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[第135話]
悪魔の封印!それが
北斗宗家二千年の悲劇を語る!!


 ジュウケイが唱える呪文の前に、ヒョウは身動きひとつとれなかった。ヒョウの体内に埋められた呪醒文が完全に呼び起こされたとき、ヒョウの記憶は蘇り、北斗の封印は説かれる。それは、北斗琉拳の終焉の時を意味していた。自らに北斗琉拳を教えたジュウケイが、今その北斗琉拳を消滅させようとしているという矛盾。北斗琉拳への裏切りともいえるその師の行為を、ヒョウはとても納得できなかった。だがジュウケイには、その拳を伝承した者としての責任があった。伝えてはならぬ魔拳、北斗琉拳。その拳がもつ業深さを、ジュウケイはかつてその身をもって体験していた。

 数十年前、ジュウケイは北斗神拳伝承者リュウケンのもとを訪れていた。飛び掛ってきた修練生達を一瞬にして葬り去るほどの魔闘気。それは、ジュウケイが魔界の入り口へと足を踏み入れたことを意味するものだった。果敢にもジュウケイに立ちふさがった男は、リュウケンが現在外出中であることを告げ、立ち去るよう警告。だが正気を失ったジュウケイが、男の言葉に耳を貸すはずはなかった。ヴァジュラ!そうジュウケイが唱えた瞬間、男の身にかつてない出来事が起こった。なんと今まで経っていたはずの床が消失し、男の身体が宙へと浮いたのである。次の瞬間、男の身体は魔闘気により消し飛んでいた。男が最後に見たもの、それは魔界に入ったジュウケイの、人のものとは思えぬ悪魔の形相であった。

 周囲のあらゆる物を破壊するほどの魔闘気。そして、禍々しいジュウケイの形相。それらは、帰還したリュウケンに一瞬で状況を把握させた。ジュウケイを倒すには、まだ完全に魔闘気を使いこなせずにいる今しかない。一瞬でカタをつける。それが、リュウケンに残された唯一の選択肢であった。北斗仙気雷弾にて蹴り上げられたジュウケイは、その首に深々と秘孔を突かれ、長い悪夢から目覚めたのだった。

 正気に戻り、状況をつかめずに居るジュウケイに対し、リュウケンは血のついたネックレスを差し出した。それは、ジュウケイの妻と子のものだった。彼等はジュウケイの魔闘気に巻き込まれ、既に死んでいたのだ。究極を極めた時、愛するものの命さえ奪う拳、北斗琉拳。その業の深さに、ジュウケイはただ涙を流し、悔いることしかできなかった。


 北斗琉拳が生みだす魔神。それを極めた男こそ、第一の羅将カイオウであった。彼の全身を覆う鎧は、静止していてもなお噴出す魔闘気を封じるためのもの。そしてそれが裂け崩れたとき、とんでもないことが起こるのだという・・・

 リンを追い、カイオウの城へと辿り着いたケンシロウ。彼を入り口で出迎えたのは、金色の甲羅を纏ったカイオウ守王隊であった。全員でひとつの巨大な玉へと変化した守王隊は、コマのような高速回転でケンに特攻をかける。だがその合体技を破るにケンが要したのは、たった一撃のパンチであった。分散させられた彼等に、最早勝機は無かった。飛び掛った順に撃退され、あっけなく全滅する守王隊。だが死に行く寸前、彼等は予言した。その程度の腕では、カイオウ様の生贄に過ぎないと。

 ケンシロウを眼前に捉えたカイオウの魔闘気は、もはや制御できぬほどに噴出し始めていた。魔闘気が望むがまま、命じるがまま、ケンシロウの血を絞りつくすことを宣言するカイオウ。それが虚勢ではない事を、リンは感じていた。カイオウの持つ特別な力が、ケンにかつてない危機をもたらす事を、リンは直感していたのだった。

 ケンに遅れること数刻。シャチもまたカイオウの城へとやってきていた。ケンシロウとカイオウ。いずれが勝つにせよ、この国は激動に揺れる。その時こそ己が修羅の国を手にする時であると、シャチは確信していた。そしてその宿命の瞬間を、赤鯱もまた感じていた。100人の部下を弔う蝋燭の炎。その激しい揺らめきは、訪れようとしている何かを赤鯱に伝えようとしていた。

 何故ヒョウの記憶に北斗宗家の秘拳が隠されているのか。ジュウケイが語ったその答えに、ヒョウは驚愕した。ケンシロウとヒョウ。二人は北斗宗家の血を引いた実の兄弟だと言うのである。神拳と琉拳の源流である、北斗宗家の拳。その拳を生んだ北斗宗家の歴史の中でも、最も拳の天分に恵まれた男。それがケンシロウだったのだ。ラオウ亡き今、カイオウを倒せるのは北斗宗家の秘拳を得たケンシロウのみ。そしてその秘拳のありかは、兄であるヒョウだけに伝えられているのだった。

 記憶を自在に操れるジュウケイでも、かつてのヒョウから北斗の秘拳の場所を聞きだすことはできなかった。それを防いだのは、今ヒョウから失われようとしている愛の心。記憶と共に、その愛をも取り戻させんがため、ジュウケイは最後の力を込める。だが後少しというところで、ジュウケイの呪文が途絶えた。老いたその身体では、ヒョウの闘気を封じ続けることはできなかったのだ。術から開放されたヒョウは、形勢逆転とばかりに、止めの一撃を振り上げる。だがその時、ヒョウの額から鮮血が迸った。ジュウケイの術が、遂に眠っていたヒョウの記憶を探り当てたのである。悶え苦しむヒョウの脳裏に映し出されたもの。それは幼い頃の自分と、その前に立つ二人の子供。そしてその手には、光に包まれた赤子が抱かれていた。しかし、ヒョウはその子供達が誰か分からなかった。ジュウケイの術は、まだ記憶の断片を呼び起こしたに過ぎなかったのであった。

 カイオウの力を封じるという北斗宗家の秘拳。ケンは、まだその存在すら知りえてはいなかった。そしてそれは、戦う前から既にこの勝負が決している事を意味していた。先制攻撃として放たれた魔闘気が、ケンの身体を包み込む。生みだされた空間の歪みは、ケンに己の位置を見失わせた。そして、動転するケンに次の攻撃をかわす術は無かった。北斗琉拳奥義、暗流霏破。凝縮された魔闘気が、無防備となったケンに体に炸裂する。北斗神拳と北斗琉拳。二拳をめぐる歴史が、いまこの戦いで覆されようとしていた。
放映日:87年10月15日


[漫画版との違い]
・原作では直ぐにヒョウの服が無くなるが、アニメではリュウケンを襲ったエピソードの後無くなる。
・仙気雷弾の奥義内容が原作と異なる。リュウケン額に傷負わず。
・ジュウケイの家族が魔闘気に巻き込まれて死亡するシーン追加
・カイオウの城でケンに立ちはだかったのが、カイオウ滅殺隊からカイオウ守王隊に変更。
・シャチがカイオウの城に入るシーン追加
・赤鯱が100人の部下の魂である蝋燭の揺らめきをみて、修羅に国に何かが起こっていることを感じるシーン追加



・移動手段
ジュウケイはあの魔闘気を纏ったままリュウケンの所へきたのだろうか・・・。ジュウケイが住んでるのは中国で、リュウケンは日本だよなあ。ということは船か飛行機を使わないと来れないはずだが、彼はあの状態で乗せてもらえたのだろうか。あんなんで入国審査とおらんだろ。


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