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[第108話]
さらば北斗2兄弟! 
いま2人は愛と哀しみの果てに!!


 ラオウの闘気の中に、その体を入れていくケンシロウ。ラオウの闘気の乱れを誘い、無想の一撃を放つ。それがこの勝負に決着を付ける唯一の方法だとケンシロウは考えた。そしてその意思をまたラオウも汲み取った。闘気の放出を止め、ラオウはケンシロウとの最後の一撃勝負を選んだのだった。一瞬の沈黙の後、凄まじい闘気の放出と共にラオウが全霊の拳の放つ。対するケンも、全ての想いを乗せた拳で迎え撃つ。交錯する二つの拳。そして決着。ラオウの剛拳は、皮一枚でケンシロウに透かされ虚空をきった。逆にケンシロウの拳はガードしたラオウの掌を突き破り、その胸へ。永かった二人の戦いの終わりを告げたのは、ケンシロウの一撃であった。

 深々と突き刺さった拳が、ラオウの全身を砕く。なんとかもう一度拳を振り上げようとするラオウであったが、その瞬間、右拳は血を吹いて砕けた。ケンの一撃により秘孔を突かれたラオウの体は、既に経絡から破壊されていたのだった。崩れ去りその場に膝をつくラオウ。自らの敗北を受け入れられないラオウに、ケンシロウは言った。おまえの心は一人。だが俺の中にはユリアへの、そしてラオウへの想いが生きている。この一握りの心を砕くことはできない。ユリアを殺し、愛を捨てることで哀しみを背負った者。そして愛を心に刻んで生きてきた者。勝負を分けたのはその違いなのだ、と

 全身を巡る経絡が、鋼鉄の肉体を内から砕く。爆ぜたラオウの背からは雨のように鮮血が飛び散った。その血の霧の中、ラオウはトキの声を聞いた。もう言ってもいいはずだ。あなたも愛を捨ててはいない。その心に愛を刻んだのだ、と。しかし、ラオウは言おうとはしなかった。拳に愛を帯びたまどということは、ラオウにとって恥辱以外の何者でもなかったからだ。しかし、真実は語られないまま、ラオウの最後のときは近付いていた。ラオウの頭上には、燦然と輝く死兆星が落ちようとしていた。

 天に輝く北斗七星。そして死兆星。そのきらめきを見たリハク達は、今全てを悟った。世紀末覇者拳王。その誰よりも恐れられた男が持っていた、深く哀しい心を。

 哀しみを知り、ケンシロウに勝利する。そのために、ラオウは愛するユリアをその手にかけようとしていた。しかし、放たれたラオウの拳は、寸前で止められた。咳き込むユリア。その手には、吐血した跡が残されていた。ユリアは病んでいたのである。シンに連れ去られた後直ぐの発病したそれは、トキと同じ不治の病をユリアの体に巣食わせていた。もって数ヶ月の命。それを知ったとき、ユリアはこのまま何にも抗うことなく天命のまま生きようと決めた。己が動けば北斗動き、天も動く。無益な戦いを生まぬためにも、ユリアはケンシロウに会いたい気持ちを抑え、ただひたすら待ち続けていたのだ。そして今、己のこの少ない命でこの世に光がもたらされようとしている。そのためになら、ユリアは進んで命を差し出す覚悟が出来ていた。あまりにも優しきユリアの心。そして哀しき運命。それを知ったラオウには、もはやユリアを殺すことなど出来なかった。うぬへの愛を一生背負っていってやるわ!そう言ってラオウは、あふれ出る涙もそのままに、ユリアに秘孔を突いたのだった。

 ラオウがユリアに突いたのは、その体を仮死状態にする秘孔。死と同じ状態にすることで、ユリアの病状を停止させたのだろうとリハクは予想した。もしラオウがユリアを殺していては、無想転生は纏えなかった。ユリアへの愛。そして哀しみこそが、ラオウに究極奥技を纏わせたのである。哀しみだけではない。その奥技を体得するだけの資質もまたラオウはもっていた。ケンシロウとラオウ。天は同じ時代に二人の伝承者を送り出してしまっていたのであった。

 力、技、全てにおいて五分。そして愛を背負ったのも同じとなれば、己がケンシロウに負けるはずは無い。納得のいかぬその敗北を、ラオウは未だ受け入れることが出来なかった。もはや立つことすらままならぬ体を起こしたラオウは、一瞬の生を呼び覚ます秘孔、刹活孔を突き、再びケンシロウの前へ。もうこれ以上の血いは見たくない。涙を流し、戦いをやめるよう叫ぶリン。その時、ユリアの手がピクリと動いた。まさかと思い、リンが耳を当てたユリアの胸には、生を奏でる鼓動の音が響いていた。

