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[第137話]
処刑台のケンシロウ!
遂に天は海神を走らせた!!


 ヒョウよりジュウケイの弔いを頼まれたレイアとタオは、イカダで川を下っていた。しかし、既にそこは別の修羅達の領土の中であった。俺達はカイオウ配下の修羅。ヒョウの許可など関係ない。そう言ってイカダへと乗り込んできた修羅は、タオを川へと蹴落とし、レイアを我が物にしようとする。しかしその時、何者かの放った槍が修羅達の背中を貫いた。ボートに乗って現れた一団。それは、あの赤鯱率いる双胴の鯱の面々であった。百人の部下の霊が騒ぐ声を聞き、居ても立ってもいれなくなった赤鯱は、再びこの修羅の国へ戻ることを決意したのである。かつての復讐も兼ね、隊長の修羅に猛然と襲い掛かる赤鯱。老いた体というハンデで劣勢に立たされる赤鯱であったが、形勢を逆転させたのは、眼帯に仕掛けられた含み針であった。視界を奪われた隊長は、鈎針をその体に受け絶命。隊長を失い、戦意を喪失した修羅達は、一目散に逃げ出した。修羅の国に戻ってきた赤鯱の初戦は、見事な大勝利に終わったのであった。

 突如現れたその海賊団に、レイアは臆することなく声をかけた。シャチから話を聞いていたレイアは、すぐに彼が赤鯱である事を察したのである。シャチが生きている事を知り興奮する赤鯱に、レイアは今までの経緯を語り始めた・・・・

 北斗神拳終焉の宴が幕を上げた。張り付けにされたケンの体に、次々と魔闘気の塊をぶつけるカイオウ。ケンの命の火が消えるのは、もはや時間の問題であった。しかしその時、カイオウは岩陰に気配を察知した。放たれた魔闘気を交わし、颯爽と広場に現れたのは、シャチであった。リンを渡した事による約束の褒美をもらいにきた。そう口にしたシャチだったが、彼の狙いは別にあった。ケンが死ぬという事は、己の野望が潰える事をも意味する。そう考えたシャチは、隙をついてケンシロウを奪還しようと考えたのである。予想通り褒美など渡されるはずも無く、切りかかってきた修羅を撃退したシャチは、そのまま広場の修羅達と大乱闘を開始。破裂する部下の死に様は、シャチが北斗琉拳第四の男だということを告げていた。しかし、カイオウにとってその程度の強さなど無に等しいものであった。立ち向かってきたシャチを魔闘気で返り討ちにしたカイオウは、盾として使用してきた大岩も粉々に吹き飛ばし、圧倒。強すぎるカイオウの拳の前に何も出来ず、追い詰められるシャチ。しかし止めを刺そうとしたその時、カイオウは自らに飛来する物の気配を感じ取った。あまりの物量の前に対応しきれず、その身を縛り付けられるカイオウ。魔神を捕縛したもの、それはボートを停泊させるための碇であった。シャチは目を疑った。この危機的状況を救うために現れた男達。その中に見えるは、己の父、赤鯱の姿であった。

 海賊流の戦いを見せてやる。そう言って赤鯱が放り投げたのは、一個の樽であった。捕縛するロープを力で引きちぎったカイオウは、魔闘気で樽を破壊。しかし、その中に入っていた液体は、まっすぐカイオウの頭上に降り注いだ。中に込められていたのは硫酸であった。固体は砕けても液体は砕けぬ。海に生きる者ならではの知恵で、赤鯱は見事にカイオウに一杯喰わせたのである。怒りに震えるカイオウであったが、今は何よりも硫酸を洗い流さねばならなかった。床を破壊し、地下水路へと飛び込むカイオウ。同時に、ケンとリンもまたその崩落に巻き込まれていた。流されていくリンの声は、もうケンシロウの耳には届いてはいなかった。

 遂に再会を果たした赤鯱とシャチ。二人の再び引き合わせたのは、レイアであった。彼女から全ての事情を聞いた赤鯱は、ケンとシャチを救うためにこのカイオウの城へと駆けつけたのである。しかし、まだ彼には海賊としての仕事が残っていた。狙った獲物は逃がさない。再び武器を手に取った赤鯱は、カイオウに向け、部下達と共にありったけのモリを投擲。無数の刃を身に受け、水中へと沈み行くその姿に、一同は完全勝利を確信するが・・・

