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[第104話]
やさしき勇者フドウ! 
その涙は熱き心を呼びさます!!


 鬼の血を狩る事で、かつて感じた恐怖を飲み込もうとしたラオウ。しかしフドウとの戦いの中でラオウに戦慄を走らせたのは鬼の血ではなく、ケンシロウと同じ哀しみを背負った瞳であった。今こそその哀しみを力でなじ伏せようと、ラオウは渾身の手刀を振り下ろす。しかしフドウは、首を傾けてその手を挟み込むことにより、致命の秘孔の到達を免れた。先程までとは比べ物にならない、フドウに湧き上がってくる力。怒りでも憎しみでもない。その哀しみというものが持つ力を、未だラオウは理解することが出来なかった。

 フドウの締め上げからなんとか両腕を引き抜いたラオウは、そのままフドウの横腹にある秘孔を刺突。苦痛に顔をゆがませ、フドウが体が離れた瞬間、ラオウは高速の連撃をその巨体へと叩き込む。宙に舞い、地に叩きつけられるフドウ。もはやその体は戦える状態ではない。それを感じていたのは、目を伏せずに戦いを見守っていた子供達も同じであった。父を守りたい。自分たちが慕い、そして自分たちを愛してくれたフドウを守るため、武器を手にラオウの前へと立ちはだかる子供達。幼き彼らを突き動かした勇気、それは父フドウの生き様から貰ったものに他ならなかった。そして今、その勇気は既に動かぬはずのフドウの体に最後の力をもたらした。かつて鬼と呼ばれた男は今、子供達に心に支えられた愛の化身と姿をかえ、最後の戦いに望もうとしていた。

 フドウの村へと向けて急ぐケンシロウ。だが峡谷に差し掛かったその時、鉄杖の音と共に仮面をかぶった9人の僧が現れた。彼らが悪党でないことを見抜き、道を開けるよう頼むケン。だが、彼らはケンシロウと戦わねばならない理由があった。彼らは、長年にわたり山奥に籠って修行を続けている宗派の修行僧達であった。しかしある日を境に、彼らの生活は奪われてしまった。彼らの自由を奪った鎖、それはやはり拳王と言う名の巨大勢力であった。自分達が勝てばそれでよし。もし負けても、一族が途絶え全てが終わるだけ。もはや覚悟を決めた彼らに迷いはなかった。

 ケンの目が見えぬことを先じて知っていた僧達は、鉄杖の音でケンの耳をふさぐ作戦に出た。集中し、彼らの動きを探ろうとするケン。しかし僧達の一斉攻撃を完全にかわしきることは出来ず、全身に傷を受けてしまう。山々に響き渡る金属音が、ケンの感覚を乱し、心の目にまで霧をかけていたのだ。しかし、ケンには秘策があった。音が感覚を乱すのなら、耳もふさげばいい。そう言ってケンは、自らに秘孔をつき、己の聴覚を塞いだ。視覚に続き、聴覚をも塞ぐことで、ケンは心の目だけで相手を捕らえられるように感覚を集中させたのである。暗闇と無音の世界。しかしその中で、ケンシロウの心眼は的確に僧達の動きを捉えていた。かかってきた四人を瞬時に撃退したケンは、そのまま宙から襲い掛かろうとしていた四人も難なく撃退。形勢は一瞬にして逆転し、残るはリーダーのゲンショウただ一人となった。せめて戦って死のうと考え、鉄杖を構えるゲンショウ。だがその時、死んだと思われた8人の僧達が次々と目を覚まし起き上がってきた。ケンは彼らにはダメージを与えず、その仮面だけを破壊していたのだ。無益な戦いはしない。それがケンの考えであり、活性の拳としての北斗神拳のあり方であった。走り去るケンの背に、深々と礼を捧げる僧達。それは、ケンが拳王を倒しうる救世主であることを彼らが認めたという証であった。


