
リンが目を覚ましたのは、用水路の路側帯であった。直ぐ側に迫る修羅の足音を耳にし、あわててパイプの陰に隠れるリン。その修羅たちの話し声を聞いて、リンは驚いた。あのシャチがケンシロウを助けたというのだ。思ったとおり、シャチの狂気が偽りの仮面であった事に、リンはただ素直に喜ぶのだった。しかし、修羅たちの足音は、刻々とリンのもとへ迫りつつあった。意を決し、全力で走り出すリン。行き止まりへと追い詰められたリンは、側にあった梯子を登り城内へ。しかし、次第に増える追っ手達から逃げおおせることは出来なかった。逃亡中に顔を傷つけられた修羅は、その仕返しにと武器を振り上げる。だがその時、一同の前の扉が開き、一人の女性が現れた。彼女には目の前の状況を見過ごすことは出来なかった。修羅達を一言で黙らせたその女性に、部屋へと招きいれられるリン。その女性の正体は、カイオウの妹サヤカであった。
とある村でヒョウが訪ねたのは、宝石細工を依頼した老人であった。ヒョウが受け取った眩いばかりの宝石装飾の数々は、愛しきサヤカへのプレゼントであった。これならサヤカも喜んでくれるだろう。老人に感謝の言葉と褒美の約束をし、ヒョウは再び荒野へと馬を走らせた。恋を知り、愛を知り、情けを知る男ヒョウ。だがその愛した女性があのカイオウの妹であるということに、老人の心は憂うのだった。しかし、ヒョウにそんな事は関係なかった。彼の心にあったのは、師ジュウケイを殺したという心の痛みを、サヤカの側で癒したいという思いだけであった。
荒野に設けられた関所では、通行人の検問が行われていた。カイオウの命を受けた修羅達が、行方をくらましたケンシロウの捜索を行っていたのである。そして遂にそれは、ボロに扮したシャチの番へと回ってきた。棺桶を開けられそうになったシャチは、正体がばれるよりも先に不意打ちで先制。自らが羅刹である事を明かし、修羅達を蹴散らしていくシャチ。だがその身体は、もはやカイオウの攻撃によってボロボロになっていた。隊長格の修羅が操る二つの鉄球が、徐々にシャチを追いつめる。だがその時、飛来した三度笠が鉄球の鎖を断ち切った。直後、飛び掛ってきた男の鉄爪攻撃により、修羅達はあっさりと全滅したのだった。黒夜叉。自らの名をそう語ったその男は、棺の中の男を護るようシャチに次げ、姿を消したのであった。
やけに血色の良いその死体を見て問い詰める修羅達。しかしヒョウはそれを制し、シャチの眼についての説明を求めてきた。下手な答えをすればケンシロウにも危険が及ぶ。そう考えたシャチは、思わぬ行動に出た。この目は生まれつきのもの。この目が気に入らないのなら、ヒョウ様に差し上げましょう。そう言ってシャチは、躊躇無く己の左目に指を突き入れ、一気に眼球を抉りとったのである。差し出されたその左目に、言葉を失うヒョウ。だが同時にヒョウは、その行動に男気を感じていた。更に右目をも抜き取ろうとしたシャチの手を止め、ヒョウは尋ねた。その棺の中の男は、お前の何なのだと。その質問に対し、シャチは初めて本当のことを答えた。この男は全て。命を捨ててでも守らねばならない、己の全てであると。その覚悟の大きさは、これ以上ヒョウに追及させることを許さなかった。棺の男を大事にするようシャチに次げ、ヒョウはその場をゆっくりと通り過ぎていったのであった。男が男の心を知る。シャチが見た羅将ヒョウは、カイオウとはまったく別の心を持った男であった。| [漫画版との違い] ・ヒョウが宝石細工の老人を訪ねるシーンと、シャチが目を差し出すエピソード以外はほぼアニメオリジナル。 ・原作のヒョウはシャチに会った後に宝石細工の老人を訪ねる(同じ村)が、アニメではシャチに会う前(別の村)。 ・アニメでは城内を逃げるリンが、サヤカの部屋に匿われる。サヤカが殺されるまで滞在。 ・ヒョウがサヤカに会いに行く理由に、ジュウケイをその手で殺した心の痛みを癒すというのが追加 ・ヒョウが村を通る際、アニメでは同行する修羅数人が追加 ・原作ではケンをボロに包んで隠しているが、アニメでは棺桶に入れている。故に原作ではヒョウが布を切り裂いてケンの姿を顕わにするが、アニメでは同行した修羅達が棺桶を開ける事によって晒される。 ・ヒョウが己の兄弟として語るのは原作ではカイオウだけだが、アニメでは亡きハンも追加。 |
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