
ラオウの闘気の中に、その体を入れていくケンシロウ。ラオウの闘気の乱れを誘い、無想の一撃を放つ。それがこの勝負に決着を付ける唯一の方法だとケンシロウは考えた。そしてその意思をまたラオウも汲み取った。闘気の放出を止め、ラオウはケンシロウとの最後の一撃勝負を選んだのだった。一瞬の沈黙の後、凄まじい闘気の放出と共にラオウが全霊の拳の放つ。対するケンも、全ての想いを乗せた拳で迎え撃つ。交錯する二つの拳。そして決着。ラオウの剛拳は、皮一枚でケンシロウに透かされ虚空をきった。逆にケンシロウの拳はガードしたラオウの掌を突き破り、その胸へ。永かった二人の戦いの終わりを告げたのは、ケンシロウの一撃であった。
全身を巡る経絡が、鋼鉄の肉体を内から砕く。爆ぜたラオウの背からは雨のように鮮血が飛び散った。その血の霧の中、ラオウはトキの声を聞いた。もう言ってもいいはずだ。あなたも愛を捨ててはいない。その心に愛を刻んだのだ、と。しかし、ラオウは言おうとはしなかった。拳に愛を帯びたまどということは、ラオウにとって恥辱以外の何者でもなかったからだ。しかし、真実は語られないまま、ラオウの最後のときは近付いていた。ラオウの頭上には、燦然と輝く死兆星が落ちようとしていた。
ラオウの最後の時は迫っていた。駆け寄ろうとするケンを怒鳴るように制し、ラオウは言った。もはやユリアしか見えぬお前がここに来て何をする。ましてやこのラオウ、天へ帰るに人の手は借りぬ!残された全ての闘気を纏い、その身を白く、まばゆく輝かせ始めるラオウ。そして両胸の秘孔に指を突き入れたとき、それは頂点に達した。我が生涯に一片の悔いなし!突き上げられたその手から、全ての闘気が怒号と共に放たれる。それは天を裂き、雨雲を突き破った。その狭間から射した光は、立ったまま息絶えた戦士の亡骸を鮮やかに照らしだしていた。
治するには恐怖しかない。しかし恐怖による統治には真の安らぎは訪れない。そして統治を成した今、ラオウは愛を持つものによって取って代わられることを望んでいたのではないか。ユリアにはそう思えてならなかった。| [漫画版との違い] ・ラオウ、リハク等が北斗七星を見た際、アニメではその脇の死兆星も見えている。 ・最後の一撃の際、ケンの拳をラオウが左手でガードしようとするが、突き破られるシーン追加 ・ラオウがユリアに闘気を分け与えたという設定が追加 ・ラオウが天へ帰ろうとする直前にケンが駆け寄ろうとするシーン追加 ・去るとき、原作では歩いてだが、アニメでは黒王にまたがって去る。 |
|
| 第107話へ≪ | ≫第109話へ |