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[第112話]
救世主、北より来たる!!

 北斗の墓標に巣くう地獄の墓守、ゾルバとザルジ。その夜もまた一人の男が墓の前へと現れた。男をまたその鎌の餌食にせんと、一斉に飛び掛る二人。しかし彼等の振り下ろした大鎌は空を切り、逆に自らの手でその墓を破壊。更に男に頭を鷲掴みにされた二人は、男の正体を暴かんとフードをまくり上げる。二人が死ぬ前に見たその男の顔は、目の前の墓に眠っているべきはずの男であった。

 郡都G。多くの帝都兵で固められたその城は、たった一人の男の登場によって大きく揺れていた。襲い掛かってくる武装した男たちを、事も無げになぎ払っていく男。そして、そのたった一人の男の手によって、数刻後にはその城は静寂へと変わっていった。

 訪れようとしている激動の時・・・。リハクの眠りを妨げたのは、そんな時代の到来を告げる夢であった。何か変わったことはないかと、北斗軍のメンバーに問うリハク。問われた男が答えたのは、西の砂漠に大きな馬の蹄の跡が見付かったとの報であった。その知らせを聞いた瞬間、リハクは確信した。待ち望んだ奇跡が近づいて来ているのを、リハクは予感せずにはいられなかった。

 砂漠にある郡都Gが壊滅したとの知らせは、すぐにジャコウの元へと入れられた。痕跡を残さないその破壊の仕方は、まるでたった1人の男が、あっと言う間にやりとげたかのようだったという。その報告は、ジャコウの脳裏に最悪の男の出現を予感させた。自らの不安をかき消すようにジャコウは更に光を求めるのであった。

 リンとバットは、西の中枢郡都へとやって来ていた。ここの郡都を壊滅させれば戦闘が有利になると踏んだ2人は、わざわざ敵地の中へと潜入して下見に来ていたのである。とその時、この郡都に莫大な数の難民が押し寄せてきているとの報が入れられた。街の外では、郡都を守る治安正規兵が必死に難民達を追い返そうとしていた。自らの足にすがりついてきた難民を斬り捨てようと刀を振り上げる正規兵達。しかし、あるものを発見した瞬間、正規兵の顔色が変わった。難民の襟首に記されたそのマークは、彼らが自らと同じ聖帝正規軍であることを表していたのだ。「郡都が・・・俺達の郡都が・・・たった1人の男に・・・」まるで地獄を見たかのような怯えた口調で、その元正規兵は答えた。その異様な光景を目の当たりにしたリンとバットにも、今起こっている異変の正体をまだ理解出来ずにいた。

 その郡都の郡司令・バスクの元には、郡都Gに続き郡都J5までもが壊滅したとの報告が入れられた。J5だけでなく各地の郡都が次々と破壊されていることはバスクも知っていたが、己の実力に絶対の自信を持つバスクには微塵の不安も無かった。とその時、逆賊の首領・リンとバットがこの郡都に潜入しているとの知らせが入った。彼らを追う副官バロナは、刃付きの鉄球を男の首に絡ませ、2人の足を止めることに成功。しかしマントの下から現れたのは、リンとバットとは似ても似つかない別人であった。すべてはバロナの勘違いだったのである。現場へとやって来たバスクに自らの早とちりであったことを告げるバロナであったが、バスクは構わずその女、ネネを捕らえて公開処刑をするように告げた。ネネを、そしてこれからも現れるリンという名を冠せられた者を処刑する度に、人々に逆賊の無力さを痛感させることがバスクの狙いであった。

 巨大な闘技場の真ん中に置かれた死刑台の上で、バロナが吠えた。今まさにネネを逆賊リンに仕立て上げての公開処刑が行われようとしていた。そして、満員になったその観客席の中には、本物のリンとバットの姿もあった。騒ぎを聞きつけてやってきた同じ北斗軍の仲間と共に、理解できないこの処刑にとまどう2人。しかし、自分達の替わりに罪もない人が殺されようとしているこの状況を、2人は見過ごすことが出来なかった。だが、マントを脱ぎ捨てていざ闘技場へと飛びこまんとする2人を、リハクの手が制した。あの女は助かる!。リハクのその言葉の真意を2人は理解できなかったが、すぐにその謎は溶解することとなった。

