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[第142話]
暴君ヒョウと悲しき側近!
誰が彼を止めるのか!!


 カイオウに永久の忠誠を誓い、魔神と化したヒョウ。その第二の魔神の手によって、カイオウに従わぬ者は殺され、村は焼き払われていった。その炎を遠くから眺めていたのは、ヒョウの側近五人集と呼ばれる、ナガトと腹心の4人であった。今のヒョウの胸中は、側近である彼等にも計り知る事は出来なくなっていた。憧れであったそのヒョウの変貌に、彼等はただ絶望するのだった。そんな中、ナガトは思い出していた。彼がまだ一介の修羅であった頃、初めてヒョウと遭った時の事を・・・

 数年前、小船で海に漕ぎ出そうとする一組の親子の姿があった。この地獄から逃げるため、彼等は禁を破り、この海を渡ろうとしていたのである。しかし既にその背後には、カイオウとその部下達が駆けつけていた。家族の悲痛な願いに耳もかさず、その拳を振り上げるカイオウ。だがその処刑に待ったをかけたのは、ヒョウであった。こんな小船で海に出ても、十中八九海の藻屑となるだけ。ならばここはこのまま行かせるのも将の器量ではないか。そう言ってヒョウは、カイオウの前に両手を広げた。その瞳に深い哀しみを湛えた男こそ、ナガトが憧れたヒョウの姿であった。

 いつかヒョウがカイオウを倒し、この修羅の国を救う。そう信じ、ナガトは今日までヒョウに仕えてきた。しかしヒョウがカイオウに永遠の忠誠を誓った今、もはや彼等はヒョウの下で戦うことは出来なかった・・・

 ケンと共に荒野を行くシャチは、突如激痛に顔をゆがめ、その肩を爆ぜた。ケンを守るために受けたカイオウの魔闘気に、シャチはずっと耐えていたのである。だがそれももう限界であった。続けざまに脚を破裂させた瞬間、シャチはとうとう気を失ってしまったのだった。その時、二人の下に近付く一頭の馬があった。乗っていたのは、あのナガトであった。一目見て男がケンシロウだと気付き、動揺するナガトであったが・・・

 その夜、ケン達はナガトの家にいた。そこはナガトを長とした、彼の一族達が住む村であった。ナガトは、ケンと傷ついたシャチを匿うという選択肢を選んだのである。ナガトの父ペテロの薬によって、シャチの身体は快方に向かっていた。息子達であるヨムとテツを含めたその明るい家族の姿は、ケン達に一時の安らぎを与えていた。

 子供達が寝静まった頃、ナガトは一人外へ出た。その背に声をかけたのは、父ペテロであった。彼は客人の二人が、あのケンシロウとシャチであることを知っていた。何故ナガトが彼等を匿ったのか、ペテロにはその理由が分からなかったのだ。しかし、それはナガト本人も同じであった。だが彼は見ていた。ケンシロウが持つ、昔のヒョウと同じ哀しき瞳を。もしかしてこの男が修羅の国の救世主となるのかもしれない。その直感に、ナガトは己の判断を委ねたのである。そしてナガトは、一人村を出た。明日、ヒョウに最初で最後の意見具申をするために。それは、ナガトが命を賭けた、側近としての最後の務めであった。

 翌日、ヒョウの前に現れたのは、跪くナガトと四人の腹心達であった。彼等の足元に転がる、折られた軍旗。それは、彼等のヒョウに対する別れの言葉であった。ヒョウが魔神と化した今、この国の希望は絶たれた。生きる道を見失った自分達は、もう貴方についていくことは出来ない。そう心の内を語り終え、その場から去ろうとする四人の腹心達。しかし次の瞬間、彼等はヒョウの放った刃にその身を貫かれていた。カイオウに逆らう者であれば、己の腹心達であっても例外は無い。それが、魔神と化したヒョウの答えであった。ナガトが兄と慕い、光と信じたヒョウの姿は、もう何処にも無かった。還らぬヒョウとの日々が、ナガトの頬に涙を伝わせる。かつて貴方も戦う度に心の中に涙を流していたのだ!そう言って飛び掛ってきたナガトを、ヒョウは無情の一撃で葬り去った。既にヒョウの身体は、涙一滴すら持ち合わせぬ真の魔人へと変わっていたのだった。

