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[第136話]
弟ケンの危機!
やさしきヒョウよ今こそ心を開け!!


 カイオウの暗流霏破を喰らい吹き飛ぶケンシロウ。更に追い討ちの飛び蹴りは、ガードを無視するほどの威力でケンの骨を軋ませた。その脆さに呆れるカイオウは、渾身の一撃で決着をつけようとする。しかし、ケンシロウがこのまま黙ってやられるはずは無かった。ケンを捉えたはずの拳を、地面へと突き刺すカイオウ。逆に攻撃を受けたはずのケンは、見えない反撃の拳でカイオウの仮面を破損させた。北斗神拳究極奥義、無想転生。かつてラオウをも追い詰めたこの秘奥義で、ケンは状況の打破を図ったのである。誰にも俺の実体は捉えられない。そう豪語するケンシロウであったが、カイオウは既にその究極奥義を破る術を持っていた。放出された莫大な魔闘気が、周囲を覆い尽くす。それはカイオウが最初に使ったあの奥義。北斗琉拳、暗流天破であった。再び位置を見失い、動揺するケンシロウ。その心は、もはや無を保てなくなっていた。闘気を抑えられぬケンに実体を捉える事は、もはやカイオウにとって造作も無い事であった・・・

 岩陰から様子を伺っていたシャチの目にも、勝負の行方は明らかであった。執拗なカイオウの攻撃を、ただその身に浴び続けるケン。それでもなお立ち上がり続けるケンシロウであったが、勝機は一向に見えなかった。カイオウを倒せる北斗宗家の秘拳は、未だヒョウの記憶の中に眠り続けていた。

 ジュウケイの術を受け、苦しむヒョウの姿。今と全く同じこの状況を、かつてジュウケイは目にしていた。

 ヒョウが記憶を奪われる以前のこと。ジュウケイは、北斗の秘拳の在り処を聞きだすため、幼きヒョウを呼び出していた。滅び行くこの国の未来のため、ジュウケイにはどうしても秘拳が必要だったのである。しかし、ヒョウは決してその在り処を喋ろうとはしなかった。その意思が固いをみたジュウケイには、もはや実力行使という方法しか残されていなかった。唱えられるジュウケイの呪文が、ヒョウの全身を襲う。体内を駆け巡るジュウケイの術は、ヒョウの身体に耐え難い激痛を走らせた。しかし、それでもヒョウは口を割らなかった。そしてその術から逃れるためにヒョウが選んだ方法。それは、自らを死に至らしめる破孔 悶堪孔を突くというものであった。北斗の秘拳は、ケンシロウのための拳。ケンが帰ってくるその時まで、秘密を守り続ける。それが、ヒョウが弟のために出来る唯一の役目だったのである。ヒョウの思いを見抜けなかった己の愚かさ、そしてヒョウの深い弟への愛に、ジュウケイは涙するのだった。

 やさしすぎる男、ヒョウ。そのやさしさが災いを招くことを恐れ、ジュウケイはヒョウの記憶を封じた。しかし今こそ弟ケンシロウのため、記憶を取り戻す時。そのために残されたのは、額の破孔 経星を突くことのみであった。だがそれは、今のヒョウには成させてはならない事であった。己の記憶が蘇ることが、北斗琉拳の終焉を意味することを知ったからである。ヒョウの渾身の一撃が、ジュウケイの身体へと突き刺さる。だがジュウケイには、最早生への未練などなかった。その手が破孔 経星を捉えたその瞬間、ジュウケイは己の役目を果たし終えたのであった。

 眩い光と共に、ヒョウの顔からは邪気がなくなっていた。流れ込んでくる過去の己の姿に、ヒョウはその涙を止めることは出来なかった。封じ込められていた記憶が、遂にヒョウの中に蘇ったのである。ヒョウを苦しめた己の罪を侘びながら、その体を抱きしめるジュウケイ。だがその時、ジュウケイはヒョウの異様な鼓動音を耳にした。そして次の瞬間、ヒョウの背に浮かび上がったのは、北斗七星を描いた破孔の跡であった。既にヒョウの破孔には、記憶を復元できないよう細工を施されていたのである。そんなことが出来る男はたった一人、カイオウを置いて他にはなかった。立ち上がってきたヒョウの顔に、先程までのやさしさは微塵も残ってはいなかった。