 意識の無いケンシロウに、赤鯱は語りかけた。息子と出会えたのはあんたのおかげだと。その感謝の意味も込め、自らケンの体を担ぎあげる赤鯱。しかしその背後には、再び浮上してきたカイオウの姿があった。左手に備えられたボウガンが、ケンに向けて放たれる。だが寸前でそれを察知した赤鯱は、咄嗟に体を入れ替えた。シャチの目は、ゆっくりと崩れ落ちる父の姿を捉えていた。そしてカイオウは、全員を地獄に送ることを誓い、再び水底の中へと姿を消したのであった。

 再会を果たした二人に待っていたのは、非情の別れの時であった。だがその前に赤鯱は、どうしても聞いておかねばならないことがあった。この国でシャチは何を感じ、どう生きてきたのか。逞しく育った息子の生き様を、赤鯱は胸に刻み込んでおきたかったのである。その父の意志を応え、シャチは語り始めた。今まで誰にも語ることの無かった、己の本当の心を・・・

 強い者が全て。非情の掟に覆われたこの国を救う救世主ラオウを、人々は待ち続けた。だがシャチは待てなかった。北斗琉拳を学び、力を得たシャチが選んだ道。それは修羅を喰らう羅刹の道。闇夜の中、三人の修羅をその手にかけた瞬間、彼の戦いは始まったのだった。だが、シャチはレイアを愛していた。死してレイアを哀しませてはならない。故にシャチは、レイアと決別する事を決めた。野望に狂ったその姿は、全てはレイアと別れるための偽りの仮面だったのである。しかし、赤鯱はそれを見抜いていた。親である赤鯱の目は、一目見てシャチが腐った男ではない事を見抜いていたのだ。そしてレイアもまた気付いていた。反乱分子狩りに遭ったあの時、自分達を助けてくれたボロの背中を見て、レイアはそれがシャチだと気がついていた。そしてその時、彼女はシャチの本当の心の知ったのであった。

 ケンシロウと共に闘え。それが、赤鯱が残したシャチへの言葉だった。想い続けた息子のために死ねる事は、赤鯱にとって本望であった。力強く育った息子の腕の中で、赤鯱はその命の灯を消した。迎えに来た百人の部下の霊と共に、赤鯱はその魂は天へ昇らせたのであった。皆が哀しみに打ちひしがれる中、無意識であるはずのケンもまた、その目に涙を伝わせるのだった。
放映日:87年10月29日


[漫画版との違い]
・レイア達がジュウケイの弔い中に修羅に絡まれ、赤鯱達に救われるまでのシーン追加
・原作ではシャチはいきなり修羅達に襲いかかるが、アニメでは一旦約束の報酬を貰いに登場し、先に修羅が襲い掛かる。
・原作では最初の魔闘気を岩で防いだが、アニメではそれまでにも少しカイオウとの戦闘シーンがある。
・カイオウが床を破壊したときに、ケンも処刑台と共に地下へとおちる
・レイアが赤鯱と共にカイオウの城に駆けつける。
・海賊達のモリを受けてカイオウが一旦水の中に沈んでいくというシーン追加
・原作の赤鯱は、カイオウにモリを放とうとした瞬間に撃たれるが、アニメでは地下に落ちた助けて上にあがろうとしたとき。
・原作のカイオウは水の中から蘇えるが、アニメではその場では蘇らず、海で赤鯱の弔いをしているところに現れる(次話)
・今際の際の赤鯱に対し、シャチが偽りの狂気を演じた理由を語るシーン追加
・原作ではハン死後にシャチとレイアが和解するが、アニメではこのタイミングで。



・水葬
 今回のジュウケイの弔い方といい、次話の赤鯱の弔いといい、どうも水葬が目立つ。そういえばヒョウも、ハンの遺体が流れ着いたとき、そのまま弔いの儀式のようなものを行っていた。死んではいないが、カイオウも今回水の中に葬られた。もともと水葬というのはヒンドゥー教がガンジス川で行っているもので、仏教の無常観思想を受け継いでいるからだと言われている。やはり仏教徒の北斗と関係があるからなのだろうか・・・?考えすぎか?
・長けりゃいいってもんじゃ・・・
原作では描かれなかった部分を追加できるのがアニメの良い点であり、ストーリーが長くなるのは個人的に好ましいことだ。しかしモノにはそれにふさわしい時間や間というものがある。今回でいうなら、赤鯱が撃たれてから死ぬまでが長すぎる!6分10秒はねばりすぎ。今回のお話はまさしく赤鯱の回であり、最高にカッコ良かったのはわかる。わかるんですが申し訳ないけどもさっさと死んでください。


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