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[第123話]
果てしなき試練!
ケンシロウ海を渡る!!


 北斗軍兵士の掴んだ情報は、リハクの顔を強張らせた。リンが連れ去られたのは、死の海の果てにある国、修羅の国。そこは、北斗、南斗、元斗の源流にもなった4000年の歴史を持つ拳が存在するという、強者の掟が支配する武力の国。男子の生存率は1%であり、15歳までに100回の死闘を行い、勝ち残ったもののみが生きることを許されるという。タイガの目的は、リンを追ってくるであろうケンシロウやファルコをその国におびき出すことだったのである。しかし、罠とはわかっていても、リンを追わないわけには行かない。その気持ちはファルコも同じであった。北斗の軍のアジトへと戻ってきたミュウは、既にファルコが死の国へと渡ったことを告げた。元斗の将軍であるタイガのしでかしたことを、元斗の伝承者である己自身がカタをつけねばならない。そう思い、ファルコはケンシロウ戦で受けた傷も癒えぬうちに単身修羅の国へと渡る覚悟を決めていたのである。死を覚悟して海へ出るファルコの背に、ミュウはただその無事を祈るのであった。

 双胴の鯱。死の海を拠点とする海賊の中でも最凶とされる彼等の前に、また新たな獲物が現れた。まるで己たちの海賊船が見えていないかのようにその横を通り過ぎようとする小型船に対し、容赦なく一斉に銛を打ち込む海賊たち。無残に針の山と化した船を見下ろし御満悦の海賊たちだったが、その船に乗っていた男、ケンシロウは、いつの間にか海賊船へと飛び移っていた。襲い掛かってくる海賊達を蹴散らしたケンは、壊された船のかわりとしてこの船を戴くことを宣言。海を越えた大陸へと渡るよう指示する。だが、その命令を却下したのは、この船の船長でもある赤鯱であった。修羅の国へと渡る事は死を意味する。死の海のドンと呼ばれるこの赤鯱にとっても、修羅の国は近づいてはならない魔の領域だったのである。しかし、言葉でも、力でも、ケンの言うことに逆らうことなど出来はしなかった。振り下ろした巨大な銛を受け止められ、発射した鈎針も交わされ、眼帯から発射される仕込み針もすべて宙でキャッチされた赤鯱は、そのまま船長室へと放り投げられて完敗。船長をやられた海賊たちは、修羅の国の恐怖におびえ、全員海の中に飛び込んで逃亡してしまった。しかし、起き上がってきた赤鯱は意外な言葉を口にした。なんと赤鯱自らが操縦し、ケンを修羅の国へと渡してやろうと言い出したのである。赤鯱を心変わりさせた、その理由とは・・・

 赤鯱は数日前にも一人で海を渡る男を目撃していた。その男、ファルコは、既に修羅の国へとたどり着いてた。到着したファルコの目に最初に飛び込んできたもの、それは無残に矢や銛を打ち込まれて壊滅したタイガの軍団であった。一切の侵入者も許さない。彼等の死骸が、その修羅の国の掟を証明していた。僅かに息のあったタイガは、リンが修羅の花嫁として連れ去られたことを告げた。北斗、元斗共にこの国で滅ぶのだ!自らの企みが成功したことに高笑いをあげ、絶命するタイガ。その言葉の意味を、ファルコは直ぐに実感することとなった。ファルコの間合い、その足の下には、既に刺客が潜んでいたのである。飛び出してきた男のナイフを交わしきれず、右掌を貫かれるファルコ。反撃の元斗皇拳によって仕留めたものの、全く気配を感じさせなかったその男に、ファルコは脅威を感じずにいられなかった。お前程度の腕では女は取り返せない。そう言い残し、男は静かに砂の中に溶けていった。

 茜色に染まる海岸線をみつめる赤鯱の目には涙が浮かんでいた。夕日を見るとあいつ等のことを思い出す。そう言って赤鯱がケンをつれてきたのは、数多くの蝋燭が立てられた船室であった。