 究極奥義無想転生を破られても、ケンの心は折れていなかった。北斗神拳に絶望はない!持ちうる全ての力を込め、最後の一撃を放つケンシロウ。しかし、まともに喰らったはずのカイオウには何のダメージもなかった。それは、とてもあのケンシロウの物とは思えぬ、あまりにも軽い拳であった。闘気を操る事に秀でる北斗琉拳は、ケンの拳が届く前にその闘気を全て吸収してしまっていたのである。心は折れずとも、もはやケンには戦うだけの闘気は残されていなかった。北斗琉拳絶技 暗魔真可極破。宙に捕らえられたケンの身体を、刃と化した魔闘気が貫く。流れ落ちる血で仮面を赤く染めながら、カイオウは勝利に笑うのであった。

 ヒョウの顔は、カイオウと同じ、魔神の領域に踏み込んだ男のそれと化していた。振り上げられたヒョウの拳に、かつての恩師への躊躇はなかった。突き入れられる拳。飛び散る鮮血。勝負が決した事を意味するその歓声は、城の外のレイアとタオの下にまで届いていた。駆けつけた二人が目にしたもの、それは地に伏したジュウケイの姿であった。そしてその当事者であるヒョウもまた、同じ目でそのジュウケイの姿を見つめていた。魔に心奪われていた間の出来事を、ヒョウは全く覚えていなかったのである。絶望に心染められたまま、ジュウケイはその命尽き果てた。その弔いをレイアに一任し、ヒョウは師に最後の別れを告げるのであった。

 広場に立てられた、北斗七星を型どったモニュメント。それは北斗宗家の墓を意味する、ケンシロウのための処刑台であった。張付けにされたケンシロウには、もはやリンの叫びも届かなかった。天に北斗七星輝く今夜、ケンシロウは処刑される。その瞬間、北斗神拳の歴史は途絶え、北斗琉拳が史上最強となる。そして始まる新たな歴史の礎として、カイオウはリンを指名した。リンがカイオウの子を産み落としたその時、新世紀創造主伝説が幕を開ける。それが、カイオウの描く北斗宗家の終焉のシナリオであった。
放映日:87年10月22日


[漫画版との違い]
・原作でレイア達が駆けつけたのは、ジュウケイが秘拳の在り処を聞き出そうとしたエピソードの前だが、アニメでは決着後
・カイオウに効かなかったケンのパンチが、左手から右手に変更。
・ケンに勝利した後、カイオウが北斗琉拳暗魔摩訶極破でケンをいたぶるシーン追加
・ジュウケイを殺したヒョウが正気に戻り、それを自分がやったことを記憶していないというエピソード追加。
・ヒョウがレイアにジュウケイの弔いを依頼するシーン追加
・原作ではケンを貼り付けにした後直ぐに処刑を開始するが、アニメでは日没まで待つ。その間部下を煽るというシーン追加
・カイオウがリンに仔を生むよう告げるのは、原作ではケンを倒した後直ぐだが、アニメでは貼り付けにした後。



・ヨイショ
殺害時の記憶が無いとか、ジュウケイの弔いを依頼するとか、アニメでは原作で完全に放置されたジュウケイの遺体に関する補足が描かれた。他にも、サヤカのところに訪れる理由として、ジュウケイを殺した心の傷を癒すというものが追加されたり、ナガトがヒョウに惚れる切欠となった男気あるエピソードも描かれたりなど、アニメはやけにヒョウの優しさを推したがる傾向が見受けられる。正直原作では、シャチの眼の時の話くらいしか「優しすぎる男ヒョウ」の姿は描かれておらず、説得力に欠ける点は否めない。アニメではその印象を、多少は挽回できたと言えるだろう。手間のかかる男である。
・いいとも
カイオウ「北斗琉拳こそ最強の拳!」
修羅達「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
カイオウ「魔道の拳とされてきた北斗琉拳が、今北斗神拳を越えた!」
修羅達「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
カイオウ「リン!お前は俺の仔を生むのだ!」
修羅達「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」


なんでもええんかいおまえら。


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