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[第149話]
カイオウ屈辱の歴史!
天はリンの運命もぬりかえる!!


 破孔死環白。カイオウが突いたその破孔は、リンの愛を弄ぶ非道の拳であった。何処までも卑怯なカイオウに向かい、渾身の拳を放つケンシロウ。だがそれを難なく受け止めたカイオウは、そのままケンを背後へと放り投げ、体の上に跨った。灼熱の沼の中へと落とされそうになったケンは、逆にカイオウを沼へ蹴り飛ばし、脱出に成功。瘴気の中に、カイオウの体が消える。だが、自らの聖地ともいうべきこの場所で、カイオウが簡単に死ぬはずはなかった。沼に浮かぶ小さな一本岩の上で逆立ちになりながら、カイオウは沼への転落を逃れていたのだ。愛の為に闘う男と、悪に染まった男。二人の死闘は、まだ始まったばかりであった。

 ケンのもとへ向かうヒョウとタオの前に、黒夜叉が姿を現した。ケンとカイオウ。二人の宿命の闘いが遂に始まったことを知らせにきたのである。それを聞いたヒョウの脳裏には、ある出来事が思い出されていた。カイオウが魔人となるための要因のひとつとなった、屈辱の歴史。自分が未熟な故に起きたある出来事を、ヒョウは覚えていた。

 自らを取り囲む4人の武道家を、目隠しをしたまま蹴散らす一人の子供。ジュウケイをも唸らせるその少年は、幼き頃のカイオウであった。母の死を経て、悪の道へと進み始めたカイオウの拳は日々凄まじさを増していた。そしてその強さは、同門の子供達の憧れとなりつつあった。カイオウに怖れつつも、その腕には同じ汗止めを巻き、カイオウの行く所についていく。カイオウは、彼等の英雄となっていた。だがジュウケイは、その現状に危機感を感じていた。

 夜。ジュウケイより告げられた言葉に、カイオウは、己の耳を疑った。翌日のヒョウとの試合に、わざと負けるよう命じられたのだ。己達は北斗の屑星。決して北斗宗家よりも強く輝いてはならない。そのためになら強きものがわざと負けることすら厭わないと、ジュウケイは考えたのである。納得できない表情のカイオウに、ジュウケイは言った。もし力通りに戦うなら、ラオウ、トキの命はないと。

 明朝、カイオウとヒョウの試合は始まった。だがその闘技場となったのは、落ちれば確実に死ぬ高さの吊橋の上という、あまりにも過酷な場所であった。そしてその高さは、既にヒョウの足を竦ませていた。もし攻撃を受ければ、ヒョウの落下は確実。しかしそれでも、カイオウには勝利は許されなかった。母を奪った北斗の惑星としての宿命に殉じるつもりはない。しかし弟達を見捨てることもできない。葛藤の末にカイオウが選んだ道。それは、自らが踏み抜いた吊り板へと身をはまらせ、情けなく負けを宣言するというものであった。まるで別人のように、助けを求め、死を怖がるカイオウの姿。それを見た子供達は、一斉に汗止めを谷底へと投げ捨てたのであった。全ては宿命のため・・・。この時カイオウが受けた屈辱は、北斗宗家に対する彼の恨みを更に増す結果となったのであった。


自分に北斗宗家の嫡男としての力があれば、この悲劇は起こらなかった筈。ヒョウはそう考え、今日のこの闘いに責任を感じていたのであった。

 その時、何者かが放った斧が、ヒョウの頭上を掠めた。弧を描き戻ってきたそれをヒョウが破壊した瞬間、今度は鉄鎖がヒョウの首を絡め取る。襲ってきたのは、ゼブラ。彼は、ヒョウを殺すために放たれたカイオウからの刺客であった。

 とある村では、修羅達が女を求めて奔走していた。彼らはボスであるサモトに命じられ、彼の嫁となるべき女性を探していたのである。一人として女が見つけられない戦果に、苛立ちを募らせるサモト。しかしその時、彼らの前に一匹の馬が現れた。一同は歓喜した。その馬の背には、眠り続ける美しい女性の姿があったのである。女を馬から下ろし、その目覚めの時を待つサモト達であったが・・・

 傷で思うように戦えず、ゼブラの鎖術に苦しめられるヒョウ。勝利を確信するゼブラは、冥土の土産とばかりにある事をヒョウに教えた。ケンシロウを慕うリンなる女性が、死環白を突かれ、野に送り出されたというのである。だがその知らせは、逆にヒョウを奮い立たせた。止めをささんと襲い掛かってきたゼブラを、逆に地面へと押しつぶしたヒョウは、リン救出へと向かうのだった。

 カイオウの放った拳を、ケンは避けずにその身に受けた。戦う度に相手の心を刻んできたケンは、その一撃で受けた傷をカイオウの心として刻もうと考えたのである。俺にはもはや心は存在しない。そう言い切るカイオウであったが、それでもケンはその心を拾わねばならなかった。それは、かつてラオウと交わした約束でもあった。ケンが北斗神拳伝承者となった日、ラオウはケンに告げた。自分は誰よりも兄を尊敬していた。兄は自分の中でいつまでも英雄でなくてはならない。故にその拳が歪んでいたならば、カイオウの名が魔王として汚れる前に、英雄として倒して欲しいのだ、と。今その契りを果たさんがため、ラオウの想いをその拳にのせ、ケンは魔神へと挑む・・・
放映日:88年1月28日


[漫画版との違い]
・馬乗りになったカイオウを蹴飛ばしたのは、原作ではケンの頭のほうだが、アニメではケンの足側に飛ぶ。
・原作ではシャチが呼んだ人員が数人ヒョウについているが、アニメではなし。代わりにタオがいる。
・ヒョウがカイオウに屈辱を与えたときの事を思い出すのはゼブラ戦の最中だが、アニメではその前。
・原作でカイオウに人気がある事をジュウケイに伝えたのは黒夜叉だが、アニメでは別の男
原作のサモトの容姿が、ヌメリに。かわりにヌメリは登場せず(次話)
・二人が熱泥で組み合うところから、カイオウの魔闘気で墓標が崩れるシーンまで削除
・二人が互いの身体の傷を見せ合うシーン削除(ケンがわざと突かせた後に自分だけ見せる)
・海を渡ってきたラオウとカイオウが対面するエピソード削除
・ラオウから打倒カイオウを頼まれた事を話すのは原作では地下空洞だが、アニメでは兄を尊敬していたとの伝言に続いて。
・奥義魔流苛烈破でケンがふきとぶシーン追加



・早い!
原作ではケンの自前だったプロテクターが、アニメではシャチから受け継ぐ形となりました。前話でシャチの心と共に闘う事を約束し、レイアから託された形見の品です。しかし今回はじまって僅か2分で粉砕!!早い!もう少し大事に扱って!
でも流石に傷を見せるためだけにバーンってやるのはやりすぎだと思ったのか、カイオウに壊させたという風に変更されました。
・サモリ
サモトとヌメリ、二人も出す意味があるのか?という理由でとられた処置が、この合体という手法でした。名前はサモトで容姿はヌメリ。ややこしいにも程があります。しかしこれは、数多くのアニメ化された作品の中でも他に例をみない斬新な手法だと言っていい。通常ならヌメリを省いて終わりのところを、わざわざサモトとして出す・・・。この意味の無さが素晴らしい。追いやられた本来のサモトは、部下として登場させるという細かさもグー。激愛戦隊ヌメレンジャーの元隊長としては憂うべきところであるかもしれませんが、正直へやーから爆死までやってくれたんで問題はないです。ただ、あはらは言って欲しかったけど。


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