を失い、かつ拳王に最後の将への興味を持たせるというデメリットしかない作戦であった。しかもその後にジュウザが策を弄して拳王軍の足を奪うという功績を治めているので、余計リハクの無能具合が引き立っている。
ただ、アニメ版の設定ではあるが、ヒューイには「相手をおびき出してその力を見極める」という役目が与えられており、彼はその宿命を全うしただけとも考えられる。それを次に活かす事ができれば、彼らの犠牲も報われる筈だったのだ。
だがリハクは、その二人の死を完全に無駄にした。南斗の城で対峙したあの時、用意した罠を一瞬で台無しにされたあの瞬間、ヒューイとシュレンの死はゴミと化したのである。どう足掻いても止められなかったのならそれでも仕方ない気はするが、最後の仕掛けとして用意していた爆発&崩落は、あのラオウにも確実に効果はあった。あれを最初に組み込み、その後に武器の一斉放射を行っていれば、結果も変わっていただろう。何故その手順を間違えたのかと言うと、結局はヒューイ、シュレン、そしてジュウザの敗北をもってしても全くラオウの力を推し量れていなかったからに他ならない。
まあそれでも擁護するなら、それだけラオウ様の力が常軌を逸していたということだろう。軍略、力学、生物学等、多くの分野に長けていたリハクだからこそ、「常識的に考えられる範囲」を自ずと設定してしまい、規格外の存在であるラオウ様やケンシロウの力を読み間違えてしまったのだと思われる。ラオウ様の力の上限を「ヒューイを一撃で倒せる力」で計算したが、実際は小指一本でも十分だった。そんな所では無いだろうか。
・本来の天将奔烈
ラオウ様自身が無敵の拳だと称する天将奔烈。だが実際はケンシロウに大したダメージは与えられなかった。その理由は、ラオウ様が無想転生に恐怖した後だったからだ。恐怖した状態では本来の力を発揮できないことは、作中で何度も語られている通り。ましてや天将奔烈は闘気をぶつける奥義だ。闘気とは、感情や気迫に大きく左右されるもの。恐怖によって萎縮したあの状態では、まともに闘気を纏える筈がなかったのである。ケンシロウもそれを見抜いていたからこそ、天将奔烈を正面から受け止める事ができたのだ。本来のイケイケ状態の拳王様ならば、きっと無敵の拳との呼び名に相応しい惑星破壊級の天将奔烈を放てていた事だろう。


【TVアニメ版での主な変更点】
トウが初めてラオウと出会った際のエピソードが追加
リハクが五車波砕拳でラオウと戦うというシーン追加



-フドウ編-


 ケンシロウによって刻み込まれた恐怖の記憶。その幻影を打ち払わぬ限り勝利は無いと考えたラオウは、山のフドウのもとへと訪れた。万人から慕われる善のフドウ。だが彼は、かつて悪鬼羅刹と呼ばれた"鬼"であった。しかし、幼きユリアより命の温かみを教えられたフドウは改心し、南斗慈母星に仕える五車星の男となったのであった。だが今、ラオウが望むのは「鬼のフドウ」との闘い・・・。かつて唯一己を恐れさせた男に勝利し、その血を飲み込むことで、恐怖を払拭せんと考えたのである。もし恐怖に押され、退くようであれば、己は弟に勝てぬ愚兄。そう考えるラオウは、地に線を引き、ここより退けば己に矢を放つよう部下に命じるのだった。

 かつてと変わらぬ闘気を纏い、拳王との闘いに挑むフドウ。だがこの世の覇を成した男の拳は、フドウの力を遥かに凌駕していた。しかし、いくら致命の打撃を与えても、フドウが止まる事はなかった。その最中、ラオウは、フドウの目にケンシロウと同じ哀しみを見る。この眼光こそ己が恐怖を感じたもの―――。そう確信し、更なる攻撃を叩き込むラオウ。秘孔によってフドウの身体が爆ぜた瞬間、勝利を確信するラオウであったが、その身体死に果ててもフドウは倒れなかった。彼の歩を進ませるもの・・・・。それはフドウの闘いを見届けんとする子供達の心。その哀しき瞳に宿る力。その背後に、ラオウはケンシロウの影を見る。次の瞬間、フドウの身体を巨大な矢が貫いた。フドウの、そして子供達の哀しみの瞳が、ラオウを退けていたのであった。

 哀しみを知らぬ男に勝利は無い。そうラオウに告げ、遂にフドウは倒れた。だが勝ったのは紛れも無くフドウとケンシロウであった。踵を返し、部下達のもとへ戻ったラオウは、命令を無視してフドウに矢を射った彼等を殴りつけた。敗れた上にその命を拾われたことは、拳王としてあるまじき屈辱であった。

ケンシロウが駆けつけたとき、既にフドウの命は尽きようとしていた。これからはその手で子供達を、この時代を抱き包んで欲しい。ケンシロウに最後の願いを託し、フドウは静かにその役目を終えたのであった。



