
リンが連れてこられたのは、カイオウの悪の原点、魔性の沼であった。その沼の中心に立つ墓標こそがカイオウにとっての悪の象徴。悪こそが最強であることを再認識させ、そしてその悪の力が更なる魔闘気を纏わせる、まさにカイオウにとっての聖地なのであった。その時、カイオウは付近の岩陰に何者かの気配を察知する。魔闘気で砕かれた岩の向こうから姿を現したのは、黒夜叉であった。ケン達に先駆け、一人でカイオウの様子を探りに来たのである。逃げる黒夜叉に、カイオウは伝えた。もはや北斗神拳など敵ではない。極限にまで達した我が拳を存分に味あわせてやると。
その時、カイオウ達が暮らす凱武殿から爆発音が響いた。世界中に起こっている戦火の火が、この北斗宗家の地にまで及んできたのである。急いで戻ったカイオウ達が目にしたのは、炎上する建物と、傷を負った人々で埋め尽くされた凄惨な光景であった。だが、幸い彼らの母はトキと共に脱出した後であった。しかし、本堂の中にはまだ幼いケンシロウとヒョウが取り残されていた。火の手が早くこの状況では、もう助からない。絶望が広がる中、カイオウの母は自分に水をかけるよう言い放った。今動けるのは自分しかいないと思った彼女は、この火の中に飛び込む覚悟を決めたのである。反対するカイオウに、母者は言った。火に巻かれている子供を見捨てては人でなくなる。そして北斗の惑星として、北斗宗家のために仕えることは宿命なのだと。炎の中に入る寸前に母者が見せた笑顔、それがカイオウ達がみた生きた母の最期の姿であった。
その日の夜、カイオウはラオウを連れ、母の遺体を盗み出した。憎き北斗宗家の者に、母を弔わせる事が許せなかったのである。カイオウが母を運んだ地、それは後に魔瘴の沼と呼ばれる事となる場所であった。涙を流し、母を土の中へと埋葬しながら、カイオウは誓った。母を殺した北斗の宿命と、情愛という存在。その二つを抹殺すると共に、愛に打ち勝てる唯一の存在、"悪"に、自らが染まることを。悪に染まれば心も痛まない。そして最後に見た母の笑顔も、もはや思い出されることもない。それが、カイオウが導き出した答えだったのだ。そしてその憎悪の心は、子供のカイオウの体に既に魔闘気すら纏わせようとしていた。怒れるカイオウの心が、周囲の水を沸騰させる。そこから立ち上った蒸気の威力で、リュウは川の中へと転落してしまった。だが、流されていくその愛犬を、カイオウは救おうとはしなかった。それは、カイオウが情を捨てるための最初の試練であった。未だ悪に染まりきれていないカイオウの心に、激しい痛みが走る。その痛みを消すためにカイオウが選んだ方法、それは自らの足に尖った石を突き刺し、自らの体に傷を負わせるといったものだった。その後もカイオウは、心に痛みを感じるたびに自らの体に傷を負わせていった。全ての情愛が消え去るその時まで・・・
流れを変えるため、カイオウは自らの愛馬に口笛で合図を送った。馬が向かったのはカイオウではなく、ケンたちの下であった。不意のその突進に、リンを抱え宙へと逃げるケン。だが宙で無防備となった体は、カイオウの放つ魔闘気の格好の的であった。吹き飛ばされ、岸壁へと叩き付けられたケンは、たまらず抱えていたリンを離してしまう。一人地面へと滑り落ちていったリンは、再びカイオウの手の中へと落ちたのだった。リンを守るという愛が隙を生んだのだ。そういって笑うカイオウは、その愛が如何に脆弱なものであるかを証明せんがため、最悪の手段をとった。リンの背に突かれた破孔。それは、目の光と共に一切の情愛を失うという破孔、死環白であった。徐々に霞みゆく目。薄れていく記憶。愛するケンの名を呼んだのを最後に、リンは深い闇の中へと落ちていった。| [漫画版との違い] ・カイオウの意志で魔瘴の沼の水が熱泥に変わる設定が追加。また沼の瘴気がカイオウに魔闘気を纏わせるシーン追加。 ・黒夜叉がカイオウの様子を探り、ケンにその居場所を伝えるシーン追加 ・シャチの墓を作り、そこでレイアがシャチのプロテクターをケンに預けるシーン追加(原作ではケンが最初からつけてる) ・魔瘴の沼までケンがボートで訪れるシーン追加 ・原作ではケンと対峙する前から兜を脱いでいるが、アニメでは出会って直ぐ自ら破壊する。 ・カイオウが母の死を語るのは戦いが始まってからだが、アニメではリンに死環白を突く前。 ・原作のリュウ(犬)はカイオウに叩きつけられて殺されるが、アニメでは沼に流される。また、ブチから茶毛に変更。 ・リンが死環白を突かれる前に、無想転生やラオウの拳等でケンが攻撃するシーン追加 |
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