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[第145話]
涙の兄弟再会!ケンシロウ、
俺はお前を待っていた!!


 北斗宗家の血に目覚め、闘神のオーラを出現させたヒョウ。しかしその闘神の表情は、哀しみに泣いていた。同時にヒョウの頭の中には、幼き頃の記憶の断片が呼び起こされていた。

 ヒョウは机に突っ伏したまま、動く事ができなかった。先ほどジュウケイに突かれた破孔の効果で、身体機能を奪われていたのである。朦朧とするヒョウの意識の中にあったもの。それは、赤子の弟を守らねばならないという思いだけであった。しかしその弟は今、ジュウケイの手によって海へと送り出されようとしていた。弟への強い想いでなんとか秘孔縛から脱し、急いでジュウケイの後を追うヒョウ。しかし岸壁へとたどり着いたとき、既に船は送り出された後であった。その船上でラオウの腕に抱かれていたのは、紛れも無く愛する弟の姿であった。迷うことなく岸壁の上から飛び込んだヒョウは、船のラオウとトキに伝えた。幼い弟をお前達の手で守ってくれと。そして力尽きる寸前、ヒョウは最後に弟の名を呼んだ。ケンシロウ。たしかに自分は、そう叫んでいた。

 闘神の影が消えると同時に、ヒョウは異様な構えを取り出した。それはまさに、北斗宗家のみに伝わるとされる拳であった。擾摩光掌。不規則な軌道で放たれたヒョウの手刀を、紙一重で交わすケンシロウ。しかし次の瞬間、その胸には凄まじい傷が走った。あと1センチ前にいたら・・・。そうケンに恐怖させるほど、その拳はヒョウを桁違いに強くさせていたのだった。

 自らの子を宿さんがため、リンへと迫るカイオウ。しかしその時、後ずさるリンの手は、枕の下にある短剣を探り当てた。それ以上近づけば死ぬ。そう言って自らの喉元に刃先をあてがうリン。だがカイオウはそれを止めようとはしなかった。もし自分の中に愛や情が残っていたなら、リンの死に心が痛むはず。死に行くリンを見届ける事で、自分の中には悪しかないのだという事を示そうと考えたのである。カイオウにとって、リンの死もまた一興に過ぎない出来事なのであった。

 遂に始まってしまった、宗家の血に目覚めた者同士の戦い。無限と無限がぶつかり合えば、後に残るは相討った二人の躯のみ。戦いを見守る黒夜叉には、訪れようとしているカイオウの歴史への絶望感しかなかった。しかし、ケンシロウはヒョウにある違和感を感じていた。凄まじい攻撃の中で、ヒョウから一瞬殺気が消えたのである。その時のヒョウの眼は、まさしく兄と呼べる優しさを宿していた。だが、直ぐにその顔は魔神の表情へと戻っていた。次の一撃で勝負は決まる。対峙する両者の拳に、渾身の闘気が込められる。同時に、ケンの瞳には哀しみの光が宿っていた。凄まじい数の拳を繰り出しながら、ケンシロウへと襲い掛かるヒョウ。刹那、ヒョウの眼から零れ落ちた涙に、一瞬ケンの拳が止まる。気を取り直し、再び拳を握るケンシロウであったが、結局その拳が放たれることは無かった。同時に、ヒョウの拳もまたケンシロウには届かなかった。勝負を決したもの。それは、背後からヒョウの背を貫いたシャチの拳であった。

 シャチにも自分の行為が愚かである事は判っていた。しかし、自らが卑怯者となってでも、ケンシロウには生き続けてもらわねばならなかったのである。罪を償うためにと、自らに刃を突き入れようとするシャチ。だがその手を止めたのはヒョウであった。一片の邪もないその表情は、ヒョウに記憶が戻ったのだという事を意味していた。ヒョウの中で哀しみが弾けたとき・・・。あの闘神のオーラが現れたとき、ヒョウは既に記憶を取り戻していたのである。しかし同時に全てが手遅れである事を悟ったヒョウは、せめて拳士としてケンと戦い、その強さを確かめようと思ったのであった。

 サヤカという女の事は知らない。自らの問いに対するそのケンの言葉に、ヒョウは力なく笑った。それは、カイオウの操り人形と化していた自分に対しての呆れ笑いであった。ヒョウが踊らされていたのは、これが初めてではなかった。カイオウの手で記憶が奪われたその日から、既にヒョウはカイオウの手の中にあったのであった。しかし今、カイオウの忌み嫌う愛の力によって、シャチはケンシロウを救い、そしてヒョウは記憶を取り戻した。そして宿命を乗り越えた二人の兄弟は、やっと真の再会を果たしたのであった。ヒョウの前に立つケンシロウは、己の腕に抱かれていた頃の赤子ではなかった。そこにあったのは、強くたくましく成長した拳士としての弟の姿であった。
放映日:87年12月24日


[漫画版との違い]
・ケンシロウが海へ送り出されたときの事をヒョウが思い出すシーン追加
・擾摩光掌の後、ケンが自ら服を破るシーン追加
・原作ではカイオウがリンに短剣を渡すが、アニメでは枕の下からリンが探り当てる
・リンが自分のノドに短剣をあてがうシーン追加
・擾摩光掌〜万手魔音拳間に、バトルシーンやそれぞれの心情を語るシーン追加
・アニメでは万手魔音拳の奥義名を言わず。
・万手魔音拳中にヒョウの目からこぼれた涙を見て、ケンが一瞬拳を止めるというシーン追加。


・演出
今回は修羅の国編を通してみても、可也秀逸な演出が出来ている回だと思います。
まず冒頭の、ヒョウの回想シーンが良い。ラオウ達を海に送り出すときにヒョウが遅れてきた理由などにも上手く絡んでおり、カラーを単色やネガにすることで朦朧としたヒョウの感覚も伝わってきます。BGMの選曲も泣ける。ヒョウの記憶が戻ったときより泣ける。
擾摩光掌後の戦いの中で、一瞬殺気が消えたヒョウが、まるで大魔神の変身シーンの如く魔神の目に戻るというシーンも素晴らしい。万手魔音拳中の涙も良い。シャチがぶっ刺した後の黒夜叉の唸り方もグッドです。これは千葉氏の力かも。あと、リンのベッドシーンも個人的にエロくて素敵。原作のような露出度の高い服じゃない所が逆にエロさを醸し出しているのかもしれない。
ただラストのWIND & RAINはちょっと狙いすぎな気が・・・。つか、あそこはキルザファイのほうがいいかなあ。
・嗚呼万手魔音拳
上記の内容の中の一つとして、ヒョウが万手魔音拳の奥義名を言わなかったという点も挙げられます。正直あの場面は、奥義名は必要ない。感情の全てを相手に叩きつける、そんな感じのほうが演出としては素敵だと思います。
しかし・・・・・・・個人的にはすさまじく残念でした。子供の頃、原作を全て読む前にFC北斗の拳4をプレイした私は、ゲーム内に登場する「まんじゅまおんけん」という名前に惚れました。原作を読んでこの拳が未遂に終わったという事を知ったときはガッカリしたものですが、それ以上にアニメではこの奥義名を言わなかったという事が大ショックだったのです。今も昔もこの拳は、連撃系としては最強の奥義として私の中に生き続けております・・・


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