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[第107話]
決戦場は北斗練気闘座!
もう誰も奴らをとめられない!!

 北斗練気当座。歴代の伝承者争いの決着の行われてきたこの神聖なる場所が、最後の闘いの舞台であった。北斗の掟を守るために。そしてラオウは天をつかむために。だが、今のラオウにとっての天とはケンシロウという強大な存在に他ならなかった。

 開戦を告げるラオウの剛拳は虚しく空を切った。北斗神拳究極奥技無想転生。実態を空に消し去るその哀しみの奥技の前には、どんな攻撃も無に等しかった。逆に攻撃を喰らい、崩れるラオウ。すかさずケンはそのラオウへと止めの一撃を放とうとする。しかし、ケンの拳もまた虚空を切った。捉えた筈のラオウの体は背後へと周り、そしてケンシロウの拳には攻撃を受けた痕が残されていた。無想転生。哀しみの果てに得るその究極奥技を、ラオウもまた会得していたのだ。ラオウに哀しみを与えたもの、それは背後にある巨大な像の上にあった。巨大な手に体を預けるかのように横たわっていたのは、安らかに眠るユリアの姿であった。

 二人の戦いを見届けるためにバイクで駆け付けたバットとリン。しかしそこで二人が見たものは戦いではなく、あまりにも哀しい現実であった。その目で確かめるがいい。そう言ってラオウは、放った闘気で像の腕を落とした。瓦礫と共に落下したユリアの体を抱きとめるケン。その愛した女の体に、もう脈はなかった。生まれて初めてラオウは女に手をかけた。しかしその血がラオウの体に哀しみを、無想転生を吹き込んだのであった。

 その頃、ラオウの城では一つの時代が終わりを告げていた。愛する者を涙してまでその手にかけたラオウ。それを見て戦いの無残さを知った拳王軍団達が、武器や防具を炎へとくべ始めていたのだ。彼らは凄惨な戦いより、肉親の愛を選んだのである。抱き合う兵士達と妻、子供達。それはまさに新時代の夜明けであった。その光景を崖の上から眺めていたリハク。彼の下に訪れた拳王軍団の団長達は、事実上の拳王軍解体による降伏をつげた。しかし、全ては遅すぎた。ユリアを守る宿命を持つ五車星のリハク。そして彼女から戦いの虚しさを教わった拳王軍たち。彼らの願いも虚しく、ユリアは果てた。しかし、彼女こそがこの新時代を切り開いた光だという事実は、彼らの心から永久に消えることはなかった。そしてもうひとつの時代を変える者達、ケンシロウとラオウ。二人の闘いを見届けんため、彼らもまた北斗練気闘座へと向かうのだった。

 互いに奥技を極めた者同士の凄まじい闘気がぶつかり合う。拳が触れるたび、凄まじい衝撃が周囲の地面を吹き飛ばす。だが究極奥技無想転生の応酬の前に、互いに致命の打撃を与えることはできないでいた。しかし、掌に凝縮された闘気が激突した瞬間、二人の体は鮮血に染まった。力、技、奥技。全てにおいて拮抗する二人の戦い。互いに無想転生を会得した今、もはや他の奥技は武器にはならない。その事を悟った二人は、この闘いを無防備な殴り合い、赤子のケンカへと転身させた。リンの瞳には、そんな二人の戦いに中に、互いの少年時代の頃の姿が重なって見えていた。その幼き日、二人が初めてユリアと出会った場所も、ここ北斗練気闘座であった。

