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[第138話]
カイオウつかの間の勝利宣言!
北斗の幻が彼を襲う!!


 赤鯱が命を懸けて救い出したケンシロウ。しかし、その身体を診た海賊の一人は首を振った。既にケンの心臓は、その鼓動を止めていたのである。しかし、シャチはケンの死を認めるわけにはいかなかった。ケンシロウは必ず復活する。僅かに残ったケンのからだのぬくもりが、シャチの信じる最後の希望であった。

 一同は、赤鯱の船が停泊する浜へと戻ってきていた。赤鯱の遺体を弔うのは、海を置いてほかにない。せめて最後は海の中に眠らせてやりたいという、海賊達の計らいであった。小船に乗せられ、海へと送り出された赤鯱に、弔いの空砲が鳴らされる。海面をたゆたいながら、水平線に消えてゆく父に、シャチは最後の別れを告げるのだった。

 シャチに帰還を勧められる海賊達であったが、彼等には心に決めたことがあった。赤鯱の息子であるシャチを、己たちの新たな頭として迎え入れようと考えていたのである。しかし、シャチはその申し出を断った。彼には、ケンシロウを守るという赤鯱との約束が残されていた。この国のため、そしてレイアのために、ケンと二人で修羅の国を変える。そのシャチの硬い決意の前には、海賊達も諦めざるを得なかった。そして、悪魔と変わったと思われていたシャチこそが、誰よりもこの国のことを憂いていたのだという事実に、レイアは涙するのだった。

 海賊達がシャチと別離の握手をかわしたその時、突如海面が異様な音を上げ、波打ち始めた。立ち昇った水柱の中から現れたのは、死んだと思われていたカイオウの姿であった。怒りに満ちた顔で、ゆっくりと岸へと向けて歩み寄るカイオウ。皆が唖然とする中、事態を察した一人の海賊が、ケンシロウを連れて逃げるようシャチに告げた。この国の未来を担うケンとシャチのため。そして赤鯱の仇をとるため。彼等はその身をささげることを決めたのである。意を決し、レイアと共に走り出すシャチ。だが、カイオウはそれを追おうとはしなかった。己に逆らった罪として、海賊達もまた、カイオウの怒りの矛先となっていたのだ。その手から放たれた魔闘気は、彼等の船を一瞬で粉々に粉砕。覚悟を決めて飛び掛っていた海賊達も、カイオウの魔闘気に巻き上げられ、次々と葬られていった。逃げるシャチの足元にまで飛ばされてきた赤いターバンの切れ端。それは、シャチに逃げるように告げたあの海賊のものだった。彼等の壮絶な死に様を背に感じながら、流れる涙もそのままに、シャチはただ走り続けるのだった。

 二人が逃げ込んだのは、崩れ落ちた宮殿の中にある用水路であった。この水路をくだれば逃げ切れる。そう考え、組み上げたイカダに跨るシャチ。しかし、レイアはそのイカダに乗ろうとはしなかった。傷ついたケンが居る上に、自分までついていっては足手まといにしかならないと考えたのだ。レイアがシャチに投げ渡したのは、かつてシャチ本人がレイアへと贈ったあのペンダントであった。それは、二人がまた生きてめぐり会うというための誓いの印であった。

 あと少しで逃げ切れる。シャチのその安堵は、一瞬にして絶望へと変えられた。崩落した側壁の中から、三度カイオウが姿を現したのである。なんとか路側帯へと上がったシャチであったが、もはや彼にはケンを抱えて逃げるだけの力は残されていなかった。カイオウの魔闘気を喰らい、鮮血にまみれるシャチ。それでもなおケンシロウを守ろうと立ちはだかるシャチに対し、カイオウは容赦ない拳撃を浴びせ続ける。だが、シャチは倒れなかった。ケンシロウを守るという己の宿命に、命を捨てる覚悟を決めていたのだ。そのシャチの勇気に応え、渾身の魔闘気で止めを刺すことを宣言するカイオウ。禍々しい魔闘気が、カイオウの右手へと集まる。しかし次の瞬間、異変が起きた。カイオウから噴出されていた魔闘気が、逆流するかのようにその鎧の中へと収縮し始めたのである。そんな中、カイオウは信じられない事態を目にしていた。それは、意識なく立ち上がってきたケンシロウと、その背後に浮かぶ鬼の影であった。

 逆流する魔闘気は、カイオウの呼吸を奪い、彼を戦闘不能にまで追い込んでいた。その原因が、ケンの背後の幻影にあることは明らかであった。その根源を破壊せんと、渾身の魔闘気を放つカイオウ。しかし、放たれたそれは不自然な弧を描き、天井へと逸れた。カイオウの魔闘気は、その謎の幻影に臆していたのである。そこに、もはや魔神と呼ばれる男の姿はなかった。一欠片の岩を受けダウンしたカイオウは、逃げるシャチの後を追うこともできず、ただ悶絶することしかできなかった。

 北斗神拳の真髄は怒り。その怒りが、カイオウの魔闘気を怯えさせた。心臓が止まっても、なお魂で闘い続ける男、ケンシロウ。己がこの国に留まっていたのは。この男を待つためであったことをシャチは改めて確信するのだった。。そして、カイオウもまた実感していた。無限の可能性を秘める北斗宗家の血。それが己にとって最大の障害であり、この世から抹殺せねばならぬ物であることを。

 荒野へと出たシャチは、ボロの衣を纏い、棺桶を引いていた。通りがかった修羅たちは、その姿を不審に思い、棺桶の中を確認。中身は無論ケンシロウであったが、彼等は早々に蓋を閉め、立ち去るよう命じてきた。ピクリとも動かないケンの身体は、彼等の目にも死体にしか映らなかったのである。シャチとケンシロウの長い逃亡劇は、まだ始まったばかりであった。
放映日:87年11月5日


[漫画版との違い]
・海賊達がケンの容態を診て、心臓が止まっているから駄目だと判断するシーン追加。
・原作では海賊達が城から逃げる前にカイオウが復活するが、アニメでは一旦浜辺へ逃げる。その後カイオウは海から登場。
・赤鯱の弔いシーン、海賊達がシャチを頭としようとするシーン、シャチがレイアに国の平和を誓うシーン追加。
・カイオウが海賊の船を魔闘気で破壊するシーン追加
・飛ばされてきた海賊のターバンが、ヒョウ柄から赤い生地に変更
・原作でシャチが逃げ込んだのは、城の外へ逃げるための用水路だが、アニメでは人目につかない場所に逃げるための用水路(既に城の外にでているため)
・用水路を下る際にレイアが一人残るシーン追加(アニメではレイアが同行しているため)
・用水路でカイオウがシャチにおいつくのは、イカダに乗る前だが、アニメではイカダで可也進んだあと。
・用水路でカイオウが現れるのが、水の中から、横の壁を壊してに変更。
・カイオウが石で膝をつくのは原作ではシャチ逃亡後だが、アニメでは逃亡前。原作でそれを目撃した修羅は登場せず。
・シャチがケンを棺桶に入れて引いているところを修羅に呼び止められ、中身を確認されるシーン追加



・敬礼
原作では遺体がどうなったのか全く判らなかった赤鯱キャプテンですが、アニメでは2分20秒もかけて盛大な弔いが行われました。北斗2ではアインやらハンやらサヤカやらいろいろと弔いのシーンがあるので、それを受けて追加されたんでしょうかなあ。しかし盛大なのはいいんですが、あの空砲の音でカイオウに所在を教えてしまったような気がせんでもないですな・・・


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