 再びケンシロウの前へと立ちはだかったラオウは、蘇ったその力で渾身の双拳を放つ。しかし、拳はケンシロウに届く前に止められた。ケンも、ラオウも、その拳にはもはやケンを砕く力など残っていないことを見抜いていたのだった。そしてラオウは悟った。ケンシロウは今日まで、壮絶な強敵達との戦いの中で生と死のはざまを見切って生きてきた。だが、ラオウにとって、強敵と呼べる男はトキしかいなかった。二人の勝敗を生んだのは、その背負った強敵の重さの差であることを。見事だ弟よ!力ない手でケンの顔にそっと触れ、ラオウは言った。それは、生まれて初めてラオウが敗北を認めた瞬間であった。

 戦いの終わりを悟ったかのように、ゆっくりとユリアの瞼が開いた。ユリアさんが生きている!そのリンの言葉に、驚愕するケン。ラオウに背を押され、ケンがユリアへと歩みよる。幾多もの別れと死を乗り越え、遂に愛し合う二人は再開を果たしたのであった。そんなユリアにラオウは言った。お前の命は後数年はもつだろう、と。ラオウは自らの闘気をユリアに分け与えることによって、その命を伸ばしていたのである。残された時間は、せめてケンシロウと安らかに。それが、ラオウがユリアに出来るの唯一の心意気であった。

 ラオウの最後の時は迫っていた。駆け寄ろうとするケンを怒鳴るように制し、ラオウは言った。もはやユリアしか見えぬお前がここに来て何をする。ましてやこのラオウ、天へ帰るに人の手は借りぬ!残された全ての闘気を纏い、その身を白く、まばゆく輝かせ始めるラオウ。そして両胸の秘孔に指を突き入れたとき、それは頂点に達した。我が生涯に一片の悔いなし!突き上げられたその手から、全ての闘気が怒号と共に放たれる。それは天を裂き、雨雲を突き破った。その狭間から射した光は、立ったまま息絶えた戦士の亡骸を鮮やかに照らしだしていた。

 巨星堕つ。そしてこの世には光が蘇った。人々は活気を取り戻し、村では争うこともなく食べ物が配られる。子供達の顔は笑顔が戻り、日の光はそれを称えるかのように照らしていた。ラオウ、ケンシロウ、そしてユリア。闇を吹き飛ばし、この世に光を戻したのは、紛れもなく彼らの存在であった。

 トキとラオウ、そしてその両親の眠る墓。先の三人に続き、ラオウの亡骸もまたその隣へと葬られた。もしラオウが闘気を分け与えていなかったら俺は負けていたかもしれない。そう思うケンだったが、ユリアはそれを否定した。この世を統治するには恐怖しかない。しかし恐怖による統治には真の安らぎは訪れない。そして統治を成した今、ラオウは愛を持つものによって取って代わられることを望んでいたのではないか。ユリアにはそう思えてならなかった。

 最大の強敵、ラオウ。その生き様を胸に、ケンシロウの北斗神拳伝承者としての新たな旅が始まる。ユリアを抱えあげたケンは、ラオウと最後の別れを交わした黒王の背にまたがり、荒野の彼方へと消えていった。その背を追いかけたいリンとバットであったが、二人は涙をぬぐいそれを我慢した。これからは二人の時間。やっと訪れたケンシロウとユリアの安らぎは、何人にも邪魔されることは無い。しかし、いつかケンは帰ってくる。リンにはそんな気がしてならなかった。
放映日:87年2月26日


[漫画版との違い]
・ラオウ、リハク等が北斗七星を見た際、アニメではその脇の死兆星も見えている。
・最後の一撃の際、ケンの拳をラオウが左手でガードしようとするが、突き破られるシーン追加
・ラオウがユリアに闘気を分け与えたという設定が追加
・ラオウが天へ帰ろうとする直前にケンが駆け寄ろうとするシーン追加
・去るとき、原作では歩いてだが、アニメでは黒王にまたがって去る。



・最終回
109話が総集編なので事実上の北斗1最終回。スタッフも気合入って入りすぎてしまったのか、前話で拳の打ち合いまで放送したのに今回またラオウが闘気のドーム作るところから新たに描き直してます。普通前回分の絵垂れ流して終わるとこなのにねえ。スタッフの変な気迫が伝わってきますね。安易に過去のOP曲、ED曲全部かければいいやっていう某最終回とは違います。
・はっけん
この世に光が戻りましたが
天才?↓


まずモヒカンを剃れ↓

・闘気分配
ラオウがユリアに与えた闘気は、ケンに、勝敗を左右していたと言わしめるほどの量。そりゃあ余命数ヶ月の人間を数年まで伸ばそうってんだからたいしたもんなんだろうね。ちょっと計算してみる。
ケンが北斗2で帰ってくるまでの時間はおそらく6〜8年くらいだと思われる。その期間中ほとんどユリアは生きていたと考えると5〜7年は生きていたのだろう。成人女性が一日に消費するカロリーは少なくて1200kcal。
1200kcal×365日×5〜7年=2190000cal〜3066000kcal
要するに
ラオウの与えた闘気は200〜300万キロカロリーということだ。カツ丼4000杯くらいに相当する。運動に換算すると、ラジオ体操を不眠不休で600日くらい続けなければならない量である。そりゃすげえ。負けて当然ですね。
まあカロリーさえあったら病気に負けず生きていけるなんてことはないのですがね。あくまでギャグです。


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