 ラオウとフドウ。両手を組んだ巨人二人による真っ向からの力比べが始まった。ともに常軌を逸したパワーを持つ二人の押しあいは、互いの足を地にめり込ませるほどであった。もはや長時間戦うことの出来ないフドウは、左回し蹴りで膠着を打破しようと試みる。しかし、拳王とまで呼ばれた男に、それを交わすことなど造作もなかった。宙に逃げ、そのままフドウの背に肘を叩き込むラオウ。グラつくフドウに更に追い討ちをかけるように、その肩がはじけ飛ぶ。肘を叩き込まれた際、秘孔を突かれていたのだ。鮮血にまみれ、轟音と共に倒れこむフドウ。その姿は、長かった戦いにやっと終止符が打たれたことをラオウに確信させた。やはり俺に後退はありえなかった。そう言って、無用となった境界線を見ながら、安堵の表情を浮かべるラオウ。しかし次の瞬間、再び信じられぬ奇跡が起こった。今度こそ朽ちたと思われたフドウの体が、またもや拳王の目前に立ち上がったのだ。勝てぬと判っていながら何度も立ち上がってくる無駄とも思える執念。理解できぬその精神を、ラオウは愚かと称した。しかし、ラオウは判っていなかった。今のフドウを突き動かしているもの。それは子供達の瞳に宿る力、哀しみの力であるということを。子供達の瞳、そしてフドウの瞳がケンシロウと重なる。一瞬の戦慄。放たれるフドウの拳。反応の遅れたラオウも無我夢中で拳を繰り出す。しかし、それよりも先にフドウの体へを貫いたのは、あの拳王軍団たちが構えていた巨大ボウガンの矢であった。その時、ラオウは気付いた。自らの足があの線を踏み越えていることに。哀しみの瞳の前に恐怖を感じたラオウの体は、意思とは無関係にその体を後退させていたのである。恐怖に硬直した瞬間、ラオウの体は完全に無防備となっていた。もしあの時後退しなければ、その体はフドウの拳に砕かれていたのである。勝者は俺とケンシロウだ!フドウが高らかにそう叫んだ瞬間、今度は無数の矢がフドウの体へと突き刺さった。無傷のまま立ち尽くすラオウ。しかし、勝者は鮮血の中で遂に力尽きたフドウのほうであった。その体に哀しみが刻まれている限り、二度とケンシロウには勝てない。ラオウがフドウと戦ってが得たのは、その覆しようのない現実であった。駆け寄った子供達に笑顔を見せ、そのまま崩れ落ちるフドウ。子供達の瞳に突き動かされたその不死身に肉体は、遂にその体を地へと横たわらせたのであった。

 戦いを終え、戻ってきたラオウに駆け寄る拳王軍団員達。戦闘の最中、急に無防備となった事に対しての理由を聞こうとした彼らであったが、その言葉を遮るかのようにラオウの強烈な一撃が彼らを襲った。何故この拳王を射なかった!自らの命令を無視し、己ではなくフドウを射った事に対して激怒するラオウ。部下達にしてみれば、それは頭首を守るための当然の行為であった。しかしラオウにとってそれは、敗者の汚名を背負って生き永らえたという屈辱以外の何者でもなかったのだ。突然の拳王の暴走に驚き、一目散に撤退を始める拳王軍団員達。一人残されたラオウは、ただ屈辱と怒りにその身を震わせることしかできなかった。

 父の最期を見届けんと、涙しながらその大きな体の周りに集まる子供達。これからは力をあわせて生きていくのだ。フドウのその言葉に、子供達は力強く頷いた。父から大きな強さと勇気を貰った子供達には、もはやフドウの心配は無用であった。その時、霞むフドウに瞳がある人物の姿を捉えた。それは、また一人死に行こうとしている友の姿に、更なる哀しみを背負ったケンシロウの姿であった。父さんは勝ったんだよ!子供達のその言葉に、笑顔で頷くケン。自らの頭を抱えるケンの腕を握りながら、フドウは言った。これからはその手でこの時代の全ての子供達を抱き包んでくだされ。それが山のフドウの本望だ、と。そしてそれが、フドウの最後の言葉となった。時代を切り開ける救世主に最後の願いを託すことの出来た男の死に顔は、あまりにも安らかであった。哀しみが、再びケンシロウの中に宿る。そして、その哀しみが流させた涙は、閉ざされていたケンシロウの瞳に光を取り戻させたのであった。
放映日:87年1月29日


[漫画版との違い]
ゲンショウ達とケンとの闘い追加
・ケンが視力をとり戻すのは、原作ではジャドウ倒した後だが、アニメではフドウの死を見届けた後。



・ゲンショウ達
目が見えなかったとはいえ、ケンに片膝をつかせた奴らなどそういるものではない。そういう意味で彼らの戦闘力は並みの拳王軍団のボス格より上だろう。なのに何故拳王軍団の言いなりなのか?女子供を人質にされているか、拳王様直々に赴いて支配下に置いたとしか思えない。なにより拳王様本人の意向が絡んでいる可能性は高いだろう。泰山、華山に並ぶ勢力の可能性もある。
・死に様
今回のフドウに死に様は、アニ北の死に様ランキングでベスト3に入る感動モノ。ユリア・・・永久にのBGMと共に過去のフドウの名シーンをどうぞ。でもフドウの父さんもまあ頑張ったとはいえ、ちょっとこれはB級主要キャラとしては優遇しすぎな感が・・・。フドウ好きになっちまうじゃねえか。


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