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[第139話]
運命の出会いヒョウとケン!
いまだ兄は弟を知らず!!


 吹きすさぶ砂塵の中、シャチは棺桶を引き続けていた。棺の中に眠る、ケンシロウの復活を信じながら・・・

 城に戻ったカイオウはあの水路での出来事を思い出していた。自らの魔闘気をも怯えさせた、ケンに眠る北斗宗家の力。その忌まわしき血を根絶せぬ限り、真に己の時代はやってこない事を、カイオウは改めて実感していた。その時、カイオウに一報が入れられた。城の地下水路に流されたリンの行方を、修羅たちは未だ捉えられていなかったのである。外に出た形跡はないことから、城内の捜索を続ける修羅達であったが・・・

 リンが目を覚ましたのは、用水路の路側帯であった。直ぐ側に迫る修羅の足音を耳にし、あわててパイプの陰に隠れるリン。その修羅たちの話し声を聞いて、リンは驚いた。あのシャチがケンシロウを助けたというのだ。思ったとおり、シャチの狂気が偽りの仮面であった事に、リンはただ素直に喜ぶのだった。しかし、修羅たちの足音は、刻々とリンのもとへ迫りつつあった。意を決し、全力で走り出すリン。行き止まりへと追い詰められたリンは、側にあった梯子を登り城内へ。しかし、次第に増える追っ手達から逃げおおせることは出来なかった。逃亡中に顔を傷つけられた修羅は、その仕返しにと武器を振り上げる。だがその時、一同の前の扉が開き、一人の女性が現れた。彼女には目の前の状況を見過ごすことは出来なかった。修羅達を一言で黙らせたその女性に、部屋へと招きいれられるリン。その女性の正体は、カイオウの妹サヤカであった。

 魔神と化した今の兄が間違っていること、そしてその暴挙の所為でリンが迷惑をしている事を、サヤカは理解していた。そのカイオウの妹として、彼女はリンに謝ることしかできなかった。兄が昔の優しかった姿に戻ったその時、この国に真の平和が訪れる。彼女はそう信じていた。その時、一羽の伝書鳩が窓辺へと降り立った。笑顔で彼女が受け取ったその手紙には、恋人であるヒョウがこの城に向かっているとの知らせが記されていた。

 とある村でヒョウが訪ねたのは、宝石細工を依頼した老人であった。ヒョウが受け取った眩いばかりの宝石装飾の数々は、愛しきサヤカへのプレゼントであった。これならサヤカも喜んでくれるだろう。老人に感謝の言葉と褒美の約束をし、ヒョウは再び荒野へと馬を走らせた。恋を知り、愛を知り、情けを知る男ヒョウ。だがその愛した女性があのカイオウの妹であるということに、老人の心は憂うのだった。しかし、ヒョウにそんな事は関係なかった。彼の心にあったのは、師ジュウケイを殺したという心の痛みを、サヤカの側で癒したいという思いだけであった。

 荒野に設けられた関所では、通行人の検問が行われていた。カイオウの命を受けた修羅達が、行方をくらましたケンシロウの捜索を行っていたのである。そして遂にそれは、ボロに扮したシャチの番へと回ってきた。棺桶を開けられそうになったシャチは、正体がばれるよりも先に不意打ちで先制。自らが羅刹である事を明かし、修羅達を蹴散らしていくシャチ。だがその身体は、もはやカイオウの攻撃によってボロボロになっていた。隊長格の修羅が操る二つの鉄球が、徐々にシャチを追いつめる。だがその時、飛来した三度笠が鉄球の鎖を断ち切った。直後、飛び掛ってきた男の鉄爪攻撃により、修羅達はあっさりと全滅したのだった。黒夜叉。自らの名をそう語ったその男は、棺の中の男を護るようシャチに次げ、姿を消したのであった。

 数多くのボロ達が集う、大きな街。やっと辿り着いたその街角で、シャチは傷ついた身体を休めていた。しかしその安らぎは、修羅達が叫ぶ声によって奪われた。なんとこの町を羅将が通過するというのである。ボロ達と共に土下座するシャチが見たのは、第二の羅将ヒョウの姿であった。動揺する心を静め、ヒョウをやりすごそうとするシャチ。しかし、蹄の音はシャチの前でピタリと止まった。シャチの身体が放つ血の匂いに、ヒョウは疑念を抱いたのだ。そしてシャチが頭を上げた瞬間、疑いは確信に変わった。瞳を宿したシャチの瞳は、とても朽ち果てたボロのそれではなかった。疑惑は後ろの棺へも向けられた。死んだ友とのシャチの言葉通り、中にあったのは鼓動をとめた男の死体。しかしヒョウは、その死に顔に得も言われぬ感覚を覚えていた。それが実の弟との再会である事に、今のヒョウには気付く術は無かった。