 その様子を遠方より見届けていたのは、カイオウであった。もはやケンシロウとの戦いに一変の不安も無い。完全に覚醒したヒョウの姿を見て、カイオウはそう確信するのだった。

 その夜、ナガトの村は炎に包まれていた。己に手を上げたナガトに逆賊の烙印を押したヒョウは、その一族諸共皆殺しにするよう命令を下したのである。村人達が次々と殺される中、修羅達の手はナガトの家にまで及んでいた。ナガトが殺された事を知り、喰って掛かってきたペテロを切り捨てた修羅達は、ヨムとテツをもその手にかけようとする。だがその刃は大きく狙いを外し、別の修羅の脇腹へと突き刺さっていた。その原因を理解する間もなく、男はその身体を粉々に爆ぜた。犯人は、炎の中より現れた。少し前に村を出たケンとシャチが、異変を感じ、戻ってきたのである。怒れるケンの拳を受け、修羅達はその炎の中に肉体を消滅させたのであった。

 森へと脱出し、ペテロの傷が浅かった事に安堵する一同。しかし、ナガトを失った哀しみは残されたままであった。涙するヨム達の姿を見て、ケンは心を決めた。この村を襲わせた羅将ヒョウ。ケンの拳は、その非情の男を次の相手に選んだのである。しかし、シャチは戸惑っていた。羅将ヒョウがケンシロウの実の兄である事を知っていたからである。果たしてケンシロウにその運命を受け入れる覚悟があるのか。シャチはそれを、ケン自身の口から聞く事を決めた。真実を明かされ、衝撃を走らせるケンシロウ。だが、直ぐにその顔は覚悟の顔へと変わった。例え兄でも、否、兄ならばこそ我が拳で倒す。それが、幾多もの宿命を乗り越えてきた男の決意であった。
放映日:87年12月3日


[漫画版との違い]
・ヒョウの側近五人衆が、カイオウに忠誠を誓ったヒョウに絶望するシーン追加
・ナガトがヒョウとはじめてであったときのエピソード追加
・ケン達がナガトと出会い、家に招かれるシーン、その後の家でのナガト一家のシーンが追加
・側近五人衆に会う直前、ヒョウが町中を行くシーンが削除。
・ナガトの肩書きが、准将から副将に変更
・別れを告げる側近五人衆の足元に、折られた軍旗が追加
・腹心四人に刃が刺さったのは、原作では全員顔だが、アニメでは一人だけ顔で後は胸。
・ナガトがヒョウに挑む直前、ヒョウと自分達側近五人衆との思い出を回想させるシーン追加
・原作のナガトは首を切られるが、アニメでは胴
・原作でナガトの家にいたのは息子達だけだが、アニメでは父ペテロも追加。
・ナガトの家を襲った修羅が、2人から5人に。
・修羅の槍が逸れたのは、原作では柄の部分を曲げられたからだが、アニメでは秘孔で前を向けなくされたから。
・原作でヨムとテツを連れ出したのは町外れだが、アニメでは家の直ぐ横の森。
・アニメではヨムが死なない。原作の、死ぬ直前に語るナガトの話も削除。



・ヒゲの上手な使いかた
悪人と馬鹿揃いの修羅達の中で、唯一の良心と言ってもいいナガト様。今回はそんな彼とケンシロウが出会ってしまうというお話。ケンシロウとの絡みが出来る修羅など、彼をおいてほかにない。彼の男気と、人を見る目の鋭さが強調された、いい回だったと思います。それに、ケンにヒョウ討伐を決意させる流れも、個人的には原作よりアニメのほうが良い。どこの誰やもしれん子供の命を奪ったヒョウ、というのよりも、シャチの命の恩人であるナガトを殺し、その家族をも殺そうとしたヒョウ、というほうが、ケンが怒る相手としては自然な気がしませんか?
・計画は事前にチェック
国外逃亡なんていう大作戦をしようというのに、その現場にこの国のナンバー1とナンバー2が居るって・・・。どんだけ無計画やねん。まさか彼一人のためにカイオウがわざわざ来たともおもえないので、普通に考えればたまたま通りかかったという可能性のほうがたかい。最危険人物のスケジュールくらい把握しておけよ!
・欲しい
これはコレクターの間でも激レアとされる
ヒョウの親衛機甲団1/60スケールモデル!!

ほ・・・欲しい・・・・


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