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[第148話]
悲しき愛の犠牲者!
これがカイオウ悪の原点だ!!


 リンが連れてこられたのは、カイオウの悪の原点、魔性の沼であった。その沼の中心に立つ墓標こそがカイオウにとっての悪の象徴。悪こそが最強であることを再認識させ、そしてその悪の力が更なる魔闘気を纏わせる、まさにカイオウにとっての聖地なのであった。その時、カイオウは付近の岩陰に何者かの気配を察知する。魔闘気で砕かれた岩の向こうから姿を現したのは、黒夜叉であった。ケン達に先駆け、一人でカイオウの様子を探りに来たのである。逃げる黒夜叉に、カイオウは伝えた。もはや北斗神拳など敵ではない。極限にまで達した我が拳を存分に味あわせてやると。

 シャチの墓標の前で最後の別れをするケンとレイア。そこに、傷だらけの黒夜叉が姿を現した。カイオウとリンは魔性の沼にいること。そして更なる魔闘気によってカイオウは更に力を増した事を伝えられたケンは、最後の戦いへと向けてその歩を踏み出す。そんなケンに、レイアはシャチの形見であるプロテクターを差し出した。それは、平和への願いを込めてレイアと子供達が作ったものであった。シャチの心と共に戦い、そして必ず勝利することを約束し、ケンはカイオウのもとへ向けて船を漕ぎ出した。

 沼が放つ瘴気の向こう側から、ケンシロウが姿を現す。今再び宿命の対峙を果たすカイオウとケンシロウ。そして、前の戦いでは明かせなかった自分の素顔を、カイオウが晒した。魔闘気で二つの割れた兜の下の、そのラオウそっくりの顔に、ケンは驚きを隠せなかった。だがその中身は、愛や情のために死んだラオウとはまるで違う事を、カイオウは改めて強く言い放った。彼が愛を憎み、悪に心を染めた理由。それは沼の中に立つ聖標の中にあった。聖標にあけられた穴の中に隠されていた、小さな像。それは、ケンとヒョウの為に命を失ったカイオウの母の墓標であった。

 世界が滅びた最終戦争の起こる少し前。少年だったカイオウは、弟ラオウに己の疑問を打ち明けていた。自分達は北斗宗家の惑星。北斗宗家の為に生き、北斗宗家の為に死す。そのジュウケイの教えに、カイオウは納得できずにいた。自らになつく愛犬・リュウのように、ただ犬のように主人に仕えるだけの生き方など、カイオウには理解できなかったのである。

 その時、カイオウ達が暮らす凱武殿から爆発音が響いた。世界中に起こっている戦火の火が、この北斗宗家の地にまで及んできたのである。急いで戻ったカイオウ達が目にしたのは、炎上する建物と、傷を負った人々で埋め尽くされた凄惨な光景であった。だが、幸い彼らの母はトキと共に脱出した後であった。しかし、本堂の中にはまだ幼いケンシロウとヒョウが取り残されていた。火の手が早くこの状況では、もう助からない。絶望が広がる中、カイオウの母は自分に水をかけるよう言い放った。今動けるのは自分しかいないと思った彼女は、この火の中に飛び込む覚悟を決めたのである。反対するカイオウに、母者は言った。火に巻かれている子供を見捨てては人でなくなる。そして北斗の惑星として、北斗宗家のために仕えることは宿命なのだと。炎の中に入る寸前に母者が見せた笑顔、それがカイオウ達がみた生きた母の最期の姿であった。

 焼け跡の中、リュウの吠える瓦礫の下から、母者の姿は発見された。胸の中に抱いたケンシロウとヒョウを守るように、母者は息絶えていた。教会へと運ばれ、安置されたその遺体の前でジュウケイは言った。彼女のおかげでケンとヒョウが助かった。北斗の宿命に殉じた、愛深きその母を褒めろと。しかし、その言葉はカイオウの怒りに触れた。北斗宗家の惑星として生きたが故の、その母の死に納得できなかったのだ。そしてその怒りは、北斗宗家へと、そして愛への怒りへと変わっていった。

 その日の夜、カイオウはラオウを連れ、母の遺体を盗み出した。憎き北斗宗家の者に、母を弔わせる事が許せなかったのである。カイオウが母を運んだ地、それは後に魔瘴の沼と呼ばれる事となる場所であった。涙を流し、母を土の中へと埋葬しながら、カイオウは誓った。母を殺した北斗の宿命と、情愛という存在。その二つを抹殺すると共に、愛に打ち勝てる唯一の存在、"悪"に、自らが染まることを。悪に染まれば心も痛まない。そして最後に見た母の笑顔も、もはや思い出されることもない。それが、カイオウが導き出した答えだったのだ。そしてその憎悪の心は、子供のカイオウの体に既に魔闘気すら纏わせようとしていた。怒れるカイオウの心が、周囲の水を沸騰させる。そこから立ち上った蒸気の威力で、リュウは川の中へと転落してしまった。だが、流されていくその愛犬を、カイオウは救おうとはしなかった。それは、カイオウが情を捨てるための最初の試練であった。未だ悪に染まりきれていないカイオウの心に、激しい痛みが走る。その痛みを消すためにカイオウが選んだ方法、それは自らの足に尖った石を突き刺し、自らの体に傷を負わせるといったものだった。その後もカイオウは、心に痛みを感じるたびに自らの体に傷を負わせていった。全ての情愛が消え去るその時まで・・・