 バロナが斧を振り上げたその時、観客席からどよめきが起こった。彼等の視線は、その闘技場内へと続くトンネルからフラフラと現れた1人の兵にそそがれていた。皆の見つめる中、その男は突如頭を破裂させて死亡。只事ならぬ事態を感じた正規兵達は、集ってそのトンネルの中へと特攻する。しかし、恐怖に慄く叫び声を響かせただけで、彼等が再び闘技場内へと戻ってくることはなかった。代わりに闘技場内へと入ってきた男・・・。象のように大きな馬に跨ったその男は、北より訪れた伝説の男、ケンシロウであった。

 正規兵に囲まれても眉一つ動かさぬケンシロウを見たバスクは、この男こそが次々と郡都を破壊していった犯人である事を悟った。威嚇してきたバロナを一撃で地に叩き伏せたケンは、黒王号から降り、バスクと対峙。体を回転させて鉄をも握りつぶす華山獄握爪を披露して誇らしく笑うバスクだったが、ケンは動揺するどころか自らの胸にやってみろと挑発。バスクは言葉通りにその胸へと華山獄握爪を放つが、鉄をも捻り切ったはずのバスクの掌は、ケンの胸を握ったままピクリとも動かなかった。逆にバスクの腕をとり、何重にも捻り回したケンは、そのままバスクをを宙へと放り投げ、落ちてきたその体に経絡秘孔を炸裂。バスクの体が粉砕された瞬間、それはまた一つ郡都が崩壊した瞬間であり、人々が待ち望んだ救世主復活の瞬間であった。

 バスクの死によって興奮した観客達の勢いは、頂点に達した。後に続けとばかりに闘技場に入ってきた観客達は、自らの街を取り戻すため、次々と帝都兵達を襲いはじめたのだ。天帝軍の力を知らしめるために行われたはずの処刑は、結果的に民衆の心に勇気を与えてしまったのである。そして、大騒ぎと化したその闘技場の中で、ついにバットとリンは、ケンシロウとの再会を果たした。リンに先に行くよう促すバットであったが、リンはその言葉をそのまま返した。バットの体には、リンのために戦って受けた傷跡が無数に刻まれていた。ケンを目指し、強くやさしい男となったバットの方が先に行くべきだとリンは思ったのだ。男の顔になったな。そのケンの言葉に、バットは堪えきれなくなった大粒の涙を流した。ケンの胸に抱かれ、再会の喜びに身を震わせるリンとバット。そして再び世紀末の世に光をもたらすであろうこの奇跡の再会に、リハクもまた涙するのだった。

放映日:87年3月26日


[漫画版との違い]
・ゾルバとザルジが、墓を見に来たケンに襲い掛かって敗れるシーン追加
・ケンが郡都Gを壊滅させる&その報告をジャコウが受けるシーン追加
・西の砂漠に大きな馬の蹄の跡があったと、リハクが報告を受けるシーン追加
・司刑隊隊長が、バット等の賞金があがったのを見た後にケンに葬られる場面が削除
・バスクが受ける郡都陥落の報が、西の郡都から郡都J5に変更
・バロナの投げた鉄球の刃が、原作では背中と顔に刺さるが、アニメでは顔には刺さらない
・帝都兵の一人がトンネルから出てきて爆死した後、数人の帝都兵がトンネルへと特攻するシーン追加
・ケンが突きたてられた槍を握りつぶすのが「北より・・・」の台詞の前から後に変更



・前回かっこよかったのに
個人的に名前を聞くとヘドバとダビデを思い出してしまう、ゾルバとザルジ。2話ぶりに登場した彼等ですが、この前のかっこいい地獄の番人っぷりから一転、マヌケな発言連発。
「この墓を見て生きて帰った奴は居ない」 → ジョウ、帰ってましたけど
「仲間を呼んで掘り起こされると困るからな」 → 死体埋まってない事バレバレじゃないすか
「ほ、北斗の墓が!」「砕けた!」 → あんたらが壊したんやん
・チビデブハゲ
このアニメ研究では、第一話で出てくるジョウが司刑隊に殺される郡都と、バスクが治める郡都は同じところだとしてある。それを証明してくれているのが、ケンが黒王に乗って処刑場に入ってきたときに、黒王に踏み潰されたチビデブハゲだ。彼は実は、ジョウが握りつぶされたときに司刑隊の隊長の横に居るのだ。
アニメじゃいなかったけどね。


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