・貨幣制度の終焉
北斗道場の門下生を蹴散らしたフドウは、リュウケンと先に交わした約束通り、金と食料をたんまり持っていった。この時、おそらく時代は80年後半から90年代前半。リアル世界ではバブル絶頂期にあたるそんな好景気の時代に、褒賞が「食料」って・・・・。金さえあれば何でも好きなものが食えるのだから、金だけでいいんじゃないかと思わざるを得ない。
だが北斗の世界は、このとき既に世界中に紛争の我が広がり、徐々に文明は崩壊しかけていた。それはつまり、貨幣制度の崩壊が間近に迫っていたということ。既に凄まじいインフレーションを起こしていたあの世界では、箱一杯の金も食料も同価値となっていたのだろう。
・この居城を捨て、フドウの村へ!
ラオウの後を追って、拳王の居城へと乗り込んだケンシロウ。そこで自称口の堅い男から聞き出したラオウの行き先は、フドウの村であった・・・・。
え、これで終わり!?
最強の敵の本拠地を落とした描写がたったの4ページ!?も、もったいない・・・・。ラオウ様が不在なのだから戦力不足なのは仕方ないにしても、せめて留守を任された超強い隠し玉とかとの守城戦とかあっても面白かったのに。男の言う通り、本当にこの城を「捨てた」のならわかるんですが、フドウ戦後に普通に帰ってきてますしね・・・。ラオウ外伝のアニメ版のクライマックスで、レイナとサクヤが必死に城を守っていたのがすごく無駄な努力だったように思えちゃいます。
・部下たちは本当に命令を無視したのか
「よいか〜〜!このラオウの体、一歩でもここより退いたら容赦はいらぬ!この背に向かい全矢撃ち放てい!」そう言ってフドウとの戦いに臨んだラオウであったが、フドウとその子供達の瞳に宿る哀しみに、ラオウは再び恐怖した。だが線を越えて退いたにも関わらず、放たれた矢が貫いたのはラオウの背ではなく、フドウの身体であった。部下たちはラオウの命令を無視し、援護を選択したのだった。
・・・・本当にそうだろうか?
あの一発目の矢の軌道は、実に絶妙なものだった。右拳で殴りかかろうとしたラオウの右脇下を掠めるほどのギリギリの所を通過しているのだ。あれほど巨大な矢を、そんな正確に放てるものだろうか。しかも戦闘中の二人の身体は常に激しく動いているわけで、そこを狙って放つとなると難度は更に数倍に跳ね上がる。ハッキリ言って絶対に無理な芸当だろう。
あの時、ラオウ様はまさに右拳を繰り出している最中であり、その身体は左に少し傾いていた。もしあの位置でラオウ様が普通に直立していたら、もしかしたら矢は命令どおりにラオウ様の背に突き刺さっていたのではないだろうか。そもそも、あの矢が援護の為に放たれたものだと考えるのはおかしい。何故ならあの時のフドウの攻撃に対してはラオウ様もパンチで迎え撃っているわけで、さしたるピンチでもない。そんな中で勝負に水を差すような援護射撃など流石に行わないだろう。つまり
あの一発目の矢は、命令どおりラオウ様に向けて放たれた射撃である可能性が高いのだ。
ラオウ様が「全矢放て」と命じていたのに、最初に放たれた矢が1発だけだったというのも理由の一つだ。いくらラオウ様からの命令でも、王の命を奪うような放矢など出来るものではない。命令を遵守した部下がたった一人で、他の者は静観するのみだったのだというのも致し方ない。というか、それが普通なのだ。しかし、最初の一発目の矢が狙いを逸れフドウに直撃してしまったことで「なるほど、そっちか!」と思い込んでしまった部下たちは、堰を切ったかのように一斉にフドウ目掛けて矢を放ったのである。あの命令無視は、勘違いの連鎖が生んだ悲劇だったのだ。
その唯一命令を守った最初の矢を放ったのは、
ザク様ではないかと思う。何しろザク様は、ユリアを殺そうとしたラオウ様の足を射抜いた実績の持ち主。ラオウ様を思えばこそラオウ様に矢を放つことの出来る漢気の持ち主なのだ。しかし結果は的を外し、それが他の部下たちの誤射を招く呼び水となった。その責を感じたが故に、ザク様は一切の弁明することなく「我等の思慮の足りなさが拳王様の怒りに触れました」と全ての非を背負ったのである。まさに拳王軍の良心。ユリアが率先して治療に当たったのも納得というものである。


【TVアニメ版での主な変更点】
ジャドウが、部下たちとともに登場
ケンシロウの視力が回復するのが、ジャドウを倒した直後ではなく、フドウの最期を見届けた後に変更
フドウがユリアの母性に触れるのを目撃するのが、リュウケンからリハクに変更
リハクがフドウの村に駆けつける

≪リュウガ編 北斗練気闘座編