
ルイとリンの再会により、割れていた天は一つへと戻った。しかし、彼らの身には更なる危機が迫りつつあった。洞窟の天井に突如ヒビが走り、大岩となってバット達の頭上に降り注いできたのだ。隅へと逃げた全員に覆いかぶさり、盾となろうとするバット。だが、更にそのバットの上から盾となったのは、アインであった。巨大な岩の直撃をその背に受けたアインは・・・
深いその洞穴から脱出するためにアインが思いついた方法。それは地下水を掘るための作業場であるこの地面の岩盤を割り、水を噴き出させるというものだった。だが、厚い岩盤を割る道具もない。あるのは突き刺さった一本の杭だけ。しかし、アインは己の持つ「コブシ」という名の最大の武器に、絶対の自信を持っていた。ケンとファルコを救うためには、もはや一刻の猶予もない。止めるバット達をそう一喝し、アインはその拳を杭へと叩きつける。だが、その固い岩盤の前では、ただアインの体から流れる血が増えるだけであった。
アインが何度叩き続けても、岩盤は全く砕ける様子はなかった。そして、アインの体にも最早限界が近づきつつあった。これ以上やれば本当に死ぬ。そう言い聞かせるバットに対し、アインは言った。俺はアスカと約束した。アスカが大きくなって俺を語るとき、胸を張って誇れる父親になる。この命を賭した仕事は、アスカのためでもあるのだという事を。残された全ての力で拳を握り、アインは再度杭の前へと立った。放たれる一撃。打ち付けられた杭は、初めて僅かだが岩盤へ食い込み、ヒビを走らせた。それを見て、残された左手で再度渾身の一撃を放つアイン。杭は更に深くめり込んで砕け散り、岩盤には更に亀裂が広がった。しかし、それでも岩盤は砕けなかった。力尽き、倒れるアイン。この俺の命では不服か。そう呟くアインの眼から、悔しみの涙がこぼれる。だがその水滴が岩盤に落ちたとき、奇跡は起こった。激しい地鳴りとともに、岩盤の亀裂が放射線状に広がっていく。そしてその裂け目からは、待ち望んだ大量の水が噴き出したのだった。
ルイとリンに肩を借り、帝都から脱出したアインは、ケン達の無事をリンの目を通じて確認した。流した多量の血により、アインはもはや眼も見えなくなっていたのだ。崩れ落ちたアインの体を抱きおこし、バットが叫ぶ。お前にはアスカを飛行船で緑の国へ連れて行く仕事があるだろうと。だが、アインは何の心配もしていなかった。バットという友が、きっとこの荒野を草原へと変えてくれる。そう信じていたからである。天帝と、そしてケンとファルコを救った真の英雄は、まぎれもなくアインであった。しかし、あくまで一人の女のために死ぬという事。それが、アインという男にとっての最高にかっこいい死に様なのであった。緑色の草原。その上空を飛ぶ飛行船。アインと、その腕に抱かれるアスカはどこまでも大空を飛んでいく。それが、アインが心に見た最後の景色だった。| [漫画版との違い] ・岩崩落時、原作のジャコウ背中にライトをつけているが、アニメでは無い。 ・巨大矢を放つ時、原作ではジャスクはいないが、アニメではそのポジションであるタイガがいる。 ・ケンがダウン→ファルコ体から血を吹いてダウン、の流れがなくなり、二人が力尽きて互いに体を支えあっているシーンのときに「拳を止める・・・」のくだりを言う。 ・原作では放たれた鉄の矢をファルコ兵が防ぎ、防ぎきれなかった一本をケンが止めたが、アニメではケンが2本、4本をファルコ兵が止めるに変更。 ・原作では右手の一撃で杭が壊れたが、アニメでは右手で杭が少し沈み、追い討ちの左で杭が破壊されるに変更。 ・アインが死ぬ前直前、アスカと飛行船で緑の地を飛んでいるシーンを思い描くという場面追加。 |
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