 リハクに手を引かれ、リュウケンの下に連れてこられた少女。それは幼き頃のユリアであった。既に後の南斗の将となることをさだめられていたユリア。しかし、彼女はその感情をすべて母の胎内へと置き忘れてしまっていた。北斗と南斗は表裏一体。それが宿命ならば、北斗を訪れれば何か変化があるかもしれない。そう考え、リハクはここ北斗練気当座へとユリアを連れてきたのである。だがその時、彼らの会話を遮るように子供の声が響いた。それは、まだ少年の頃のラオウとケンシロウが闘う声であった。何故禁を破った。そう言ってラオウを叱るリュウケン。まだ道場に入ることすら許されていないケンシロウに拳法を教えることは、北斗の掟に反することだったのである。だがラオウは言った。才なき者はいずれ拳を奪われ追い出される。ならば今ケンを追い出すことこそがケンシロウのためだ、と。既にこの頃から、ラオウの最強への自負、そして野望は揺ぎ無いものになっていた。そして、後にもう一つの野望となる一人の少女との出会いがそこにあった。ラオウの視線が、ユリアの瞳を捉える。その瞬間、ユリアの中に何かが走った。ピクリとして、手に持っていたマリを落とすユリア。そのマリを拾い上げ、笑顔でユリアに差し出したのはケンシロウであった。優しいそのケンシロウに瞳が、またユリアの中に電流を走らせる。そして扉は開かれた。感情を無くして生まれてきた少女は、初めてその顔に笑顔を浮かべたのであった。その強い力でユリアをいざなったラオウ。方やその優しい力で心を開け放ったケンシロウ。後に北斗を背負うこの二人と、ユリアを結ぶ数奇な運命はこの時始まっていた。そしてこの一人の女を巡り、二つの北斗が点を二分してぶつかり合うこともまた宿命として動き出したのであった。

 互いの剛拳をその身に受け続けた二人の体は、もはや限界を迎えつつあった。終わりのときは近い。そう考えたラオウは、残る闘気を全て放出し、己の体に纏わせた。ラオウを覆う凄まじい闘気の塊。それは、己の間合いを意味する己の領域。しかし、ケンはその常識を覆す思いがけない行動に出た。

 リハクたちが駆けつけたとき、既に戦いはクライマックスを迎えていた。だがそこで行われていたのは眼を疑うかのような光景であった。つま先、膝、片足・・・。己の体を、少しずつラオウの闘気の中へと進入させていったのだ。ケンが見ていたのはラオウの闘気、その乱れであった。互いに拳を見切った今、正面から戦っても決着はつかない。ならばラオウの闘気を誘い、それを間合いとし、その闘気の乱れのスキをついた一瞬の無想の拳でしか勝負はつけられないと考えたのである。そんなケンの眼には、いつしか涙が流れていた。次の一撃が、二人にとって最後の別れとなることを、ケンシロウは悟っていたのだ。ケンの心には、未だラオウは、トキと同じく目指した偉大なる長兄として焼きついていたのであった。

 一撃での勝負。そのケンシロウの意思を察したラオウは、闘気の放出を止めた。すべてを最後の一撃に乗せるために。一瞬の沈黙。そして動き出す時間。まばゆいばかりに放出されたラオウの闘気が、爆風の如くケンシロウの体を叩く。ラオウの生涯をかけた全霊の拳。迎え撃つケンシロウの全ての想いを乗せた拳。永かった戦いに決着をつける二つの拳が、今放たれた。
放映日:87年2月19日


[漫画版との違い]
・拳王軍団団長達がリハクに降伏を申し入れるシーン追加
・黒王に乗ってこなかったので、リンとバットはバイクにのって練気闘座へ。
・ユリアと初めてであったのを思い出すのが、服が破れる前から後に変更。
・幼女ユリアを北斗練気闘座へと連れてきたのが、痩せた老人からリハクに変更。
・互いの服が吹き飛ぶまでの、無想転生の応酬などの戦いのシーン追加
・ケンが闘気を見て闘うとバットに話すシーンは、黒王に一緒に乗ってきてないのでカット



・声
「ケンがユリアさんの心と一緒に〜」の後の、「もうすぐくるわ・・・」とかの台詞が、ユリアの声になってます。が、これは普通に考えてリンの台詞だと思うのですが。それを察してか次話ではリンに変更。はっきりしてください。
・練が足りない
前話で「俺たちは呼ばれてないんだ・・・」といって留まったバットとリン。
なのに今回いきなり
バイクで練気闘座へ参戦。
でもって
今回頑張って練気闘座へと赴いたリハク達なのに次話ではどこかようわからん村を視察。なんか前後のつながりがテキトーじゃありませんこと?
・愛は魂
最後の戦いのさなかにいきなり流れるこの曲。歌っているのはユリアの声の山本百合子さんですが、結構不評。個人的にはあの歌のおかげで本来なかった二人の闘いのシーンが書き足されたような気がしますし、結局戦いの理由の半分は女を巡ってのものなんだからあの女くさい歌が流れてもしかるべき場面であると思います。最近はカラオケの機種によってはこれ入ってるの結構増えてきてるので、歌いたい方はどうぞ。


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