 かつて赤鯱は、新天地を求め、100人の部下と共に修羅の国を攻めたことがあった。しかし彼等は、たった一人の仮面の男によって全滅させられてしまった。目と腕と足を失いながら、築かれた部下達の屍の山の中で赤鯱が見たもの、それはその仮面の下から現れた男の信じられない素顔であった。なんとその男は15歳にも満たない子供だったのだ。そして赤鯱は、修羅の国と呼ばれるその国の恐ろしさを知ると同時に、その国に当時15歳になる息子を置き去りにしてしまったのだという。もはや帰る地もなく、修羅の国に渡るわけにも行かない赤鯱は、こうして海賊として海を彷徨うしかなかったのである。

 赤鯱の話が終わる頃、船は修羅の国の大地を眼前に捉えていた。小型ボートで岸へ渡ろうとする直前、ケンは赤鯱に、修羅の国に取り残されたその息子の名前を尋ねた。もしかしたら息子は生きているかもしれない。そして、この男ならその息子に逢う事が出来るかもしれない。その僅かな希望に賭け、赤鯱が己をここまで運んだのであることを、ケンは知っていたのである。だが、ケンの姿を見送る赤鯱の目に希望の色は宿っていなかった。あの男をもってしても、この国は揺らがないだろう。この大地の前では、自分の希望が儚き事であることを、赤鯱は感じていた。

 薄暗い監獄の中で、リンは目を覚ました。ケンが自分を助けにやってくる。過去に幾度となく自分を救ってくれたその手が、また自分の側に近付いてきている事を、リンは感じ取っていた。

 上陸したケンの前に、仮面をかぶった男二人が立ちはだかった。言葉もなく、ただ無言のまま己を排除せんと駆け寄ってきた男達に対し、ケンは水面を走る真空波を放ち撃退。事切れる前にリンの居場所を聞き出そうとするケンであったが、彼等の答えはやはりファルコの時と同じであった。己達を一撃で倒したそのケンシロウの強さをもってしても、この国には通用しないであろう事を男は予言する。「貴様もあの男とおなじ運命を辿るのだ。」今際の際に男が残したその言葉の意味は、すぐに明らかになった。

 暫く進んだケンシロウの前に現れたもの、それは無残なまでにボロボロにされた強敵ファルコの姿であった。このファルコの力をもってしてもこの国には通じぬ。リハクから、赤鯱から聞かされたこの修羅の国の強大さを、今まさにこのファルコの姿が表していた。だがその時、ケンはファルコの胸に刻まれた傷に気がついた。それは、ケンとの戦いの際に受けた傷・・・まだ傷癒えぬその体のまま、ファルコは修羅の国へと渡っていたのである。天帝を助け出した今、ファルコはもはやただのいち拳士。その元斗皇拳伝承者としての拳士の誇りが、ファルコの魂を動かしていたのだ。そしてこんな姿になっても、ファルコの闘志は未だ消えてはいなかった。

 そんな二人の前に、霧の中から一人の男が姿を現した。それがファルコを倒した男であることは直ぐに分かった。男の右手には、戦利品とでも言うかのようにファルコの義足が握られていたからだ。ファルコの仇をうたんと、ケンはその謎めいた敵の前へと立つ・・・
放映日:87年7月16日


[漫画版との違い]
・リンの拐われた先を知った北斗の面々に、リハクが修羅の国の説明をするシーン追加
・修羅の国の概要を説明するのがファルコからリハクに変更
・漁師が双胴の鯱に襲われるシーンが削除
・赤鯱の眼帯の針攻撃を、原作はアッパーによって軌道を変えて防ぐが、アニメでは全部素手で掴む。
・ケンが鈎爪の鎖を引き寄せた後の往復ビンタが削除
・赤鯱が海を渡る理由を聞くのが、原作では乗り込んできて直ぐだが、アニメでは修羅の国到着寸前に変更。
・ジャスク→タイガ
・修羅が海賊船に乗り込んできて戦うシーンが削除
・リンが、上陸してきたケンの気配を感じるシーンが追加


・双胴の鯱
「双胴の鯱」というネーミングは、いわゆる双胴船から来ていると思うのだが、双胴船というのは二つの船体を横に平行に並べたような船の事をいう。しかし、彼等の船は、いわゆるフツーの帆船だ。なにがどう双胴なのだろう。なんかこう、合体とかするのだろうか。


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