TOP


[第121話]
アインの挽歌!
誇りをすてて生きるより熱き死を!!


 ルイとリンの再会により、割れていた天は一つへと戻った。しかし、彼らの身には更なる危機が迫りつつあった。洞窟の天井に突如ヒビが走り、大岩となってバット達の頭上に降り注いできたのだ。隅へと逃げた全員に覆いかぶさり、盾となろうとするバット。だが、更にそのバットの上から盾となったのは、アインであった。巨大な岩の直撃をその背に受けたアインは・・・

 穴の上で高笑いを上げるジャコウ。この崩落は、彼が引き起こしたものだった。もともとジャコウは天帝を生かしておく気などなかった。ただファルコを利用するためだけに生かしておいたのである。そしてそのファルコ、そしてケンシロウも、いまや激戦により力を使い果たしている状態。この機を利用し、ジャコウは自らが天を掴もうと企むが・・・

 ファルコが次にとった戦法は、義足を軸にした片足立ちの構えであった。一見異様に見えるその構えであったが、そこから放たれる蹴りを、ケンは全くかわす事ができなかった。片方が義足であるが故に、残る足は鍛え抜かれた必殺の武器。ファルコは攻守に一切の死角を作らないことでケンの体力を消耗させ、その強力な蹴り技をケンに見切らせないようにしたのである。だが、既にその拳の死角はケンによって見抜かれていた。トドメにと放った一撃を両手でガードされたファルコは、掃脚で軸足を払われ転倒。軸足である義足を狙った下方よりの攻撃が、この構えの弱点だったのである。抵抗を試みるファルコの拳もいなしたケンは、そのままファルコの胸へ一撃を放つ。秘孔・戈穴。それは、この勝負に終止符を打つ必殺の秘孔であった・・・はずであった。だが、おもむろにその秘孔の位置へと指を突き入れたファルコは、闘気による高熱で胸の内部を焼き始めた。細胞を死滅させ、秘孔の流れを止める。それが、元斗皇拳に伝えられる秘孔封じの奥義だったのである。凄絶なる二人の戦いの結末は、まだ訪れようとはしなかった。

 バットの顔に滴ったのは、アインの全身から噴き出した鮮血であった。アインはその身を挺して、己の体の何倍もある大岩から皆を守ったのである。重傷を負い、倒れこむアイン。しかし、アインは手当てをしようとするリンの手を制した。今ぬぐうのは俺の血ではない。無意味に流されているケンとファルコの血。その無益な戦いを止め、二人の血をぬぐえるのはリンとルイしかいないのだ、と。そして、そのために残されたもう一つの仕事のために、アインは再び立ち上がった。

 互いに譲らぬ互角の戦いにより、ケンとファルコの体は限界を迎えようとしていた。もはや立つ事すらままならぬ状態でも拳を交錯させ、その身を打ち合う二人。しかしそんな中、ファルコは見抜いていた。ケンがもう一息強く突けば、己の命を奪う事ができるということを。だが、その理由はケン本人にもわからなかった。何かを語るファルコの眼が、ケンに致命の一撃を放たせなかったのであった。

 その時、城壁の上にジャコウとタイガが姿を現した。二人がもはや力を使い果たしている事を改めて確認し、高笑いをあげるジャコウ。自らを脅かす存在であるケンとファルコ。その化け物二人を倒すためにジャコウが用意したのは、巨大な鉄の矢を放つ装置であった。動けなくなった二人の体めがけ、ジャコウの口から発射の合図が飛ぶ・・・

 深いその洞穴から脱出するためにアインが思いついた方法。それは地下水を掘るための作業場であるこの地面の岩盤を割り、水を噴き出させるというものだった。だが、厚い岩盤を割る道具もない。あるのは突き刺さった一本の杭だけ。しかし、アインは己の持つ「コブシ」という名の最大の武器に、絶対の自信を持っていた。ケンとファルコを救うためには、もはや一刻の猶予もない。止めるバット達をそう一喝し、アインはその拳を杭へと叩きつける。だが、その固い岩盤の前では、ただアインの体から流れる血が増えるだけであった。

 放たれた6本の鉄の矢は、いずれもファルコには届かなかった。2本はケンが両腕に抱え、残る4本はファルコ直属の兵士達が捨て身の盾となって、止めたのである。お前は汚れた男の手で倒れるべきではない。ケンのその言葉は、死んだファルコの兵達全員の言葉でもあった。しかし、なんとか防いだその攻撃も、単なる前座に過ぎなかった。ジャコウが続いて用意したのは、先ほどの矢に爆弾をセットした、もはやミサイルと等しい程の兵器であった。装弾された6つの矢の照準を改めて二人へと合わせ、ジャコウは今度こそ勝利を確信する・・・