 やけに血色の良いその死体を見て問い詰める修羅達。しかしヒョウはそれを制し、シャチの眼についての説明を求めてきた。下手な答えをすればケンシロウにも危険が及ぶ。そう考えたシャチは、思わぬ行動に出た。この目は生まれつきのもの。この目が気に入らないのなら、ヒョウ様に差し上げましょう。そう言ってシャチは、躊躇無く己の左目に指を突き入れ、一気に眼球を抉りとったのである。差し出されたその左目に、言葉を失うヒョウ。だが同時にヒョウは、その行動に男気を感じていた。更に右目をも抜き取ろうとしたシャチの手を止め、ヒョウは尋ねた。その棺の中の男は、お前の何なのだと。その質問に対し、シャチは初めて本当のことを答えた。この男は全て。命を捨ててでも守らねばならない、己の全てであると。その覚悟の大きさは、これ以上ヒョウに追及させることを許さなかった。棺の男を大事にするようシャチに次げ、ヒョウはその場をゆっくりと通り過ぎていったのであった。男が男の心を知る。シャチが見た羅将ヒョウは、カイオウとはまったく別の心を持った男であった。

 己の甘さに苦笑しつつ、再びサヤカのもとへと進み始めたヒョウ。だが次の瞬間、その頭の中に光が弾けた。記憶の中に眠る、幼き頃の自分。その腕に中に抱かれていた光と重なったのは、先ほどの棺の中の男であった。同時にヒョウは思い出していた。己とケンシロウが実の兄弟であるという、ジュウケイの言葉を。もしやあの男がケンシロウ・・・?だが、抱いたその考えを、ヒョウは直ぐに否定した。今の己にとって兄弟と呼べるのは、ハンとカイオウのみ。そして彼にとってケンシロウは、北斗琉拳に牙向く敵以外の何者でもなかった。
放映日:87年11月12日


[漫画版との違い]
・ヒョウが宝石細工の老人を訪ねるシーンと、シャチが目を差し出すエピソード以外はほぼアニメオリジナル。
・原作のヒョウはシャチに会った後に宝石細工の老人を訪ねる(同じ村)が、アニメではシャチに会う前(別の村)。
・アニメでは城内を逃げるリンが、サヤカの部屋に匿われる。サヤカが殺されるまで滞在。
・ヒョウがサヤカに会いに行く理由に、ジュウケイをその手で殺した心の痛みを癒すというのが追加
・ヒョウが村を通る際、アニメでは同行する修羅数人が追加
・原作ではケンをボロに包んで隠しているが、アニメでは棺桶に入れている。故に原作ではヒョウが布を切り裂いてケンの姿を顕わにするが、アニメでは同行した修羅達が棺桶を開ける事によって晒される。
・ヒョウが己の兄弟として語るのは原作ではカイオウだけだが、アニメでは亡きハンも追加。



・X-MEN




・拳志郎
後に霞拳志郎の声をあてられる山寺宏一氏が今回お仕事されています。リンに顔を傷つけられた自称イケメン修羅の役ですね。他にもロックの村の男や、ギョウコの部下なんかも担当されてますが、今回が一番台詞が多いです。名も無き男達しか役をもらえなかったこの時代から、よくまあ続編の主役の座にまで登りつめたなあと、時の流れを感じます。
・黒夜叉登場
アニメでは若干早く登場して、はじめて従者らしい仕事を見せた黒夜叉さん。なかなかのカッコよさで颯爽と去っていったが、一番良かったのは、去り際に「シャチ、棺の中の男を守りぬけ」と告げるところ。本来お前の役目だろ!とツッこみたくもなりますが、ハッキリいって実際にケンの従者として活動していたのは全編とおしてシャチであり、この黒夜叉の台詞は自らの役目を正式にシャチへと引き継いだという意味なんじゃないかと思う。個人的にはヒョウが正気に戻った辺りで、そういうエピソードが欲しかった。「今後は儂に代わってシャチ、お前がケンシロウの従者となるのだ!」みたいなね。まあそのあと直ぐ死ぬから、タイミングとしては微妙ですが。


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