 母の死が生んだカイオウの悲劇。その秘話に涙するリンは再度愛の強さを唱えようとするが、カイオウはその頬ち、それを否定した。悪こそが最強。弟ラオウも情愛を持ったが故にケンシロウに敗れたのだ、と。だが、ラオウを倒したケン自身が、それを認めるわけにはいかなかった。愛を知ったラオウには、カイオウは決して勝てない。それを証明するため、ケンは愛の為に闘うことを誓うのだった。

 カイオウの放った魔闘気は、ケンの残像を通り抜けた。北斗神拳究極奥義、無想転生。一度破られたその奥義を、ケンは再びこのカイオウとの戦いで使用してきたのだ。初戦と同じように暗琉天破で破らんとするカイオウであったが、もはやケンにはその奥義は通用しなかった。無となったケンが、カイオウの横を駆ける。幾多もの傷を与えられたカイオウが振り向いたとき、既にケンはリンのもとへと移動していた。北斗神拳は戦いの中で進化する拳。無想転生もまた、カイオウに破られた時より進化していたのである。しかしリンをかばいながらでは闘えまいと、今度は拳での攻撃を繰り出すカイオウ。しかし、ケンはそのカイオウよりも数段大きな拳で、カウンターを返した。あのカイオウを岩壁にまで吹き飛ばしたその巨大な剛拳は、まさに愛のために生きた男、ラオウの拳であった。

 流れを変えるため、カイオウは自らの愛馬に口笛で合図を送った。馬が向かったのはカイオウではなく、ケンたちの下であった。不意のその突進に、リンを抱え宙へと逃げるケン。だが宙で無防備となった体は、カイオウの放つ魔闘気の格好の的であった。吹き飛ばされ、岸壁へと叩き付けられたケンは、たまらず抱えていたリンを離してしまう。一人地面へと滑り落ちていったリンは、再びカイオウの手の中へと落ちたのだった。リンを守るという愛が隙を生んだのだ。そういって笑うカイオウは、その愛が如何に脆弱なものであるかを証明せんがため、最悪の手段をとった。リンの背に突かれた破孔。それは、目の光と共に一切の情愛を失うという破孔、死環白であった。徐々に霞みゆく目。薄れていく記憶。愛するケンの名を呼んだのを最後に、リンは深い闇の中へと落ちていった。

 死環白を突かれた者は、目覚めたときに最初に見た者に情愛の全てを捧げる。そんな状態のリンを、カイオウは馬に乗せ、何処かへと走り去らせた。必死で馬を追い、リンを取り戻そうとするケンに、カイオウの飛蹴りが炸裂する。カイオウにとって、動揺するケンの今の姿は、まるで愛に翻弄される案山子のようであった。リンがいつ目覚めるかはわからない。しかし衝撃を受ければすぐにリンは目覚める。絶望的なそのリンの状況に黒い笑いを浮かべるカイオウに、ケンの怒りが爆発する・・・
放映日:88年1月21日


[漫画版との違い]
・カイオウの意志で魔瘴の沼の水が熱泥に変わる設定が追加。また沼の瘴気がカイオウに魔闘気を纏わせるシーン追加。
・黒夜叉がカイオウの様子を探り、ケンにその居場所を伝えるシーン追加
・シャチの墓を作り、そこでレイアがシャチのプロテクターをケンに預けるシーン追加(原作ではケンが最初からつけてる)
・魔瘴の沼までケンがボートで訪れるシーン追加
・原作ではケンと対峙する前から兜を脱いでいるが、アニメでは出会って直ぐ自ら破壊する。
・カイオウが母の死を語るのは戦いが始まってからだが、アニメではリンに死環白を突く前。
・原作のリュウ(犬)はカイオウに叩きつけられて殺されるが、アニメでは沼に流される。また、ブチから茶毛に変更。
・リンが死環白を突かれる前に、無想転生やラオウの拳等でケンが攻撃するシーン追加


・まだ死んじゃいねえんだよ!
今回のグッドなアニオリシーンはなんといっても復活の無想転生です。ラオウの拳も良いんですが、やっぱりインパクトとしては及びません。北斗神拳最強を示すための戦いでもあるのに、その拳の究極奥義が敗れたまんまというのはやはり気持ちわるいですからな。
 前回は全く通用しなかったのに今回は見事に成功したその要因としてケンは「北斗神拳が進化したから」だと言っているのだが、具体的にどう進化したのだろう。個人的には進化したというより、単に暗琉天破に慣れたのが原因ではないかと思う。今回の破り方を見てみると、ケンは暗琉天破発動と同時にカイオウに飛び掛っている。この飛び掛ったときのダッシュの勢いが無重力の中でも持続していたために、スピードを落とすことなくカイオウにまで到達し、そのまま無重力の範囲から抜け出たんではないかと。まあ一度見た相手の拳は見破れるってのも北斗神拳ならではの進化だと言えない事もないけど。


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