 アインが何度叩き続けても、岩盤は全く砕ける様子はなかった。そして、アインの体にも最早限界が近づきつつあった。これ以上やれば本当に死ぬ。そう言い聞かせるバットに対し、アインは言った。俺はアスカと約束した。アスカが大きくなって俺を語るとき、胸を張って誇れる父親になる。この命を賭した仕事は、アスカのためでもあるのだという事を。残された全ての力で拳を握り、アインは再度杭の前へと立った。放たれる一撃。打ち付けられた杭は、初めて僅かだが岩盤へ食い込み、ヒビを走らせた。それを見て、残された左手で再度渾身の一撃を放つアイン。杭は更に深くめり込んで砕け散り、岩盤には更に亀裂が広がった。しかし、それでも岩盤は砕けなかった。力尽き、倒れるアイン。この俺の命では不服か。そう呟くアインの眼から、悔しみの涙がこぼれる。だがその水滴が岩盤に落ちたとき、奇跡は起こった。激しい地鳴りとともに、岩盤の亀裂が放射線状に広がっていく。そしてその裂け目からは、待ち望んだ大量の水が噴き出したのだった。

 ジャコウが発射用意を宣言した瞬間、激しい揺れと共に、帝都のあらゆる箇所から水柱が立ち昇った。アインの掘り当てた水脈は、この中央帝都を崩壊させるほどに大きなものだったのである。激しい水の流れに飲み込まれるジャコウ達。そして、その流れに乗って現れたのはバットであった。天帝は無事だ!そのバットの言葉により、ケンとファルコの戦いは遂に終わりを告げたのであった。

 ルイとリンに肩を借り、帝都から脱出したアインは、ケン達の無事をリンの目を通じて確認した。流した多量の血により、アインはもはや眼も見えなくなっていたのだ。崩れ落ちたアインの体を抱きおこし、バットが叫ぶ。お前にはアスカを飛行船で緑の国へ連れて行く仕事があるだろうと。だが、アインは何の心配もしていなかった。バットという友が、きっとこの荒野を草原へと変えてくれる。そう信じていたからである。天帝と、そしてケンとファルコを救った真の英雄は、まぎれもなくアインであった。しかし、あくまで一人の女のために死ぬという事。それが、アインという男にとっての最高にかっこいい死に様なのであった。緑色の草原。その上空を飛ぶ飛行船。アインと、その腕に抱かれるアスカはどこまでも大空を飛んでいく。それが、アインが心に見た最後の景色だった。
放映日:87年6月25日


[漫画版との違い]
・岩崩落時、原作のジャコウ背中にライトをつけているが、アニメでは無い。
・巨大矢を放つ時、原作ではジャスクはいないが、アニメではそのポジションであるタイガがいる。
・ケンがダウン→ファルコ体から血を吹いてダウン、の流れがなくなり、二人が力尽きて互いに体を支えあっているシーンのときに「拳を止める・・・」のくだりを言う。
・原作では放たれた鉄の矢をファルコ兵が防ぎ、防ぎきれなかった一本をケンが止めたが、アニメではケンが2本、4本をファルコ兵が止めるに変更。
・原作では右手の一撃で杭が壊れたが、アニメでは右手で杭が少し沈み、追い討ちの左で杭が破壊されるに変更。
・アインが死ぬ前直前、アスカと飛行船で緑の地を飛んでいるシーンを思い描くという場面追加。


・ウホッ
今回は、北斗史上もっともグダグダなバトルと言われるファルコvsケンの後半戦。双方あまりに力を使い果たしたこの闘いは、なんだか拳の先に愛が生まれてしまいそうな、そんなハッテンな雰囲気を醸し出しています。おそらく普段よりもだいぶバンプアップしたケンの肉体の描かれ方なんかもあるのでしょうが・・・。なにより裸の男二人が密着しすぎです。ハァハァいってます。違う意味でR-18です。
・空気読め
今回のアスカはひどい。映るたびに場の空気も考えないニコニコ笑顔なのがまずおかしい。笑うところ無いだろう。何がおかしいねん。しかし、最も許せないのはアインが瀕死で出てきたときの第一声。「パパ、パパどうしたのぉ〜?」もうちょっと言い方があるだろう・・・。感情の込め方があるだろう・・・。「げーんきないじゃーーん」って友達励ます的な感じで言うとこじゃないだろう絶対。いや、普通jのこのくらいの子供なら別にこれでもいいんですよ。子供なんてそんなもんだし。でもね、次話のあの気丈で聡明な感じのアスカを見ちゃうと、今回の彼女はとても同一人物とは思えない馬鹿ガキにしか見えない・・・
・WIND & RAIN
伝説の子門挿入歌第一弾。アイン死亡時に流れ、オリジナルソングスの歌詞紙にもしっかりアイン&アスカの挿絵があり、また今回のタイトルが「アインの挽歌!」ということもあり、、よくアインのテーマソングと勘違いしている人が多い曲だ。個人的にはKILL THE FIGHTのインパクトが強すぎて然程印象にのこる曲でもなかったのだが、ネットを徘徊するようになってからは、どちらかというとこっちのほうの曲の評判をよく目にする。アインって意外と愛されてるんだなぁ、と思った。


第120話へ≪ ≫第122話へ